2011年10月13日木曜日

3_100 影響:超大陸 2

(2011.10.13)
 超大陸が形成されると、何が起こるのでしょうか。海洋や大気で、環境変化が起こると考えられます。それは、急激な変化ではありませんが、ゆっくりとした変化になるはずです。大陸が分裂している時にはない、超大陸だから起こる変化になりそうです。

 プレートテクトニクスで移動してきた大陸プレートが、たまたま集合したら、大陸が集まった地域ができることもあるかもしれません。ほとんどの大陸が一箇所に集まったものを、超大陸と呼んでいます。どの程度が「ほとんど」かは厳密ではありませんが、8割以上集まった状態を超大陸としようとされています。
 では、超大陸が形成されると、地質学的に何が起こるのでしょうか。大局的に見た時、海と陸の配置が非常に単調になっています。一つの大きな海洋と一つの大陸という状態です。この状態になると、分裂した大陸が存在するときにはない条件が生じます。何が起こるでしょうか。
 海がつながって一つになっていると、ある時、ある地域で起きた海の変化が、全域へ波及する可能性があります。例えば、寒冷化で海が凍りだすとき(季節変化ではなく長期の氷河期のような大規模なもの)、氷結する海域が一気に暖かい海域まで拡大する可能性があります。つまり、寒冷化が起こると、海がすべて凍ってしまうような氷河期に突入してしまうかもしれません。
 巨大な大陸があると、内陸から海までの距離が長くなり、大河が多数形成されることになります。大河の下流域には、広大な氾濫原からなら平野が形成されます。浅海や陸域で堆積物が大量に形成されることになります。大河はゆっくりと陸地を流れるので、陸地を構成している岩石の成分が、短い川より溶けやすくなります。そのような成分として塩類があります。もし塩分が、陸から海に大量に流れこむと、海水の塩分濃度が増加することも起こるでしょう。陸上に植物があれば、堆積物とともに、大量の有機物も堆積して、大気中の二酸化炭素が固体として抜かれることが起こります。
 マントル対流は地球の熱の放出によるメカニズムですが、熱の出口は海洋の海嶺が主となります。超大陸が存在すると、大陸の下のマントルの熱は長期間、放出されることなく、大陸下に蓄積されることになります。やがてはその熱が何らかのきっかけで一気に放出されることになります。それは、超大陸を分裂する活動となり、巨大な陸域の分裂ですから、大規模な火山活動を伴うと予想されます。
 超大陸があると、大陸が分散しているときにはみられないような変化が、急激ではありませんが、ゆっくりと大気や海洋の環境を変えてしまうことが起こる可能性があります。長期にわたる変化でありますが、地球の歴史においては、記録に残るほどの異変となる可能性があります。超大陸がいつ、どこに存在したかは、地球史において重要となります。
 超大陸の存在で、本当に上で述べたようなことが起こったのでしょう。そもそも超大陸などというものが、本当に存在したのでしょうか。過去の超大陸を復元するにはどうすればいいでしょうか。いろいろな疑問が湧いてきますが、それは次回としましょう。

