2025年1月16日木曜日

1_225 過去のプレートテクトニクス 5:海洋プレート由来

 今回取り上げた論文のタイトルで示された内容とその意味が、やっと明らかになります。そこから、その当時にプレートテクトニクスが営まれていたことが、わかってきました。これだけが最古の痕跡なのでしょうか。


 前回紹介したように、32.7億年前のコマチアイト中のカンラン石の酸素同位体組成と元素組成を調べられました。その結果、カンラン石には、2つのグループがあることがわかってきました。もちろん、カンラン石は、変成や変質を受けていない、マグマから結晶化したままのものを使用しています。
 ひとつ(グループ I)はマントルと同じような酸素同位体組成(18Oの比率が大きい:重い)とカンラン石の組成(マグネシムの含有量が多い)でした。これは、マントル物質が溶融してでできたと考えていいものでした。もうひと(グループ II)つは、酸素同位体組成が低く(18Oの比率が小さい:軽い)、マグネシウムの少ないカンラン石の組成となりました。
 2つのグループで、カンラン石のマグネシウム量は異なっていますが、マントルのカンラン岩からできるマグマの多様性の範囲にはなっています。ですから、両グループともマントルでできたマグマであることは確かですが、異なったマントル物質に由来することになります。
 問題は、この低い酸素同位体組成やマグネシムの少ないカンラン石は、どのようなマントルであったかです。
 酸素同位体組成は、マントルのカンラン岩より水(海水)の方が軽く(18Oの比率が小さい)なります。つまり、海水の影響を受けたマントルがあり、そこから由来したマグマがグループ IIのコマチアイトだということになります。
 海水の影響を受けたマントルは、海底で海水の影響を受けた海洋プレートの中のカンラン岩だと考えられます。ただし、それがマントル内の溶融する条件(マントルのあるような深部の条件)に置かれていたことになります。
 沈み込んだ海洋プレートは低温なので、溶融しにくいため、マントル内にしばらく置かれ温度が上がらばければなりません。欧陽たちは、マントル遷移層に沈み込んだ海洋プレートがしばらく滞留したものだったと考えました。コマチアイトマグマよりかなり以前に沈み込んだ海洋プレートに由来するマントル物質が、このグループ IIの起源になったことになります。
 以上のことから、欧陽たちは、32.7億年前のコマチアイトに海洋プレート由来のものがあることから、「oceanic crust subduction before 3.3 billion years ago(33億年前より前の海洋地殻の沈み込みを明らかにした)」というタイトルを付けたのです。
 少々回りくどい説明をしてきましたが、これが論文のタイトルの意味と地質学的意義です。論文では33億年前以前ということにしていますが、このシリーズで前に述べたように、他にも沈み込み帯の証拠も挙げていました。そこからもっと古い痕跡があるかもしません。それは次回としましょう。

・連続する行事・
正月が明けて、先週から講義がはじまり
大きな行事もひとつ無事に終わりました。
一段落としたいところですが
1月は大学共通テスト、卒業研究発表会、
定期試験と採点評価、そして2月の入試
次年度の講義のシラバス作成など
つぎつぎと校務や行事があります。
講義終了後もなかなか落ち着かないです。

・老後の研究テーマ・
研究の方は順調に終盤を迎えています。
予定していた論文のすべて投稿が終わり
現在校正がつぎつぎと入っていますが
こちらは一段落です。
現在は、退職後の研究テーマに関する
準備を少しずつ進めています。
これまでの延長線にはあるのですが
なかなか手ごわいテーマになりそうです。
手強いほど、老後の楽しみとして
長く続けらそうなので期待できます。

2025年1月9日木曜日

1_224 過去のプレートテクトニクス 4:酸素同位体組成

 今回の論文紹介に、なかなか入っていけないのですが、もうひとつ酸素同位体組成の意味を知っておく必要があります。このような基礎知識から、地質学の多くの成果を知ることができます。もう少しお付き合いください。


 欧陽たちは、太古代(33億年前)にのみに産するカンラン岩質のコマチアイトの溶岩を用いて、化学分析をしてきました。分析した結果が、「軽い酸素同位体組成」というものでした。論文のタイトルも難しい内容になっています。酸素の同位体組成はどうのようなもので、そしてそれが軽いとは、どんな意味があるのでしょうか。説明していきましょう。
 原子には水素の1からはじまる原子番号があります。原子番号とは陽子の数に相当します。陽子の数が、元素の性質を決めています。原子核には陽子の他にも中性子もあり、陽子と合わせたものを質量数といいます。一つの原子(同じ陽子の数)においても、中性子の数が異なったものがあり、それを同位体と呼びます。中性子の数が異なった同位体がいく種類ある元素もあり、その違いを利用し、物質の特徴や由来を調べていけることもあります。
 酸素原子は、原子番号が8で、陽子が8個あります。酸素の同位体には質量数が、16(中性子が8個)、17、18のものが安定に存在しています。酸素は質量数16のもの(16O)は99.759%(原子比率 atom%)になり、17Oは0.037%、18Oは0.204%となっています。それらの比率を同位体組成といいます。
 酸素の同位体は、元素としての挙動は同じですが、状態変化や温度変化に応じて、質量数に応じて少し比率が変わることがあります。このような変化を「同位体分別」といいます。
 上で示した同位体組成は大気中のものです。18Oの同位体組成で見ていくと、海水は0.1995%となっています。これは、水分子(H2O)では軽い16Oを多く含んでいることを意味します。また水が蒸発する時、18Oを含んだ水より、16Oを含んだものより蒸発しにくいので、同位体分別が起こり軽くなっていきます。雨となり陸上に降った淡水や、雪や氷で極地で氷床となった18Oの同位体組成は、0.1981%という小さい値になっていきます。
 極地の氷の18Oの比率が大きく(重く)なるということは、寒冷化により氷床が発達していくと、海水の16O比率が大きく(軽く)なっていきます。このような性質を利用して、氷床から当時の気候変動や、海底の堆積物中の微化石の殻の成分(炭酸カルシウムCaCO3)から海水温の変化などを探ることができます。
 論文では、コマチアイト中のかんらん石((Mg,Fe)2SiO2)の酸素同位体組成と元素組成を調べています。その結果、かんらん石には、2つのグループがあることがわかってきました。その詳細は次回としましょう。

