2013年1月31日木曜日

1_111 23億年前の事件 1:重なる事件

 ある時期に、いろいろなことが連続して起こると、因果関係があったのではないかと考えたくなります。因果関係がないということが証明されない限り、その同時性が常に気になります。そのような同時性の気になる時期がいくつかあるのですが、23億年前もそのひとつになります。23億年前の事件についてみてきましょう。

 地球の歴史には、大事件とよばれるものがいくつもあります。大事件かどうかは、研究者の価値観に基づいた選択もあるでしょう。でも、だれもが認める大事件もあります。原生代のはじめの頃の酸素の形成という事件は、その一つといえるでしょう。
 地球の酸素は、現在、20%ほどありますが、昔から酸素が大気中にあったわけではなく、ある時期から増えてきました。酸素は、生物が光合成によってつくりだしてきました。それも徐々にではなく、急増してきたとされています。
 その時期は、20億年前ころだとされていますが、正確な時期はわかっていませんでした。それまで地球の大気には酸素のない状態であったのが、一気に酸素が形成され、大気の組成を変えたことになります。これは、大事件と呼ぶべきものです。
 酸化は、地球表層の環境を大きく左右するものです。今までにない酸化状態が出現すると、酸素と結ぶつきやすいもの(鉄分)は酸化され、海底に沈殿します。それまでの生き方をしていた生物も生きていけなくなります。酸素が細胞内に入ると、いろいろな物質を酸化して、細胞を機能不全にし、破壊してしまう毒素のように働きます。生物は、何らかの手段で酸素に対処しなければなりません。生物の進化にとっても、酸素の形成は大事件となります。
 他にもいくつかの大事件が、この時期に起こっています。その大事件とは、真核生物の誕生と大氷河期です。
 真核生物は、酸素形成が、生物の進化に影響を与えた事件というべきものでしょう。因果関係ある事件といえます。真核生物以前の原核生物では細胞の中にDNAが散らばっていたのですが、真核生物では細胞内の核の中にDNAをもつようになります。
 さらに真核生物は、ミトコンドリアを持っていることも特徴となります。ミトコンドリアとは、酸素を利用してエネルギーを生み出す小器官です。酸素のないときと比べると、20倍ほど効率よくエネルギーを生み出すことができます。真核生物が生きていくためには、酸素の濃度が現在の100分の1程度以上ないとだめだと考えられています。
 真核生物は、酸素の多い環境に適応した生物だと考えられます。真核生物の誕生が20億年前ころで、酸素の急増直後の時代となります。
 大氷河期は、地球全体が凍りついた「全球凍結(全地球凍結)」とも呼ばれている氷河期です。全球凍結は、赤道付近の大陸にも、氷床ができるようなものです。7億から6億年前に全球凍結があったことは知られていますが、実は22億から23億年前にもあったことがわかってきました。それは、酸素が急増しはじめるころにあたります。
 酸素の急激な増加と真核生物誕生は因果関係がありそうです。では酸素の急増と大氷河期には、どんな関係があるのでしょうか。そのタイミングと因果関係が気になるところです。まずは、時期の決定が重要になります。
 イギリスンのネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)という雑誌に、東京大学の関根さんたちのグループが、ある元素をつかって、そのタイミングを決定しました。それは次回としましょう。

・代謝効率・
ミトコンドリアのエネルギー効率には
いろいろな考え方があるかもしれません。
そのひとつとして代謝の効率で見積もることができます。
ATP(アデノシン三リン酸)をいくつ作れるかという見方がです。
酸素のない嫌気呼吸による代謝だと
1個の糖(グルコース)から2個のATPをつくります。
一方、酸素を使う好気呼吸では、
1個の糖から38個のATPをつくることができます。
2対38という効率の良さになります。
約20倍のエネルギー効率とみなせます。
これが酸素を用いる代謝の大きなメリットであります。

・共生・
ミトコンドリアには、もう一つ面白い話題があります。
ミトコンドリアは、もともと別の生物であったものが
共生によって真核生物として発展してきたというものです。
ミトコンドリアは、その内部に独自のDNAを持っています。
DNAは好気性バクテリアのものだと考えられています。
また、ミトコンドリアの細胞は2重になっていて、
内側にバクテリア自身のもの、
外側に宿主の細胞膜をもっています。
このような証拠からバクテリアが共生して
真核生物が誕生したと考えられています。