2008年3月20日木曜日

3_68 沈み込みが原因:日本列島の石3

 日本列島は多様な岩石があります。その多様性が、実は、単純なメカニズムに起因しています。


 日本列島には、他の地域と比べて、多様な岩石があることを見てきしました。この特徴は、日本列島にだけ見られるものではなく、海溝をもつ列島全般に見られるものであることがわかってきました。
 では、次のステップとして、なぜ、列島には多様な岩石があるかということです。その原因を探ります。日本列島を例にしていくとわかりやすので、日本列島で考えていきましょう。
 日本列島には、火山があります。火山は、列島の延びている方に並んでいます。堆積岩は、大陸棚にたまったものや海底にたまったものなどがあります。地層の伸びる方向も、列島に平行しています。深成岩があり、それと並行するように変成岩があります。両岩石の並びも列島に平行です。海に近いものは新しい時代にできたもの、離れているものは古い時代にできたものという一般的な規則性があります。大雑把にみるとこのような傾向が見られます。大雑把な傾向ですから、もちろん例外もありますが、日本列島だけでなく、多くの列島にも同じような傾向があります。
 これらは、すべて重要な特徴ですが、並びに重要な意味があります。並びが伸びている方向は、列島の伸びる方向でもあり、海溝の伸びる方向でもあります。実は、列島のすべての特徴は、この海溝に由来していることがわかっています。
 海溝は、海洋プレートが沈み込んでいるところです。この海溝での沈み込みが、多様性形成のはじまりです。
 考えると不思議な現象ばかりです。海溝では、冷たい海洋プレートが下に向かって沈み込みます。なのに列島では、上に向かって、作用が起こります。海でたまった岩石が陸に上がり、地球深部でできた変成岩や深成岩が地表で見られます。また冷たいものが沈み込むのに、熱いマグマが形成され、深成岩や火山ができます。さまざまな現象が起こります。これらの現象が、海洋プレートの沈み込みで、本当にすべて説明できるのでしょうか。
 列島が高まる理由は、海洋プレートが沈み込む時に、陸側のプレートを押しているためです。陸側のプレートは圧縮されていきます。大地が圧縮されると、場所によってはくぼむところがありますが、全体としては盛り上がります。なぜなら、陸地をつくっている岩石は、地下深部のマントルを作っているものより軽いからです。下にくぼみたくてもいけません。いけるのは上だけです。だから、押されている列島には高まる力が働きます。
 海溝では、陸側の岩石は、沈み込むプレートともに引きずられてもぐりこもうとしますが、軽いのでもぐりこめません。そのため岩石には強い力がかかり、歪として蓄えられます。しかし、沈み込みが起こっている限り、継続的にこの力は加わりますから、やがて岩石が歪を吸収しきれなくなったとき、一気に上に跳ね返ります。このとき岩石は破壊されならが歪が解消されていきます。これが沈み込み地帯にそって起こる地震となります。このような海洋プレートの沈み込みに伴う現象で、陸側の岩石の陸化が起こっています。
 これらの作用の繰り返しで、堆積物が陸に付け加わります。陸側の大陸斜面の下部にできる堆積物を、付加体と呼んでいます。
 列島側の陸に高まりができると、侵食にさらされていきます。侵食を受けた岩石は、砕かれ、海に向かって堆積物として流れ込みます。一部は海溝まで達することもあります。海溝では、常に沈み込みによって堆積物が陸側に付加する作用が働いています。だから、海溝は沈み込みが起こっている限り、深い場所となります。
 まだまだ沈み込みによって岩石に多様性が生まれるメカニズムが働いています。それは、地下深部の出来事ですが、次回としましょう。

・論理学・
今論理学の入門書をいくつか読んでいます。
論理学自体は、まささに論理的で理詰めですべて話が進んでいきます。
数学以上に簡潔に証明がなされていきます。
できればそれも学びたいのですが、
まず、論理の基礎的な概念をつかむために、
いくつかの入門書を読んでいます。
大いに学ぶとこと大です。
そして、応用できるところ大です。
ただ、私が目指している方向性とは、少々違う気がします。
しかし、基礎的な教養、道具としては必要なので、
もう少し、深く学んでいくつもりです。

