存在を意識しないことを「空気のような」といういい方をします。しかし、空気はそんなに無意味なものでしょうか。実は、私たちが日ごろ吸っている空気には、地球の生命との長い時間にわたる歴史が秘められています。今回は空気に秘められた、歴史を見ていきましょう。
空気の存在は、古くから信じられていました。紀元前500年頃、ギリシアのアナクシメネスは、「万物の根源は空気である」といっています。また、アリストテレスは、万物は水・空気・火・土の四元素から成ると考えていました。
私たちが日ごろ吸っているいる空気は、地球の大気に対する名称です。地球の両隣の惑星、金星や火星にも大気がありますが、空気とはいいません。それは、金星や火星の大気と、地球の大気は、成分が違うので、特別に空気と呼ばれます。
地球の空気と、金星と火星の大気を比べてみましょう。
地球の空気の成分は、窒素(N2)が重量比で78.1%(体積比で75.5%)、酸素(O2)が20.9%(23.0%)で主要な成分となっています。次いで、アルゴン(Ar)が0.93%(1.29%)、二酸化炭素(CO2)が0.03%(0.04%)となり、以下ヘリウム(He)0.0005%(0.00007%)、クリプトン(Kr)0.0001%(0.0003%)、キセノン(Xe)0.000009%(0.00004%)となります。
金星の大気は、酸素はほとんどなく、二酸化炭素が96.4%、窒素が3.4%を主成分としています。残りはほとんどがアルゴンです。
火星の大気は、二酸化炭素が95.3%が主成分で、次いで、窒素が2.7%、アルゴン1.6%、酸素0.3%などからなります。火星には白い極冠がありますが、その中心部は水(H2O)の氷であり、季節により変動する周辺部は二酸化炭素が氷結してドライアイスになったものだと考えられています。
火星と金星の大気は、似ています。しかし、地球の大気は、酸素を主成分の一つとして含み、二酸化炭素が0.03%しか含みません。一方、火星や金星の大気は二酸化炭素が主成分となる、酸素ははほとんど含まれません。この違いはどうして生じたのでしょうか。
地球の大気も、金星や火星と同じように、もととも二酸化炭素主体の大気だった考えられます。同じ大気からのスタートです。それが、地球には海があったことによって、大気に大きな違いを生じたと考えられています。
大気中の二酸化炭素は、水に溶けて炭酸(H2CO3)となり、水中にあったカルシウム(Ca)などのイオンと結びついて、固体として沈殿します。このようにして大気中の二酸化炭素は、固体として地球の地殻に保存されます。
さらに、海には生命が誕生し、光合成をする生物によって、酸素が放出されます。生命による酸素合成が長い時間に渡ったので、大量の酸素が大気に蓄えられたのです。
このように地球の空気には、地球と生命の歴史が織り込まれています。実はもっと、複雑で面白いメカニズムがあることがわかってきたのですが、それは稿を改めて紹介しましょう。
2001年3月8日木曜日
2001年3月1日木曜日
2_3 「生命とは」再び
「生命とは」を再び問います。私たちヒトは、動物、生命、地球という枠の中で、どのような位置にあるのでしょうか。それは、中心に位置するものでは決してありません。ヒトはどこに位置するのか、考えてみましょう。
「2_2 生命とは」で、生命の条件を、個体、代謝、繁殖、進化ということで定義しました。その定義をわかりやすくするために、個体を「自分をもっていること」、代謝を「食べてウンチをすること」、繁殖を「子供をつくること」、そして進化を「子供が親とは少し違っていること」といういい方をしました。しかし、この言い換えが、動物を視野にしたものでした。動物以外の生き物には、この言い換えは通用しません。例えば「食べてウンチをすること」は、植物ではうまくいうことができず「光合成をすること」といっても、代謝をうまく伝えることはできません。
私たちヒトは、動物です。ですから、もう一つの分類体系の植物のことを忘れがちです。植物は、動物とはかなり違った生き方をしています。動物からすると、植物が生きていることさえ気づかないあるいは忘れてしまうほど、その生き方は違います。生物の一番大きな分類区分である「界(かい)」という分類になるほど、動物と植物(動物界と植物界という)は違っています。「界」には、動物、植物の他に、菌、細菌、古細菌という区分があります。
