2008年1月24日木曜日

2_62 オスとメス3:有性生殖のメリット

(2008.01.24)
 「有性生殖のパラドックス」は、どのように解消されるのでしょうか。今回は、このパラドックスについて見ていきます。

 生物が増えていく方法として、2種類あることを紹介してきました。1つの個体が2つに分かれる無性生殖と、オスとメスが交配する有性生殖です。
 生物が増えるという点で見ると、無性生殖の方が効率がいいのに、有性生殖をする生物が多数います。このような不利な点があるのに、生物は進化の過程で、そのような戦略を獲得してきました。なぜ、このような戦略が選ばれたのでしょうか。これを「有性生殖のパラドックス」と呼んでいます。
 このパラドックを説明するのために、前回2つの仮説を紹介しましたが、どうもすっきした説ではありませんでした。少なくとも私は、納得できないものでした。
 今回紹介する仮説は、環境への適応あるいは進化のスピードが、有性生殖の方が有利だというものです。
 有性生殖のプロセスでは、オスとメスから遺伝子が半分になった生殖細胞がつくられ、それらが合体して子供が生まれます。この時、オスとメスそれぞれがもっている遺伝子が、交じり合います。必然的に、両親の遺伝子を半分ずつ受け継いだ、しかし、まったく別の個体が誕生します。この時、遺伝子の多様性が生まれることになります。
 確率的には、オスとメスから減数分裂で半分の遺伝子になる時、それぞれ2通り生殖細胞をつくることになります。その組み合わせは、4通りとなり、無性生殖の1通りより、4倍もの多様性が生まれることになります。
 遺伝子の優勢や劣勢などの条件を考えると、もっと多様性が生まれることになります。多様性をもった子供が生まれることが必然的に起こる仕組みが、有性生殖に組み込まれています。多様性を起こる仕組みをもっていれば、環境変化が起こっても、適応しやすくなります。
 一方、無性生殖では、基本的には同じ遺伝子をもった個体が誕生します。多様性が生じるのは、突然変異によってということになります。いつ、どこで、その程度の突然変異が起こるかは、予測不能です。無性生殖で環境変化に適応するには、個体数と増殖率で可能性を挙げるしかありません。緊急を要する対応のに、偶然に頼るのは、非常に効率が悪いことになります。適応する、あるいは進化するという点でみると、無性生殖は、効率が悪い戦略といえます。
 以上のようなことを考えると、有性生殖の環境への適応能力は、生殖と成長に時間がかかるというハンディを補っても余りあるメリットといえます。適応や進化という視点で見ると、有性生殖こそ有利な戦略だったのです。このような見方をすれば、「有性生殖のパラドックス」はパラドクスではなくなくなります。有性生殖が有利か不利という判定は固定しているのはなく、自然はその都度、選択するという方法で答えを出しているようです。その判断を人間が見極めようとしても、非常に難しいものなるようです。
 さて以上の説明で、納得できたでしょうか。私は、前回紹介した説よりは、納得できました。次に、いつ、このような有性生殖が始まったのでしょうか。それは、化石から探ることになりますが、これがなかなか難しいものなのです。それは、次回としましょう。

・センター試験・
センター試験が終わりました。
我が大学でも、教員が全員体制で臨むことになります。
私は、日曜日担当で試験監督をしました。
厳密に決められた手順で進行し、
一言一句指示通り読み上げていかなくてはなりません。
受験生は、ほんの些細なことも、気にかかりことはずです。
ですから、監督も慎重に、厳密に進めなければなりません。
ついついこれが学問するために、本当に必要なことなのか、
これが学問をする姿かなと思ってしまいます。
全国のすべての学生に平等にやるには、
このような方法しかないのでしょうかね。