・卒業式・
先日大学の卒業式に参列してきました。
学長の送辞として、何人かの学生の大学生活が紹介されていました。
もちろん彼らは大学でがんばって、それなりの成果を挙げた学生です。
このような話を聞くと、教員をやっていてよかった思える瞬間です。
しかし、学生はどう思うでしょうか。
がんばったと思っている学生はどれほどいるでしょうか。
夢を見つけ、そしてその夢に向かって
新たなステップを大学という場で踏めたのでしょうか。
そうであればすばらしいことです。
もし、大学生活に不満や思い残すことがあった学生いたとしたら、
彼らは成功した学生の話をどう聞いていたでしょう。
かろうじて卒業した学生、
就職が決まっていない学生、
何をしたいかまだ決められない学生、
彼らにとって、卒業は喜ぶべきことなのでしょうか。
式の最中に不謹慎にもそんなことを考えてしまいました。

2008年3月13日木曜日

3_67 小さいのに多様:日本列島の石2

 地球の表面は、大気(気体)か海洋(液体)が覆っています。しかし、固体としての地球は、岩石が主役になります。日本列島は本当に多様かどうか、他の地域との比較によって比べていきましょう。


 日本列島は、地球の全表面積からすると、非常にささやかな存在にすぎません。そのようなささやか列島が、なぜ、多様な岩石からできているのでしょうか。まず、多様さを確認しておきましょう。
 地球の3分の2を占める海からみていきましょう。海は液体ですから、海底から下が固体部分となります。海底の主体は、海嶺で形成された火成岩からできています。その火成岩は、海底では噴出して火山岩になり、深部では深成岩になります。海嶺では常にマグマが活動してて火成岩が形成されますので、古い海底の岩石は、海嶺の両側に押しやられます。
 海面近くに棲息しているプランクトンは死に、その遺骸が海底に降り積もります。遺骸がでる量は少ないのですが、時間と共に着実にたまってきます。ですから、古い海底にはウーズとよばれる生物の遺骸からできた堆積物、深部ではそれが固まったチャートと呼ばれる岩石が覆っています。地球の大半を占める海底が、このようなかなり単調な成因の岩石からできていることになります。
 目を大陸に移すと、列島とは比べ物にならないくらい雄大な景色が見られます。アメリカ大陸は、中部から西部にかけては、雄大さの典型ではないでしょうか。中部は広大な大平原が広がります。その地下は、長い年月をかけてたまった堆積岩からできています。西部のロッキー山脈になると標高が上がり、堆積岩が河川の侵食を受けています。ロッキー山脈の中にあるグランドキャニオンは、日本人には想像もつかないほどの大きな川と侵食地形が見られます。削られた谷の断面では堆積岩がきれいな地層を見ることができます。グランドキャニオンの北にはイエローストーン国立公園があります、イエローストーンは火山活動の活発なところで、今でも温泉や噴気がでています。グランドキャニオンから西に向かうとシラネバダ山脈があります。そこには有名なヨセミテ国立公園の渓谷があり、その巨大な渓谷を構成するのは花崗岩です。その花崗岩が、氷河によって削られたもの雄大な渓谷となっています。すべてが巨大です。
 大陸の雄大な景観も、同じ成因の岩石類からできています。広大な範囲が同じ成因の岩石からできているのです。大陸や海底では、似た成因の岩石からできることのほうが、地球では一般的なのです。
 それと比べると、小さな日本列島に実に多様な成因の岩石があります。これは、やはり特別なことだと考えられます。他の地域でも同じような多様性が見られるのでしょうか。実は、いくつもあります。もちろん多様であるために、日本列島と同じものはありませんが、似たような多様性をもつ地域があります。
 そのようなものは、アラスカのアリューシャン列島、カムチャッカ半島、インドネシアの大スンダ列島、中央アメリカの西インド諸島や大アンチル諸島などがあります。すべてに共通しているのは、海溝が近くにあることです。もちろん日本列島も海溝に面しています。千島・カムチャッカ海溝、日本海溝、伊豆小笠原海溝、東海トラフ、南海トラフ、南西諸島海溝などが平行しています。
 どうも日本列島の多様性は、海溝が重要な役割を果たしているようです。

