2025年9月25日木曜日

5_210 惑星形成 3:いくつかのなぜ

 今回紹介している論文は、大きなプロジェクトの概要報告となっています。この論文以降、多数の研究成果が報告されています。この論文から、目的や成果を紹介していきましょう。


 今回紹介している論文は、大橋永芳さんら36名の共同研究によるもので、2023年7月に公開されました。論文のタイトルは、
Early Planet Formation in Embedded Disks (eDisk). I. Overview of the Program and First Results
(原始惑星系円盤における初期惑星形成(eDisk)。 I 研究プログラムの概要と最初の成果)
となっています。この論文に続いて、続々と成果が公表されています。その成果を調べていくと、2025年8月12日現在で、22編が公開されたり、投稿中になっています。今後も報告は続いていくのでしょう。
 eDiskは、非常に大規模に、多くの目的をもった研究プログラムになっています。最初の報告として、全貌をまとめたのが、今回の論文となっています。
 このeDiskプログラムでは、形成初期の段階(星形成開始から1~10万年程度)の地球の近傍に位置する19の原始星を、高い解像度で観測しました。しかし、概要には、いくつかのなぜ(疑問)があります。
 なぜ19個という多数の星を、なぜ高精度で、なぜ太陽系近傍の星を、なぜ初期段階のものだけを調べるのか、などがあります。それらについて見ていきましょう。すると今回の研究の概要も把握できそうです。
 なぜ、多数の星(19個)を調べているのでしょうか。
 惑星形成を調べる時、形成途上にある惑星系を観測することになります。ある観測では、ある時期の、ある段階の惑星系の状態を調べることなります。その観測は、ある段階にある様子だけを調べていることになり、形成過程や時系列の変化を見ているわけではありません。形成過程を調べるには、惑星系のさまざまな形成段階にあるものを、調べて、並べて比較していく必要があります。そのため19個の惑星系が調べられることになりました。
 なぜ高精度で、なぜ太陽系近傍(650光年以内)の天体を調べているのでしょうか。
 詳細な観測の必要なのは、原始惑星円盤内で起こっている過程を見ていかなければなりません。円盤内での惑星は小さいので、高精細の観測でないと検知することができません。形成中の惑星を詳細に調べる研究は、すでにいくつかでなされていました。しかし、似た段階にある、多数の惑星系で、原始惑星が検知できるほどの高精細での観測は、これまでなされていませんでした。
 今回の研究の精度は、0.04秒角という解像度です。この解像度は、人間の肉眼は約1分角(60秒角)なので、その1500倍の精度になりますが、想像がつかないですね。650光年以内の天体を対象にしていますので、太陽系における木星軌道スケールの惑星形成の痕跡が見える精度になります。この位置より近い天体ならば、原始惑星系円盤の中にある隙間やリング構造を、直接見分けられる精度になります。
 では、なぜ、1~10万年という初期の段階の星を調べるのか、については次回にしましょう。

・休暇・
先週まで、十勝の方に1週間滞在しました。
できれば毎年、このような休暇を
とりたいと思っていますが、
なかなかできていませんでしたが、
久しぶりにできました。
同じところに、1週間も滞在していると、
その地で見るべきところは
一通り見てまわることができます。
気に入ったところを見つけ、
何度か訪れることになります。
再訪も楽しいものです。
また、美味しいお店も見つられると
もっと楽しいものになります。

・後期のスタート・
今週から講義がはじまります。
後期は、2科目を一日の午前中に連続して
実施することにしました。
体力を使いそうですが、
以前にも実施していたので
なんとかなるかと思っています。
久しぶりの講義再開で、
緊張感ももちながらも
なんとなくワクワクしています。
現役のころは、このようなワクワクする
気持ちにはならなかったですね。
なぜでしょうかね。

2025年9月18日木曜日

5_209 惑星形成 2:アルマ望遠鏡

 今回の研究は、チリの高原の砂漠にあるアルマ望遠鏡を用いています。そんな僻地に最先端のアンテナが設置されています。それにには理由があり、その利点を活かした観測のプロジェクトが実施されました。