・春に向かって・
北海道は、ここ2週間ほど例年以上に寒い日々が続きました。
雪も結構降りました。
これからも、まだまだ寒い日が続きますが、
12月下旬の冬至以降、確実に日は長くなってきています。
北海道は、東に位置していますので
もともと早く夜が空けるのですが、
今では、私が歩いて大学向かう頃に朝日が出始めます。
12月下旬は、大学につくころにやっと日が昇りはじめるのでした。
寒さはこれからですが、天体の動きは、
すでに春に向かって進んでいるのですね。

2008年1月17日木曜日

2_61 オスとメス2:雌雄のパラドックス

 オスとメスによる生殖は、無駄が多く効率がよくありません。しかし、多くの生物は、オスとメスがいます。パラドクスです。このパラドクスは解けるのでしょうか。

 生物には、単細胞生物がよくおこなうような、一つの細胞が、まったく同じ二つの細胞に分かれる細胞分裂で増える方法(無性生殖)があります。また、同じで種でありながら、オスとメスという違う性質をもつ個体が交配して子孫を残す方法(有性生殖)をとるものがいます。
 有性生殖という生物の生存戦略は、オスとメスが出会い、受精し、卵や子供などの小さい個体を産み、それが成長して大人のオスとメスになっていくという過程をとります。この有性生殖という戦略は、本当に有効な方法なのでしょうか。
 オスとメスによる有性生殖では、まず、一つの個体がもともと持っていた染色体の数(ヒトでは46本)を半分になっていきます。数が半分になりますから、もとの染色体の数は、偶数でなければなりません。この半分になる過程を、減数分裂といいます。染色体が半分になった特別な細胞を、生殖細胞と呼びます。生殖細胞で栄養があり大きなものを卵細胞、小さくで動きやすいものを精細胞と区別されます。
 生殖細胞をもったオスとメスが出し合って、受精をしていきます。受精すると、二つの染色体が合わさって一つになります。この時、染色体の数は2倍になるので、もとの数にもどります。結果として、親と同じ数の染色体をもった子供が生まれることになります。
 さてこの有性生殖には、いくつもの問題があります。異性を探したり、交尾をしたりする繁殖のための行動には、時間もエネルギーを使わなければなりません。交尾中は無防備となり、捕食者に食べられる危険性もあります。また、卵や小さい個体が成熟するまで、時間がかかり、危険性が増大します。このように、有性生殖は、手間も時間もかかり、ロスが多い戦略といえます。
 オスは生殖には不可欠な存在ですが、子孫を増やすためには、子供を産まないオスは、繁殖の効率が悪くなります。もし、同じ数の無性生殖をする個体のグループと有性生殖をするする個体(オスとメスが半分ずついるとする)グループがいて、同じ条件で子孫を残していくとすると、無性生殖の方が倍のスピードで増えることになります。
 このような効率の観点から生殖を見たとき、有性生殖はロスが多いといえます。しかし、有性生殖とい戦略をとる生物が多数いて、繁栄もしています。これは、非常に矛盾したことになります。これを生物学では、「有性生殖のパラドックス」と呼んでいます。
 実は、このパラドックスは、まだ完全には解かれていません。説明のためのいくつかの仮説があります。
 例えば、無性生殖では有害な遺伝子が蓄積していき、やがては繁殖に支障をきたすという「マラーのラチェット」と呼ばれるものがあります。それと関連がありますが、「コンドラショフの効果」というものもあります。有害遺伝子が、ある一定数を超えると急に悪影響が出たり、生存不可能になる場合もあるが、有性生殖では、確率的に限界の一歩手前で留まるというものです。
 これらの仮説には、研究者も疑問を呈しています。それに、少々わかりづらい、つなり納得しづらい説だと思います。もう少し単純でわかりやすい説明がないでしょうか。それは、次回としましょう。

・自衛・
先週のエッセイでは、北海道では暖かい冬と書きましたが、
先週末あたりから、冷え込んできました。
今までの暖かかった分を取り返すかのように
冷え込んでいます。
雪はまだそれほど降っていませんが、
寒さは、例年なみになってきたようです。
寒さがひどくなると、省エネを大学全体でおこなっているため
研究室も、なかなか温まならくなりました。
手がかじかみながら、仕事をすることになります。
しかし、耐えられない寒さの直前という
微妙な調整がなされているようです。
重ね着などで、自衛するしかないかもしれません。

