2017年5月25日木曜日

4_139 山陰の旅 3:オリ越しのヒスイ

 蛇紋岩に中にヒスイを含んだ岩石があります。ヒスイは、かつて日本列島にあった古い沈み込み帯の深部で形成されたものが、蛇紋岩の作用で持ち上げられたものです。その露頭は、オリに入れられていました。

 地元に住んでいる人以外、ほとんど人が来ないようなところに、この岩石の産地があります。多分来るのは私のような地質学者、あるいは鉱物採取や収集のマニアでしょうか。マニアはこの状況をみるとがっくり来るでしょう。地質学者もがっくりくるですが、仕方がないと思いながら、見ていくことになるでしょう。
 兵庫県養父(やぶ)市の道路脇の崖に周囲をコンクリートに囲まれ、全面が鉄柵のオリになっているところがあります。まるで、一昔前の動物園のオリを思わせるつくりで、厳重に守られています。動物園と違うのでは、動物から人を守るオリではなく、人から岩石を守るオリです。
 このオリの中には、崖からくずれた状態の大きな岩が、下が土に埋もれてあります。そしてオリの鉄柵には看板があり、「県指定文化財 破損禁止」となっています。ヒスイの原石の露頭です。日本ではヒスイは8ヶ所ほどで見つかっているそうですが、露頭として露出しているのは、ここだけだそうです。その他のところは、転石となっているとのことです。
 ここの露頭は、蛇紋岩の中の変成岩ブロックとなっています。ここの蛇紋岩は、三郡変成帯の中に位置しています。蛇紋岩は、もともとはマントルを構成していたカンラン岩が、水を含む変質作用を受けると蛇紋岩に変わっていきます。蛇紋岩は密度も小さく滑りやすいので、流動性が大きくなって、地表に顔をだすようになります。蛇紋岩に中でヒスイが形成された岩石ではなく、蛇紋岩が上昇して来る途中で、取り込んできた岩石の中にヒスイがあったことになります。
 ヒスイは、宝石の一種です。淡い緑や紫などで、ときに少し透明感があります。上品な見かけをしています。比較的大きな塊で産出することも多いので、装飾や高価な加工品の素材として、古くから重宝されてきました。だれもがヒスイという言葉は聞いたことがあるはずです。でも、それが露頭ではなかなか見られません。私も転石でみたことはありますが、露頭ではこれが初めてでした。
 ヒスイは、長石(曹長石と呼ばれるもの)が低温高圧の条件の変成作用によって形成されます。低温高圧の条件は、沈み込むプレート境界で発生します。沈み込み帯には、蛇紋岩を形成する環境もあります。ここの三郡変成岩に属する蛇紋岩は、現在の沈み込み帯ではなく、昔(約4億年前)のものです。ヒスイは深部(深度約20km)での変成作用でできたものが、蛇紋岩の上昇ととともに持ち上げられたことになります。
 そんな不思議なヒスイが、あまり人の来ない、このような道端にオリに守られてあったのです。

・私のヒスイ・
私はヒスイをいくつか持っています。
糸魚川の海岸で拾ったものと、
同じく糸魚川の店で購入したものです。
その一つは、10cmほの大きさの立方体のヒスイを購入しました。
ペーパーウエイトのようなものとして売っていました。
私は資料として購入しました。
あまりいい翡翠ではないのでしょうが、
愛着はあります。

・オリ越しに・
露頭の岩石をオリ越しに見るのは、やはり興ざめします。
でもこのような状況は仕方がないと思います。
以前、別の地でヒスイ発見の報告が論文に載りました。
するとマニアが、論文からその露頭を見つけて、
ヒスイを取り尽くしてしまったという事例がありました。
おかげで研究者が資料を入手することができなくなりました。
他の地でも、このような例があるようです。
なくなる前に予防することは、仕方がないことなのでしょう。
私は資料をとる気はなかったのですが、
オリ越しに岩石を見るとは思いませんでした。