2011年9月1日木曜日

2_94 不確かさ:K-Pg 2

 衝突の証拠は、クレーターとして残ります。その証拠を得るために、クレーターの時代、大きさ、放出エネルギーなどいろいろな検討がなされます。その結果、生物の大量絶滅をさせるのは、カンブリア紀以降一度しか起こらないようなものであるというものです。それは、本当に推測といえるのでしょうか。そのあたりについて考えていきます。

 前回から、K-Pg境界の絶滅について考えていますが、絶滅の原因が隕石の衝突というのは、多くの人も知るようになってきました。地球の生物史において起こった何度かの大絶滅は、その原因は定かでないものが多いのですが、隕石の衝突と証明されているものは、K-Pg境界以外ではありません。
 言い換えると、K-Pg境界の絶滅だけが隕石の衝突だと証明されていて、それ以外は、隕石の衝突ではない可能性が大きいことになります。地球の生物史で大絶滅が、衝突により大絶滅が、どれくらいの頻度で起こるのでしょうか。
 衝突の証拠はクレーターとして残ります。ですから、クレーターを見つけ、大きさ、形成時代(衝突の時代)、放出エネルギー、絶滅との関連などの情報が集められます。データが揃ったら、さまざまな検討がなされます。
 後藤和久さんと田近英一さんが、衝突と絶滅について詳しく検討された論文が、2011年4月に地質学雑誌に発表されました。その結論は、大絶滅を起こすような衝突の頻度は、5~10億年に一度であり、6550万年前の絶滅がそれに当たるというものでした。
 非常に無難な、そして当たり前の結論ですが、私は、この結論には十分な信頼性があるわけではないと考えています。後藤さんらの結論が間違っているということではなく、著書らも指摘していますが、充分な調査研究が足りないという点、そして背景にこのような頻度の計算の難しさが隠されているためです。以下で、説明しましょう。
 まずは、検討できる期間の短さが難しさを増しています。絶滅と衝突の関係を考えるためには、まずは大規模な絶滅が起こったことがわからなければなりません。生物が多数出現し化石が多種、大量に出現する顕生代以降(カンブリア紀より新しい時代)の時期でなければなりません。絶滅頻度を検討するのに利用できる有効期間は、5億4200万年分しかありません。その期間で、統計処理や確率の計算をしなければなりません。数千万年の頻度の話なら信頼性もありますが、数億年以上の頻度の話なら、かなり信頼性は落ちてきます。まして、検証はしづらくなります。
 次が、数の把握の難しさ、不確かさです。地球上には、多数のクレーターが発見されています。クレーターのデータベースによると、175個以上あることがわかっています。大陸地域でみつかったクレーターがほとんどです。大陸地域では、地殻変動や侵食、火山活動などで、クレーターの地形は、不確かになったり、消されてしまっているものもあるはずです。古ければ古いほど、小さければ小さほど、クレーターは消えていく可能性が大きくなり、証拠あるははデータが消えていきます。クレーターの数には、時間による不確かさが伴います。
 サンプリングに偏りもあることです。衝突は、陸域だけでなく、海洋域でも起こったはずです。地球の表面積の比から考えると、陸域の2倍の数のクレーターが、海洋域にもあったはずです。海洋域は、発見の困難さ、そして海洋プレートが沈み込むことで消え去ったものもあることから、海洋域のデータがほとんど得られていません。地域によるサンプリングの偏りがあることになります。
 さらに、海洋と大陸の分布を考えると、大陸は北半球の中高緯度に多く、海洋は赤道から南半球に多くなっています。地球が球体で衝突断面と陸域の分布の偏りがあります。また、小天体の軌道は、公転面が同じものが多いことから、赤道周辺の低緯度に多くの衝突頻度があると考えられます。しかし、実際に発見された陸域のクレーターの分布をみていくと、必ずしもそのような傾向は認められません。むしろ、北メリカやヨーロッパ、オーストラリアに偏って分布しています。この分布の意味するところはよくわかっていません。もし、発見される頻度が、発見しやすさに依存しているとすると、明らかに調査不足です。
 クレーターから衝突頻度を求めることには、かなり困難な仕事で、その結果には不確かさが伴います。しかし、なんとか補正、検証する試みはなされています。それは、次回としましょう。

・執念・
少ない統計で、何らかの結論を出すためには、
収集したデータの質が問題になります。
データに偏りがあると、正確な推測はできません。
今回のデータのそのようなものでしょう。
しかし、研究者は、不揃いのデータでもそれしかないのであれば、
なんとか活用できないかと、いろいろな試みをします。
そのような「しつこさ」あるいは「執念」が
研究には必要なのでしょう。

・レフレッシュ・
早いものです。
もう9月です。
特に私にとって、8月は本当に短いあっという間でした。
やるべきことをいっぱい積み残しました。
サボっていたわけではありませんが、
どうしても、急ぎの仕事、校務が優先になったためです。
来週から1週間ほど調査に行きます。
それで少しリフレッシュできればと思います。
でも、積み残した仕事は減るわけではないのですが。