・Steve Jobs氏の死・
Steve Jobs氏の死去の報を、6日に知りました。
2011年10月5日に亡くなったそうです。
前回のメールマガジンは、すでに発行していました。
Jobsがなくなって、1週間ほどたちます。
日本ではauからiPhoneの販売日と価格が公表されました。
Appleのビジネスは続くのですが、Jobs氏はもういません。
追悼の意を込めて、私のAppleやMacへの思い出を書きます。
かつて、私は、AppleやMacの信者でした。
ただし、Macは高価なので、
給料をもらうようになってからMacを使いはじめました。
AppleやMacの存在は、学生時代から知っていて、
魅力を感じ、あこがれを抱いていました。
購入したかったのですが、
学生の身分には高すぎて手が出でませんでした。
Macは憧れの存在でもありました
私自身は、大学院の時代からコンピュータを使用し、
所有もしていました。
それはDosマシーンでした。
就職して最初に購入したのがMac SE30でした。
高かったです。
その後、ソフトもそろえ、その素晴らしさに心酔していきました。
Macのソフトを更新しながら、本体も買い換えてきました。
私の周りも、私につられて、そして共同作業をするために、
Macを使う人も増えてきました。
博物館の業務でも印刷原稿をデジタル入稿していました。
印刷屋さんが使っていたシステムも
Macだったので都合が良かったのです。
ところがある時期、研究で使っていたMicrosoftのアプリケーションが
Windowsではバージョンアップしているのに
Macでは古いバージョンのままの時期がありました。
歯がゆく思っていたのですが、
同じ頃、Macでしが動かなっかたFreehandというドロー系ソフトも
Windowsに移行しました。
またPagemakerもWindow版が出まし。
このような状況の変化によって、
Macにこだわる理由がなくなりました。
選択肢が多く、価格も多様なWindowsに私は移行しました。
その後、MacあるいはAppleの製品にはしばらく魅力を感じませんでした。
Jobs氏がいなかった時期でした。
Jobs氏がAppleに帰ってきてから、輝きだしました。
私は、Windowsを使いながらも
iTunesを導入し、そしてiPodの購入をしました。
コンピュータはwindowsのままでしたが、
Appleが私の身の周りに再来しました。
現在も、我が家で初代のiPodは動いています。
バッテリーはだめになっていますが、
ダイニングに音楽を供給しています。
家内も長男もiPodを購入し使っています。
でも、iPhoneには魅力を感じませんでした。
なぜなら私は、携帯電話をあまり使用しないからです。
研究室でも自宅でも、ネットは高速回線を利用しています。
携帯電話は最低限の連絡用となっています。
でも、iPadには魅力を感じ、発売前に予約し購入しました。
現在、自宅のWiFiでネット接続の端末になっています。
子供たちも使っています。
コンピュータも、Windowsばかりなのに、
現在、Apple製品としては、
iPadとiPod(家族用3台、私自身はSonyのWalkman)があります。
私は、Windowsでしか動かないソフトをいくつか使っているので、
Macには移行はできません。
Macには魅力的なソフトがいくつもあり、
購入したい気も時々起きるのですが、
なかなか踏み切れません。
Jobs氏亡き後、再度Appleの製品を使ってみたい気もしています。
Appleには機械以上のなにかがありました。
それが魅力でした、
その魅力は、Jobs氏が生み出したものです。
なんにするかは、決まりませんが。
冥福をお祈りします。

・秋深し・
北海道は、秋が足早に深まって来ました。
朝夕は、結構冷え込みます。
曇りの日には寒々として、
冬の到来を予感させます。
快晴の青空は、いつにも増して澄み渡り、
清々しさが深まります。
北海道の秋は真っ盛りです。

2011年10月6日木曜日

3_99 大陸の成長:超大陸 1

 大陸はプレートによって形成され、移動し、変化していきます。そんな大陸の歴史の中で、たまたまほとんど大陸が一箇所の集まることことがあります。このような状態の大陸を超大陸と呼んでいます。今回は超大陸のシリーズです。

 プレートテクトニクスという考え方によって、大地の営み、そして生い立ちが説明されています。プレートテクトニクスとは、地球の表層が10数枚のプレートによって覆われていて、それらのプレートの運度によって大地の営みを説明しようという考え方です。
 プレートには海洋プレートと大陸プレートがあり、それら性質の違いによって、すべての地質現象を説明できるというものです。プレートテクトニクスが提唱されたころから、以前の考え方である地向斜モデルの欠点を補うだけでなく、過去のプレートが動いているという証拠が多数ありました。しかし、プレートが現在進行中の現象として、本当に動いているかどうかは、まだ示されていませんでした。それが批判、反論の最大の理由でもありました。
 今では、超長基線電波干渉法(Very Long Baseline Interferometry、VLBIと略されています)によって、プレートの移動は実測されています。ですから、プレートテクトニクスは、実証されたモデルといえます。まあ、今もかたくなにプレートテクトニクスを信じない人もいますが、納得できる対案がないので、あまり説得のある反論はありません。
 海洋プレートは海嶺で新たに形成され、海溝で沈み込み、地表の物質は新陳代謝されています。一方、大陸は、海洋プレートに比べて軽い物質からできているので、マントルに沈み込むことなく、大陸プレートとして地表を移動していきます。
 大陸を構成する物質は、列島(地質学では島弧と呼ばれます)で新たな大陸物質が形成されていきます。列島の沈み込み帯では、海洋プレートからしぼりだされたを成分によって、マントル物質が溶けマグマができます。マグマは列島の成分と混じり合うことで列島固有の成分となります。列島固有の成分は、実は大陸の成分の本質でもあります。少しずつではありますが、大陸物質は増えていくことになります。
 大陸物質は、いろいろな時代に、いろいろな量、形成されていきます。ある時期には大量に形成され、またある時期には余り形成されない時期もあったようです。造山運動や火山活動、侵食、風化などの作用によって、大陸物質は変化を続けています。昔のまま、今まで残っている大陸物質はほとんどなく、変形、変質、変成など変化しています。変化は起こりますが、いったんできた大陸物質の大部分は、地表に滞留することになります。そのおかげで、地球の古い歴史まで復元することができるのです。
 大陸プレートは、割れたり、合体したり変化をすることがあります。そして、時には、ほとんどの大陸が一箇所に集まることがあります。そのような大陸を超大陸と呼びます。

