2007年12月20日木曜日

2_59 恐竜絶滅の隕石2:小惑星帯より

 恐竜絶滅をさせた隕石は、小惑星帯に存在するある天体の衝突がきっかけだったという説がだされました。果たして、その説はどこまで正しいのでしょうか。

 前回、隕石の衝突頻度に関する情報と、それが恐竜絶滅を引き起こした隕石と関係があるという報告を紹介しました。今回は、その内容を、もう少し詳しく示しましょう。
 ボットク(Bottke)らの報告では、小惑星帯での中に、バティスティーナ族という一群の小惑星に注目しています。その族のなかで、298バティスティーナと呼ばれる小惑星が、最大で直径40kmほどあります。同じような組成、軌道を持つ小惑星が大小、多数見つかっています。それらをまとめて、バティスティーナ族としています。これらは、もともと同じものであった可能性があります。
 それに気づいたボットクらは、これらの小惑星群の軌道情報から、過去にどのような振る舞いをしていたのかを、形成時までコンピューターを使ってシミュレーションして遡ってみました。その結果、衝突の事件を見つけることができました。
 一番現状によく合う事件は、約1億6000万年前に、直径170kmの天体に、直径60kmの天体が、秒速3kmで正面衝突するというシミュレーションでした。このような衝突が起こると、直径1kmをこえるような破片を、1000個以上できることがわかってきました。
 小惑星帯は、火星と木星の間にあるですが、特殊な領域があります。その領域とは、火星と木星の重力の影響で、大きな天体が、地球軌道を横切るようなところに飛ばされるようなところです。もし、衝突の事件がこの領域で起きたとすれば、サイズの大きな天体は、1億6000万年前以降、地球や月に衝突すること多くなると予想されます。
 そこで、先に述べた隕石の衝突頻度の話につながるわけです。白亜紀から新生代初期にかけて、ここ1億年ほどクレータの形成頻度が増えています。それと、この衝突事件は呼応しています。また、月のティコ・クレータは、1億0900万年前の隕石衝突の激しい時代にできています。ですから、このバティスティーナの小惑星群と関係があるかもしれません。
 また、現在ある298バティスティーナの表面の分光分析の結果から、原始的な炭素質コンドライトとよばれる隕石と似た組成を持っていると考えられます。これは、白亜紀の恐竜絶滅を引き起こした隕石の種類と同じタイプのものです。
 このような情報から、すべて丸く収まりそうなのですが、実は問題があります。
 地球上の2億年前より新しい時代に形成されたクレータで、1km以上の直径を持つものは、8個見つかっています。1km以上のクレータを形成するには、直径50m以上の天体が衝突しなければなりません。ですから、これらのクレータとバティスティーナ族の形成時間が関係している有力な証拠となりそうです。
 ところが、これら8個のクレータを形成した衝突天体は、恐竜の絶滅を引き起こしたもの以外は、炭素質コンドライトでないことがわかっています。これは、今までの議論と矛盾しています。恐竜絶滅のクレータ(チクシュルーブ・クレータ)以外は、バティスティーナ族ではないことになります。もちろん、バティスティーナ族がチクシュルーブ・クレータを形成した可能性はありますが、隕石の頻度を説明したことにならないわけです。
 しかし、この報告から重要なことがわかります。それは、この方法を使えば、小惑星帯に特異な軌道を持つ天体群を見つけ、その軌道データとシミュレーションから、地球や月のクレータをつくった事件と対応できるかもしれないということです。それは、未来に起こる事件かもしれません。

・シミュレーション・
シミュレーションは可能性と危険性を秘めています。
両者を分けるのは人間ではないでしょうか。
シミュレーションの結果に問題があるのではなく、
その結果を利用する人間側の問題です。
論理的に考えれば、わかることですが、
ある初期条件や仮定をおいて、ある手続きをへておこなったのが
シミュレーションで、その結果はひとつの可能性に過ぎません。
シミュレーションの結果がある説に反しても、
その説を否定したことになりません。
その説の可能性を下げることになっても、
その判断は人間が下すものです。
シミュレーションは人間の判断を助けるものであって、
判断を下すものではありません。
今回のシミュレーションの結果は、
さまざまな証拠を満たすものではありませんでしたが、
方法を示したという点では重要な意義があると思います。
ただ、このような方法が、
他の小惑星群に、どの程度適応できるのかが、
次の問題となるのでしょう。

・年末・
今年も残るところ、あと少しとなりました。
あわただしさが続いています。
特に年末は忙しく、時間がなかなかとれません。
私は、24日の祝日と母の訪問(26日から正月まで)があるので、
研究室にいることはできません。
ですから、空き時間を見て
自宅で仕事をするしかありませんが、
そうそう時間が取れそうにありません。
ですから、研究室にいれるあと数日が
私とっては、重要になります。
でも、その残された時間も校務が割り込んできます。
それらの校務も重要で、仕方がないことなのですが、
なぜ、この時期という疑問もあります。
まあ、愚痴を言っている時間があれば、
仕事に励みましょう。