進化過程においても、現在においても、生命全体という視点でみても、動物や植物は、主流派ではありません。日ごろ目にしている目で見えるような動物や植物も、主流派ではなく、目に見えないほど小さいものが、数でも、種類でも、量でも勝っています。そして、そのような小さいものから、進化して、より大きなより複雑なものへと進化してきました。
分類体系では、動物と植物以上に、細菌や古細菌の方が、多様で、歴史も古くなっています。特に古細菌は、原始的で古いタイプであるとされています。地球創世時代に生まれ、その後ずっと創世記の環境で、いまだに原始的な生活をおくっています。しかし、その種類は非常に多様であることが、近年わかってきました。
動物の植物の違いよりももっと大きな違いが、細菌や古細菌にはあります。細菌や古細菌の中の分類には、どうも「界」以上の違いがあるので、「ドメイン」という「界」より上位の分類体系が導入されています。つまり、細菌や古細菌の多様性は、動物や植物の多様性をはるかに上回るものであるということです。
私たちは、地球という構成物の中では、生命というグループに属し、生命の中でも、動物に属し、多くの動物の中のヒトという種に属します。しかし、その生命や動物、ヒトの全体像すら、私たちは知りません。いつ、どのように生命や動物、ヒトが誕生したのか、生命や動物、ヒトがどのような履歴をたどってきたのか、そして現在どのような生命がいて、どのような関係を持っているのか、充分解明できていません。私たちには、知らないことが、まだまだいっぱいあります。どれだけ、科学が進んでも、まだまだわからないことは出ています。そして、私たちヒトは、ヒトであるため、ヒトからの発想をしがちです。しかし、私たちヒトは、動物のほんの片隅の、生命のもっと片隅の、地球においてはちっぽけな構成部のひとつに過ぎないのです。そのような視点を忘れることなく地球を見ていく必要はないでしょうか。
この内容に関しては、スティーヴン・ジェイ・グールド の「フルハウス 生命の全容―四割打者の絶滅と進化の逆説」(早川書房 刊; ISBN: 4152081783 )に詳しく書かれています。参考にしてください。
「2_2 生命とは」で、生命の条件を、個体、代謝、繁殖、進化ということで定義しました。その定義をわかりやすくするために、個体を「自分をもっていること」、代謝を「食べてウンチをすること」、繁殖を「子供をつくること」、そして進化を「子供が親とは少し違っていること」といういい方をしました。しかし、この言い換えが、動物を視野にしたものでした。動物以外の生き物には、この言い換えは通用しません。例えば「食べてウンチをすること」は、植物ではうまくいうことができず「光合成をすること」といっても、代謝をうまく伝えることはできません。
私たちヒトは、動物です。ですから、もう一つの分類体系の植物のことを忘れがちです。植物は、動物とはかなり違った生き方をしています。動物からすると、植物が生きていることさえ気づかないあるいは忘れてしまうほど、その生き方は違います。生物の一番大きな分類区分である「界(かい)」という分類になるほど、動物と植物(動物界と植物界という)は違っています。「界」には、動物、植物の他に、菌、細菌、古細菌という区分があります。
進化過程においても、現在においても、生命全体という視点でみても、動物や植物は、主流派ではありません。日ごろ目にしている目で見えるような動物や植物も、主流派ではなく、目に見えないほど小さいものが、数でも、種類でも、量でも勝っています。そして、そのような小さいものから、進化して、より大きなより複雑なものへと進化してきました。
分類体系では、動物と植物以上に、細菌や古細菌の方が、多様で、歴史も古くなっています。特に古細菌は、原始的で古いタイプであるとされています。地球創世時代に生まれ、その後ずっと創世記の環境で、いまだに原始的な生活をおくっています。しかし、その種類は非常に多様であることが、近年わかってきました。