・削除の決断・
メインで使っているパソコンのハードディスの容量が
残り少なくなってきました。
もともとあったハードディスクの容量は、
150GBですが、現在、5GBしか残っていません。
少々不安な状態です。
なぜなら、進行中の仕事関係のファイルや
ホームページなど毎日使っているものは、
ハードディスクにおいておきたいのです。
しかし、それらは、毎日確実に増えていきます。
それに備えて、余裕がないといけません。
それに大きなファイルを操作するためにも、
ハードディスクに余裕がないと
動作が遅くなります。
今までも、いろいろ削って減らしてきたのですが、
通常の整理では、ムリになってきました。
今まで残してきたもので、使わないものは、
この際、思い切って削除するしかないようです。
もちろん幾重にもバックアップはとります。
さて、いよいよ削除の決断しましょうか。

2008年1月10日木曜日

2_60 オスとメス1:雌雄の戦略

 生物の多くは、オスとメス、雌雄があります。なぜ、生物はこのような雌雄を持つようになったのでしょうか。その答えは、生物の歴史ともいうべき化石からみつかるのでしょうか。

 動物にはオスとメスがあります。人間でいうと男と女です。オスのメスとは、同種でありながら、体型や装飾、行動などが違っていることもあります。雌雄がある種では、オスもメスも両方がいなければ子孫を残すことができません。しかし、カタツムリやミミズのように、一つの個体に、卵と精子を形成する器官を持つ雌雄同体となっているものもいます。
 植物でもオスとメスがあります。植物体がオスとメスに分かれている場合(雌雄異株といいます)と、オスとメスが一つに同居している場合(雌雄同株)があります。たとえば、イチョウは雌雄が別々の木になっていますが、桜やひまわりなどは、一つの花におしべとめしべがあります。
 交配のとき、オスとメスの遺伝子、つまり卵と精子やめしべと花粉(配偶子と呼ばれています)が合わさって(接合といいます)、両方の遺伝情報をもった新しい個体が誕生します。これを受精といいます。
 配偶子は、もともとその生物がもっている染色体の数を半分してできます。このような分裂を行うことを、減数分裂と呼んでいます。そのときに、一つの生物が持っている遺伝情報が、半減されてしまいます。でも、他の配偶子と出会うことで、元の数に戻ることができます。
 このようなオスとメスによる子孫を残すメカニズムは、多くのステップを踏んだり、他方の性を持つ個体が必要となったりと、いろいろ面倒なことがあります。
 単細胞生物では、ひとつの個体が分かれて、自分と同じものが2つになります。このような方式のほうが、より多くの子孫を残すことができます。この方法であれば、たった一つの個体でも、どこか生きていける環境に紛れ込んだら、そこで子孫を残し、増えることができます。非常にすぐれた生き残り戦術です。
 しかし、生物は、進化の過程で、オスとメスを持つ道を選びました。進化の過程でその方法を選んだということは、重要な意味があります。なぜなら、その方法は、さまざまな地球の環境への適応、他の種との生存競争をくぐりぬけてきたものだからです。地球の歴史の選別を受けて、有効な方法だと判定されたものなのです。
 オスとメスには、上で述べたような大きなハンディがありながら、なぜ選ばれたのでしょうか。それは、次回としましょう。

・暖冬・
冬至も過ぎ、天文学的には、昼が長くなり始めます。
そして、季節はより寒い、冬真っ盛りとなります。
しかし、その先には春が待っています。
今年の北海道は、どうも例年より雪が少なく、
寒さもそれほどひどくありません。
まだ、1月から2月にかけての寒い季節が残っていますが、
この時期には、珍しく、幹線道路が乾いています。
除雪もまだ、2、3度しか入っていません。
今のところ、暖かい冬です。
昨年の暑い夏に続いて、暖かい冬になるのでしょうか。

