2025年3月27日木曜日

2_229 20億年前からの生物 8:課題と期待

 生物種がどれだけの期間継続しているのか、という疑問からスタートしました。昔から現在まで生き続けている生物種を探し、極限環境で長期間生きづけてきたことを、証明してきました。しかし課題もあります。


 ここまで紹介してきた論文で、地下の古い地層に生きている微生物の存在が明らかにされてきました。その生物は、そこに住みはじめた時期は不明ですが、過酷な閉鎖環境で生きています。代謝の仕組みはまだよくわかっていませんが、進化速度も遅いようです。古くからそこで生き続けてきたことになりそうで、その期間は長いと20億年に及ぶと考えられています。
 そこから、もし火星の生物の生存している可能性を推定しました。火星に水が存在した時期に粘土鉱物ができ、ある時生物が発生していれば、環境が地下保存されていれば、現在でも生物が生きている可能性がありました、
 この論文の結論は、どこまで確からしさがあるでしょうか。それは今後の課題でもあるのでしょう。見ていきましょう。
 試料への現在の生物の汚染には非常に注意を払われています。そして、現状では、汚染がないように見えます。しかし、これも「不在の証明」と同じ困難さを抱えています。汚染がなかったということを証明するには、その生物群が、周辺の生物、あるいは全生物と異なっている「なにかの特徴」を持っているこを示すといいかもしれません。しかし実態のよくわからない生物群が、地下に大量にいることは知られています。ですから、既知の生物は、現存する生物の一部に過ぎないので、異なっていることを完全に検証することはできません。
 また、亀裂は鉱物が充填され閉じていること、長期間安定した地層であることから、その環境に長期間生き続けていると考えました。生物として生きているということは、代謝をしていることになります。代謝とは、生きていくために必要な成分を外から取り入れ、生物内で不要になったものを排出するということです。ですから、その生物の周辺では、物質移動が必然的に起こることになります。
 その物質移動を生物群、あるいは生態系内で閉鎖することは、難しいと考えられます。なぜなら、エネルギーの保存、エントロピーの保存など、外部からなんらかの関与がないと、代謝を継続的に営めないはずです。亀裂に生物が生きているということは、エネルギーの注入や物質移動が起こってることになります。外部となんらかのつながっている経路があることにあります。それは、生物が通れる通路ともなっていたかもしれません。
 閉鎖系となっているのは、最近になって起こったのか、あるいはうがって考えれば、掘削によって一時的にできた状態という危険性もあります。その可能性を排除できないかもしれません。
 しかし、今後の展開も期待できます。一番気になるのは、その微生物群の実態解明です。群集のそれぞれの代謝方法や、DNA解析で、種や系統的位置づけがわかってくれば、古い時代のもなのか、特異な環境で生きていけるタイプのか、それとも全く未知の生物群かもしれません。それらが明らかになってくること期待しましょう。困難な研究となると推定されますが、興味深いテーマです。

・名残惜しさ・
大学では、最後の入試、学位記授与式、
教職員の歓送迎会など、
次々と年度末の行事が進んでいます。
今年度で退職なので、
主役となる場面もありました。
最後の授業の補講も続いていたので、
いくつか参加してきました。
どれも最後となると名残惜しいものです。
自身の目標を忘れることなく、
常に淡々と進めていこうと考えています。

・今後は・
このエッセイは大学教員という身分での
最後のエッセイとなります。
名誉教授という称号をただくことになり、
図書館やメールアドレスなどの継続使用が
許されるたのは、ありがたいです。
今後は大学教員の肩書は使うことはなく
在野の研究者として活動していくことになります。
ただ、研究成果の発表の場としとして
大学の紀要への投稿ができるので助かります。

2025年3月20日木曜日

2_228 20億年前からの生物 7:展望は火星へ

 20億年前の地層から、慎重な研究で、生物を発見されきましました。まだまだ不明なこともあるのですが、この成果により、多くの研究テーマが今後も展開していきそうです。その展望は火星にまでいきそうです。


