2024年11月28日木曜日

3_226 外核のドーナツ 2:コーダ波の解析

 前回、地震波には表面波と実体波があり、大きく揺れる実体波にもいろいろな種類があることを紹介しました。実体波の中のコーダ波を使って、外核にこれまでにない構造を発見しています。コーダ波を紹介していきましょう。


 実体波は、いつも感じている地震の揺れをもたらすものです。P波とS波がその代表となります。
 P波はもっとも速い地震波(5~7km/秒)で、最初に伝わってくる揺れで、初期微動とも呼ばれます。進行方向に平行に振動する波で、固体、液体、気体をすべて伝わリます。地球内部を探るために重要なものとなります。
 一方、S波は、P波に比べて速度は小さい(3~4km/秒)のですが、揺れは大きく、主要動と呼ばれます。ただし、固体しか伝わリません。P波は地球内部をすべて通り抜けましたが、S波は液体の鉄からなる外核は通ることができません。そのため、外核の実態と存在は古くから知られていました。
 実体波には、後続波と呼ばれるタイプがあります。P波やS波は、波が直接到達したものですが、後続波には地球内部にあるさまざまな境界で、反射したり屈折してしてから届く地震波もあります。そんな地震波にも重要な地球内部の情報が隠されています。
 反射や屈折は、不連続面となる地表、海底、地殻、マントル、核や、それらの内部にある物性の異なる面で起こります。反射は屈折する場所によって、地震波それぞれに、別の名称がつけられています。例えば、P波が外核内を伝播したものをPKP波、この波が内核まで伝播したものをPKIKP波などと呼ばれて、区別されています。
 後続波には、さらに地下の物質内に存在する不均質によって「散乱」される地震波があり、それらをコーダ波と呼んでいます。コーダ波は、振幅が減衰していく(指数関数的に)波形になるのが特徴ですが、数十秒から数分間振動が続きます。
 コーダ波の減衰は、通過する物質の特性を反映します。減衰は、物質内の不均質、例えば、断層や化学的組成が異なったり、流体の存在や分布、温度分布の違いなどで起こります。また、不均質で減衰しながら伝播していくのですが、その時にも不均質があれば、散乱も起こります。ですからコーダ波には、複雑な経路を取っていきたものが含まれていることになります。このコーダ波の減衰状況や散乱から、地球内部の不均質な部分を見つけていったの今回紹介している論文です。
 馬らは、ひとつの震源からの地震を、異なった地震計で記録された数時間にわたる続くコーダ波を用いました。微小なコーダ波を検出し、複雑にたどってきた経路を解析していき、各地のコーダ波の類似性から相関を調べてきました。これらの類似性をまとめて「後期コーダ波相関波動(late-coda correlation wavefield)」と呼びました。これが論文のタイトルにあったコーダ波の意味です。
 そして、極地と赤道付近で観測された解析の結果を比較していきました。極地に近い場所で検出された地震波は、赤道近くの地震波よりも速く伝わっていることがわかったということです。その意味するところは次回としましょう。

・懸案が次々と・
今月は、特別な校務が重なっていました。
大きな懸案事項もいくつかありましたが、
先週までに、順番に終わらせていきました。
まだいくつか残っています。
懸案事項も、役職上の校務なので
締め切りや重要度の順番に
淡々とこなしていくしかありません。
長年、職場に勤めていると
そんな術も身についてきました。
それも今年度限りと思って
取り組んでいきましょう。

・久しぶりの休暇を・
このエッセイは、土曜日に予約配信しました。
日曜日から、家内と久しぶりに温泉ホテルに一泊します。
人里から離れて、車がないといけない不便な場所です。
森に囲まれていて、散策路を歩いていくと湖があります。
その先に観光施設があります。
そんな静寂に好き、時々利用するホテルです。
自宅や大学は大雪が降ったので心配なのですが、
いってみないと雪の様子はわかりません。
まあ冬タイヤにしているので、
少々雪は大丈夫なはずです。

2024年11月21日木曜日

3_225 外核のドーナツ 1:トーラスとコーダ

 次の核のシリーズに変わります。新しい論文によると、外核でこれまで見つかっていなかった構造がわかったということです。地震波によって発見されたのですが、少々専門的な説明が必要になります。


