今回取り上げた論文のタイトルで示された内容とその意味が、やっと明らかになります。そこから、その当時にプレートテクトニクスが営まれていたことが、わかってきました。これだけが最古の痕跡なのでしょうか。
前回紹介したように、32.7億年前のコマチアイト中のカンラン石の酸素同位体組成と元素組成を調べられました。その結果、カンラン石には、2つのグループがあることがわかってきました。もちろん、カンラン石は、変成や変質を受けていない、マグマから結晶化したままのものを使用しています。
ひとつ(グループ I)はマントルと同じような酸素同位体組成(18Oの比率が大きい:重い)とカンラン石の組成(マグネシムの含有量が多い)でした。これは、マントル物質が溶融してでできたと考えていいものでした。もうひと(グループ II)つは、酸素同位体組成が低く(18Oの比率が小さい:軽い)、マグネシウムの少ないカンラン石の組成となりました。
2つのグループで、カンラン石のマグネシウム量は異なっていますが、マントルのカンラン岩からできるマグマの多様性の範囲にはなっています。ですから、両グループともマントルでできたマグマであることは確かですが、異なったマントル物質に由来することになります。
問題は、この低い酸素同位体組成やマグネシムの少ないカンラン石は、どのようなマントルであったかです。
酸素同位体組成は、マントルのカンラン岩より水(海水)の方が軽く(18Oの比率が小さい)なります。つまり、海水の影響を受けたマントルがあり、そこから由来したマグマがグループ IIのコマチアイトだということになります。
海水の影響を受けたマントルは、海底で海水の影響を受けた海洋プレートの中のカンラン岩だと考えられます。ただし、それがマントル内の溶融する条件(マントルのあるような深部の条件)に置かれていたことになります。
沈み込んだ海洋プレートは低温なので、溶融しにくいため、マントル内にしばらく置かれ温度が上がらばければなりません。欧陽たちは、マントル遷移層に沈み込んだ海洋プレートがしばらく滞留したものだったと考えました。コマチアイトマグマよりかなり以前に沈み込んだ海洋プレートに由来するマントル物質が、このグループ IIの起源になったことになります。
以上のことから、欧陽たちは、32.7億年前のコマチアイトに海洋プレート由来のものがあることから、「oceanic crust subduction before 3.3 billion years ago(33億年前より前の海洋地殻の沈み込みを明らかにした)」というタイトルを付けたのです。
少々回りくどい説明をしてきましたが、これが論文のタイトルの意味と地質学的意義です。論文では33億年前以前ということにしていますが、このシリーズで前に述べたように、他にも沈み込み帯の証拠も挙げていました。そこからもっと古い痕跡があるかもしません。それは次回としましょう。
・連続する行事・
正月が明けて、先週から講義がはじまり
大きな行事もひとつ無事に終わりました。
一段落としたいところですが
1月は大学共通テスト、卒業研究発表会、
定期試験と採点評価、そして2月の入試
次年度の講義のシラバス作成など
つぎつぎと校務や行事があります。
講義終了後もなかなか落ち着かないです。
・老後の研究テーマ・
研究の方は順調に終盤を迎えています。
予定していた論文のすべて投稿が終わり
現在校正がつぎつぎと入っていますが
こちらは一段落です。
現在は、退職後の研究テーマに関する
準備を少しずつ進めています。
これまでの延長線にはあるのですが
なかなか手ごわいテーマになりそうです。
手強いほど、老後の楽しみとして
長く続けらそうなので期待できます。