・ハンディ・
学校は冬休みも終わり、3学期が始まっています。
しかし、北海道の小中高校は、長い冬休みが今も続いています。
我が家の子供たちは、1月22日が3学期の始業式です。
その分、夏休みが短いのですが、どちらがいいのでしょうか。
全国何もかも画一化した制度にする必要はないと思います。
その地域の特性に合わせた、対応をすればいいと思います。
子供たちにハンディがなく、
結果として同じよう教育を受けれればいいと思います。
すべてを画一化すると、
地域ごとにハンディが生じることの方が問題だと思います。
でも、これほど文明が進むと、
季節の変化を、技術で対応しているような気がします。
除雪も機械化され、夏の暑さもエアコンで解消しています。
生活面が画一化されているのに、
学校制度だけが昔のまま残っているのでしょうか。
なかなか難しい問題です。

2008年1月3日木曜日

6_68 石に立つ矢:諺・慣用句6

 明けまして、おめでとうございます。本年もよろしくお願いします。年頭のエッセイとして、一つの故事をとり挙げましょう。石に立つ矢という故事です。

 「石に立つ矢」という故事があります。この話は、前漢初期に韓嬰(かんえい)が古い文献から集めて書いた『韓詩外伝 六』にあります。この文献では、楚(そ)の熊渠子(ゆうきょし)の話として出てきます。また、司馬遷が書いた『史記』の中では「李広伝」にあります。史記では、漢の李広の話として出ています。
 「石に立つ矢」とは、一心にものごとを行っていけば、不可能なことはないというたとえとして用いられています。ここでは、李広の話として紹介しましょう。
 漢の文帝の時代、李広という弓の名手がいました。李広が生まれた隴西は、北にオルドス砂漠があり、匈奴がすぐそばまでせまっている国境の町でした。李広は、先祖代々武人の家に生まれ、武術の訓練を受けて育ちました。李広は、成長と共に、武術や戦術を身につけていきました。中でも、騎馬戦術と弓には秀でた才能を示しました。
 文帝時代に、匈奴の大軍が攻めてきました。その時、関所には、李広を守備隊長として、わずかな兵しかいませんでした。わずかな手勢しかない守備兵を率いて李広は、匈奴に負けない騎馬戦術と弓で、匈奴軍に応戦しました。
 その噂をききつけた文帝は、今まで匈奴からは何度も痛い目にあっていたのですが、やっと匈奴に一矢を報いたとして、大いに喜びました。李広を、侍従の武官に任命し、都に呼びました。李広は武人として出世の道を歩みだしました。
 ところか李広はそうは思っていませんでした。李広が文帝のお供で狩をしている時、虎が襲ってきました。それを李広は、素手でやっつけました。命拾いをした文帝は、李広の活躍できる戦乱の時代であれば、もっと出世して大国の大名になれたはずなのにと、その武勇の才を惜しみました。しかし、李広は、国境の守備隊長が自分の望みだといいました。李広の本当の望みを聞いた文帝は、それを叶えることにしました。こうして李広は、望みどおり辺境の地の守備隊長となりました。
 ある時、李広は、草原の中にいた虎を矢で撃ちました。よくよく見ると、矢が射たのは、虎ではなく石だったのです。矢は、やじりが隠れるほど深く刺さっていました。それを見た李広は、もう一度その石を矢で射ようとしたのですが、二度と刺さることはなかったという逸話です。これが、「石に立つ矢」とよばれる話の故事のもととなりました。
 前漢末の劉向は、この故事の意味を、「誠意を持って立ち向かえば、金石さえも貫くことができる。ましてや人を射ることなどたやすい。人を説得できないのは、自分の中に不完全な点があるからだ」と説いています。「石に立つ矢」は、「一念巖をも通す」という言葉にもなっています。
 なかなか含蓄のある言葉です。一年のはじまりとして、私から読者への「石に立つ矢」という言葉をお送りします。あなたの「石」は何ですか。その「石」に「矢」を射ていますか。「石」を射抜く努力をしていますか。私も、この言葉を今年の銘として、努力していこうと思います。