 2024年8月末のScience Advances誌に、オーストラリア国立大学の馬とトカルチッチ(Ma and Tkalcic)が、核の構造に関する論文を発表しました。論文のタイトルは、
Seismic low-velocity equatorial torus in the Earth's outer core: Evidence from the late-coda correlation wavefield
(地球の外核内の地震波低速度の赤道上のトーラス:後期コーダ波相関波動場からの証拠)
というものでした。聞き慣れない難しい言葉があります。まず、トーラスとコーダ波について説明していきましょう。
 トーラスとは、円柱が環になったドーナツ状の構造をいいます。この論文では、外核の赤道上にトーラス構造が、地震波によって新たに見つかったということになります。
 トーラス構造は、コーダ波から見つかっています。コーダ波を説明するには、地震波の分類を説明しておく必要があります。
 地震波には、表面波と実体波があります。
 表面波とは、文字通り地球の表面を伝わる波です。少々変わった地震波で、固体と気体、あるいは固体と液体の境界だけを伝わっていく波です。主には地殻の表層(地表と大気の境界、海底と海の境界など)を伝わりますが、特徴は周期が長く、振幅幅も大きいものになります。伝わり方により、レイリー波やラブ波などに区分されます。レイリー波は、地表が上下方向に楕円を描くように振動します。ラブ波は、地表に対して平行に、進行方向に対して垂直に振動します。
 今回のコーダ波は、実体波に分類されます。実体波は、いつも感じている地震の揺れをもたらすものが代表です。P波とS波があります。P波はもっとも速い地震波(5~7km/秒)で最初に伝わる揺れで、初期微動などとも呼ばれます。進行方向に平行に振動する波で、固体、液体、気体を伝わリます。S波は、P波に比べて速度が小さい(3~4km/秒)のですが、揺れは大きく、主要動と呼ばれます。ただし、固体しか伝わらないという特徴があります。
 多くの地震波の研究は、地震発生後、1時間ほどで世界中に伝わるP波とS波に関するものです。ところが、実体波には、ほかにも後続波と呼ばれるタイプのものがあります。後続波は地球深部の探査に利用されています。その後続波のひとつに、コーダ波があります。少々長くなってきたので、コーダ波の詳細は次回としましょう。

・コーダ・
コーダ(coda)はイタリア語で「尾」を意味しています。
そこから、楽曲の最後に付けられる
終結、締めくくりを指す部分の名称として使われています。
コーダ波は、主な地震波のあとに現れ、
波形の最後にくっついています。
その様子から地震波の区分にも用いられました。
ただし、音楽のコーダは本体より短いのですが
コーダ波の継続時間は、本振動より長くなっています。

・晩秋から冬へ・
11月初旬に降った大雪は
その後、すべて溶けてしまいました。
紅葉の名残りも少なくなり、
多くの木々が葉を落としました。
季節は、晩秋から冬にむかっています。
そんな矢先、週のはじめには寒波到来で
また雪が少しですが降りました。
大学も後期の折り返しを過ぎました。
落ち着いて授業が進んでいます。

2024年11月14日木曜日

3_224 内核の回転 3:後退運動

 内核が回転していること、運動は一定ではなくブレがあることは、以前から知られていました。今回の研究で、内核の回転が、ここ10年ほどで後退していることがわかってきました。


 いよいよ観測の結果を紹介していきましょう。20年以上に渡った地震波の観測値を用いたことから、経年変化が読み取ることができました。
 同じ震源からの複数の地震波を観測することで、昔のものと一致するような地震波を発見しました。このような一致から、内核がマントルに対して、過去と同じ位置に達したと区別できました。その結果、数年から数10年かけて回転の変化が読み取られてきました。
 内核は2003年から2008年にかけて、一回りしました。その後、2008年から2023年にかけては、同じ経路をゆっくりと回転していることがわかりました。回転速度が、2分の1から3分の1くらいになっています。2010年ころから減速がはじまり、後退(backtracking)と呼ばれる状態になっていることがわかりました。ここでいう後退とは、地表からみて、自転より遅れる状態になっていることです。
 このような内核の回転速度は変化は、以前の研究でも知られていました。また、後退していることも知られていました。そのような変動が、自転軸を中心に8.5年の周期で起きているらしいこともわかっていました。後退の現象は、ここ40年間は起こっていませんでしたが、今回、後退が見つかりました。
 巨大な内核の運動が、急激に変化することが示されましたが、その原因は、まだ不明です。液体の鉄の外核の中に、固体の鉄の内核が浮いている状態です。その運動を左右するには、かなり大きな力、エネルギーが必要となるはずです。
 その候補に、外核の対流の変化が考えられます。もし外核の対流のパターンに変化が起これば、地磁気への変化も起こるはずです。あるいは逆に地磁気の変化が、外核に対流に変化を及ぼし、内核の回転にブレーキをかけたのかもしれません。
 今回の研究の後退という結論についても、今後、議論が進むことでしょう。内核の運動は、地球の自転に影響があるはずです。内核の回転が遅くなっているのであれば、自転も遅くなっているはずです。その変化は非常に小さいでしょうが、もしかすると観測できるかもしれませんね。そうなれば、後退現象が事実と認定できるでしょう。