・日本の役割・
地質学は、欧米、特にヨーロッパで発展してきたものです。
欧米は、大陸に属しますので、単調な成因の岩石が分布する地域です。
ですから、列島の多様さは、あまり考慮されずに地質学が進んできました。
明治以降、日本では多くの地質学者が調査研究をしてきました。
その結果、列島は、大陸とは違う特殊なところだということがわかってました。
現在では、大陸の形成において、
列島が重要な役割を果たしていることもわかってきました。
小さな列島ですが、地質学では、重要な役割を担っています。
また、日本の研究者もその役目を果たしているのです。

・季節は巡る・
大学は入試の後半と卒業を迎えています。
北海道も暖かい日が続いて、雪解けが進んできました。
先日は雨が降りました。
冬は北海道では傘を持ちあるかないので、皆少々戸惑っています。
しかし、長く待ち望んだ春が、もうそこまで来ました。
今年の冬は前半は暖冬でしたが、後半に大雪が何度もあり、
積雪は例年を上回ったようです。
それも、もう過ぎたことです。
まだ何度も雪は降るでしょうが、季節は確実に巡っています。

2008年3月6日木曜日

3_66 多様な岩石:日本列島の石1

 日本列島は、多様が岩石からできています。当たり前のようにみえますが、よくよく考えると、それは非常に不思議なことです。日本列島の多様性の不思議をみていきましょう。


 日本列島は、非常に多様な岩石が見つかります。先カンブリア紀の岩石こそ少ないですが、種類として、非常に多種多様な岩石があります。
 地球の地下や地表の環境は多様で、環境は時間と共に変化してきます。ですから、場所や時代が違えば、形成される岩石は違ったものとなっていきます。ですから、岩石が多様であるのは、当たり前のような気がします。多様でも、分類できるということは、岩石には、それなりの共通点や、系統的な差異があることになります。
 一番大きな岩石の分類は、成因による区分です。それは、堆積岩と火成岩、変成岩の3つに分類されています。堆積岩は、土砂が地表でたまり、固まったものです。火成岩は、地下深部でできたマグマが、地表もしくは地表付近で固まったものです。変成岩は、地下で温度や圧力によって、もとの岩石が溶けることなく別の岩石に変わったものです。
 日本列島では、成因の違った3種の岩石が、複雑に分布しています。そして、そのできた年代や条件が、それぞれに異なっていて、多様になっています。
 堆積岩では、ごく普通の礫や砂利などからできている岩石、生物の遺骸が集まった岩石、温泉や海底などで沈殿したものなどがあります。できた時代も、古生代から、つい最近できた地層まであります。できた場所も、海でたまったもの、湖でたまったもの、陸地でたまったものもあります。
 火成岩では、火山岩や深成岩もあり、その種類や出かた(産状といいます)も多様です。火山岩では、白っぽいデイサイトや流紋岩から、灰色の安山岩、黒っぽい玄武岩やピクライトまであります。深成岩でも、花崗岩、閃緑岩、斑れい岩、カンラン岩などがあります。産状も、火山灰などの火山から吹き飛ばされた火山砕屑岩、水中で噴出した枕状溶岩やその破砕岩(ハイアロクラスタイトと呼ばれます)、マグマが地表で流れ出た溶岩、地中で岩石を貫いた貫入岩、地下深部でゆっくりと冷え固まった深成岩まであります。
 変成岩は、温度条件の変化として、マグマによる加熱、地下深部の温度上昇(地温勾配といいます)によって変成を受けたものがあります。また、圧力条件の変化として、地球深部の圧力で変わったもの、プレートの沈み込みによって地下深部に持ち込まれたものもあります。また、温度と圧力の両方が上がってできたものもあります。また、機械的物理的に砕かれて変成を受けたものもあります。このような温度と圧力などの条件に違いによって多様になります。さらに、もとの岩石の種類によっても多様性が増します。
 ある地域の岩石が、たとえ一つの成因だけでできていたとしても、よく見れば、どの地域をとっても、その大地を構成する岩石は、多様であることがわかります。そのような大地の岩石には多様性があることがわかっていても、やはり日本列島を形づくっている岩石は、多様だといえます。
 その多様性は、たまたまなのでしょうか。それとも何か訳があるのでしょうか。それは次回としましょう。