・今年の銘・
いよいよ新しい年2008年が始まりました。
2007年はどんな年だったでしょうか。
2008年はどんな年にしたいですか。
これら一年のことに思いをめぐらすのも正月ならではです。
そんな気持ちを私も持っています。
今回は、この故事を自分自身の今年の銘として
皆さんにも紹介しました。
今年一年が皆さんに良い年であることをお祈りしています。

・コントラスト・
年末のあわただしさから一夜明けると、
そこにはのんびりとした正月がまっています。
年末から正月にかけて母が我が家に来ています。
我が家ではそのせいもあって、暮れと正月のあわただしさが際立つのでしょう。
不思議な気分ですが、でも、考えて見ると、毎年同じことを行っています。
正月は毎年来ますし、母も毎年この時期に我が家へ来ます。
ですから、あわただしさとのんびりさは、恒例となっているはずです。
年末と正月という日本では、1年でもっとも特異な区切りだから、
不思議なことに感じてしまうのかもしれません。
これも、日本人として生まれたからには、いたし方ないことなのでしょう。
実は、私は年末のあわただしさと
正月ののんびりさのコントラストは好きなのです。

2007年12月27日木曜日

6_67 2007年地質重大ニュース

 今年最後のメールマガジンとなりました。今回は、2007年を振り返り、地質学に関するニュースを振り返ってみたいと思います。

 今年、2007年に報道された地質学に関するニュースを振り返りましょう。これは、私が選んだものですので、その点を配慮してください。
・「天然ダイヤモンドの日本初発見」
 このニュースに関しては、エッセイでも取り上げたので記憶されている方もおられるでしょう。詳しくはホームページでのエッセイを参考にして欲しいのですが、私にとっては、科学成果が与える影響を考えるきっかけになりました。
・「かぐやの月探査」
 これのエッセイに取り上げたのですが、小惑星はやかわの探査を成し遂げた「はらぶさ」に続く快挙でしょう。日本の宇宙探査技術の高さを示すものでした。
・「恐竜化石発見ラッシュ」
 このニュースは、いくつもの発見が相次いであり、ついついエッセイでも取り上げるがおろそかになりました。ざっと眺めていきましょう。1月には国内最大級の恐竜の「丹波竜」が、非常によい状態で発見されたと報道されました。福井では恐竜の皮膚の跡の化石が発見されています。国内最古級のハドロサウルス類の化石が、熊本県御船から発見されました。和歌山でも、カルノサウルス類の化石が発見されています。こうしていみていくと、日本も恐竜化石の産地と呼べるような気がします。
・「能登半島地震」および「新潟県中越沖地震」
 巨大が地震が2つも続けて起こりました。実は、このエッセイでは、災害に関わるものを、以前書いたことがありました。しかし、読者の方や、関係者からいくつかの反応があり、個人で発信することに関して、慎重になるべきだと反省しました。その一つの哀れがダイヤモンドの発見についてのエッセイもでありました。
 災害に関しては、よほどいうべきこと、いいたいことがない限り、不用意に取り上げないようにしていました。そのせいもあって、大きな地質現象である地震も、今年は取り上げせんでした。ここでは、概略だけを見ていきましょう。
 能登半島地震は、2007年3月25日9時41分58秒、石川県輪島市西南西沖40kmを震源とするM6.9の地震でした。現在では、能登の幹線道路は、ほぼ開通しました。能登有料道路も11月末までにすべての迂回路が解消されたと報道されています。しかし、災害から完全に復興したわけではありません。
 その記憶も醒めやらない2007年7月16日10時13分23秒に新潟県中越沖地震がおきました。新潟県上中越沖を震源とするもので、Mは6.8でした。2004年10月23日午後5時56分に発生したM6.8、震度7を観測し大きな被害を出した記憶にも新しい新潟県中越地震(新潟県中越大震災とも呼ばれています)の3年後のことでした。新潟県では7月16日より地震の被害状況の報告が公開されています。そして、12月18日15時現在として、地震による被害状況の報告の第213報が出されています。まだ、この地震の被害が継続し、復興作業は続いています。
 現在もこれら地震の影響は残っています。それを研究している人もおられます。災害を伴う地質現象に対して意見を述べるのは、注意が必要です。ただ、私は、意見を述べない態度を固持するつもりはありません。述べるべき場では、はっきりと述べるつもりです。このような姿勢が、いいことなのか悪いことなのかわかりませんが、少なくもと被災者がおられる限り配慮する必要があります。特に地震のように、被害が大きい場合は注意が必要だと感じています。
 実は、私にとって2007年は、科学と自然、科学と人間、科学と社会、科学と自然災害、科学者と被災者、科学者と成果の普及などなど、科学を取り巻くもろもろのものとを関係を考えさせられる1年だったような気がします。