・大雪・
先週はじめに、近くの山並みに
初冠雪を見たと思っていたら、
里にも初雪が降りました。
シーズンのはじめの雪としては、
積雪量が多くて、驚きました。
いつもお世話になっている
自動車の整備工場にいって
冬タイヤに交換してもらいました。
週末になっても、まだ溶けません。
今年の初雪は大雪となりました。

・続けて医院へ・
今週の前半は、医院に続けていきます。
検査とその結果を聞くこと、
常用薬をもらうことになります。
医院はたいてい混んでいるので、
曜日や時間帯を考えていかないと
何時間も待つことになります。
選んでいっえも、半日仕事になります。
医者にかかるにも体力が必要です。

2024年11月7日木曜日

4_189 登別:噴気と紅葉

 今シーズン最後の野外調査で、登別からオロフレ峠、美笛峠、支笏湖という山岳ルートを巡りました。火山地質を観察したのですが、周辺は秋の紅葉でした。紅葉も山や峠では終わっていましたが。


 今シーズン最後に、1泊2日で、登別からオロフレ峠を超えるルートの調査にいきましました。10月になって、一度道内各地で初雪が見られました。10月下旬なら、山では雪が降ってもおかしくないので、峠越えも、今シーズン最後の時期かもしれません。
 初日は、札幌周辺は冷たい雨でした。登別に向かうと晴れ間があったのですが、午後からは時々雨が降る天気でした。登別の火山地帯は地獄谷と呼ばれているのですが、時々雨が降る中を傘をさして、調査となりました。
 登別温泉は、古くからある温泉地で、かつては鉄道も通っていました。湧出量が多く、いろいろな成分の温泉が出ていることで有名です。泉質としては、硫黄泉、食塩泉、明ばん泉、硫酸塩泉、緑ばん泉、鉄泉、酸性泉、重曹泉、ラジウム泉の9種があります。泊まったホテルでも、硫黄泉、食塩泉、鉄泉の3つの温泉がありました。
 登別で有名な地獄谷は、観光ルートが整備されていて、噴気口も湧水、温泉の流れもあります。寒い雨でしたが、噴気もよく見ることができました。泉質の異なった温泉が沢で合流しているのが、色の違いとして見ることができます。火山と温泉を観察するにはいいところです。
 この日の雨も山でも雪にならず、翌日は幸い晴れてきましたので、オロフレ峠を越え、美笛峠から支笏に入ることにしました。オロフレ峠は、これまで通ったことがなく、はじめての峠越えになりました。
 このコースは、山が深く、ところどころに温泉が湧いて、温泉宿もあります。山や峠では、紅葉はほとんど終わっていました。ところが、支笏湖周辺だけは、紅葉がまだきれいに見ることができました。湖畔周辺だけ、紅葉が遅れていて、不思議でした。平日でしたが、紅葉を見に、多くの観光客が訪れていました。
 登別からオロフレ峠、支笏湖周辺は、火山が作った地形です。活火山も多数あります。火山岩、火山砕屑物からできています。多数の観光客が訪れる火山と温泉の景勝地となっています。

・本当に最後の野外調査・
年度当初の研究計画では、
この調査は予定していませんでした。
9月の調査で、今シーズンは終わるつもりでした。
調査終了時に、研究費が少し残っていました。
そのため、1泊2日の調査に出ることにしました。
日程を調整していたら、
10月の下旬になってしまいました。
火山の調査でしたが、
周辺は紅葉の名残もあり、景色も堪能しました。

・サーバ停止・
このエッセイのホームページは廃止しました。
大学のサーバが10月末に停止したためです。
2012年から情報処理課にサーバを
保管していただいていました。
古いOSがかなり古くなり、
セキュリティの更新ができず、
機材の更新か廃止を迫られました。
12月一杯で廃止予定でしたが、
10月末に廃棄することとなりました。
そのためホームページでの公開は
急遽、終了となりました。
ブログは継続していますので、
バックナンバーも見ることができます。