2002年7月4日木曜日

2_20 2億4500万年前の大絶滅(その4)

 さて、P-T境界(2億4500万年前)の古生代と中生代の時代境界の大絶滅の話も、第4回となり、最終回です。P-T境界の事件とは、いったいどのようにして起こったのでしょうか。やはり、東京大学の磯崎行雄さんたちのグループの研究成果を参考にして、見ていきます。
 P-T境界の古生代と中生代の境界時代(2億4500万年前)おこった事件は、当時、一つしかなかった超海洋パンサラサに、その記録が残っていました。陸から遠く離れた深海底でできたチャート、そして、その海洋のやはり陸から遠く離れた浅海の海山にできた石灰岩にも、その絶滅の記録は残っていました。
 深海底では超酸素欠乏事件として、浅海では火山灰として記録が残されていました。その火山は、どうも中国大陸の付近かそれより西でおこった酸性のマグマによる大規模な火山噴火でした。
 P-T境界の時代には、超海洋パンサラサとパンゲアと呼ばれる一つ超大陸だけがありました。現在の大陸と海洋の配置から考えると、非常にへんな分布をしていたことになります。どうも、超大陸ができると、なにか大変な事件が起こるようです。
 大量絶滅は、一つの原因で起こる場合と、いくつもの複合した原因でおこる場合があります。一つの原因は、巨大隕石の衝突や、巨大火山の噴火などの大事件によって起こる場合です。いくつもの複合した原因でおこる場合は、超大陸などの形成によって、複雑な因果関係によってさまざまな事件が短期に起こったために大絶滅になったということです。ただし、この複雑な原因を考えるとき、本当に原因となったのは、何かをはっきりさせることが重要です。
 たとえば、地球の内部に大規模な異変があった場合、地表では各種の事件がおこったはずです。そのうちのどれが、絶滅の原因となったかを、はっきりする必要があります。
 大規模絶滅は、当然、大規模な事件によるもののはずです。そのような事件は、多くの別の事件を引き起こしたはずです。推理小説に例えるなら「殺人事件はあった。犯人は誰だ」ということです。
 動機を持る者が一杯いたとしても、その殺人が起こしやすくした関係者が何人もいたとしても、直接手を下した犯人は、何人かに絞れるはずです。それを見極めることが重要です。また、殺人事件によって生じた変化が引き金として、直後に別の事件が起こっているかもしれません。それに惑わされず、因果関係をはっきり見極めることが重要です。
 超大陸の形成も、遠因では、あるでしょう。でも、超大陸があると、なにが起こるのか、大規模な火山活動や深海底の超酸素欠乏事件をどう説明するのでしょうか。
 じつは、まだこれという原因が定まっていないのです。磯崎さんのモデルもまだ、完成していません。でも、仮説は出されています。「プルームの冬」という仮説です。それは、次のようなものです。
 超大陸パンゲアができると、大陸のまわりに沈み込み帯が、多数できます。そして、やがて、沈み込んだプレートの反作用として、地球深部から「スーパーホットプルーム」と呼ばれる熱いマントル物質が、上がってきます。このプルームが、激しい火山活動を起こします。
 激しい火山活動のときに噴出した火山灰が、光合成をストップさせたのではないかと、磯崎さんは、考えています。成層圏にまで吹き上げられた火山灰によって、まるで「核の冬」のように、地表に光が届かなくなり、光合成をする生物が、極端に少なくなります。当時の酸素を活用する生物が、主要なものだったのです。酸素を供給する生物が大量絶滅すると、大気や海洋の酸素が少なくなり、生物全体は、大打撃つまり大絶滅がおこります。
 以上が、磯崎さんが考えているシナリオです。まだ、証拠が不十分です。現在、いろいろ智恵を絞って、犯人探しの真っ最中です。