・二度と採れない・
日本列島は、岩石だけでなく、鉱物も多様に産出します。
岩石が多様だから、鉱物も多様になります。
多様性を知ることができたのは、
実は、日本は狭い国土に多くの地質学者が
研究を続けてきたためです。
明治以降、鉱山が各地で開発され、採掘されたため、
多様な鉱物が発見されてきました。
大型の貴重な鉱物標本は大学や博物館などに保管されていますが、
その鉱山で、当たり前の鉱物標本が、案外なかったりします。
今では閉じられた鉱山の標本は、もはや手に入れることができません。
ですから当たり前のものが非常に貴重になります。
幸い、鉱物を収集しているマニアが日本にいたので、
その人の標本が残っていることがあります。
もう二度と採れない標本は、
今あるものを大切にしなければなりません。
これは、鉱物標本だけでなく、
すべての自然物についていえることですね。

・術後・
眼の手術をしました。
1週間は安静にして、毎日通院して検査を受けていました。
その後、1週間は雑菌を入れないようにしながら、
無理をせず、日々を過ごしていました。
しかし、仕事があるため、自宅で少し仕事をしたり、
大学にも午前中だけですが、でていました。
そして今日、最終的に検査を受ける予定です。
一応経過は良好なので安心していますが、
眼の中を縫っていて、糸が解けるまで1月ほどかかるので、
ホコリがはいると、いつまでも眼が開けらない状態になります。
まあ、無理をせずに復帰していくつもりです。

2008年2月28日木曜日

3_65 PETM 3:結果

 PETM後の温暖期に、北極海では、アカウキクサ・イベントと呼ばれる異変が起こります。PETMシリーズの最終回として、その異変を見てきましょう。


 PETM後のEocene Optimumでは、全地球的な温暖期で、大気中の二酸化炭素も現在よりもっと多く、現在の10倍ほどの3500ppmもあったようです。北極海では、この温暖期に大きな環境変化が起こります。その記録は、北極海の海底堆積物から読み取ることができます。
 北極海の海底には、現在、8mほどの堆積物がたまっています。それらの堆積物は、珪質砕屑物とプランクトンを原料とする有機物が主成分としていますが、その中にアカウキクサの化石からできている数mmの薄い層(ラミナと呼ばれています)があります。このアカウキクサの薄い化石の層に、じつは重要な意味があるのです。
 アカウキクサの薄層が、北極海のどこからの海底堆積物からも見つかることが、いくつかのボーリングコアで確認されています。その薄層がたまった時代は、4900万年前です。また、詳細な古地磁気と花粉の研究から、その薄層の形成された期間が、80万年間であることも突き止められています。
 これらの証拠から、4900万年前の北極海で、一時的ですがアカウキクサが大発生したと推定されます。これをアカウキクサ・イベント(Azolla event)と呼んでいます。このイベントは、ある地域である一種が大繁栄をしただけのことですが、注目されるには訳があります。
 アカウキクサとは、直径1から2cmほどの小さな葉を持つ、淡水に生息する浮遊性のシダ植物です。日本でも近畿以西の本州、四国、九州などで見られ、熱帯から温帯の暖かい地域に生息している植物です。アカウキクサは、繁殖力が旺盛で、条件さえよければ、2、3日で葉っぱが、2倍に増えていきます。
 北極海は、PETMの前後の大陸移動があっても、現在と同じような高緯度に当たっていました。ですから、北極海は当時も地球上では一番寒い海に当たります。極寒の海であるはずの北極海に、なぜか。熱帯や温帯でしか育たないアカウキクサが大発生したのです。
 さらに、このイベントと同時に、大気中の二酸化炭素の量が、3500ppmあったものが650ppmに激減します。二酸化炭素が、一気に約82%も減少したのです。これは、現在の地球温暖化問題の解決に重要なヒントを与えてくれそうです。ですが残念ながら、これらの因果関係は、まだ定かでありません。
 ある試算では、当時の北極海の広さ(約400万平方km)に、80万年間に渡ってアカウキクサが覆い繁殖をしつづければ、この単独のイベントで、大気中の二酸化炭素を2割に減少させることも可能だとされています。
 地球史上のPETMという一つの異変が新たな異変を引き起こします。これが因果の連鎖というもので、非常に複雑な因果が絡み合って起こるはずです。このような連鎖を過去の歴史から探ることは、科学が進んだ現代でもなかなか困難なことなのです。もし過去の一つの事件の解明された因果関係を、安易に現在や未来の問題に適用するのは、危険なこともあはずです。しかし、過去は現在に重要な示唆を与えてくれます。地球はさまざまな異変を経てきました。その事件の発見と研究は、今の私たちが進むべき道標となるはずです。今後も研究を続ける必要があります。

