2011年11月24日木曜日

5_96 単位の定義:キログラム 3

単位は、厳密に定義されていなかれば、現代のような技術は成り立ちません。その単位の中でも、基本単位は非常に重要になります。ところが、7つの基本単位のうち、4つがどうも怪しいようなのですが。すべての原因は質量にあります。

 すべてのはかるべき数値の中で、基本となる単位は、たったの7つだということを前回紹介しました。それを基本単位と呼び、時間、長さ、質量、電流、温度、物質量、光度の7つだと紹介しました。それ以外の計測値の単位は、この7つの単位を組み合わせて、導き出すことができます。そのため、基本単位以外を、組立単位と呼んでいます。
 基本単位をみていくと、問題点があることがわかってきました。それを紹介していく前に、まずは、基本単位の定義をみていきましょう。
 まずは、時間です。単位は、秒(second、s)です。1967年まで、1秒は、地球の公転速度を利用していました。地球が太陽のまわりを、ちょうど一周したときを1年としていました。1年を、365(日)、24(時)、60(分)、60(秒)で割れば、1秒が決められます。ところが、地球の公転周期は正確でなく、ぶれやばらつきがあることがわかってきました。そこで、1967年に1秒の定義は「セシウム(133Cs)の発する放射の91 9263 1770 周期の継続時間」と修正されました。半端な値になっているのは、それまで使っていた1秒に合わせるためです。
 この定義は、正確で、地球以外でも適用できます。現在でも、10桁の有効数字がありますが、必要とあれば、小数点以下にゼロをつけていけば、いくらでも正確な定義とできます。非常にいい定義だといえます。
 次は、長さで、単位はメートル(meter、m)です。かつて、1mは、地球の北極から赤道までの長さ(子午線)の1000万分の1(1×10^-7)とされていました。19世後半ごろから、北極から赤道までの子午線が一定ではないことがわかってきました。1889年には、光速を利用して、1mは「光が真空中で1/(2 9979 2458) sec の間に進む距離」と決められました。半端な数値は、昔使っていた定義にあわせるためです。長さも、地球以外でも正確に再現できる非常に有用な定義となっています。
 温度はケルビン(Kelvin、K)で、1Kは「水の三重点における熱力学的温度の 1/273.16」と定義され、非常に普遍的なものとなっています。
 問題は質量です。単位は、キログラム(kilogram、kg)です。かつて、1kgは「1気圧最大密度の温度における水1000cm^3の質量」とされていました。厳密に再現するのは非常に困難な作業です。さらに問題は、密度と気圧の決定には、質量が含まれているので、論理的も矛盾をきたしていることです。
 そこで、1889年に、上の定義に正確に一致しているに国際キログラム原器を作成して、その質量を1kgの基準としました。国際キログラム原器は、直径も高さも4cmほどの円柱の白金とイリジウム(9:1の比率)の合金でできています。日本の質量の基準は、国際キログラム原器と同時につくられた日本国キログラム原器となっています。
 国際キログラム原器を、後に厳密に測定したところ、定義と原器に違いがあることがわかりました。また、質量は、原器がないと正確な値を得ることができないという問題もありました。
 物質量はモル(mole、mol)で、1molは「0.012kgの12Cに含まれる原子の等しい数(アボガドロ数、6.022045×10^23)の構成要素を含む系の物質量」と定義されています。この定義には、質量が用いられています。
 電流はアンペア(ampere、A)で、1Aは「真空中に1mの間隔で平行におかれた無限に小さい円形断面を持つ無限に長い2本の直線状導体のそれぞれを流れ、これらの導体の長さ1mごとに2×10^-7Nの力をおよぼし合う一定の電流」と定義されていますが、力の単位(ニュートン、kg・m/s^2)では質量を用いています。
 光度はカンデラ(candela、cd)で、1cdは「周波数540×10^12Hzの単色放射を放出し所定の方向の放射強度が1/683W・srである光源のその方向における光度」と定義されていますが、放射強度の単位は仕事率(ワット、kg・m^2/s^3)がつかわれ、質量が用いられています。
 つまり、質量が原器に依存している限り、他の3つの基本単位も正確にできないという問題があります。これを、改善するというニュースが流れてきました。その話題を次回紹介しましょう。

・返事・
今回のエッセイを読んで、
地震防災や地盤調査をされているTAKさんからメールを頂きました。
そのメールに対して、私は以下のような返事を書きました。
「地質学の野外調査では、それほど難しい計測をすることなく、
単位系変更で混乱もあまり感じませんでした。
ところが、新しい分野の勉強をはじめると
聞き慣れない単位は、とっつきにくく感じました。
高校の物理の教科書で質問に来る学生がいるのですが、
そのとき単位系の違いを感じさせられることがあります。
単位の混乱、そしてその背景にある精度保証など、
研究者の混乱が伝わることなく、
数値だけが独り歩きすることがよくあります。
マグニチュードの数値と桁数の意味も理解しづらいものでしょう。
今回の一連のエッセイは、最終的に国際キログラム原器の
廃止のニュースへと導く予定です。
ベクレルやシーベルトも、初期のニュースでは
いろいろ工夫されて報道されていましたが、
「喉元すぎれば」で、最近はあまり注意を払っていないように感じます。
ベクレルもその大きさに最初は戸惑いを感じましたが、
今では聞きなれたものとなりました。
市民全体がその単位を理解し受け入れた結果ではなく、
頻繁に耳にするため、煩わしいから、もう細かい説明は抜きで
数値だけが述べられているのでしょう。
メディアの責任もあるのでしょうが、
国民のリテラシーの問題も背景にあるのではなかと思っています。
つまりは教育の問題です。
学生をみていても、考える力、考える姿勢が足りない
あるいは考えることを簡単に放棄する学生が多いように思います」
最後は、愚痴っぽくなりましたが、
教育が行き届いた日本でこの状態ですから、
事件や事故あったとき、
その説明を、他の国ではどうしているでしょうか。
政府に信頼や指導力があれば、政府を信じればいいのですが、
政府に信頼度がないとき、
国民は自分のリテラシーで対処するしかないのでしょう。
それが今の日本では充分でない気がします。
そのようは国が先進国といっていいのでしょうか。
またまた愚痴っぽくなりました。

・母の来道・
先日、北海道も大荒れで、かなりの雪になりました。
幸い私の地域は積雪は数cmほどで大したことがありませんでした。
時期的にも根雪には早いので
天気さえよければ融けるのでしょう。
いよいよ北海道の冬も本番となりました。
この時期に、母を京都から呼びました。
次男の小学校の学芸会があったので、
それにあわせて呼びました。
毎年少なくとも一度は呼んでいるのですが、
昨年は私が単身赴任だったので、
北海道には呼びませんでした。
今年は次男の学芸会にあわせて呼びました。
長男の中学校も開放日があったので、
見学に連れていきました。
私は、怪我をした次男と自宅で留守番をしていたのですが。
1週間の滞在予定ですので、
久しぶりに母とゆっくりと話しました。