2013年3月14日木曜日

3_115 極限環境微生物 3:ウィランズ湖

 アメリカの研究チームが、氷底湖へのボーリングに成功しました。ロシアの調べていたボストーク湖とは別の氷底湖でした。速報ですが、微生物、多分、極限環境微生物になりそうな生物を発見しました。その様子を紹介します。

 前回は、昨年報告されたボストーク湖の調査の進行状態を紹介しました。極限環境微生物の有無については、まだ報告はなされていないようです。もうひとつ、今年になって重要な報告がなされました。南極の氷床下800mにあるウィランズ湖(Lake Whillans)での調査結果です。
 今年2月に、アメリカの研究チームが、ウィランズ湖でボーリングをして、湖の水や底の堆積物から、微生物を発見しというニュースが流れました。生物に関する詳細は、今後の研究を待たなければなりませんが。
 ボーリングはロシアの熱ドリルとは違って、熱水ドリルというものを用いて掘削されました。熱水ドリルとは、高温の水を出して氷に穴を開けていく装置で、一時間で50mから100mほど掘削できます。岩石の掘削と比べると、100倍近くのスピードで掘り進むことができます。実際にアメリカの研究チームは、800mを一日で掘ったそうです。熱水ボーリングの装置は、比較的小型、軽量で、氷であれば、どこでも簡単に掘削できるという利点もあります。でもなんといっても、水だけで掘り進むので、汚染が少ない点が重要です。
 800mを一日で堀り、試料回収に2日かかったそうです。穴が凍って塞がってしまう前に、非常に迅速に調査され、試料が回収されました。小規模の研究にみえますが、研究チームは50名からなるそうです。
 ボストーク湖の約4000mという氷の厚さに比べて、ウィランズ湖では800mの氷ですから、だいぶ浅くなります。ところが、800mもの氷が上にあると、光は全く届かない暗黒の世界になります。そして、0.5℃という冷たい水の中です。
 でも、そんな極限環境にも、生物がいたようです。研究チームは、多数の培養用の装置を持ち込んで、バクテリアや古細菌などを回収したようです。微生物の有無は、DNAに反応する染料でチェックしたところ、DNAの存在を示す緑色になったそうです。地表の生物の汚染が、かなり信憑性がありそうです。
 2月の初旬に南極のマクマード基地に帰ったばかりの研究者のインタビューで、そのニュースが世界に流れました。もしこの生物が本物であれば、南極の氷底湖としては、はじめての発見となります。
 今後は、研究室での調査となます。まずは、地表からの汚染、ボーリング時の汚染がなかったかをチェックされるはずです。汚染がないなら、どんな生物であるのかが調べられます。
 いろいろな疑問があります。こんな過酷なところにどうして生きていけるのか。栄養はどうしているのか。低温で代謝の反応が起こるのか。生態系として成立するのか・・・。疑問はあったとしても、そこに生態系があるという事実は動かしようがありません。われわれの科学が、まだ世界を充分把握していないということになります。極限環境微生物は、それを教えてくれる存在でもあります。

・競争・
氷底湖での生物探しは、実は激しい競争がありました。
ロシアは前回紹介したように、
ボストーク湖に昨年あけた穴から、
湖水のコアの回収作業が進めています。
イギリスの研究チームは、
ウィランズ湖より深いエルスワース湖で調査していましたが、
機材が不調で昨年12月に中止しています。
このような競争で最初に極限環境微生物を手にしたのは、
アメリカのチームでした。
本来研究は、好奇心で進めていくのですが、
巨大な設備や機材が必要になると、
国の膨大な研究費が必要になります。
研究費の獲得ために、世界で最初や一番などの
アピールポイントがないと、なかなか通りにくいのでしょう。
そのため、最初や一番がある研究テーマは競争になりがちです。
まあ、そのおかげで成果も早くでることにもなるのでしょうが。

・大荒れ・
北海道は先週末は大荒れでした。
その前の週末も車で遭難が起こるような
猛吹雪の大荒れでした。
3月とはいえ、まだまだ冬の空模様です。
今年の冬は一段と厳しいようです。
気候とかかわりなく、時は流れていて、
いろいろな行事は進行します。
大学では、入試も終盤になっています。
来週には卒業式があります。
荒れなければいいのですが。