 今回のシリーズで紹介している研究は、台湾中央研究院の大橋永芳さんたちの国際グループで実施されました。アルマ望遠鏡を用いてなされた大規模プログラム(eDisk:Early Planet Formation in Embedded Disks 包埋円盤内での初期惑星形成 という名称で呼ばれています)として実施されました。
 そもそもアルマ望遠鏡のアルマとは、ALMA(Atacama Large Millimeter/submillimeter Arrayアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)の頭文字からとっています。
 チリ北部アタカマ砂漠で、標高5000メートルもの高地に、2002年から建設がはじまり、未完ですが2011年から科学観測が開始されました。2014年6月に全てのアンテナが到着し、12メートルのパラボラアンテナ54台と、7メートルのパラボラアンテナ12台の合計66台という構成が完成しました。いくつか、あるいはすべてを1個のアンテナとして機能させることで、1つの巨大な電波望遠鏡として観測ができる電波干渉計です。
 ミリ波・サブミリ波の観測は、大気中に酸素分子(O2)や水蒸気(H2O)に水分があると吸収されていきます。アタカマ砂漠は、標高が高く、水分が少ないので、ミリ波・サブミリ波の観測に適した地域になります。
 干渉計とは、複数の電波望遠鏡(アンテナ)を離れた場所に設置して、同じ天体を同時に観測して信号を合成する装置です。解像度は、個々のアンテナの直径ではなく、組み合わせたアンテナ全体を最大の長さ(最大基線長と呼ばれる)によって決まっていきます。ですから、多数のアンテナを組み合わせることで、ひとつのアンテナではえられない高い解像度を達成できます。
 干渉計方式の電波望遠鏡では、アンテナの間隔を広げれば広げるほど解像度が上がりますが、視野(見える範囲)は狭くなります。広がった天体を観測するためには、アンテナの間隔を小さくする必要があります。目的に応じて、アンテナの組み合わせで、基線長を調整していく必要があります。
 アルマ望遠鏡は、原始惑星系円盤のような温度が低いガスや塵の分布を詳細に観測したり、構成分子を調べるに適した装置になります。そして観測環境も適しています。そんなアルマ望遠鏡を用いて、eDiskプロジェクトが進めれました。その内容は次回以降にしましょう。

・後期の講義・
後期の講義は、来週からはじまります。
担当している講義は2つで、
木曜日の1、2校時に連続して
実施することにしました。
連続しているので、
少々疲れるかもしれません。
若い学生たちと接するのは
大変さもありますが、
楽しみにもしています。

・ホッとして・
このエッセイは、休暇から戻って来た
翌日なので、予約配信としています。
北海道は、秋めいてきました。
朝夕は涼しくなりました。
朝、歩いてくるときは
上着が必要になってきました。
暑いのは、苦手なので
秋めいてくるとホッとします。

2025年9月11日木曜日

5_208 惑星形成 1:理論と観測

 惑星の形成は、シミュレーションが主で、観測が難しくて実体はよくわかっていませんでした。観測技術の進歩とともに、徐々に形成過程がわかってきました。形成過程を、詳細に観測した結果が報告されました。


 惑星系の形成過程については、コンピュータを用いたシミュレーション(理論)と、新しい恒星の周辺を観察(観測)することで進められています。理論だけでは、検証できません。観察だけでは法則性や原理がわかりません。両者がそろって確実性が高まってきます。理論と観測の両輪で、研究が進められています。
 惑星の形成過程のシミュレーションは、1960年代から京都大学の林忠四郎を中心としたグループが、世界をリードしていました。「林モデル」という惑星形成モデルがつくられてきました。林モデルによると、中心にある恒星の形成のスタートの直後(100から1000万年経過)に、恒星の周辺に円盤状に集まった物質内で惑星が形成されていくと考えられてきました。惑星形成の場所は、「原始惑星系円盤」と呼ばれています。
 シミュレーションがはじまった時は、観測技術はまだ進歩していなかったのですが、進歩とともに、実際に若い恒星の周りに原始惑星が形成されている円盤が存在することが確かめられました。
 観測は難しかったのは、ガスやチリが多くある恒星周辺は通常(可視光)の観測では見えないからです。ガスやチリの内部の観測は、赤外線、あるいは可視光・近赤外の散乱光の観測、ガスやチリの吸収線や放射線のスペクトル解析、そしてミリ波・サブミリ波の観測などで、実施する必要がありました。
 赤外線の観測では、チリの分布や円盤の温度構造がわかります。可視光・近赤外の散乱光の観測では、円盤の傾きや厚み、形状を調べることができます。
ガスやチリの吸収線や放射線のスペクトル解析では、円盤内の分子を見分けることができます。そしてミリ波・サブミリ波の観測では、いくつかの分子の区分や分布、ガス分子(COなど)の運動、そしてチリのリングや隙間の存在を見つけることができます。
 そのような各種の観測技術の発達と、それぞれの特性を組み合わせることによって、シミュレーションの結果が確認されてきました。いずれも難しい観測になるので、詳細な観測はまだ不足していました。
 また、ひとつの惑星系を調べることは、ある時期のある状態の惑星系を調べていることなります。ですから、惑星の形成「過程」をみていることにはなりません。形成「過程」を調べるには、形成中のさまざまな段階にある、惑星系を同じ精度で調べていく必要があります。
 今回、そんな研究が大規模になされました。まだ成果の解析や報告の途上にある研究プロジェクトですが、その概要を紹介していきましょう。

