2008年2月14日木曜日

3_63 PETM 1:突然の異変

 今回から数回にわたってPETMについて考えていきます。聴きなれない言葉ですが、PETMは地球史の中では、不思議な事件なのです。


 PETMという言葉を御存知でしょうか。PETMとは、地質学や古気候学などの専門家だけが使っている特殊な術語です。しかし、近年、その重要性に注目されるようになってきました。
 PETMとは、Paleocene-Eocene Thermal Maximumの頭文字をとったものです。PaleoceneとEoceneは、地質時代の名称で、それぞれ暁新世(ぎょうしんせい)と始新世(ししんせい)と日本では呼ばれています。Thermal Maximumとは、温度の極大という意味です。同じものを、Initial Eocene Thermal Maximum (IETM)と呼んだり、同じ事件ですが、時代の認定の考え方の違いからLate Paleocene Thermal Maximum(LPTM)と呼ばれることもあります。
 日本語では、「暁新世-始新世境界温暖化極大」イベント(イベントとは事件という意味)と呼ばれています。なぜ、イベントという語がつけられているかというと、短時間に異常な温度上昇が起こっているため、事件とみなすべきだという意味です。
 顕生代以降の古環境の復元で、平均気温をまとめている図が地質学の教科書に出ていることがあります。それを見ていくと、古生代や新生代と比べて中生代が温暖であったことがわかります。中でも、白亜紀の中頃(1億2500万から8000万年前)は、顕生代の中でかなり温暖な時期にあたります。白亜紀中頃は、海水温が現在よりも平均で13℃、深層水も15から20℃も高かったと考えられています。極地では氷冠(大陸の広い範囲を被う氷河のこと)がなくなっていました。そのために、大陸上の氷はなく、ほとんどの水が海に流れ込み、大規模な海面が上昇が起こっていました。近年危惧されている地球温暖化をはるかに凌ぐ温暖化が起こっていました。
 新生代のパレオジン(かつては古第三紀と呼ばれた時代)に入った直後は、白亜紀の温暖化がいったんおさまりましたが、暁新世の終わり頃から、再度温暖化がはじまります。始新世の前期から中期にかけて(5500万から4500万年前)、白亜紀に匹敵するほどの温暖化が起こります。ある化学成分(酸素の安定同位体など)のデータや古環境の復元から、温暖な気候であったことがわかっています。
 中でも、PETM(5550万前ころ)は、地球史でも飛び抜けて異常な温暖化が起こっています。異常というのは、たった数千年ほどの間に、北極海の海面温度が5度から8度上昇し、亜熱帯では23度も上昇します。今問題となっている温暖化以上の大事件が起こっていました。そして、PETMは20万年ほど継続して、唐突に終わりをつげます。ですから、イベント(事件)と呼ばれているのです。
 PETM以降も、温暖化は継続していきます。温暖化は5000万年前をピークとして1000万年間も継続します。この長期の温暖化を、始新世高温期(Eocene OptimumあるいはMECO:Middle Eocene Climatic Optimum)と呼んでいます。5000万年前の温暖化のピーク時には、PETMと同じほどの平均気温に達します。
 始新世高温期以降の時代は、寒冷化へ向かっていきます。その寒冷化は、今も継続中です。もちろん現在の温暖化問題の短期間の話ではなくもっと長い時間スケールで見た場合です。
 PETMやEocene Optimumを研究することで、急激な温暖化の原因やその後の気候の反応などを解明できるかもしれません。そのような研究は、現在の温暖化問題を考える上で、非常に重要な記録となるはずです。では、PETMは、いったいなぜ起こったのでしょうか。その詳細に入るのは、次回からとしましょう。

・気温変化・
顕生代以降の気温変化は
http://math.ucr.edu/home/baez/temperature/

http://www.scotese.com/climate.htm
があり、新生代の気温変化は
http://en.wikipedia.org/wiki/Image:65_Myr_Climate_Change.png
などが参考になります。
地質時代の温度の変化は、いくつかの見積もり方法がありますが、
それぞれ一長一短があります。
いずれかの方法ですべての時代の温度を見積もることもできません。
いくつかの方法で見積もることになります。
見積もりは、過去ほど不確かになります。
ですから、過去の平均気温は、
どうしても仮定が入り、研究者によってその値には違いがあります。
それを考慮に入れた上で、見ていく必要があります。

・休養・
北海道の雪祭りも終わり、
大学は入試も終わり、
周りは、一段落が着いたような感じです。
私にはそのつもりはないのですが、
緊張が抜けたのでしょうか、
子供がもらってきた風邪を引いたようで、
火曜日からけだるさがあります。
あまり無理をしないで、
ひどくなる前に休養をしたいのですが、
それができるでしょうかね。