動物の植物の違いよりももっと大きな違いが、細菌や古細菌にはあります。細菌や古細菌の中の分類には、どうも「界」以上の違いがあるので、「ドメイン」という「界」より上位の分類体系が導入されています。つまり、細菌や古細菌の多様性は、動物や植物の多様性をはるかに上回るものであるということです。
私たちは、地球という構成物の中では、生命というグループに属し、生命の中でも、動物に属し、多くの動物の中のヒトという種に属します。しかし、その生命や動物、ヒトの全体像すら、私たちは知りません。いつ、どのように生命や動物、ヒトが誕生したのか、生命や動物、ヒトがどのような履歴をたどってきたのか、そして現在どのような生命がいて、どのような関係を持っているのか、充分解明できていません。私たちには、知らないことが、まだまだいっぱいあります。どれだけ、科学が進んでも、まだまだわからないことは出ています。そして、私たちヒトは、ヒトであるため、ヒトからの発想をしがちです。しかし、私たちヒトは、動物のほんの片隅の、生命のもっと片隅の、地球においてはちっぽけな構成部のひとつに過ぎないのです。そのような視点を忘れることなく地球を見ていく必要はないでしょうか。
この内容に関しては、スティーヴン・ジェイ・グールド の「フルハウス 生命の全容―四割打者の絶滅と進化の逆説」(早川書房 刊; ISBN: 4152081783 )に詳しく書かれています。参考にしてください。
2001年2月23日金曜日
5_4 年代決定の原理
ジルコン一粒からも年代測定ができます。これは、科学技術が進んだおかげです。しかし、いったいどうして、そんなことができるのでしょうか。その原理や仕組みは、理解できないほど複雑なものなのでしょうか。今回は、年代決定の原理と仕組みを紹介します。
年代決定は、放射性元素(正確には放射性核種(かくしゅ))を用います。放射性核種とは、放射能をもつ核種のことです。核種とは、元素の中で質量数の違うものを区別して呼ぶ時に使う用語です。放射能を持たないものを安定核種といいます。放射能とは、ある核種が放射線を出して別の核種に変わる現象のことです。
年代決定の原理は簡単です。天然の物質には、何種類かの放射性核種がいくらか含まれています。その核種の量を精度良く測定することができれば、年代決定ができます。
年代決定ができるには、重要な条件をいくつか満たす必要があります。
最初の条件は、「年齢に適切な放射性核種を選ぶ」ことです。放射性核種は、地球のような物理・化学条件では、時間あたり一定の量で放射線を出して壊れて(崩壊(ほうかい))いきます。壊れるスピード(半減期もしくは崩壊定数)は、ほとんどの放射性核種で、正確に決められています。もとあった放射性核種(母核種)の量と、できた核種(娘核種)の量が測定できれば、半減期から、経過した時間(年代)が計算できます。
放射性核種ごとに、崩壊のスピード(半減期)が違います。短い時間を計るのにストップウォッチを用い、中くらいの時間は掛け時計を用い、長い時間には地球の公転(年という単位)を用います。それと同じように、その物質が経てきた年齢に応じた「時計」、つまり放射性核種を用いなければなりません。もし、非常に古い鉱物に短い半減期の放射性核種を用いたら、母核種はなくなり娘核種だけになっており、年代決定に使えません。古いものには長い半減期のものを、新しいものに短い半減期の放射性核種を用いなければなりません。
億年という古い年代には238U(ウラン)、235U、232Th(トリウム)、147Sm(サマリウム)、87Rb(ルビジジウム)が、万年から千年の短い年代には、14C(炭素)が、億から万年の中間的な年代には40K(カリウム)が用いられます。
必要な条件の二番目は、「放射性核種が物質に適切な量あり目的の精度で分析できるか」です。適切な半減期の放射性核種を選んだとしても、目的の物質に、測定可能な量なければ、測定することができません。測定可能な量は、技術の進歩によって、微量でも測定が可能となってきました。しかし、やはり最新の科学技術を駆使しても、測定できる限界もあります。