・再確認・
PETMという事件は、私は以前から知っていました。
しかし、Azolla eventというものは、
今回PETMを調べていく過程ではじめて知りました。
H. Brinkhuisと35名におよぶ共著が、
北極海のボーリングコアをもとに
2006年にNatureに発表したのがきっかけのようです。
少々専門が違うので、この論文は知りませんでした。
この時期に北極海の温暖化が起こっていたのは、
以前からわかっていたのですが、
北極海が淡水で、ここまで温暖であるとはだれも気づきませんでした。
この新たな証拠の発見で、PETMの温暖化のすごさが再確認されました。
今後、この研究はますます注目されていくのでしょう。

・手術・
私は、先週の19日に眼の手術を受けました。
日帰り手術ですが、少なくとも1週間は
自宅で安静にしていることなります。
経過によっては、2週間以上療養が必要かもしれません。
ですから、このメールマガジンは、
18日に発行しています。
次回からは、復帰して、メールマガジンを発行していると思います。

2008年2月21日木曜日

3_64 PETM 2:原因

 PETMと呼ばれるイベントは、なぜ起こったのでしょうか。その原因は、どうも海と大陸の配置、そして火山活動、海流や気候変動など複雑だったようです。


 PETM(Paleocene-Eocene Thermal Maximum)とは、暁新世-始新世境界温暖化極大イベントと呼ばれ、今から約5500万年前に起こった急激な地球温暖化事件のことです。それを呼応したように暁新世-始新世の時代境界では、大絶滅が起こっています。PETMがどのようにして起こったのかは、興味があるところです。現在、多くの科学者が、研究しているホットな話題となっています。
 PETMは、1990年に海洋学者のケネット(J. Kennett)とストット(L. Stott)の論文がきっかけになりました。彼らは、海底の堆積物の分析から、北極海では始新世の始まりに、海水面だけでなく海水温全体が突然高くなり、深海では酸欠になり絶滅が起こったと考えました。その報告をきっかけに、北極海の異変が全地球的な絶滅を起こした、という説を唱える研究者が何人もでてきました。もしこれが本当なら、PETMは北極海周辺の局地的な現象ではなく、全地球的な大事件になるわけです。問題は、PETMが、なぜ起こったのかです。
 PETMが起こった5500万年前ころは、現在の大陸配置とはだいぶ違っていました。研究者によって過去の大陸配置の復元は、その詳細においてはいろいろ違いがありますが、あらすじは一致しています。
 PETMの前後に、インドがユーラシア大陸に衝突しました。その影響で、ヒマラヤ山脈ができ、世界各地で火山活動が活発化しました。また、すでに開きはじめていた大西洋は、さらに開きはじめます。
 多くの研究者は、この時期に、大陸の衝突の影響で各地で火山活動が活発化し、大陸と海洋の配置が変化したことで海流にも大きな変化が起こし、気候変動へとつながったと考えています。