・地球のつぶやき・
私は、意見の述べる場として
別のメールマガジンを利用しています。
月刊の「地球のつぶやき」
http://terra.sgu.ac.jp/monolog/
と、地域の自然との関わりには、月刊の「大地を眺める」
http://terra.sgu.ac.jp/geo_essay/index.html
の2誌です。
私は、両メールマガジンを、
充分な分量をもっていいたいことをしっかりと述べる場としています。
このような場を自分自身では用意し、区分けしているので、
この週刊メールマガジンの「地球のささやき」では、
地質学に関係する軽い短い読み物を心がけています。
そして地質や地球、宇宙、自然に関して興味を持ってもらえるように
科学普及の私なりの方法だと考えています。
来年からもこのような姿勢で連載を続けていくつもりです。
もしよろしければ、これからも購読をお願いします。

・愛読御礼・
今年も毎週かかすことなく、
このメールマガジンを発行することができました。
これは、読者の方がおられるから継続できたことです。
読者の方から100通以上のメールをいただきました。
私からも同じほどのメールを差し上げました。
このような読者との交流があり、
読者がおられて、読まれているという手ごたえが
このメールマガジンを継続させていく原動力となっています。
メールを頂かなくても、読んでもらっているはずという前提が
私の励みになっています。
今年1年の愛読ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。