最後の条件として、科学者の「鼻が利(き)くかどうか」、重要となります。「鼻が利く」とは、まず実際に最古のものを見るけるというのは、科学者が、野外調査で古そうだ思える岩石を採取することやどの核種、どの道具を選ぶかは、科学者自身の判断にゆだねられます。ですから、最後に一番重要な条件は、科学者の「鼻が利く」かどうかとなります。
このあたりの詳しいことは、拙著、NTT出版「石ころから覗く地球誌」(ISBN4-87188-399-X)で、やさしく紹介しています。書店や図書館で覗いて見てください。
年代決定は、放射性元素(正確には放射性核種(かくしゅ))を用います。放射性核種とは、放射能をもつ核種のことです。核種とは、元素の中で質量数の違うものを区別して呼ぶ時に使う用語です。放射能を持たないものを安定核種といいます。放射能とは、ある核種が放射線を出して別の核種に変わる現象のことです。
年代決定の原理は簡単です。天然の物質には、何種類かの放射性核種がいくらか含まれています。その核種の量を精度良く測定することができれば、年代決定ができます。
年代決定ができるには、重要な条件をいくつか満たす必要があります。
最初の条件は、「年齢に適切な放射性核種を選ぶ」ことです。放射性核種は、地球のような物理・化学条件では、時間あたり一定の量で放射線を出して壊れて(崩壊(ほうかい))いきます。壊れるスピード(半減期もしくは崩壊定数)は、ほとんどの放射性核種で、正確に決められています。もとあった放射性核種(母核種)の量と、できた核種(娘核種)の量が測定できれば、半減期から、経過した時間(年代)が計算できます。
放射性核種ごとに、崩壊のスピード(半減期)が違います。短い時間を計るのにストップウォッチを用い、中くらいの時間は掛け時計を用い、長い時間には地球の公転(年という単位)を用います。それと同じように、その物質が経てきた年齢に応じた「時計」、つまり放射性核種を用いなければなりません。もし、非常に古い鉱物に短い半減期の放射性核種を用いたら、母核種はなくなり娘核種だけになっており、年代決定に使えません。古いものには長い半減期のものを、新しいものに短い半減期の放射性核種を用いなければなりません。
億年という古い年代には238U(ウラン)、235U、232Th(トリウム)、147Sm(サマリウム)、87Rb(ルビジジウム)が、万年から千年の短い年代には、14C(炭素)が、億から万年の中間的な年代には40K(カリウム)が用いられます。
必要な条件の二番目は、「放射性核種が物質に適切な量あり目的の精度で分析できるか」です。適切な半減期の放射性核種を選んだとしても、目的の物質に、測定可能な量なければ、測定することができません。測定可能な量は、技術の進歩によって、微量でも測定が可能となってきました。しかし、やはり最新の科学技術を駆使しても、測定できる限界もあります。
最後の条件として、科学者の「鼻が利(き)くかどうか」、重要となります。「鼻が利く」とは、まず実際に最古のものを見るけるというのは、科学者が、野外調査で古そうだ思える岩石を採取することやどの核種、どの道具を選ぶかは、科学者自身の判断にゆだねられます。ですから、最後に一番重要な条件は、科学者の「鼻が利く」かどうかとなります。
このあたりの詳しいことは、拙著、NTT出版「石ころから覗く地球誌」(ISBN4-87188-399-X)で、やさしく紹介しています。書店や図書館で覗いて見てください。
2001年2月15日木曜日
5_3 ジルコン
最古の鉱物は、ジルコンというものでした。古い時代の岩石の年代決定には、ジルコンがよく用いられています。その理由はどのようなものでしょうか。小さなジルコンに秘められたパワーを解明しましょう。
最古の鉱物とは、ジルコンと呼ばれるものでした。ジルコンは、古い岩石や鉱物の年代決定に一番よく利用されるものです。その理由は、非常に丈夫な鉱物であることと、多くの岩石に含まれていること、年代決定に必要な成分を多く含んでいることです。
丈夫というのは、熱や圧力による変成作用を受けても変化しないことや、風化や川の運搬によってもある程度の大きさで残るという特徴をもっています。ですから古い時代の岩石本体や他の構成鉱物が変化したりなくなったりしても、ジルコンだけは残っていることが多いからです。