・パラダイム転換・
今では、ほとんど地質学の論文が
プレートテクトニクスを前提に書かれています。
プレートテクトニクスが否定されると、
大混乱になることでしょう。
そのような大混乱を地質学は経てきました。
地向斜からプレートテクトニクスへの変化は、
大きなパラダイム転換の時期になりました。
1960年から起こった科学革命です。
その当時のことを、私は知りませんが、
しばらくあとの1980年前後、私がいた時期の大学には
まだ科学革命の名残がありました。
科学革命では、流血こそしませんが、
人間の営みですから、いろいろ軋轢、不和、怨恨なども生じます。
それらの心模様は、弟子の世代まで残ることもあります。
科学の場は、純粋に論理だけですから、
そのような痕跡は表面上は消えていますが、
心の問題は、なかなか消えないようです。

・冬の勇み足・
北海道は、先週末から急激に寒くなりました。
近くにみえる山並みには初冠雪があり、
平野にも、みぞれやあられが降りました。
今年の冬は、例年より少々早めのようです。
まだ紅葉は済んでいないのに、
寒さが一気にきました。
もっと秋を楽しみたいのですが、
冬の勇み足でしょうか。

2011年9月29日木曜日

2_98 光スイッチ説:眼の誕生 3

 光が生物の進化を促したという「光スイッチ説」は、魅力的で、素晴らしいアイディアです。今回の最古の節足動物の複眼の発見は、その説をサポートする重要な証拠となります。でも、「光スイッチ説」を実証するには困難な壁が立ちはだかっています。

 三葉虫以外で最古(5億1700万年前)の節足動物の化石が発見されました。その節足動物には、非常に発達した複眼があることがわかってきました。この発見により、少なくとも節足動物、あるいは動物全般は、カンブリア紀にはすでにかなり眼が発達していたという重要な根拠になります。
 なぜ、節足動物(あるいは動物全般)で眼が発達したのでしょうか。その原因として「光スイッチ説」という有力な仮説があります。この「光スイッチ説」は、「カンブリアの大爆発」の原因も説明できるので、人気があるようです。
 「光スイッチ説」とは、古生物学者のアンドリュー・パーカーが1998年に提唱したものです。パーカーの「光スイッチ説」は、彼の著書「眼の誕生 カンブリア紀大進化の謎を解く」で一般の人にもわかるように詳しく紹介されています。「カンブリアの大爆発」は、眼ができたことによって、生存競争が激しくなり、進化を促したという説です。
 眼の誕生の原因自体は不明ですが、ある生物が眼を持つと、眼のない生物と比べて、非常に有利な特性を持つことになります。草食性や腐食性、あるいは肉食性の生物は、眼のない生物と比べて、明るい環境ではより多くの餌を得ることができます。また被捕食者に眼があると、眼を持たない捕食者から逃げることができます。眼の誕生によって、眼を持つ動物間、あるいは他の種との間でも、激しい生存競争が起こり、進化が促されたことが予想されます。
 非捕食者は、硬い殻で防御する方法が進化しました。固い殻などで防御していくることが、捕食者から生存競争に勝つことになります。多くの生物種(門の階層)で、硬い殻や組織を持つタイプの生物が「カンブリアの大爆発」の時期に起きています。硬い組織の誕生が、眼の獲得の時期と呼応して進化したとパーカーは考えています。
 今回の節足動物の化石での眼の発見は、「光スイッチ説」を一般化を示す有力な証拠になると考えられます。もし他の生物種でも眼の証拠が見つかれば、「光スイッチ説」は、より強固になっていくでしょう。
 ただ「光スイッチ説」は、眼という証拠から生まれた説ですが、なかなか実証にしくい説です。なぜなら、原因である光と、結果として眼の誕生を結びつける証拠が見つけにくいからです。眼は化石が見つかってますが、原因である光は化石になりません。光と眼、原因と結果を結びつける証拠とは一体なんでしょうか。これは、もしかすると越えられないような大きな壁かもしれません。なかなか難しい問題です。でも、科学者は、素晴らしいアイディアで新たな証拠を見つけるかもしれません。今後の課題ですが、期待しましょう。

