2005年9月22日木曜日

1_50 中生代から新生代へ3:絶滅のシナリオ(2005.09.22)

 前回は、K-T境界の大絶滅の原因として、隕石衝突説が受け入れられるようになってきた経緯を紹介しました。今回は、隕石衝突説による大絶滅のシナリオを紹介しましょう。

 隕石衝突の一番の証拠は、なんといってもクレータです。ところが肝心のクレータが、実はなかなか見つからなかったのです。もし陸地の造山帯などの変動の激しい地域に落ちていたら、6500万年も前のことですから、すでにクレータの痕跡は造山運動によって消されているかもしれません。また、もし海に落ちていて、その海洋プレートがすでにマントルにもぐりこんでいたら、もはやクレータは見ることはできません。でも、再度多くの研究者がクレータ探しをしました。
 まずは地表の各地のクレータでK-T境界の時代のものがないかが、探されましたが、見つかりませんでした。ということは、まだクレータと認定されていないものを探さなければなりません。被害の一番大きな地域が、クレータに近いはずです。そんな地域を、人工衛星のデータや地表のデータなどから、探されました。
 その結果、メキシコのユカタン半島の隠れている丸い地形が候補に上がりました。ユカタン半島のクレータは、埋まってしまっていて、形がほとんど見えませんでした。
 そのクレータは、半分ほどは陸地にあり、あとの半分は海底にありました。クレータの縁に沿って陸地には池がたくさんありました。メキシコ湾の石油探査やボーリングの結果でも、海底にもクレータの構造があることがわかってきました。このクレータはチュチュルブ・クレータと呼ばれています。こうして、K-T境界の隕石衝突のクレータが確定されました。
 世界各地のK-T境界の地層から、隕石衝突説を支持する証拠が見つかってきました。代表的な証拠を挙げると、イリジウムの濃集はもちろんですが、巨大津波によってできた堆積物、衝突でできた丸い粒(スフェリュールと呼ばれています)、衝突石英(高圧で形成される結晶)、すす、衝突変成でできた鉱物(コーサイト、ダイヤモンドの高圧できる結晶)などがあります。
 これらは、すべて衝突説を支持する証拠と考えられています。したがって、隕石衝突説でが、これらの証拠も一緒に説明できるようなシナリオが必要になってきます。
 まず、隕石の大きさが問題です。K-T境界でのイリジウムの量がわかっているので、それに地球の表面積をかければ、総イリジウムの量がわかります。隕石に含まれているイリジウムの量から、隕石の大きさが見当が付きます。
 グッビオの粘土層のイリジウムからは、直径6.6kmの隕石が推定されて、デンマークの粘土層のイリジウムからは、直径14kmの隕石が衝突したと推定されています。両者の誤差は大きいのですが、どうも10kmほどの直径の隕石が地球に衝突したと考えれます。
 これらの情報から、大絶滅のシナリオが考えられています。
 直径10kmほどの隕石が、25km/秒で衝突すると、1億メガトンのTNT爆弾に匹敵するような膨大なエネルギーが放出されます。衝突地点には大きなクレータができます。とんでもなく激しい衝撃波が周辺を走り、すべてのものを吹き飛ばします。
 その後、超巨大津波や大火災、酸性雨が発生します。衝突や大火災によってちりやすすが成層圏に上がり、長期にわたって太陽光がさえぎられます。太陽光が地表に届かないと、光合成生物が絶滅します。つまり、植物がなくなります。植物をエサとしている草食動物が絶滅します。草食動物をエサとしている肉食動物が絶滅します。
 このような最悪の連鎖によって、大絶滅が起きていきます。これがK-T境界で起きた事件のシナリオです。地質学的には短時間で起こる大絶滅です。しかし、それでも、生き延びた生物たちもいたのです。

・衝突エネルギー・
上で、「直径10kmほどの隕石が、25km/秒で衝突すると、
1億メガトンのTNT爆弾に匹敵する」と書きました。
でも、このエネルギーはどれくらいのものか
見当が付かないと思います。
いくつかの換算をしましょう。
このエネルギーは、広島に落ちた原爆が、
13キロトンであったことから、
広島の原爆の70億倍以上のエネルギーを放出したことになります。
冷戦のとき一番たくさん保有されていた
核兵器6万個をすべて爆発させたより
はるかに大きなエネルギーを放出した計算になります。
・世界人口あたり広島原爆1個が爆発
・地球の表面積1000km2あたり1個が爆発
・30km四方に広島原爆1個が爆発
という規模です。
その規模は人類の想像を絶するものであったのです。

・四国から大雪へ・
6日間ほど四国の西予市城川に出かけていました。
したがって、このマガジンは事前に作成して
発行していたものです。
城川には何度も訪れています。
第2の故郷とも言うべき地となっています。
23日から25日の連休は大雪山の方に調査に出かけます。
雪が来る前にいろいろなところの調査を
しておかなければなりません。
土産話は別の機会しましょう。