・我が家の正月・
わが町は、暮れには積雪がありましたが、
それほど多くの降雪もなく、
正月には、冷え込みはありましたが、
穏やかに、明けていきました。
元旦は一日、のんびりと夫婦とも自宅で過ごしていました。
家内は、いつもと同様に家事をしていたので、
正月気分が味わえないといっていましたが。
ニ日は、幸い快晴だったので初詣にいきました。
次男が元日夜に帰省していたので、
家内は買い物にでました。
三日は、次男も同窓会があると夜は出かけたので
家内も自宅でのんびりとしていました。
正月中は次男が帰省していたので
家内の仕事は増えていましたが。

・正月明けは・
昨年の暮れに、締め切りのある仕事を
大半、片付けてしまったので
正月はのんびりと過ごせました。
正月番組を見たり、録画して見ていなかったものなどを
少しずつ消化しました。
本を入れ込んだけの自宅の書斎も
未整理だったので、それを進めたり
などとりとめのない日々を
のんびりと過ごしました。
正月明けの4日からは、通常モードで、
大学で仕事はじめとしました。

2025年1月2日木曜日

1_223 過去のプレートテクトニクス 3:コマチアイト

 明けまして、おめでとうございます。本年も、地球や地質に関する話題を、淡々と紹介していきます。今回の話題は、昨年からの続きとなる過去のプレートテクトニクスの痕跡の探求のシリーズとなります。

 地球と環境の通信誌(Communications Earth & Environment)の2024年5巻に中国科学院の欧陽(Dongjian Ouyang)と共同研究者が、
Light oxygen isotopic composition in deep mantle reveals oceanic crust subduction before 3.3 billion years ago
(マントル深部の軽い酸素同位体組成から33億年前より前の海洋地殻の沈み込みを明らかにした)
というタイトルの論文を発表しました。この論文の意義は、いくつかの説明を経て理解していく必要があります。順番に説明していきましょう。
 アフリカ南部に、バーバートンという地域があります。ここには、太古代の岩石が分布していることで有名です。
 バーバートンには、緑色岩帯(グリーンストーン帯)と呼ばれる地帯があります。世界各地の緑色岩帯の多くは、海洋地殻が陸に持ち上げられたオフィオライトであったことがわかってきました。ただし、もともと列島(島弧と呼ばれます)の火山岩類や複雑な地帯の岩石も含んでいることもあります。オフィオライトの玄武岩類が、変成作用を受けると緑色のなっていることから、古くから緑色岩類と呼ばれてきました。緑色岩類が分布している地域を、緑色岩帯と呼ばれ、現在でもその名称が残っているところがいくつもあります。
 今回、分析された岩石は、緑色岩帯中のウェルテヴレーデン(Weltevreden)層の溶岩ですが、通常のオフィオライトの溶岩ではなく、コマチアイトと呼ばれる変わったものでした。
 コマチアイトは、特異な化学組成を持っており、マントルのカンラン岩に似たマグネシウム(Mg)の含有量(18重量%程度)を持っています。このようなマグマで現在は活動していません。主に太古代にだけ活動していた特異なマグマです。マグネシウムの多いマグマをマントルでつくるためには、高温(1600℃)で、マントルのカンラン岩を多く溶かして(45%ほど)いく必要ががあります。そのような高温の条件が今ではないため、マントルが熱かった時代の火山活動になります。
 このコマチアイトの年代は、太古代(40億から25億年前)の前半の32.7億年前となります。ところが、論文タイトルでは「33億年前より以前」というのは、コマチアイトの年代よりものが想定されるとという意味になります。古い海洋地殻の沈み込みの痕跡が、コマチアイトのマグマをもたらしたマントルで見つかったという報告になります。マグマが由来する岩石は、すでにできていた岩石になるので、32.7億年前より古いものになります。
 では、それはどのよう痕跡に基づくものだったのでしょうか。次回としましょう。

・年のはじめに・
月初めは、地球地学紀行にしてきましたが、
新年なので、めでたい地域での話題にしたかったのですが、
思いつきませんでした。
新年ですが、昨年から続きのシリーズを
淡々と紹介することにしました。
この論文を理解するには、
地質学の前提となる知識が
いくつも必要になるややこしいものです。
新しい知見が含まれているので、
詳しく紹介していくことにしました。
ただし、このシリーズでは、論文より先へと
もっと展開していきます。

・いつものように・
正月の三ヶ日以外、
仕事納めから仕事初めの間も
大学で仕事をしています。
いつものことなのでこれはいいのですが
今年は、年初からいろいろと
締切のある校務を
多数、抱えています。
今年の3月に退職するための校務も
そこに加わっているめた多くなっています。
優先順、締切順にこなしていきます。