2016年3月10日木曜日

6_135 重力波の観測 4:そして発表

 信号を観測してからの検証作業は、地道で表には出ないものです。しかし、結果が重大であるため、その時の研究者のストレスは想像以上でしょう。大きなストレスの乗り越えて、今回の発表となりました。

 重力波を観測したLIGOは、2005年から観測をスタートし2010年まで観測しました。しかし、この間の観測では、検出能力が足りなく、信号をキャッチすることはできませんでした。その後、装置に検出感度を高める改良がおこなわれ、2015年から観測が再開されました。
 改良されたLIGOが、2015年9月12日に重力波の観測を開始したところ、わずか2日目の2015年9月14日9時51分(アメリカ東部時間)に、重力波をキャッチしました。LIGOの感度でとらえられる現象は、数百年に一度のものにすぎません。それをとらえることができたのです。これはLIGOの観測のスタート時期が、非常に幸運だったのでしょう。
 今回観測した重力波は、波長が3ヘルツから250ヘルツの間で、波の変動幅は10^-21のレベルでした。信号は、0.2秒足らずほどで終わりました。非常の微小で短時間の信号でした。その信号のS/N比(信号とノイズの比)は、24もあり、他の現象の可能性さえ排除できれば、確実な信号になります。
 データを得たあと発表まで、さまざまな検証がなされました。ありとあらゆる他の信号やノイズの可能性を排除されていきました。なにより異なる場所で観測された重力波の波形がぴたりと一致したことが、一番有力な検証となりました。別の2箇所で波形が一致するような他の現象が起こる可能性は、20万年に1度という確率にすぎないことも確かめられています。ありとあらゆるノイズの可能性を消していき、重力波でしか説明できないという論考がなされました。
 今回は、あまりにも重要な結果なので、極秘裏に検証作業がなされていたそうです。その検証のために、観測後、4ヶ月の時間がかけられました。研究者にとっては、そのストレスは非常に大きかったようです。
 論文は、今年の2月11日に公開されています。論文は物理学では権威のあるPhysical Review Lettersという雑誌の116号で公開されました。
http://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.116.061102
というサイトで、重要な論文なのでオープンにされています。難しい内容ですが、論文のタイトルは、
Observation of Gravitational Waves from a Binary Black Hole Merger.
(2つのブラックホールの合体からの重力波の観測)
です。興味ある方は、直接ご覧になられればと思います。
 論文の著者は、B. P. Abbott et al.(et al.とは「その他」という意味)となっています。通常論文の著者が多人数になっても、全員の名前や所属を明記します。しかし、この論文はあまりに多くの研究者が関わっているので、論文の末尾に著者名が列記されています。同姓の人も多数います。著者名だけで、3ページ弱もあります。何名の共著者がいるかを、数える気にならないのほどの人数です。著者名の後には、著者が所属している施設が示されているのですが、133ヶ所あり、2ページ半になっています。16ページの論文のうち、本文は8ページ余りで、報告の半分にすぎません。他は文献と著者に関するものです。巨大科学による成果はこのような報告になってしまいます。
 さて次回は、重力波の意味するところをみていきましょう。

・情報漏れ・
この論文を見たのですが、分野が違うので、
検証に関する評価はできませんでした。
しかし、その慎重さは、うかがい知ることができました。
そして、この論文でなにより驚いたのは、
本文でも書いたのですが、著者の多さです。
近年の巨大科学のせいでしょうが、
中枢にいた研究者たちは、組織運営、維持だけでも
非常に大きな苦労があったと推測されます。
秘密保持は、非常の難しいものでしょう。
仲間内では漏れていたのかしれませんが、
私は門外漢なので情報は届いていませんでした。
以前、別の重要論文では、論文が投稿された段階で
情報漏れがあり、私にも届いたことが有りました。
その時は、内容は不明でしたが、
その分野に関する重要な発見があった
という情報だけが漏れていました。
今は、ネット時代ですから、
情報漏れが起これば、一気に広がってしまいます。
注意が必要ですね。

・三寒四温・
北海道は、三寒四温でしょうか、
変動の激しい天気が続いています。
ある時は道路がガリガリに凍りついたり、大量の積雪があり、
またある時は、グチョグチョに溶けたり、
乾いた道路が出ていたりしています。
寒暖の変化の著しさは、例年以上ではないでしょうか。
来週はいよいよ卒業式です。
グチョグチョでなければいいのですが。