 PETMのころの北極海は、今よりも閉ざされた、いくつかの海峡で外洋とつながっている海でした。ヨーロッパとアジアの間には、広い海峡(ツルゲイ海峡:Turgay Strait)があり、別々の大陸となっていました。その海峡は、北極海と、当時はまだ広かったテチス海(後に閉じてきて地中海になります)をつないでいました。グリーンランド-北アメリカ大陸間とグリーンランド-ヨーロッパ大陸間は、くっついていたか、あるいは細い海峡しかありませんでした(復元は人によって違います)。いずれにしても、北極海は、今よりもっと閉ざされた内湾の環境だったようです。
 その後、グリーンランドの東側にあった大西洋の中央海嶺と、西のバフィン湾周辺での火山活動が活発になります。その結果、グリーンランドは、北米大陸やヨーロッパ大陸と完全に分裂していきます。その分裂時に起こった火山活動で、大量の溶岩が噴出した直後に、PETMが起りました。
 このように時系列に並べた地質現象をみていくと、誰もが、大規模な火山活動とPETMの関係づけたシナリオを考えたくなります。多くの科学者も、それぞれが得た証拠をもとに、いろいろな仮説を出してきました。火山活動によって直接二酸化炭素の放出を考える説、海嶺のマグマが海底の堆積物に含まれていた二酸化炭素やメタンの放出をさせた説、海底に大量にあったメタンハイドレートが一気にメタンとして放出される説などがあります。
 現在のところ、PETMのシナリオは、まだ確定していません。大気中に大量のガス(いわゆる温暖化ガス)が放出され、温暖化が起こるというシナリオが共通しているようです。その急激な環境変化が引き金となって、大絶滅が起きたようです。では、PETMの結果、次の異変が起こりました、その話は次回にしましょう。

・大陸配置・
PETMのころの大陸配置の復元は、
http://www.scotese.com/newpage9.htm
http://en.wikipedia.org/wiki/Image:Early_Eocene_Arctic_basin.PNG
などがあります。
両者をよく見ると、結構違いが目に付きます。
データがないあるいは少ない時代や地域では、
研究者独自の考えで大陸配置をしなければなりません。
大陸配置は、新たな研究成果が出れば変わることがあります。
たとえば、時代決定が正確になれば、今まで同時期だとされたものが、
実は違う時代の事件になることも起こります。
あらすじはあまり変わらないようです。
なぜなら、あらすじとは、基礎的なデータに基づいて
大陸配置が復元されているためです。
これからも、研究が進めば、より詳しい復元がなされていくでしょう。
もしかすると、決定的な新事実が見つかれば、
新しいあらすじも生まれるかもしれませんね。

・雪庇・
先週は爆弾低気圧のために、全国的に雪模様になったようです。
北海道は、数日で大量の降雪となりました。
雪かきがどこの家庭でも苦労しています。
我が家でも、雪庇がせり出してきたので、
業者に頼んで、雪下ろしてもらいました。
一人の人が2時間ほどで終わらせてくれました。
我が家は雪庇の落下で以前ガレージのシャッターを
破損したことがあります。
もし下に人がいた大事になっていました。
今度の冬に備えて、雪が解けたら、
屋根に雪庇よけの工事をしようかと考えています。

