2013年1月17日木曜日

2_114 生物種数 3:人為

 生物種の推定について述べてきましたが、その手法は論理的なものでした。しかし、その推定には、いくつかの問題も潜んでいます。最大の問題は、人の営為に依存している点です。

 地球上に生息している生物は、870万種という推定がなされています。ただし、これは真核生物における推定で、原核生物については、まだ正確には推定できていないようです。
 870万種という値は、属や科の増加状況から、種の数を推定したものです。この推定方法は、統計的な手法にもとづいています。手法自体は、それなりの論理性はありますが、だからといってこの推定が、正しいという保証はありません。
 いくつかの問題があります。もし問題が深刻なものであれば、推定は大きくはずれることがあるかもしれません。一番の問題は、人が種や属、科などを記載している点にあります。人の新種記載という営為を元にした値を、統計処理をしている点です。
 今回紹介した推定方法は、新種や新属、新科の記載の数の変化にもとづいていました。新種の変動に比べて属や科の変動が少ないことを手がかりにしています。変動がないことを、統計処理の根拠にしていいものなのでしょうか。
 新種の記載は、研究者が一定の手順を経ておこなっていきます。新種らしきものを見つけることは簡単ですが、それを、即、新種とするわけにはいかず、記載しなければなりません。記載作業は非常に大変になります。新種を記載するときは、一番近縁の種として記載されている標本(タイプ標本といいます)や近縁種が採取された場所で同じものを採取して、比較して、時にはDNA分析をしていきます。それがなかなか大変で、稀な種ほど手間のかかる作業となります。稀な種では、博物館などに保存されているタイプ標本を借りて、計測や比較をして差異を明確にして、新種かどうかを判別していきます。新種と判定できたら、記載論文を発表して、やっと新種と認定されます。
 ある分野の研究者がほとんど調査していない地域にいくと、かなりの数の新種が見つかるそうです。ただし、どんなに多数の新種らしきものがあっても、その記載は人がおこなうので、スピードがなかなか上がりません。記載は非常に手間がかかる作業なので、なかなかはかどらないのです。
 潜在的に新種が多数反映されても、新種の数には反映されないことになります。記載スピードが新種の数をコントロールしている可能性があります。
 分野にもよりますが、一人の研究者が、新種を記載するのは、幸運でも最大でも数10種程度だといわれています。多くの研究者は、多様な研究テーマを持っていますが、新種記載を目的にする研究者はあまりいません。研究者が多数いる分野なら、それなりに記載をする研究者もいますが、研究者人口の少ない分野だと、なかなか記載が進みません。
 以上のような現在の研究状況を考えると、新種記載のスピードが、今後も格段に上がるとは考えられません。新種の数は、記載をする研究者人口に相関があるかもしれません。つまりは、人の営みによって、この数値が変動する可能性があるかもしれないのです。
 その変動をどう解消するかが今回紹介した推定値の苦労している点です。ある分野にプームが起こった、研究予算が大量につぎ込まれると、多くの研究者が流れこむことになり、新種が大量に見つかることもありえます。未開拓の分野なら数人の研究者が、一気に記載をすれば、新種も多数増えてきます。その影響を新属や新科の数も受けているはずです。
 新種記載というあまりに人為に依存していことが問題です。新種の記載の困難さのほかにも、新種誕生と種の絶滅のスピードも問題です。それは、次回としましょう。

・入試モード・
大学は、いよいよ入試モードになります。
今週末にはセンター試験があります。
我が大学も試験会場になっているので、
近隣の高校生が受験にきます。
教職員総出で対応に追われています。
センター試験は、厳密に執りおこなわなければならないので、
大変、気を使います。
無事、終われば、多くの人がほっとできるのですが。

・新種記載・
私は、生物学の専門ではないので
新種記載をしたことがありません。
以前の職場である博物館では、
生物の研究者が何人もいました。
昆虫やダニ、菌類などの研究者は、
よく新種記載をしていました。
新種らしき標本は、いくつも抱えているようなのですが、
記載がなかなか進まない人もいました。
やはり大変な作業を伴うので
億劫になるのでしょうね。
新種記載は人の心も写しています。