2026年1月1日木曜日

6_215 年齢と時間の感じ方

 毎年、年末になるとこの1年があっという間に過ぎ去ったことを思います。それは年々短く感じています。ほんの1日の差しかありませんが、年始には新しい年の1年の計を考えています。時間の感じ方についてい考えました。


 年齢ととともに、時間の経過を速くなっているように感じてしまいます。多くの人が、同じように感じていることではないでしょうか。脳の働きが関係しているとは考えられますが、これまで仕組みがよくわかっていませんでした。その感じ方が、科学的に解明されてきました。
 イギリスのルグトマイヤー(Lugtmeijer)らの共同研究で、その仕組を明らかにしてきました。2025年10月8日、Communications Biologyという科学雑誌に
Temporal dedifferentiation of neural states with age during naturalistic viewing
(自然な視聴中に加齢に伴う神経状態の時間的脱分化)
というタイトルで報告されました。
 タイトルの中の「時間脱分化(temporal dedifferentiation)」という言葉が、とてもわかりにくいものにしています。歳を取ると、脳が体験を区切る「境界線」(分化)が減っていきます。これが「脱分化」となります。その時間的分化が減っていき、出来事が一つにまとまって感じられるようになることを意味しています。
 自然な視聴中の体験とは、ケンブリッジ老化・神経科学センター(Cam-CAN)の577名の参加者(18~88歳)に、8分間の映画を視聴するという実験のことです。参加者の34の年齢グループに分けて、映画を見て、イベントの終了と別のイベントのはじまりと感じたときにボタンを押すことにしました。その実験中、脳の神経状態の変化を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で観測しています。
 その結果、視覚野と腹内側前頭前野に、神経状態が加齢とともに有意に長くなることがわかりました。これも難しい内容です。
 イベントの境界は、脳の状態変化と重なっているのですが、年齢には影響はありませんでした。ところが、加齢とともに、脳は出来事を細かく区切らなくなり、より大きな流れとしてまとめて処理していることがわかりました。同じ時間でも、記憶される時間感覚が、加齢とともに長くなっていくことになります。つまり、加齢によって脳が時間の流れを細かく区切るのをやめ、体験を大きなまとまりとしているのです。そのため、時間の流れが速く感じられる現象となっていることになります。加齢による時間の流れの速さは、錯覚ではなかったのです。
 もしこの仮説が正しければ、老人になるほど、1年が早く経つことは、拒めないということになります。しかし、見方を変えれば、全体をまとめて理解し大局を掴むための「効率化」がされていることにもなります。これは年の功ともいえるのではないでしょうか。

・来し方行く末・
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
とはいっても、今年も、年末まで大学にいて、
暮れに、この1年の来し方を考えていました。
そして、今年はどのように過ごすかの行く末、
1年の計も、年末に立ています。
正月から三ヶ日は休むことしています。
このメールは2025年末に配信しています。

・コホート研究・
この報告は、疫学研究の手法となる
コホート研究の対象者を参加者にしています。
コホート研究とは、定まった参加者集団を
長期追跡し、生活習慣や病気の関係を調べる
研究手法となっています。
日本でも、国立がん研究センターで
「多目的コホート研究」が実施されています。