2008年2月14日木曜日

3_63 PETM 1:突然の異変

 今回から数回にわたってPETMについて考えていきます。聴きなれない言葉ですが、PETMは地球史の中では、不思議な事件なのです。


 PETMという言葉を御存知でしょうか。PETMとは、地質学や古気候学などの専門家だけが使っている特殊な術語です。しかし、近年、その重要性に注目されるようになってきました。
 PETMとは、Paleocene-Eocene Thermal Maximumの頭文字をとったものです。PaleoceneとEoceneは、地質時代の名称で、それぞれ暁新世(ぎょうしんせい)と始新世(ししんせい)と日本では呼ばれています。Thermal Maximumとは、温度の極大という意味です。同じものを、Initial Eocene Thermal Maximum (IETM)と呼んだり、同じ事件ですが、時代の認定の考え方の違いからLate Paleocene Thermal Maximum(LPTM)と呼ばれることもあります。
 日本語では、「暁新世-始新世境界温暖化極大」イベント(イベントとは事件という意味)と呼ばれています。なぜ、イベントという語がつけられているかというと、短時間に異常な温度上昇が起こっているため、事件とみなすべきだという意味です。
 顕生代以降の古環境の復元で、平均気温をまとめている図が地質学の教科書に出ていることがあります。それを見ていくと、古生代や新生代と比べて中生代が温暖であったことがわかります。中でも、白亜紀の中頃(1億2500万から8000万年前)は、顕生代の中でかなり温暖な時期にあたります。白亜紀中頃は、海水温が現在よりも平均で13℃、深層水も15から20℃も高かったと考えられています。極地では氷冠(大陸の広い範囲を被う氷河のこと)がなくなっていました。そのために、大陸上の氷はなく、ほとんどの水が海に流れ込み、大規模な海面が上昇が起こっていました。近年危惧されている地球温暖化をはるかに凌ぐ温暖化が起こっていました。
 新生代のパレオジン(かつては古第三紀と呼ばれた時代)に入った直後は、白亜紀の温暖化がいったんおさまりましたが、暁新世の終わり頃から、再度温暖化がはじまります。始新世の前期から中期にかけて(5500万から4500万年前)、白亜紀に匹敵するほどの温暖化が起こります。ある化学成分(酸素の安定同位体など)のデータや古環境の復元から、温暖な気候であったことがわかっています。
 中でも、PETM(5550万前ころ)は、地球史でも飛び抜けて異常な温暖化が起こっています。異常というのは、たった数千年ほどの間に、北極海の海面温度が5度から8度上昇し、亜熱帯では23度も上昇します。今問題となっている温暖化以上の大事件が起こっていました。そして、PETMは20万年ほど継続して、唐突に終わりをつげます。ですから、イベント(事件)と呼ばれているのです。
 PETM以降も、温暖化は継続していきます。温暖化は5000万年前をピークとして1000万年間も継続します。この長期の温暖化を、始新世高温期(Eocene OptimumあるいはMECO:Middle Eocene Climatic Optimum)と呼んでいます。5000万年前の温暖化のピーク時には、PETMと同じほどの平均気温に達します。
 始新世高温期以降の時代は、寒冷化へ向かっていきます。その寒冷化は、今も継続中です。もちろん現在の温暖化問題の短期間の話ではなくもっと長い時間スケールで見た場合です。
 PETMやEocene Optimumを研究することで、急激な温暖化の原因やその後の気候の反応などを解明できるかもしれません。そのような研究は、現在の温暖化問題を考える上で、非常に重要な記録となるはずです。では、PETMは、いったいなぜ起こったのでしょうか。その詳細に入るのは、次回からとしましょう。

・気温変化・
顕生代以降の気温変化は
http://math.ucr.edu/home/baez/temperature/

http://www.scotese.com/climate.htm
があり、新生代の気温変化は
http://en.wikipedia.org/wiki/Image:65_Myr_Climate_Change.png
などが参考になります。
地質時代の温度の変化は、いくつかの見積もり方法がありますが、
それぞれ一長一短があります。
いずれかの方法ですべての時代の温度を見積もることもできません。
いくつかの方法で見積もることになります。
見積もりは、過去ほど不確かになります。
ですから、過去の平均気温は、
どうしても仮定が入り、研究者によってその値には違いがあります。
それを考慮に入れた上で、見ていく必要があります。

・休養・
北海道の雪祭りも終わり、
大学は入試も終わり、
周りは、一段落が着いたような感じです。
私にはそのつもりはないのですが、
緊張が抜けたのでしょうか、
子供がもらってきた風邪を引いたようで、
火曜日からけだるさがあります。
あまり無理をしないで、
ひどくなる前に休養をしたいのですが、
それができるでしょうかね。