多くの岩石に含まれているということは少し誇張しています。というのは、ジルコンが含まれているいるのは花崗岩と呼ばれる石英をたくさん含んでいるような岩石だけです。ですからすべての岩石に含まれているわけではありません。しかし、花崗岩は大陸を作っている岩石なのです。大陸の歴史を調べるのはジルコンが最適な材料となります。大陸の歴史はジルコンからなのです。
ジルコンはウラン(U)やトリウム(Th)を成分として多く含んでいます。ウランやトリウムは、放射能をもつ元素です。放射能とは、ウランのような放射性元素と呼ばれる元素が壊れて(放壊といいます)別の元素に変わる時に、さまざまな放射線(α線、β線、γ線など)を出すことをいいます。この放壊は、時間に応じて一定の割合でおこります。ですから、放壊した元素や放壊によってできた元素の量が正確に測定すれば、できてからどれほどの時間が経過したかがわかります。ウランは放壊を繰り返して鉛になります。ですからウランと鉛の量を正確に測定して年代を決めることができます。その材料としてジルコンが利用されているのです。
ちっぽけな鉱物、それも岩石を構成する主要な成分ではない鉱物が、地球の歴史をその中に記憶していたのです。ジルコンという小さな鉱物に秘められた歴史を私たちは読み取れるようになったのです。
最古の鉱物とは、ジルコンと呼ばれるものでした。ジルコンは、古い岩石や鉱物の年代決定に一番よく利用されるものです。その理由は、非常に丈夫な鉱物であることと、多くの岩石に含まれていること、年代決定に必要な成分を多く含んでいることです。
丈夫というのは、熱や圧力による変成作用を受けても変化しないことや、風化や川の運搬によってもある程度の大きさで残るという特徴をもっています。ですから古い時代の岩石本体や他の構成鉱物が変化したりなくなったりしても、ジルコンだけは残っていることが多いからです。
多くの岩石に含まれているということは少し誇張しています。というのは、ジルコンが含まれているいるのは花崗岩と呼ばれる石英をたくさん含んでいるような岩石だけです。ですからすべての岩石に含まれているわけではありません。しかし、花崗岩は大陸を作っている岩石なのです。大陸の歴史を調べるのはジルコンが最適な材料となります。大陸の歴史はジルコンからなのです。
ジルコンはウラン(U)やトリウム(Th)を成分として多く含んでいます。ウランやトリウムは、放射能をもつ元素です。放射能とは、ウランのような放射性元素と呼ばれる元素が壊れて(放壊といいます)別の元素に変わる時に、さまざまな放射線(α線、β線、γ線など)を出すことをいいます。この放壊は、時間に応じて一定の割合でおこります。ですから、放壊した元素や放壊によってできた元素の量が正確に測定すれば、できてからどれほどの時間が経過したかがわかります。ウランは放壊を繰り返して鉛になります。ですからウランと鉛の量を正確に測定して年代を決めることができます。その材料としてジルコンが利用されているのです。
ちっぽけな鉱物、それも岩石を構成する主要な成分ではない鉱物が、地球の歴史をその中に記憶していたのです。ジルコンという小さな鉱物に秘められた歴史を私たちは読み取れるようになったのです。
2001年2月8日木曜日
1_6 最古の鉱物のもつ意味(2001年2月8日)
前回の最古の鉱物の発見から、小さな物質とはいえ、鉱物にはさまざまな情報が埋め込まれていることがわかります。では、ジルコンという鉱物から、どのようなことがわかるのか説明しましょう。たった数mm程度の小さな鉱物ですが、それが物語る地球誕生のストーリーは壮大です。
ジルコンは、元素Zrの名称ジルコニウムの語源となっています。それは、鉱物のジルコンには成分にZrが含まれているからです。もともとジルコンという鉱物は、宝石として古くから知られていたのです。1789年にセイロン産のジルコンからジルコニウムが発見されました。
ジルコンには、その他の成分として珪素と酸素が含まれています。その化学式(構造式といいます)は、ZrSiO4です。ジルコンを形成するマグマは、充分な珪酸(SiO2)を含んでいるものです。岩石(火成岩)の名前でいえば、花崗岩です。つまり、ジルコンという鉱物は、花崗岩の中に含まれている鉱物であったといえるわけです。花崗岩は大陸を構成している岩石です。ですから、ネイチャーのカバータイトルに「大陸の破片」と書かれていたのです。