 このシリーズで紹介してきたように、地球での古い地層からの生物探しは、ステップを踏みながら、非常に慎重に進められてきました。
 地球には、地表には生物が満ちています。そのため採取する時に、試料に現在の生物が混入する危険性があります。また、地下にも生物が多数見つかっているので、目的の試料の内部に新しい時代の生物が混入している可能性もあります。それらすべてを排除していくことが、古い時代からの生きてきた生物の検証に重要になります。
 前回紹介したように、20億年前の地層にできた割れ目から、生物が発見されました。その地域は安定した地質なので、変動がほどんないところで、割れ目が形成されてから、外部から生物が混入してこなかった考えられます。割れ目のできた時代は決められていませんが、長期間、閉ざされた空間で、その生物群は生きてきたようです。もし地層ができる活動直後に割れ目ができたとすれば、その生物は20億年前近くに入り込んだものになります。ですから、生物生存期間として20億年に達する可能性もあります。
 限られた栄養の過酷な閉鎖環境で、何十億年間も生き続ける生物がいたとすると、その代謝のメカニズム、代謝速度の下限、進化の速度など、今後、多くの研究テーマが出てきそうです。割れ目の形成年代が確定すれば、これらの問題への定量化も可能かもしれません。
 鈴木さんたちは、この結果は、地球の生物を調べることだけでなく、火星の生物探査にも適用できると考えています。現在、火星で探査しているパーシビアランス(Perseverance)は、移動しながら、いろいろな試料を蓄えています。現在、試料を入れたチューブは2025年3月10日現在で27本になっています。それらの回収のためのプロジェクトを現在検討されていますが、だいぶ先なりそうです。
 火星のパーシビアランスが着陸したのはジェゼロクレーター(Jezero Crater)の中です。そこは、35億年前より以前に水が流れ込んで、湖になったところです。粘土鉱物も発見され、湖底や海岸の堆積物も形成されています。もし、火星に生物が発生していれば、その痕跡(化石)や、地下にも生物が分布していれば、現在も生きているかもしれません。地球の20億年前の極限的な環境での生物の存在は、火星の試料内の生物やその痕跡の発見の可能性も示しています。
 今回紹介した成果には、今後の研究の展望もいろいろありましたが、課題もありそうです。それは、次回としましょう。

・腰痛・
先週、朝、着替えていると
突然腰痛が発生しました。
いわるゆるぎっくり腰です。
持病になっているもので、
日頃から注意をしているのですが、
突然起こるので、避けることはできません。
ですから対処法も、自分流ですが持っています。
しかし、今回の腰痛は、ひさびさで
非常に激しいもので動くのも大変でした。
しかし、当日の夕方、どうしても
しなければならない所用があったので出かけました。
翌日も校務の会議も、議長なので大学に出ました。
動き出すと、痛みはましになるのですが
4日間、朝に起きた時、激痛が走りました。
体を動かすと痛みが走ります。
日曜日には激痛が治まってきたので、
リハビリを兼ねて、大学に出ました。
しかし、長時間椅子に座っているのは辛かったです。

・重要な行事の連続・
今週から来週にかけては、
大学で重要な校務、行事が連続します。
体調が思わしくないので、
いくつかは欠席させていただききました。
しかし、欠席できないものも多く、
だましだまし、やりくしていくつしかありません。
再発だけは避けたいと考えています。

2025年3月13日木曜日

2_227 20億年前からの生物 6:超閉鎖環境

 前回まで紹介してきたように、現在の生物や人為による汚染には、非常に慎重に対処されて進められてきました。着実にステップを踏んで、研究は進められています。20億年前の生物の有無について紹介していきましょう。


 ブッシュベルト火成複合岩体の20億年前の岩石にできた亀裂に生物の有無を調べられてきました。その結果をみていきましょう。まずは、前回紹介したように、現在の生物や人為の汚染をなくした試料を用いています。
 海洋底の岩石で用いた方法でもあったDNAの染色によって、生物の存在を確認し、その細胞から赤外線を用いた分析によって、たんぱく質を検出しています。赤外線分析では、たんぱく質とともに、粘土が存在していることも明らかになっています。つまり、この亀裂には、外部からの汚染ではなく、掘削前から微生物が生きていることが確認されたことになります。
 この結果から、もしこの亀裂ができ、そこに水が入り込み粘土鉱物ができた時、生物が住みついたとすると、その環境がそのまま残っていた可能性がでてきました。海洋底の岩石からは、前に紹介したように1億年前から生き続けている生物の可能性が示されました。ブッシュベルト地域の地層は、20億年前から現在にいたるまで、安定していたところです。ですから、亀裂ができた時期は未確認ですが、亀裂で粘土形成後、生物が住み着いてから、そのまま閉鎖的な環境が維持されていたとすれば、その当時の生物が、生き続けている可能性があります。
 今後、生物の遺伝子解析で、どのような生物なのかを検証していけば、進化のスピードもわかるでしょう。超閉鎖環境になれば、進化が少ないとすると、生物種の生存期間の考え方も改めなければなりません。進化の生物の変異の用いる分子時計などの方法論も、改めなければなりません。
 この研究手法を使えば、40億年前の変動がないところで岩石が採取できれば、生命誕生初期の生きた生物の発見も可能かもしれません。安定した環境が続けば、進化が起こらないとすると、進化の要因として環境が非常に強いことになります。そして、なにより進化とはなにかを再考させる機会にもなりまそうです。
 鈴木さんたちが考えている、この研究に大きな展望があるようです。その実現はかり先になりそうですが、重要なものです。その紹介は、次回としましょう。

・3月はバタバタと・
集中講義が終わりました。
補習が何人かありますが、これで一段落です。
今後、大学では、学位記授与式や
進級者や新入生を迎える準備も進みます。
また、退職のためのセレモニーが続きます。
3月中は、公私ともにバタバタしそうです。
しかし、一番重要なことを忘れないようにしましょう。
もちろん私にとっては研究です。

