2013年10月17日木曜日

1_118 日本の隕石衝突 1:冪乗則

 少し前に、日本で巨大隕石の衝突の証拠が見つかったというニュースが流れたのを覚えておられる方がいるかもしれません。その成果をだしたのは、若い研究者とその指導教官や共同研究者たちでした。そのニュースの意味を紹介したいと思います。

 地球には、大小さまざまなサイズの隕石が、今も落下しています。隕石とはいっても、小は目に見えない塵サイズから、大は天体ともいえるキロメートルサイズまであります。
 太陽系初期を除き、現在、惑星空間にある隕石のサイズは、小さいものが多く、大きいものは小さくなっています。このような様子は、直感的にも理解できます。大小さまざまなものがあるとき、一般に大きいものが少なく、小さいものが多くなっていることが多いように思えます。大きいもの一個あれば、小さいもの数桁倍ほどになるということも、理解できます。そのような経験的になんとなくわかっている規則性を定量化したものを、冪乗則(べきじょうそく)と呼ばれるものです。冪乗とは、指数のことで、何乗という形式で示されるものです。
 自然界の規則や現象は、冪乗の形になっているものが非常にたくさんあります。円の半径と面積、級の半径と体積の関係のような身近なものから、力学の法則、電磁気の法則など、いろいろなところがにあります。地震の頻度とマグニチュードの関係、クレーターのサイズとその頻度の関係も冪乗則に従うことがわかっています。クレーターのサイズと頻度の関係は、月などの天体観測から求めれています。その関係は、地球に衝突する隕石が、小さいものが多く、大きいものが少なくなるということを意味し、こちらも冪乗則になっていることを示しています。
 塵サイズの小さな隕石は、地球に入ってきても大気圏で燃え尽きで流星となり、落ちてきても被害を与えるものはありません。地上に落ち、クレーターができるような隕石の落下は稀です。この稀というのは、人間の感覚によるもので、地球の時間で考えると、隕石の落下は通常のことで、地形に残り、大絶滅を引き起こす落下は稀となります。時間スケールの違いです。
 巨大な隕石の落下の稀さを定量化するのは重要なことで、数値を見積もる方法を、このエッセイでも何度か紹介しました。いずれも、大体のことしかわかりませんでした。
 大きな隕石の衝突は、地球の環境に大きな影響を与えるはずです。実際に隕石衝突による影響が明らかにされているのは、中生代(白亜期末)と新生代の境界にあたる、K-Pg境界(K-T境界とも呼ばれています)にあった生物の大絶滅事件だけです。どれくらいの頻度で、生物の大絶滅につながる隕石の衝突があるかは、よくわかっていません。時代境界で隕石の衝突の証拠は何度も報告されましたが、それが大絶滅の原因と認定されたのは、K-Pg境界の事件以外はありません。
 地球の歴史をみても、大きな隕石による絶滅を解明することは、外的要因(地球外の原因)による絶滅か、内的要因(地球内部の原因)によるものかは、重要な問題です。隕石による外的要因と確認されれば、原因は確定ですが、内的要因となると、その原因、シナリオを解明するという作業が必要になります。
 さて前置きがなくなりましたが、2013年9月16日付けのNature Communicationsという雑誌に、H. Sato, T. Onoue1, T. Nozaki and K. Suzukiによる
「Osmium isotope evidence for a large Late Triassic impact event」
(巨大な後期三畳紀の衝突事件のオスニウム同位体の証拠)
という論文が、報告されました。
 尾上さんや佐藤さんなどの共同研究で、2012年にも、岐阜県坂祝(さかほぎ)町で同様の証拠を見つけています。今回は、坂祝に加えて、大分県津久見市江之浦(えのうら)でも同様に証拠を見つけました。その証拠によって、新たな展開が起こりました。その紹介は、次回にしましょう。

・研究の感動・
このニュースはテレビでも流されていたのですが、
私は、学会のニュースで、著者の佐藤さんが書かれた
関連報告を読んで、詳しく知りました。
若手研究者のがむしゃらな努力と
それが報われた時の喜びを感じさせる文章でした。
好感の持てる内容でした。
苦労の末、研究が報われる瞬間です。
自分の若いころを思い起こさせる気がしました。
このシリーズでその様子も紹介する予定です。

・自愛の心・
連休に大学祭があり、その代休として火曜日が休講となり
私は4連休となりました。
久々に長い休みとなったのですが、
風邪気味だったので、
自宅でじっとしていることにしました。
もちろん、用足しにでたり、家族で食事にいったり
自宅での仕事も少しはしていました。
このエッセイもその間に書きました。
天気がよかったのは13日の月曜だけで、
あとは、雨が降ったりやんだりの肌寒い天気でした。
無理をして出かけていたら、
風邪をひどくしていたかもしれません。
まあ自愛の心でしょう。