ジルコンを構成する元素である酸素の同位体が、さらに重要な情報をもたらしました。ジルコンの酸素同位体からマグマの酸素同位体組成を推定することが可能です。マグマの酸素同位体組成から、マグマをもたらした物質(起源物質と呼びます)が、堆積岩であったと推定されました。堆積岩が存在したということは、その当時、地球表面に海があったことを示しています。
この酸素同位体から堆積岩にいたる仮説は、議論を呼ぶところであると思いますが、そのような仮説は、論理的には可能で、ありえる話です。
このジルコン発見から、地球誕生の物語が書き変わります。地球は太陽や他惑星と一緒に45億7000万年前に形成され始めました。44億7000万年前にはほぼ現在の大きさになりました。最初の1億年間に地球の中心部には、核が形成され、外側はマグマオーシャンにおおわれていました。地球形成から7000万年の間にマグマオーシャンの表層は冷え、水が表層に形成されました。それ以降、地球表面にはずっと海が存在し続けていたのです。
ジルコンは、元素Zrの名称ジルコニウムの語源となっています。それは、鉱物のジルコンには成分にZrが含まれているからです。もともとジルコンという鉱物は、宝石として古くから知られていたのです。1789年にセイロン産のジルコンからジルコニウムが発見されました。
ジルコンには、その他の成分として珪素と酸素が含まれています。その化学式(構造式といいます)は、ZrSiO4です。ジルコンを形成するマグマは、充分な珪酸(SiO2)を含んでいるものです。岩石(火成岩)の名前でいえば、花崗岩です。つまり、ジルコンという鉱物は、花崗岩の中に含まれている鉱物であったといえるわけです。花崗岩は大陸を構成している岩石です。ですから、ネイチャーのカバータイトルに「大陸の破片」と書かれていたのです。
ジルコンを構成する元素である酸素の同位体が、さらに重要な情報をもたらしました。ジルコンの酸素同位体からマグマの酸素同位体組成を推定することが可能です。マグマの酸素同位体組成から、マグマをもたらした物質(起源物質と呼びます)が、堆積岩であったと推定されました。堆積岩が存在したということは、その当時、地球表面に海があったことを示しています。
この酸素同位体から堆積岩にいたる仮説は、議論を呼ぶところであると思いますが、そのような仮説は、論理的には可能で、ありえる話です。
このジルコン発見から、地球誕生の物語が書き変わります。地球は太陽や他惑星と一緒に45億7000万年前に形成され始めました。44億7000万年前にはほぼ現在の大きさになりました。最初の1億年間に地球の中心部には、核が形成され、外側はマグマオーシャンにおおわれていました。地球形成から7000万年の間にマグマオーシャンの表層は冷え、水が表層に形成されました。それ以降、地球表面にはずっと海が存在し続けていたのです。
2001年2月1日木曜日
1_5 「最古のもの」より古いもの(2001年2月1日)
前回のエッセイで地球最古の物質は、鉱物で、約42億年前のものであるということを紹介しました。しかし、先週、届いたネイチャー(Nature)という科学雑誌の2001年1月11日号で、「最古のもの」よりもっと古い鉱物が発見されたと伝えられました。その内容を紹介します。
ネイチャーでは、表紙の写真と「古い大陸からの破片」というカバータイトルになっていました。ネイチャーは、科学の世界では非常に権威のある雑誌です。その表紙を飾るほど重大なニュースだったのです。表紙に関連した2編の論文とニュース記事が載っていました。1編は42.8億年前に海の証拠があったいう論文で、他方は44億年前の鉱物の発見の論文でした。両方とも重大な論文でした。ニュース記事はその重要さを解説したものした。