・最後の教え子たち・
今年で学生を指導をするのが最後になります。
感慨深いものがあります。
退職の時がきた多くの先生たちが
この気持ちを味わうことになるでしょう。
幸い、非常勤講師として
いくつかの講義を担当します。
ただし、自身が所属した学科の専門科目ではなく、
教養科目や他学科の科目なので
学生との接触機会は少なくります。
それもで、授業やその時の出会いがきっかけになり
将来の選択に影響を与えることもあります。
気を抜くことなく、
授業は進めていかなくてはなりませんね。

2025年3月6日木曜日

2_226 20億年前からの生物 5:蛍光微粒子

 古い時代の岩石中での生物の有無は、前回紹介した方法で確認できます。しかし海の岩石は数億年前までしありません。それより古いものは、陸地にありますが、生物や水の汚染を排除するかが問題となってきます。


 前回の報告は、1億0400万年前までの玄武岩で、現在の海洋底で見つかった岩石でした。海底なので水の供給は、比較的簡単にできそうです。ところが、海洋底の岩石は、1億数千万年前くらいまでは遡れますが、それより古いものは入手できません。
 なぜなら、プレートテクトニクスが働いているためです。海洋プレートの岩石は海嶺で形成され、古い海洋プレートは海溝でマントルに沈み込んでいきます。現在の海洋底には、せいぜい1億数千万年前の岩石しか残されていません。地球の歴史45億年、あるいは生命の歴史38億年と比べると、あまりにも短い試料しな手に入りません。
 もっと古い時代の岩石で、生物の検出はできるのでしょうか。
 これまでの研究で、大陸地域で2kmより深い坑道の地層内で、20億年前より古い、10億年より長く、外部から水が入ってくることなく、存在し続けた生物がいることがわかっています。また、地下深部では、原始的な生物が、増殖の速度も遅く、1億年ほど進化することもないこともわかっています。
 このような研究と前回紹介した研究から、新しい時代の水や生物の汚染のない岩石中で生物が見つかったら、これまでの生物進化の時間スケールを考えなおす必要がでてきそうです。
 前回紹介した鈴木さんたちが共同研究され、2024年のMicrobial Ecology(微生物生態学)誌の116巻に
Subsurface Microbial Colonization at Mineral-Filled Veins in 2-Billion-Year-Old Mafic Rock from the Bushveld Igneous Complex, South Africa.
(南アフリカ、ブッシュベルト火成複合岩体からの20億年前の苦鉄質岩中の鉱物が充填された岩脈で地下微生物のコロニー形成)
が報告されました。
 ブッシュベルト火成複合岩体には、太古代の複雑な火成岩類が混在しています。それは過去の島弧が大陸化したもので、地下深部のマントルが上昇して地殻に入り込んでいます。地質は詳しく解明されています。それはこの岩体から金が発見され、ゴールドラッシュになったためです。現在もクロムやプラチナといったレアメタルの鉱山があり、地下の様子もよくわかっています。
 この研究では、500m以上のボーリングを進めて試料を採取しています。現世生物の汚染を排除するため、ボーリングした試料の洗浄、表層の加熱滅菌、真空パックして低温での保存など、いろいろな工夫がされています。
 さらに、ボーリングをする時には、潤滑のために水を使うのですが、その水にも注意を払っています。水には、紫外線に反応する微小な蛍光微粒子(0.25から0.45μm)を大量に入れ、岩石中に微粒子がないことを確認しています。もし紫外線をあてて、微粒子が見つかれば、水による汚染があったとして分析から除外しています。
 ここまで注意を払って、20億年前の岩石の亀裂での生物の有無を調べました。その結果は、次回としましょう。

・最終講義・
先週末に、最終講義を実施しました。
幸い多くの人に来て頂きました。
卒業生も在学生も来てくました。
平日なので卒業生は仕事があり来れませんでしたが、
メールで多数が連絡をくれました。
最終講義では、私がこれまで進めてきた研究の総括ですが、
その詳細は示しませんでした。
主に思索やその変遷を紹介しました。
そして最後には今後の展望などもお話しました。
終わってからも多く人から声をかけていただき
有りがかったかです。

・祭りの後は・
最終講義のあと、本来なら参加者と
歓談の場を設けるべきところなのでしょうが、
設けませんでした。
我が大学ではコロナ禍もあり
最終講義の実施が久しぶりでした。
どの程度の人が来るのか、不明でもありました。
それに平日なのでアナウンスも最小限にしてもらいました。
大学内では、退職する教職員への行事が
有志、学科、学部、大学で
開催していただけることになっていました。
ですからその日は、苦労かけてきた家内とともに
温泉に浸かりながら、のんびりとしようと考えました。
夫婦で温泉に入りごちそうを頂きました。