2014年1月2日木曜日

3_123 本源マグマ 4:2つの本源

 火山全体を形成するマグマの本体が、本源マグマだと考えられています。本来、ひとつのマグマから多様性を形成するという思想で考えられたのが、本源マグマでした。ところが、今回発見された本源マグマは、2種類ありました。この2つの本源マグマは、いったい、何を意味しているのでしょうか。

 独立行政法人海洋研究開発機構の田村芳彦さんたちは、マリアナ諸島の中央に位置する、パガン島から本源マグマを発見しました。その経緯を紹介します。
 パガン島は、マリアナ諸島の中央部に位置し、現在も活動するもっとも大きな火山島で、標高540mあります。火山ですが、深度3000mの海底にそびえ、本体の多くは海面下にあります。今回発見された本源マグマは、パガン島の北の海底のからみつかりました。
 海洋研究開発機構の無人探査機ハイパードルフィンで、2010年に調査されました。ハイパードルフィンの#11147の潜航によって、23個の溶岩が採取されました。溶岩のうち、R1からR14(COB1)と、R15からR21(COB2)、そしてR22-R23は、性質が違っていました。
 採取された試料のうち、重要な意味を持つのは、COB1とCOB2の2つタイプでした。COB1は深度1700mに、COB2は深度1500mに位置する海底の高まりで、溶岩噴出で小山になっているようです。火山岩の産状は、枕状溶岩で、風化はなく、表面に堆積物が積もっていないので、非常に新しいものでした。
 採取されたCOB1もCOB2も、その化学組成は、マントルのカンラン岩ができてほとんど結晶を出していない(未分化といいます)、本源マグマの特徴を満たしているものであることがわかりました。COB1とCOB2は、いずれも本源マグマとしていいものでありながら、化学的な性質が違っていました。
 これは、従来の本源マグマの考えに反するものです。従来の考えとは、起源物質が溶けて、一つのマグマがその系列の始まり、本源としてスタートするというものです。
 今回発見された2つの本源マグマは、化学的に未分化なマグマであることが一番の根拠ですが、大きな一つの火山体の脇から噴出していること、活動中の本体の火山と同じく最近噴出していることなどから、現在の火山活動をしているマグマと深く関連していると考えられます。つまり、いずれも、現在の火山活動をしている本源マグマと考えられるということです。
 本源マグマが海底に噴出したのは、特別な経緯をたどったためだと考えられます。通常、本源マグマは、マグマ溜まりに一旦入ります。マグマ溜まりでは、前に述べたように、結晶の晶出がはじまるため、結晶分化が起こります。したがって、本源マグマは地表には現れないということになります。
 しかし、今回発見された本源マグマは、特別な経路をたどったことになります。マントルが溶融して上昇中の本源マグマが、マグマ溜まりに達する前に、途中にできた割れ目から、噴出したものだと考えざるえません。そのため、結晶分化作用を受けることなく噴出したことになります。
 この2つの本源マグマの発見が、田村さんたちの、「ミッション・イミッシブル」仮説の発端となっています。

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・継続を選択・
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特別な内容のエッセイを書くかともと考えました。
しかし、このエッセイは淡々と地質学の話題を提供するを
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前回のエッセイで、何を書くか迷っていると書きましたが、
継続の話題を書くことにしました。
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