・再構築の繰り返し・
パーカーの「眼の誕生 カンブリア紀大進化の謎を解く」
(2006年発行、ISBN978-4794214782)を読んだ時、
こんな考えがあるのだと感動した記憶が残っています。
今回の節足動物の化石の報告は、
「光スイッチ説」に重要な証拠を提示したことになります。
上で述べたように、強力な支持をする証拠があったのしても、
論理が完結するわけでありません。
進化は、過去の化石からの論証です。
化石は生物のほんの一部分にしかすぎません。
過去の生物の総体を見ているわけでありません。
これは過去の生物には、常に付きまとう問題です。
限られた証拠から、もっともらしい論理、仮説を組み立てること。
そして、新らたな証拠が見つかれば再構築すること。
古生物学は、この繰り返ししかありません。
これは、科学のもつ宿命でもあります。
自然界に真理はあるのかわかりませんが、
今ある仮説は、一番もっともらしく見える論理に過ぎません。
再構築の繰り返しこそが、科学なのかもしれません。

・北国の秋・
ここ最近、北海道は快晴の好天が続いています。
これぞ北国と思える素晴らしい天気です。
ただ、朝晩の冷え込みが深まって来ました。
はや先週には旭岳での初雪の便りも聴きました。
平野部の秋も深まって来ました。
秋を楽しみたいと思っています。
先日家族でジンギスカンをしました。
自宅でしたのでが、久しぶりでした。
ジンギスカンは食べているときはいいのですが、
後片付けと匂いが大変なので
楽しみが大きいと辛さも大きのです。
北海道の秋が素晴らしいのですが、
冬の寒さが厳しいのも同じかもしれません。

2011年9月22日木曜日

2_97 節足動物:眼の誕生 2

 化石として三葉虫は有名です。化石ショップでも三葉虫はたいてい置いてあります。ある時期には大量に生息していた生物でなのでしょう。三葉虫は節足動物の一種です。三葉虫の特徴が節足動物全般になるわけでありません。どこまでが三葉虫の特性で、どこまでが節足動物全般の特徴なのでしょうか。

 南オーストラリア州のエミュ・ベイは、保存のいい化石をふくむ地層「ラーゲルシュテッテン」として有名です。形成時代は、5億1700万年前で、澄江(5億2500万年前)より新しく、バージェス頁岩(5億0500万年前)より前の時代です。
 エミュ・ベイの地層から、保存のいい珍しい化石がみつかりました。南オーストラリア博物館のリーたちによって、2011年6月30日のNature誌に、この化石についての記載が報告されました。以下では、その報告に基づいて紹介していきます。
 発見された化石は、節足動物ですが、三葉虫でありません。三葉虫でないことが、今回の発見の重要な点です。澄江でもバージェス頁岩でも、三葉虫の保存のよい化石が見つかっています。三葉虫は1対の複眼を持っていて、眼の化石があります。しかし、古生代の初期(カンブリア紀からオルドビス紀ころ)で、生物で眼の化石が残っているのは、ほとんどが三葉虫なのです。
 生物の多様性や進化を考える場合には、いくつかの種の化石が必要です。ある器官(今回は眼)の形成を考える場合、そのような器官が他の種にあるのかどうかは非常に重要なものとなります。なぜなら、他の種で同様の器官が発達していないということは、ある種固有の特徴かもしれません。もし他の種でも、似た器官があるとすれば、あるグループの生物は、その器官を発達させる必然的な条件があった可能性があります。その必然性がわかれば、生物の進化に重要な情報となります。まして、今回の化石は、「カンブリアの大爆発」の時期の化石なのです。
 三葉虫以外の生物で目が判別できる化石は、カンブリア紀末期(4億3000万年前)のカンブロパキコーペ(Cambropachycope clarksoni)とよばれる生物です。今回の報告まで、カンブロパキコーペが最古のものでした。カンブロパキコーペは、スウェーデンから発見された一つ眼の奇妙な動物です。眼だけでなく姿形も奇妙な生物です。
 カンブロパキコーペの生きていた時代はカンブリア紀末期ですから、「カンブリアの大爆発」を考えるには、新しすぎます。もっと古いものが必要なのですが、三葉虫しかなったのです。
 今回の化石は、三葉虫以外の節足動物で最古の目の化石となります。この化石はバージェス頁岩より前の時代ですから、非常に重要な意味のあるものになります。
 目の化石は複眼で、3000個以上の個眼(複眼の中のひとつひとつの眼のこと)からなり、周辺部と中心部では大きさが異なる(機能も違う)非常の複雑なものとなっています。個眼の大きさも、カンブリア紀の三葉虫と比べても非常に大きくなっています。この複眼化石は、三葉虫のもの明らかに複雑で、現在の節足動物に匹敵するほどの機能、能力を持っていた可能性があります。もしかすると、眼は、カンブリア紀中期には、すでに現在の節足動物並みに一気に発達したのかもしれません。
 では、なぜ、眼が発達したのでしょう。その原因として「光スイッチ説」が有力です。それは次回としましょう。