最古の海の証拠は、それまで最古の鉱物(約42億年前)が見つかっていた西オーストラリアのジャックヒルというところ以外から見つかりました。西オーストラリアのマーチソン地方で、この地域の地層には、約30億年前の珪岩と呼ばれる堆積岩があります。珪岩とはほとんど石英からできている岩石です。その珪岩の中のジルコンといいう鉱物の年代が、42.8億年前で「最古のもの」でした。ジャックヒルの最古の鉱物の年代は42億7600万年前でした。マーチソンの鉱物は、若干ですが古くなりました。それよりも大事なことは、39.1億年前から42.8億年前のジルコンの酸素同位体組成から、堆積岩からできたマグマの可能性が指摘されたことです。堆積岩が存在するということは、地表付近の水があったと考えられるわけです。42億7600万年前に海の証拠が見つかったのです。
もう一つの論文は、もっと古い鉱物の発見です。最古の鉱物が発見された地域は、今まで最古の鉱物が見つかっていたジャックヒルです。同じ堆積岩の中に最古の鉱物片が見つかったのです。その年代は、44億0400万年前でした。さらに、マーチソンのものほど顕著には現れていませんが、海の存在の可能性を持っていました。
鉱物は、ジルコンと呼ばれるもので、珪酸成分の多いマグマからできたことがわかっています。珪酸成分の多いマグマは、花崗岩(かこがん)と呼ばれる岩石になります。花崗岩は、よく目にする石材で、御影石と呼ばれています。花崗岩は大陸を構成する主要な岩石です。ですから、ジルコンという鉱物から、ネイチャーの表紙のキャッチコピーが「古い大陸の破片」となったのです。このジルコンというちっぽけな鉱物が、最古の記録を1億3000万年も古い記録に塗り替えたのです。
ネイチャーでは、表紙の写真と「古い大陸からの破片」というカバータイトルになっていました。ネイチャーは、科学の世界では非常に権威のある雑誌です。その表紙を飾るほど重大なニュースだったのです。表紙に関連した2編の論文とニュース記事が載っていました。1編は42.8億年前に海の証拠があったいう論文で、他方は44億年前の鉱物の発見の論文でした。両方とも重大な論文でした。ニュース記事はその重要さを解説したものした。
最古の海の証拠は、それまで最古の鉱物(約42億年前)が見つかっていた西オーストラリアのジャックヒルというところ以外から見つかりました。西オーストラリアのマーチソン地方で、この地域の地層には、約30億年前の珪岩と呼ばれる堆積岩があります。珪岩とはほとんど石英からできている岩石です。その珪岩の中のジルコンといいう鉱物の年代が、42.8億年前で「最古のもの」でした。ジャックヒルの最古の鉱物の年代は42億7600万年前でした。マーチソンの鉱物は、若干ですが古くなりました。それよりも大事なことは、39.1億年前から42.8億年前のジルコンの酸素同位体組成から、堆積岩からできたマグマの可能性が指摘されたことです。堆積岩が存在するということは、地表付近の水があったと考えられるわけです。42億7600万年前に海の証拠が見つかったのです。
もう一つの論文は、もっと古い鉱物の発見です。最古の鉱物が発見された地域は、今まで最古の鉱物が見つかっていたジャックヒルです。同じ堆積岩の中に最古の鉱物片が見つかったのです。その年代は、44億0400万年前でした。さらに、マーチソンのものほど顕著には現れていませんが、海の存在の可能性を持っていました。
鉱物は、ジルコンと呼ばれるもので、珪酸成分の多いマグマからできたことがわかっています。珪酸成分の多いマグマは、花崗岩(かこがん)と呼ばれる岩石になります。花崗岩は、よく目にする石材で、御影石と呼ばれています。花崗岩は大陸を構成する主要な岩石です。ですから、ジルコンという鉱物から、ネイチャーの表紙のキャッチコピーが「古い大陸の破片」となったのです。このジルコンというちっぽけな鉱物が、最古の記録を1億3000万年も古い記録に塗り替えたのです。
5_5 最古の鉱物の年代決定
西オーストラリアで見つかった最古(44億年前)の鉱物の年代測定は、どのようになされたのでしょうか。そして、それは、どの程度の確かさをもった年代なのでしょうか。最古の年代を決めていくプロセスを紹介します。
44億年前の最古の鉱物はジルコンと呼ばれる鉱物でした。この鉱物中に含まれているU(ウラン)という放射性核種と2次イオン質量分析計(SHRIMP)を用いて年代測定がなされました。