2008年2月7日木曜日

2_64 オスとメス5:雌雄の証拠

 このシリーズでは、生物のオスとメスという戦略について考えてきました。シリーズの最後に、オスとメスがいつ誕生したのかをみていきましょう。

 生物は、35億年前には誕生したことは確かな証拠があります。その後しばらく、単細胞の原核生物だけで、無性生殖をするだけだったと考えられます。最古の生物も、単細胞生物のような証拠も、化石から決定されたものです。単細胞の原核生物が固い殻や骨のような化石に残るものを持っているわけではありません。形態の痕跡が、炭素やその化合物として残されているだけです。それでも、細胞も大きさ、形や細胞分裂している様子などから、その痕跡が生物であったことがわかります。
 現在の生物でみると、はっきりとした雌雄を持っているのは、DNAを核という袋に入っている真核生物だけです。真核生物は、原核生物より複雑な構造をしていますから、35億年前よりもっとあとになって誕生したはずです。
 真核生物は15~20億年前に誕生したと考えられています。では、真核生物が、いつごろから雌雄という機能を持つようになったのでしょうか。
 有性生殖のはじまりとしては、異型配偶子接合、つまり減数分裂をともなう有性生殖を行うです。
 植物の化石で見つかるのは、珪藻類があります。珪藻類は異型配偶子接合を行うもので、約12億年前ものが最古です。植物では、花粉(花粉は化石に残りやすい)や花、実などが化石として見つかれば、雌雄の存在が比較的簡単に見分けられます。
 一方、動物では、そうはいきません。多細胞動物の化石が、10億年前以降から見つかりますが、オス・メスは、そうたやすく判別できません。顕生代のはじまりカンブリア紀の直前(約6億年前)のエディアカラ動物群では、減数分裂を行っていたと考えられますが、化石としては判別できません。
 動物のオス・メスの差異を化石から見つけなければならないのですが、化石から雌雄を決めるのは、なかなか困難なのです。それは、生殖器が化石になりにくいからです。多数ある動物の化石でも、オス・メスが確実に決められているのは、案外少ないのです。
 化石として雌雄がはっきりと確認されているのは、私が知っている限りでは、古生代後半、3億年前のミジンコの化石が最古のものです。最近でも、骨の形からカマラサウルスという大型の植物食恐竜の雌雄の判定法を見つけたとして、論文が書かれるほどです。
 オスとメスは、我々人間では当たり前に存在するものに見えるのですが、実は、なかなか複雑で謎めいた存在なのですね。

・男女関係の苦労・
オスとメス、人間でいえば、男と女ですが、
その関係は複雑なものです。
人間関係ですから、個人と個人の関係に基づいているはずなのですが、
同性同士には見られない、別の関係が生じます。
男女関係の中には、当然、
遺伝子の命ずる生殖への動機(本能と呼ばれる)が含まれています。
なにも人間だけが、この関係に悩んでいるわけではありません。
節足動物、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類など他の生物も
男女関係では苦労しています。
その関係で、生死をもかけて戦われることもよくあります。
雌雄の誕生は、苦労の誕生でもあるのでしょうか。
それとも生きる自体に、苦労が伴うのでしょうか。

・考えきれないこと・
私立大学は、入試のシーズンです。
我が大学も、今日から入試です。
少子化のため、どの大学も生き残りをかけて、
さまざまな対策を練っています。
少しでも、受験生にアピールをしようといろいろな手を打っています。
教員も当然それに参画し、協力しなければなりませんが、
教員の一番努力すべきことは、
いい教育、つまりいい講義の提供ではないでしょうか。
いい講義とは、学生の望む内容を提供しながら、
それを打ち砕き、より上を目指すものでなくてはなりません。
ただ単に学生の望むものを提供するだけでは、
教員の妥協や手抜きに過ぎません。
ですから、毎年同じ講義名であっても、
内容や提供手法は、いつも試行錯誤しながら
改良していくことになります。
教員として、それは当たり前のことなのですが、
それでも毎年考えさせられます。
特に今の時期は我が大学では、
来年度の講義のシラバスを提出する時期となります。
いろいろ悩みながら考えながら、
でも、最後は締切りに追われて、
これでいいのかと迷いながらも決断してしまいます。