2002年1月30日水曜日

1_23 火星起源隕石(その2)(2002年1月30日)

 SNCと呼ばれるグループの隕石は、火星が起源とされています。そんなSNCのなかでも、ALH84001は、とびっきり変り種です。そんな変り種から、とんでもないものが発見されました。そんなとんでもないものを、紹介しましょう。

 ALH84001という隕石は、南極のアラン・ヒルズ(Allan Hills)というところから、1984年に発見された隕石です。名前のALHは場所をあらわし、84は1984年をあらわし、それ以下の3桁の数字は、見つかった順番をあらわしています。ALH84001は、ほとんど斜方輝石だけ(90%以上)からできている隕石でした。ですから、その他のSNCとも、まったく違っていました。あまりに変わった隕石だったので、火星から来たと決定されたのは、発見されてから10年近くたった、1993年のことでした。
 このALH84001は、変わっているのは、それだけではありません。1996年にアメリカの科学雑誌「Science」に、NASAのMcKayらが、ALH84001から、化石を発見したと報告したのです。権威ある科学雑誌に載った報告だったので、大騒ぎになりました。
 かつて、地球以外で生物いるとしたら火星に違いないと、火星に無人探査機を2ヶ所におろして、調べられたことがありました。1976年7月20日にヴァイキング1号の探査艇がクリセ平原に着陸し、1976年9月3日にヴァイキング2号の探査艇がユートピア平原に着陸し、生命の有無を調べる実験をしました。
 その結果は、生物はいないというものでした。ですから、火星には生物がいないという先入観を、多くの研究者がもっていました。
 ところが、化石とはいえ、地球以外に生命がいたという報告があったのです。もしこれが本当なら、地球外生命の存在、あるいは地球外知的生命の存在など、今まで眉唾的に扱われていたことが、一気に真実味を帯びてくることになります。さらに、もしかしたら、火星起源に隕石に乗って、地球に生命が来た可能性だってあります。つまり、地球生命の本家は、火星生物で、地球生命は分家だという可能性だってでてくるのです。
 科学雑誌ですから、厳密な審査の上、掲載されています。真実かどうかわかりませんが、ある論拠、論理が成立しているということです。つまり、科学的に根拠、つまり証拠があると認定されたということです。当然、多くの分野の研究者を巻き込んで、論争が起こりました。
 その根拠は、なんと言っても、「化石」の形態です。写真として、新聞雑誌をにぎわしました。見て、記憶されている方もおられるかもしれません。最先端の科学技術をつかって、微細な部分の化学分析をして、それが証拠としてつけられています。その分析の結果、生物から由来したらしき化合物の破片、生物がつくったような粒や鉱物などがみつかっています。
 この論文に対して、多くの反論が出されました。いちばんの根拠である形ですが、その大きさが問題でした。その形は、イモムシのような形をしていて、生物らしく見えました。その大きさは、じつは、地球生命の最小の生物でも、そこにはDNAが入れられないほど、小さいものでした。また、他の根拠も生物が関与しなくても、つまり無機的、化学的形成されることがわかり、生物の根拠となりえないとされました。
 今のところ、反対の研究者の方が多くは、否定的であります。しかし、これは、多数決で決まることではありません。ですから、いるか、いないかを決着をみるには、さらなる火星探査が必要です。この結論は、すべての科学者が認めていることです。

・訳ありの事情・
火星生物の発見の報告には、いろいろ「訳ありの事情」があるようです。
まず、論文は、8月16日の発売の雑誌だったのですが、
その雑誌が発行される前に、NASAの長官がプレス発表しました。
筆頭の著者が、NASAの研究者でもあり、
全部で9名の連名の論文ですが、内3名はNASAの研究者でした。
内容があまにりのセンセーションナルなこともあったのでしょう。
また、その直後の8月7日のアメリカ大統領再選中のクリントンが
この件について発言したので、マスコミはますます大きく取り扱いました。
でも、NASAとして、予算確保の布石という見方が多いようです。
審査自体は、4月5日に投稿され、7月16日掲載が決定されています。
本当かどうかわかりませんが
この論文は、投稿までかなり時間がかかったということです。
慎重をきするためと、発表時期をうかがっていたという、うわさもあります。
それは、大統領の惑星探査などの科学技術への投資を
大統領選のアピールの一つにするために、
公表の時期がこの頃になったという噂です。
その年の秋には、マースパスファインダーが火星に向かって飛び立っています。
そして、生命は発見できませんでしたが、
多くの注目を浴びる中、安上がりで、効果のある調査ができることを
マースパスファインダーは示しました。
もちろん科学的成果も多く出しました。

・火星起源隕石の数・
前回のメールマガジンで、画像のあるサイトを紹介しませんでした。
http://cass.jsc.nasa.gov/lpi/meteorites/s9612609.gif
にありますので、興味ある方は、覗いてみてください。
前回のマガジンを出したあと、火星起源隕石の数を調べたところ、
現在、38個になっています。
火星起源隕石の詳しい情報は、
http://www-curator.jsc.nasa.gov/curator/antmet/mmc/mmc.htm
にあります。
前回、1999年末で14個あるとしていたのですが、
一気に増加しています。
それは、南極から3個、アメリカ合衆国の砂漠から2個、
そのほかは、すべてアフリカのサハラ砂漠から見つかったものです。
新しく加わったSNCは、
20個がシャーゴッタイトで、4個がナクライトでした。

エイコンドライトは、普通の地面に落ちていると、
地球の岩石と似ているため、
見分けにくく、隕石とわかりません。
でも、砂漠の砂しかないところだと
すぐに隕石とわかります。
ですから、エイコンドライトもたくさん見つかるのでしょう。

・ささやかな一言・
前回から、家族の話題が出ています。
先日、久しぶりに通勤の経路を公園沿い道をとりました。
私は、6時過ぎの自宅を出ますので、
少し前はまだ真っ暗でした。
しかし、先日は、だいぶ明るくなってきていました。
日の出が早くなってきているのです。
季節は、確実に移ろうのです。
人の気持ち、出来事、事情などは、時の移ろいに比べれば、
不確実で、それこそ、移ろいやすいものです。
でも、そんな移ろいやすい人の生活で、確実に、心に刻まれるものも、
実は、心や言葉という限りなく、移ろいやすいものだと感じました。

記憶に刻まれることが、一つ増えたのです。
長男が、寝る前にトイレに行くのに、付き合ったとき、一言いいました。
「お父さん、今日の水族館、面白かったね。」
実は、その日、長男の5歳の誕生日だったので、水族館に家族で行ったのです。
一日の苦労が、そして何ヶ月も苦労が、この一言で、報われた気になりました。
家内も、時々、長男が発する「おかあさんのご飯は、おいしいね」と、
次男の「おいちぃーい」という言葉に、ほろりとしてます。
ささやかな一言に過ぎないのに。