2007年12月20日木曜日

2_59 恐竜絶滅の隕石2:小惑星帯より

 恐竜絶滅をさせた隕石は、小惑星帯に存在するある天体の衝突がきっかけだったという説がだされました。果たして、その説はどこまで正しいのでしょうか。

 前回、隕石の衝突頻度に関する情報と、それが恐竜絶滅を引き起こした隕石と関係があるという報告を紹介しました。今回は、その内容を、もう少し詳しく示しましょう。
 ボットク(Bottke)らの報告では、小惑星帯での中に、バティスティーナ族という一群の小惑星に注目しています。その族のなかで、298バティスティーナと呼ばれる小惑星が、最大で直径40kmほどあります。同じような組成、軌道を持つ小惑星が大小、多数見つかっています。それらをまとめて、バティスティーナ族としています。これらは、もともと同じものであった可能性があります。
 それに気づいたボットクらは、これらの小惑星群の軌道情報から、過去にどのような振る舞いをしていたのかを、形成時までコンピューターを使ってシミュレーションして遡ってみました。その結果、衝突の事件を見つけることができました。
 一番現状によく合う事件は、約1億6000万年前に、直径170kmの天体に、直径60kmの天体が、秒速3kmで正面衝突するというシミュレーションでした。このような衝突が起こると、直径1kmをこえるような破片を、1000個以上できることがわかってきました。
 小惑星帯は、火星と木星の間にあるですが、特殊な領域があります。その領域とは、火星と木星の重力の影響で、大きな天体が、地球軌道を横切るようなところに飛ばされるようなところです。もし、衝突の事件がこの領域で起きたとすれば、サイズの大きな天体は、1億6000万年前以降、地球や月に衝突すること多くなると予想されます。
 そこで、先に述べた隕石の衝突頻度の話につながるわけです。白亜紀から新生代初期にかけて、ここ1億年ほどクレータの形成頻度が増えています。それと、この衝突事件は呼応しています。また、月のティコ・クレータは、1億0900万年前の隕石衝突の激しい時代にできています。ですから、このバティスティーナの小惑星群と関係があるかもしれません。
 また、現在ある298バティスティーナの表面の分光分析の結果から、原始的な炭素質コンドライトとよばれる隕石と似た組成を持っていると考えられます。これは、白亜紀の恐竜絶滅を引き起こした隕石の種類と同じタイプのものです。
 このような情報から、すべて丸く収まりそうなのですが、実は問題があります。
 地球上の2億年前より新しい時代に形成されたクレータで、1km以上の直径を持つものは、8個見つかっています。1km以上のクレータを形成するには、直径50m以上の天体が衝突しなければなりません。ですから、これらのクレータとバティスティーナ族の形成時間が関係している有力な証拠となりそうです。
 ところが、これら8個のクレータを形成した衝突天体は、恐竜の絶滅を引き起こしたもの以外は、炭素質コンドライトでないことがわかっています。これは、今までの議論と矛盾しています。恐竜絶滅のクレータ(チクシュルーブ・クレータ)以外は、バティスティーナ族ではないことになります。もちろん、バティスティーナ族がチクシュルーブ・クレータを形成した可能性はありますが、隕石の頻度を説明したことにならないわけです。
 しかし、この報告から重要なことがわかります。それは、この方法を使えば、小惑星帯に特異な軌道を持つ天体群を見つけ、その軌道データとシミュレーションから、地球や月のクレータをつくった事件と対応できるかもしれないということです。それは、未来に起こる事件かもしれません。

・シミュレーション・
シミュレーションは可能性と危険性を秘めています。
両者を分けるのは人間ではないでしょうか。
シミュレーションの結果に問題があるのではなく、
その結果を利用する人間側の問題です。
論理的に考えれば、わかることですが、
ある初期条件や仮定をおいて、ある手続きをへておこなったのが
シミュレーションで、その結果はひとつの可能性に過ぎません。
シミュレーションの結果がある説に反しても、
その説を否定したことになりません。
その説の可能性を下げることになっても、
その判断は人間が下すものです。
シミュレーションは人間の判断を助けるものであって、
判断を下すものではありません。
今回のシミュレーションの結果は、
さまざまな証拠を満たすものではありませんでしたが、
方法を示したという点では重要な意義があると思います。
ただ、このような方法が、
他の小惑星群に、どの程度適応できるのかが、
次の問題となるのでしょう。

・年末・
今年も残るところ、あと少しとなりました。
あわただしさが続いています。
特に年末は忙しく、時間がなかなかとれません。
私は、24日の祝日と母の訪問(26日から正月まで)があるので、
研究室にいることはできません。
ですから、空き時間を見て
自宅で仕事をするしかありませんが、
そうそう時間が取れそうにありません。
ですから、研究室にいれるあと数日が
私とっては、重要になります。
でも、その残された時間も校務が割り込んできます。
それらの校務も重要で、仕方がないことなのですが、
なぜ、この時期という疑問もあります。
まあ、愚痴を言っている時間があれば、
仕事に励みましょう。