・カンブロパキコーペ・
一つ目の不思議な生物、
カンブロパキコーペの想像は、
http://cambrian-cafe.seesaa.net/article/153352172.html
にあります。
化石からの想像図ですから、
真の姿とは限りません。
化石では5つ目のオパビニアが有名で
クモは8つ目ですから
一つ目の生物も、
それほど驚くほどではないのかもしれません。
驚くべきは生物の多様性かもしれません。

・一気に秋・
先週末、室戸の調査から帰って来ました。
幸い、天気に恵まれて、
順調に調査をすることが出来ました。
ただ、北海道に帰ってきて、
急に冷え込んできました。
長袖だけでは寒く、上着を着なければならないほどです。
一気に秋が深くなったようです。
四国の炎天下を歩いた後の
北海道の寒さなので、
少々体調が変です。
連休が今週末もあるので、
ゆっくりとして体調を戻したいと考えています。
来週からはいよいよ大学の後期がスタートします。

・訂正・
前回「グリーンランドのシリウス・パセッ」
と表記しましたが、
「グリーンランドのシリウス・パセット」
の入力間違いでした。
申し訳ありませんでした。

2011年9月15日木曜日

2_96 カンブリアの大爆発:眼の誕生 1

 カンブリア紀のはじまりは、生物の爆発的進化の起こった時代でもありました。カンブリア紀の大爆発がなぜおこったのか。それは大きな問題でした。しかし、その謎に対する一つの鍵が示されました。その鍵を紹介していきましょう。