ジルコンにはウランが比較的多く含まれているためと丈夫な鉱物であることから、古い岩石の年代測定には、よく用いられます。測定に用いられたジルコン自身は、小さいもので、0.2ミリメートルほどしかありませんでした。しかし、現在の科学技術で、そんな小さな結晶の中に含まれているウランの測定が可能になったのです。
それを可能にしたのが、SHRIMPという製品名を持つ2次イオン質量分析計です。SHRIMPは、セシウム(Ce)のイオンを、約50ミクロンの径のビームとして鉱物にぶつけます。そのときに、イオン化して飛び出す核種のうち、目的のウランだけを、電場と磁場で選り分けて、計測器(ファラデー管)の中に導いて、測定します。
かつては、多くの岩石や鉱物を砕き、酸で溶かし、目的の元素(この場合はウラン)だけを、事前に化学的に分離したものを用いました。著者もこのあたりを苦労して研究をしていました。精度を上げるために、化学的分離をいかにきれいにするかが、一番重要な部分でした。量の少ないものや分析精度は、職人的な技量が反映されました。しかし、SHRIMPを用いれば、実験する人の技量は、問われなくなります。器械がその測定精度を保証してくれます。
年代測定の精度は、誤差という形で表示されます。一般に、年代値の後に、プラスマイナス(±)という記号をつけて示されます。今回測定された年代のうち、一番古い値は、44億0400万年前±0800万年でした。0.18パーセントの誤差しかないのです。とんでもない精度を達成してます。
最古のジルコンの年代測定も、このSHRIMPによってなされました。日本でも1台、世界でも数台しか導入されてないような、非常に高価で、特殊な分析装置ですが、その有効性は、今回のようなデータが出されるとよくわかります。
今回の年代測定は、SHRIMPという科学技術と、古いジルコンを野外から見つけ出した鼻の利く科学者とが、共同の成し遂げた成果なのです。それが、地球創世の物語を書き換えるほどの衝撃を与えたのです。
44億年前の最古の鉱物はジルコンと呼ばれる鉱物でした。この鉱物中に含まれているU(ウラン)という放射性核種と2次イオン質量分析計(SHRIMP)を用いて年代測定がなされました。
ジルコンにはウランが比較的多く含まれているためと丈夫な鉱物であることから、古い岩石の年代測定には、よく用いられます。測定に用いられたジルコン自身は、小さいもので、0.2ミリメートルほどしかありませんでした。しかし、現在の科学技術で、そんな小さな結晶の中に含まれているウランの測定が可能になったのです。
それを可能にしたのが、SHRIMPという製品名を持つ2次イオン質量分析計です。SHRIMPは、セシウム(Ce)のイオンを、約50ミクロンの径のビームとして鉱物にぶつけます。そのときに、イオン化して飛び出す核種のうち、目的のウランだけを、電場と磁場で選り分けて、計測器(ファラデー管)の中に導いて、測定します。
かつては、多くの岩石や鉱物を砕き、酸で溶かし、目的の元素(この場合はウラン)だけを、事前に化学的に分離したものを用いました。著者もこのあたりを苦労して研究をしていました。精度を上げるために、化学的分離をいかにきれいにするかが、一番重要な部分でした。量の少ないものや分析精度は、職人的な技量が反映されました。しかし、SHRIMPを用いれば、実験する人の技量は、問われなくなります。器械がその測定精度を保証してくれます。
年代測定の精度は、誤差という形で表示されます。一般に、年代値の後に、プラスマイナス(±)という記号をつけて示されます。今回測定された年代のうち、一番古い値は、44億0400万年前±0800万年でした。0.18パーセントの誤差しかないのです。とんでもない精度を達成してます。
最古のジルコンの年代測定も、このSHRIMPによってなされました。日本でも1台、世界でも数台しか導入されてないような、非常に高価で、特殊な分析装置ですが、その有効性は、今回のようなデータが出されるとよくわかります。
今回の年代測定は、SHRIMPという科学技術と、古いジルコンを野外から見つけ出した鼻の利く科学者とが、共同の成し遂げた成果なのです。それが、地球創世の物語を書き換えるほどの衝撃を与えたのです。
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