2009年10月15日木曜日

4_91 上村:宮崎2

 宮崎県高千穂の近くに、天の岩戸の伝説で有名な、天岩戸神社があります。天岩戸があり案内とともに見学できるようですが、訪れませんでした。なぜなら別に行きたいところがあったからです。それは、上村というところで、観光地でも名所ともなっていところでした。

 上村と書いて「かむら」と呼びます。地元の人もあまり知らないような小さな村落の地名です。私は、ここに訪れたくて時間をとったのですが、場所がわからず、残念ながらたどり着けませんでした。時間があれば、探し出すことができたのかもしれませんが、午後の1、2時間で、一つの露頭だけを見るつもりの予定でした。入り組んだ道がいろいろあって、地図と比べてもどこを走っているかわからなくなり、1時間以上うろうろしたのですが、探すのを断念しました。少々心残りでしたが、次の機会に行こうと考えています。
 なぜ上村に行きたかったのかというと、そこには地球史でも有数の事件である生物の大絶滅の記録が発見されているからです。絶滅の時代の地層が、上村には分布しているからです。
 大絶滅は、古生代と中生代の境界(P-T境界)となる時代(2億5100万年前)に起こったもので、地球史上、最大のものだったと考えられています。その絶滅は、中生代と新生代の時代境界であるK-T境界よりも大規模であったことがわかっています。
 絶滅の規模を定量的に記録するには、化石が必要です。古いほうの時代の化石と、新しい方の時代のものがあって、はじめてどの程度、絶滅したかが推定可能になります。そのような研究は、世界のいろいろな時代の化石を集大成しておこなわれています。他にも大規模な絶滅がいくつもあったのですが、その中でもP-T境界の絶滅が最大であることが、わかってきました。
 P-T境界をまたいだ地層は、絶滅の規模を知るためだけでなく、何が起こったのかを解明するために重要になります。そのような地層は、幸いなことに日本の岐阜県各務原市の犬山地域ででています。犬山の地層は、海洋の深海底にたまったチャートと呼ばれる岩石からでてきます。深海底の環境を知るために、チャートは重要になるのですが、表層環境を知るには役不足になります。
 海洋の表層にできる地層としては、熱帯付近で礁をつくっている石灰岩が有力です。日本の石灰岩の多くは、海洋島(大洋の中の火山活動でできた島)の周囲でできたものです。海洋島の環境は、海洋島の火山固有の岩石種から判別できます。そしてそのような火山岩の上に石灰岩があれば、それは、陸から離れた海洋島の環境でできたことがわかります。
 上村には、P-T境界部の地層は残念ながらありませんが、ペルム紀末の海洋島上の石灰岩を主とする地層が連続的に出ています。そのような地層は、海洋での表層環境の情報を読み取ることができます。
 研究の結果、P-T境界の大絶滅は、2度の事件によって起こったことがわかってきました。P-T境界時代の1000万年前にも第一陣の絶滅事件があり、その後P-T境界の直前に二番目の絶滅事件が起こったというシナリオです。そのような大絶滅事件の解明のきっかけに、上村の地層はなったのです。
 そんな大絶滅の事件が記録した上村の地層を見たかったのですが、今回はできませんでした。

・K-T境界・
P-T境界とは、
古生代の最後の時代であるペルム紀(Permian)と
中生代最初の時代の三畳紀(Triassic)の頭文字をとって
名づけられたものです。
一方、K-T境界は、
中生代の終わりの白亜紀(Cretaceous)と
新生代最初の第三紀(Tertialy)の
頭文字をとってC-Tとしたいところですが、
CではなくKとなっています。
Cはカンブリア紀や石炭紀なども使うので、
白亜紀はドイツ語の白亜紀の表記からKを使うことになっています。
実は、さらに問題があります。
それは、第三紀という時代名称が使われなくなってきたためです。
そのかわり、パレオジンとネオジンが使われるようになってきました。
K-T境界は、世間では有名ですが、
地質学では、重要度は世間ほどでなくなってきました。

・もっと大きな事件・
P-T境界を最大の絶滅としましたが、
本当は最大とはいえません。
なぜなら、もっと大規模な絶滅が起こったと
考えられる時代があるからです。
それは、約20億年前におこった酸素の大発生の時期の事件と
7億年前ころに起こった全地球凍結という大氷河期の事件です。
いずれの事件も大規模な大絶滅が起こったはずですが、
化石になる生物がほとんどいなかったことから、
絶滅の規模を定量的に推定できません。
ですから、残念ながら、
どれくらいの大絶滅であったかの比較にはでてきません。