 地球の歴史において、カンブリア紀は、特筆すべき時代であります。カンブリア紀は、顕生代のはじまりで、隠生代と顕生代の時代境界の時代でもあります。区切りの時代として重要です。時代の区切りは、カンブリア紀になって、化石が出現しはじめることです。つまり化石に残るような生物が、カンブリア紀から出現したのです。
 その出現が、ある日、突然というほど、唐突で、爆発的でした。カンブリア紀を境に、生物(動物)が突然に爆発的な進化をしたことから「カンブリアの大爆発」と呼ばれています。スティーヴン・ジェイ・グールドが、「ワンダフル・ライフ:バージェス頁岩と生物進化の物語」という本で紹介して以来、「カンブリアの大爆発」は、広く知られるところとなりました。
 5億4520万年前からはじまるカンブリア紀(終わりは4億8830万年前)ですが、それ以前から化石の痕跡は見つかっています。またカンブリア紀の直前の時代、エディアカラ紀から化石がけっこう見つかりはじめます。産地としては、カンブリア紀の前の時代名であるエディアカラ紀の由来となっている南オーストラリア州のエディアカラ生物群は、約5億8500万年前から出はじめて、カンブリア紀に入ってすぐの5億4200万年前には、その多くは絶滅してしまいます。
 カンブリア紀になると系統性のある生物の化石が出はじめます。産地として、中国雲南省の澄江(ちぇんじゃん)(5億2500万年前)、グリーンランドのシリウス・パセッ(5億1800万年前)、カナダのブリティッシュコロンビア州のバージェス頁岩(5億0500万年前)が有名です。
 ところが、カンブリア紀の頃の生物は、殻も骨も持たない軟体動物が主流でした。つまり、化石になりにくい生物がほとんどでした。骨や殻がない生物は、保存の良い化石が見つかることは、非常に稀なことで、生物相の実態の把握はなかなか難しいものでした。保存のいい化石が見つかれば貴重な試料となります。
 特に保存状態がいい化石を伴う地層を、地質学では「ラーゲルシュテッテン(Lagerstatte)」と呼んで特別扱いします。地質学者は、「ラーゲルシュテッテン」の地名と共に、時代やその特徴的な化石を学んでいきます。そんな「ラーゲルシュテッテン」でも、カンブリア紀やそれ以前のものは、軟体生物が多いので、特に貴重です。上に挙げた産地は、すべて「ラーゲルシュテッテン」となっています。
 さて、「カンブリアの大爆発」の契機、原因になったのは、一体なんだったのでしょうか。いくつかの説がありますが、まだ確定したものはありません。今年になって、「ラーゲルシュテッテン」でもある南オーストラリア州のエミュ・ベイの5億1700万年前の地層から、節足動物の保存のいい化石がみつかりました。澄江(5億2500万年前)より新しく、バージェス頁岩(5億0500万年前)より前の時代の生物相です。その化石は、「カンブリアの大爆発」の原因か解明する鍵になるかもしれないという研究が報告されました。その詳細は次回としましょう。

・ラーゲルシュテッテン・
ラーゲルシュテッテンとは、
ドイツ語のLagerstatteの読みそのままで、
Lagerというのは「貯蔵」、
statteは、「場所」という意味ですが、
鉱床という意味もありますが、
地質学では特に保存状態の良い化石を産する地層
という意味にも使われています。
今では、地質学でもあまり使われませんが、
特異な化石に産地を意味します。
そんな産地は、今では保護されていることがほとんどです。

・国内調査・
私は、カンブリア紀のはじまり(E-C境界)に興味があります。
それは地質学においては、非常に重要な意味を持つ時代境界でもあり、
生物史においても一線を画する時代でもあります。
その現地に赴いて、その地の様子を感じること、
これは私にとって至福の時でもあります。
E-C境界は、海外にしかありません。
最近私は、国内の調査しかしていません。
時間的にも、費用的にも国内調査しかできないからです。
しかし、テーマさえあれば、国内でも重要な仕事が出来るはずです。
これは、負け惜しみではありません。
今、その国内の野外調査の真っ最中です。

2011年9月8日木曜日

2_95 10億年に1度:K-Pg 3

 精度の悪い情報からは、精度の悪い見積しかでてきません。精度が悪くても情報が欲しい時もあります。そんな時は、精度の悪さを理解して情報を受け止める必要があります。数値の一人歩きは危険です。

