2001年2月1日木曜日

5_5 最古の鉱物の年代決定

 西オーストラリアで見つかった最古(44億年前)の鉱物の年代測定は、どのようになされたのでしょうか。そして、それは、どの程度の確かさをもった年代なのでしょうか。最古の年代を決めていくプロセスを紹介します。

 44億年前の最古の鉱物はジルコンと呼ばれる鉱物でした。この鉱物中に含まれているU(ウラン)という放射性核種と2次イオン質量分析計(SHRIMP)を用いて年代測定がなされました。
 ジルコンにはウランが比較的多く含まれているためと丈夫な鉱物であることから、古い岩石の年代測定には、よく用いられます。測定に用いられたジルコン自身は、小さいもので、0.2ミリメートルほどしかありませんでした。しかし、現在の科学技術で、そんな小さな結晶の中に含まれているウランの測定が可能になったのです。
 それを可能にしたのが、SHRIMPという製品名を持つ2次イオン質量分析計です。SHRIMPは、セシウム(Ce)のイオンを、約50ミクロンの径のビームとして鉱物にぶつけます。そのときに、イオン化して飛び出す核種のうち、目的のウランだけを、電場と磁場で選り分けて、計測器(ファラデー管)の中に導いて、測定します。
 かつては、多くの岩石や鉱物を砕き、酸で溶かし、目的の元素(この場合はウラン)だけを、事前に化学的に分離したものを用いました。著者もこのあたりを苦労して研究をしていました。精度を上げるために、化学的分離をいかにきれいにするかが、一番重要な部分でした。量の少ないものや分析精度は、職人的な技量が反映されました。しかし、SHRIMPを用いれば、実験する人の技量は、問われなくなります。器械がその測定精度を保証してくれます。
 年代測定の精度は、誤差という形で表示されます。一般に、年代値の後に、プラスマイナス(±)という記号をつけて示されます。今回測定された年代のうち、一番古い値は、44億0400万年前±0800万年でした。0.18パーセントの誤差しかないのです。とんでもない精度を達成してます。
 最古のジルコンの年代測定も、このSHRIMPによってなされました。日本でも1台、世界でも数台しか導入されてないような、非常に高価で、特殊な分析装置ですが、その有効性は、今回のようなデータが出されるとよくわかります。
 今回の年代測定は、SHRIMPという科学技術と、古いジルコンを野外から見つけ出した鼻の利く科学者とが、共同の成し遂げた成果なのです。それが、地球創世の物語を書き換えるほどの衝撃を与えたのです。