2011年11月3日木曜日

3_103 内在:超大陸 5

 物事を説明する理論に合わないものが出てきた時、前の理論の修正で済むもの、全く一新すべきもの、あるいはより大きな枠組みの理論として新しくなるもの、いろいろな対処法があります。それは選ぶものではなく、結果としてそうなってしまうものです。テクトニクスでは、プレートからプルームへと変わりましたが、プレートを内在するプルームの理論になりました。

 一番最後にできた超大陸はパンゲアです。パンゲアの前の超大陸ロディニアが分裂して、ゴンドワナ大陸を分離し、超大陸の名残のロディニア大陸となります。その間には海が形成されます。ウイルソン・サイクルに従えば、できたての海ですから、拡大を続けていき、やがては大きな海になるはずです。しかしなぜか、海の拡大は継続せず、再び閉じてパンゲア超大陸ができていきました。不思議な現象です。
 パンゲア超大陸形成の謎に対して、カナダのJ. B. マーフィ博士たちは、2008年、スーパープルームの上昇によって、大陸が押されて集まったという説を提唱しました。
 スーパープルームとは、マントルの底(核とマントルの境界部)にあった暖かいマントル物質が上昇してくる巨大な上昇流のことです。スーパープルームは、コールドプルームが落下することによって形成されます。
 コールドプルームとは、次のようなメカニズムで形成されます。
 海溝に沈み込んだ海洋プレートは、そのままどこまでも沈み込むのではなく、マントルの中ほどに留まります。それは海洋プレートの密度とまわりのマンとの密度が釣り合うところがあり、そこまでしたもぐり込めないからです。沈み込んだ海洋プレートは、まわりのマントル物質と比べて冷たいため、その存在は地震波で確認されています。
 ある程度時間がたつと、沈み込んだ海洋プレートの岩石は温まり、より密度の大きな鉱物に変わって(相転移といいます)いきます。相転移が進みにつれて、沈み込んだ海洋プレート全体の密度が大きくなり、ある時まわりのマントル物質より重くなり、落下がはじまります。この落下する海洋プレートの塊を、コールドプルームと呼びます。コールドプルームは、まわりのマントルよりはまだ温度が低いので、その存在も地震波で確認されています。
 コールドプルームがマントルの底に向かって落下すると、大きな物質が地球内部に入り込むことになります。物質量の収支を合わすために、コールドプルームに見合った量のマントル物質がマントルの底から上昇しなけれればなりません。上昇しやすいのは、一番密度の小さいマントル物質、つまり一番暖かいマントル物質が上昇してきます。これが、暖かいスーパープルームとなります。
 コールドプルームが形成されるのは、超大陸の周辺となります。なぜなら、超大陸のまわりには、巨大な海洋があり、海洋プレートの大部分は、超大陸のまわりで沈み込むことになります。ですから、コールドプルームは、超大陸の下に形成されます。そして、超大陸の下は、マントルの熱をしばらく放出していないところでもあるので、スーパープルームの上昇してきやすい場所でもあります。超大陸は、やがてスーパープルームによって分裂する必然性を内在しているのです。パンゲア超大陸の分裂も、スーパープルームの上昇があったことを示す証拠があります。
 ところが、ロディニア超大陸は、大陸の分裂を起こしながらも、古くからあった大きな海洋にもスーパープルームが形成され、その力によって再び合体するということが起こったという考えが示されました。
 超大陸形成後のプレートの運動は、ウイルソン・サイクルに従いながらも、プルームにも支配を受けることになります。あり得ることです。そもそも、ウイルソン・サイクルは、上部マントルでのマントル対流に基づく理論でした。プルームの運動は、マントル全体を一層の対流とみなされる運動となっています。現在では、2種類のプルームの運動を組み入れたプルームテクトニクスという考えによって、地球内部の運動は説明されるようになってきました。その中にはプレートテクトニクスが取り込まれています。
 規則を破るような例外があると、理論は修正を迫られます。その時、全く新しい理論に変われば、一種のパラダイム転換といえます。今回のように、修正がより大きな理論へと変貌するのは、パラダイム転換とは少々違います。なんと呼ぶべきはわかりません。
 地球科学は、今でもプルームテクトニクスが大枠の理論となり、詳細はプレートテクトニクスで説明するという研究方法になっています。

・冬間近・
いよいよ11月。
北海道の10月は上旬が少々寒かったのですが、
下旬は以外に暖かく、
過ごしやすい日々が続きました。
11月になっても暖かい日が続いています。
でも、さすがに11月ともなる
冷え込む日がでてきます。
雪もそろそろ降りそうです。
北国の長い冬の到来も間近です。

・異例の特集号・
今回紹介したプルームテクトニクスは、
このエッセイでも何度か紹介していますが、
1990年代にすでに登場していました。
日本の研究成果が重要な役割を果たし、
日本の研究者たちのアイディアによって生まれました。
1994年には地質学雑誌で異例の特集号が組まれ
世界にプルームテクトニクス誕生を高らかに宣言をしました。
記念すべき出来事でした。
その後、緻密なデータを集めたり、
細かな地域現象をプルームテクトニクスで
検証するというものです。
今回紹介した論文は、
プレートテクトニクスの重要な構成要素の
ウイルソン・サイクルの変則性を示す例でした。
変則性は論理の破綻を招くのではなく、
より大きな枠組であれば、
その変則が例外ではなく、
あり得ることとして説明できます。
これが進歩というものなのでしょう。