 前々回、小さい衝突はたくさんあるのに、大きな衝突になると稀になっていきます。このような関係を「べき乗則」と呼ばれています。べき乗則から生物の大量絶滅を起こすような衝突は、5~10億年に一度の頻度となりそうだと見積もられました。隕石の地球への衝突頻度を正確に求めることは、非常の難しい問題です。前回はその難しさについて紹介ました。
 そのような稀な出来事の見積もりは、どの程度の確かさがあるのでしょうか。また、衝突の規模と絶滅の程度の関係はあるのでしょうか。後藤さんと田近さんの研究成果に基づいて紹介ましょう。
 顕生代に形成された衝突クレーターで、大きいものから順にみていくと、直径180kmのチチュルブル(Chicxulub)クレーター(6550万年前)が最大で、K-Pg境界での大絶滅を起こしています。ついで、直径100kmのマニコーガン(Manicouagan)クレーター(6億1400万年前)、直径100kmのポピガイ(Popigai)クレーター(3550万年前)、直径85kmのチェサピーク湾(Chesapeake Bay)クレーター(3570万年前)、直径80kmのプチェジ・カツンキ(Puchezh-Katunki)クレーター(6億1400万年前)があります。ただし、海の部分のデータは含まれていません。
 いずれのクレーターでも、大絶滅との関連が証明されているものは、K-Pg境界だけです。それ以外のものは、絶滅との関連は不明となっています。つまり、すべてのクレータの形成年代が大絶滅の時代とはずれていて、またどの絶滅でも衝突の関連が示されていないということです。顕生代の大絶滅で、衝突と関係があったのは、K-Pg境界のものしかないのです。
 一般化すると、直径100km程度より小さなクレーターをつくるような衝突では、大絶滅が起こらないということになりそうです。絶滅の起こる限界サイズは定かではありませんが、直径200km程度以上のクレーターが候補になりそうです。
 地球では、直径200km程度のクレーター形成は、顕生代ではK-Pg境界で一回だけ起こった出来事のようです。200km級のクレーターを形成する頻度として、5~10億年に一度という地球で求めた値は、はたして一般的なものでしょうか。
 地球上で大きなサイズのクレーターを調べていくと、フレデフォート(Vredefort)クレーターが直径300kmで20億年前、サドベリー(Sudbury)クレーターが250kmで18億5000万年前、そしてチチュルブル・クレーターの3つが知られています。35億年以降で200km級以上のクレーターが3つできます。まあ、間隔にはムラがありますが、10億年に一度程度という値のオーダーは正しそうです。
 月には多数のクレーターがあります。数100kmから数1000kmの巨大クレーターもたくさんあります。しかし、月のクレーターの多くは、創生期(38億年前より古い)ものです。創生期以降は、あまり大きなクレーターは形成されていません。他の惑星(金星、火星など)でも同じような結果になっています。金星で見つかっているミード(Mead)クレーターが、280kmで最大で、5億年以降に形成されたようです。
 不確かさは消えませんが、大絶滅を起こすような200km以上のクレーターを形成するような衝突はそうそうそ起こるものではなく、35億年以降、太陽系天体では、10億年に一度程度の稀な事件といってもいいでしょう。ただし、この数値は、オーダー(桁数)を表していると考えるべきです。これが、後藤さんらの結論です。
 不確かで、歯切れの悪い結論ですが、後藤さんらも指摘しているように、クレーターに関する詳細な調査が必要だということです。

・情報の変質・
不確かな状態、情報で科学を進めるのはなかなか難しいことです。
そんなときでも、だいたいでいいから
数値や見積が欲しいのは人情なのでしょう。
科学者も人ですから、同じような気持ちになります。
そして、見積もりを出します。
その不確かさは理解しています。
そしてオーダー(桁)で合えばいいというものであれば
その扱いをします。
しかし、数値が一人歩きをするとことがままあります。
数値の一人歩きで被害がなければいいのですが、
もしあるとそれは、科学者の責任でしょうか。
それとも、伝えたメディアの不手際でしょか。
よく聞かなかった受け手のせいでしょうか。
情報とは、中継や受け手に伝わる過程で
変質することがあります。
注意しておく必要がありそうですね。

・台風・
進度の遅い台風が、西日本を通りました。
ゆっくりした進度なので、
前線を刺激したり、暖かい湿った空気が流れ込んだりで、
北海道も、風、雨、蒸し暑い天気など
めまぐるしく変わって行きました。
また、次の台風も来ています。
9月は、時期的に台風のシーズンなのですが
私にとっては、野外調査の時期でもあります。
今回は室戸に出かけますが
テーマをもった調査ですが、
そのテーマにあった露頭を見つけることが重要です。
3ヶ所ほど見つけたいのですが、
どうなるかは、いってみないとわかりません。

2011年9月1日木曜日

2_94 不確かさ:K-Pg 2

 衝突の証拠は、クレーターとして残ります。その証拠を得るために、クレーターの時代、大きさ、放出エネルギーなどいろいろな検討がなされます。その結果、生物の大量絶滅をさせるのは、カンブリア紀以降一度しか起こらないようなものであるというものです。それは、本当に推測といえるのでしょうか。そのあたりについて考えていきます。