2007年12月13日木曜日

2_58 恐竜絶滅の隕石1:衝突頻度

 恐竜を絶滅させた隕石について、興味深い論文が報告されました。今回は、隕石と絶滅を中心として話題を紹介しましょう。

 今では多くの人が、恐竜の絶滅が隕石の衝突によるものであるという説を知っています。では、その隕石が、どこから由来し、どのような原因で、どのような経路で、地球に衝突したのでしょうか。それを調べるのは、なかなか困難な問題です。なぜなら、隕石の衝突は、過去の出来事ですし、隕石が廻っていた軌道を、もはや計算することができないからです。
 そんな困難な問題にも、いくつかアプローチがなされています。その一つとして、ボットク(Bottke)らが2007年9月のネイチャーという雑誌に、恐竜を絶滅させた隕石について、興味深い論文を報告しました。その内容を紹介する前に、地球に落ちてきている隕石が、時代ごとに頻度に変化があるかどうかを調る方法を見ていきましょう。
 一つの方法として、宇宙塵を利用するものがあります。実は、地球には、隕石の小さな粒が、いつでも、地球中に、たくさん降ってきています。もちろん今現在も落ちています。このような隕石の小さな粒は、宇宙塵と呼ばれています。古いビルの屋上で、掃除があまりされていないところを、ほうきではけば、宇宙塵を集めることができます。
 ある時代に溜まった堆積岩の中の宇宙塵を調べれば、その時代にどの程度降ってきていたかを定量的に調べることができます。調べてみると、いつの時代も同じ量の宇宙塵が降っていたわけではなく、たくさん降っていた時代があることがわかってきました。宇宙塵は、約3500万年前(始新世後期)や約800万年前(中新世後期)、4億8000万年前(オルドビス紀)など、たくさん降った時代があることがわかってきました。
 また、地質学的に衝突の記録がない時代でも、地表に残された隕石の衝突の跡としてクレータのできた時代や、衝突の時に飛び散った物質からできた地層などから、衝突が多かった時代を知ることができます。それによると、34億7000万~32億4000万年前、26億5000万~25億年前などの時代に激しい衝突があったことがわかります。
 さらに古く、地球に記録のない時代のことについては、月のクレータの形成年代を参考にすることができます。月は地球の衛星ですから、地球の近くを廻っています。もし月に隕石の衝突が頻繁にあれば、確率的にも地球への隕石の衝突も激しかったと考えられます。月では、40億年前まで、天体形成の材料物質(小天体)の名残がまだたくさんあり、その影響で衝突が激しかった時代があります。名残の衝突が一段落した後、38億年前に、再度激しい衝突の事件がありました。この衝突は、後期の「重爆撃(heavy bombardment)」と呼ばれている事件です。
 そして、理論やコンピュータのシミュレーションを用いたアプローチもあります。ある説では、ここ1億年間は、隕石の衝突頻度が多くなっている時代であるという説もあります。
 さて、これらの衝突頻度に関する情報が、恐竜絶滅の隕石とどのような関係があるのでしょうか。それは次回としましょう。

・ばたばた・
あれよあれよという間に、時間は過ぎていきます。
師走ももの中旬となりました。
締切りが過ぎて、少し待ってもらっていた論文がやっと手放せました。
でも、やり残した仕事もいっぱいあります。
年賀状はまだできていません。
1月中旬締切りの論文が、次は控えています。
ばたばたと仕事に追われて
走っています。
これが師走なのでしょうか。

・忘年会・
今週末には2つ目の忘年会があります。
私は、公式の飲み会には可能な限り参加しています。
宴会の場は楽しいからです。
先週も学科の忘年会がありました。
めずらしく教職員全員が集まりました。
とはいっても総勢11名ですが。
これくらいの人数が、
皆で共通の話題を話すにもちょうどいいし、
個別に話するのもちょうどいいようです。
時間制限がなかったので、
1次会で4時間ほど皆で話していました。
今週末は大人数なので、
近くのテーブルに座った人との会話が中心になります。
これは、これで楽しいのですが、
ホテルの宴会場なので、スケジュールが決まっているので
時間が自由になりません。
まあ、これはこれは楽しいのですが。