 前回から、K-Pg境界の絶滅について考えていますが、絶滅の原因が隕石の衝突というのは、多くの人も知るようになってきました。地球の生物史において起こった何度かの大絶滅は、その原因は定かでないものが多いのですが、隕石の衝突と証明されているものは、K-Pg境界以外ではありません。
 言い換えると、K-Pg境界の絶滅だけが隕石の衝突だと証明されていて、それ以外は、隕石の衝突ではない可能性が大きいことになります。地球の生物史で大絶滅が、衝突により大絶滅が、どれくらいの頻度で起こるのでしょうか。
 衝突の証拠はクレーターとして残ります。ですから、クレーターを見つけ、大きさ、形成時代(衝突の時代)、放出エネルギー、絶滅との関連などの情報が集められます。データが揃ったら、さまざまな検討がなされます。
 後藤和久さんと田近英一さんが、衝突と絶滅について詳しく検討された論文が、2011年4月に地質学雑誌に発表されました。その結論は、大絶滅を起こすような衝突の頻度は、5~10億年に一度であり、6550万年前の絶滅がそれに当たるというものでした。
 非常に無難な、そして当たり前の結論ですが、私は、この結論には十分な信頼性があるわけではないと考えています。後藤さんらの結論が間違っているということではなく、著書らも指摘していますが、充分な調査研究が足りないという点、そして背景にこのような頻度の計算の難しさが隠されているためです。以下で、説明しましょう。
 まずは、検討できる期間の短さが難しさを増しています。絶滅と衝突の関係を考えるためには、まずは大規模な絶滅が起こったことがわからなければなりません。生物が多数出現し化石が多種、大量に出現する顕生代以降(カンブリア紀より新しい時代)の時期でなければなりません。絶滅頻度を検討するのに利用できる有効期間は、5億4200万年分しかありません。その期間で、統計処理や確率の計算をしなければなりません。数千万年の頻度の話なら信頼性もありますが、数億年以上の頻度の話なら、かなり信頼性は落ちてきます。まして、検証はしづらくなります。
 次が、数の把握の難しさ、不確かさです。地球上には、多数のクレーターが発見されています。クレーターのデータベースによると、175個以上あることがわかっています。大陸地域でみつかったクレーターがほとんどです。大陸地域では、地殻変動や侵食、火山活動などで、クレーターの地形は、不確かになったり、消されてしまっているものもあるはずです。古ければ古いほど、小さければ小さほど、クレーターは消えていく可能性が大きくなり、証拠あるははデータが消えていきます。クレーターの数には、時間による不確かさが伴います。
 サンプリングに偏りもあることです。衝突は、陸域だけでなく、海洋域でも起こったはずです。地球の表面積の比から考えると、陸域の2倍の数のクレーターが、海洋域にもあったはずです。海洋域は、発見の困難さ、そして海洋プレートが沈み込むことで消え去ったものもあることから、海洋域のデータがほとんど得られていません。地域によるサンプリングの偏りがあることになります。
 さらに、海洋と大陸の分布を考えると、大陸は北半球の中高緯度に多く、海洋は赤道から南半球に多くなっています。地球が球体で衝突断面と陸域の分布の偏りがあります。また、小天体の軌道は、公転面が同じものが多いことから、赤道周辺の低緯度に多くの衝突頻度があると考えられます。しかし、実際に発見された陸域のクレーターの分布をみていくと、必ずしもそのような傾向は認められません。むしろ、北メリカやヨーロッパ、オーストラリアに偏って分布しています。この分布の意味するところはよくわかっていません。もし、発見される頻度が、発見しやすさに依存しているとすると、明らかに調査不足です。
 クレーターから衝突頻度を求めることには、かなり困難な仕事で、その結果には不確かさが伴います。しかし、なんとか補正、検証する試みはなされています。それは、次回としましょう。

・執念・
少ない統計で、何らかの結論を出すためには、
収集したデータの質が問題になります。
データに偏りがあると、正確な推測はできません。
今回のデータのそのようなものでしょう。
しかし、研究者は、不揃いのデータでもそれしかないのであれば、
なんとか活用できないかと、いろいろな試みをします。
そのような「しつこさ」あるいは「執念」が
研究には必要なのでしょう。

・レフレッシュ・
早いものです。
もう9月です。
特に私にとって、8月は本当に短いあっという間でした。
やるべきことをいっぱい積み残しました。
サボっていたわけではありませんが、
どうしても、急ぎの仕事、校務が優先になったためです。
来週から1週間ほど調査に行きます。
それで少しリフレッシュできればと思います。
でも、積み残した仕事は減るわけではないのですが。