・地球の調べ方・
この「地球の調べ方」のセッションは
前回は、タンデムモデルのシリーズでした。
その配信は2023年9月28日が
最後になっています。
この時期は、四国にサバティカルで滞在していて
北海道に戻って来る直前に
配信したエッセイとなっていました。
かなり間があいてしまいました。
久々のこのセッションのシリーズになります。

・休暇・
今日から、休暇をとることにしています。
1週間、北海道の田舎で
のんびりと過ごすことにしました。
コロナ禍前はこのようなことをしていたのですが、
その後、サバティカルから退職時期と
バタバタしている時期があったので、
今回、久しぶりに北海道の田舎で
夫婦でのんびりすることにしました。
滞在記は、機会があれば、紹介していきましょう。

2025年9月4日木曜日

4_197 支笏の秘湖へ:オコタンペ湖

 久しぶりの地球地学紀行となります。7月から8月にかけては暑くて、旅行のハイシーズンでもあるので、でかけるのを控えていました。涼しくなってきた8月下旬に、大好きな支笏にでかけました。


 先週、支笏湖を訪れました。退職すると、平日に活動できるという利点を、最大限に利用して出かけました。自宅で昼食とってから、のんびりと出発しました。途中で、恵庭にある白扇の滝や、そして今回紹介するオコタンペ湖、支笏湖畔などいろいろ寄り道してから宿に入りました。
 今回はオコタンペ湖を紹介します。何度が訪れているのですが、奥譚キャンプ場までいったこともあります。ところが、2020年6月から現在も、キャンプ場までは、土砂崩れのため通行止めとなっていました。前回、11月に来たときは、冬期の通行止めでオコタンペ湖にはいけませんでした。5月からはオコタンペ湖までは入れるようになったので、今回でかけました。
 オコタンペ湖は、支笏湖カルデラができる大噴火のあと、恵庭火山の噴火活動で放出された火山放出物が、オコタンベ川を堰き止めてできた堰止湖です。湖水は、その日の太陽光線の位置や、天候、見る時間帯などによって、湖面の色合いが変化します。訪れた日は曇りで風も少しあり波立っていましたが、岸辺はコバルトブルーからエメラルドグリーンになっていました。きれいな色合いが神秘的で、そして近づくのが大変なので、秘湖と呼ばれています。
 オコタンペ湖は、周囲約5km、最大水深20.5mで、西岸には高層湿原があります。オコタンペ川は、急な湖畔には近づけませんが、湖の全域が特別指定保護区であり立ち入りは禁止されています。道路沿いの展望台から見ることができます。
 オコタンベ川は、支笏湖に流れ込む、長さ約3.5kmほどの短い沢ですが、オコタンベ湖が支笏湖より標高差が300mもある高い位置にあるので、急流となっています。下流の河口となる奥潭のキャンプ場には、道路が通じていた時にいったことがあり、撮影もしていました。しばらくは再訪は難しいでしょうね。
 北海道には三大秘湖があり、オコタンペ湖はそのひとつになっています。その他にオンネトー、東雲湖があります。オンネトーは今年の初夏にいきましたが、東雲湖には昔いったきり、しばらくいっていません。そんな昔に思いを馳せきましょうか。

・いろいろな面・
今回、支笏湖の周辺を散策しました。
いつ来ても、その豊かな自然に癒やされます。
その自然の背景には、
活火山の激しさ、
人里離れた地の静寂、
山深い自然の神秘さ、
人を寄せ付けない火山の厳しさ、
火山の恵みたる温泉の心地よさ、
そんないろいろな面を感じさせてくれます。

・多くが望まない・
湖畔は、団体や観光客が多数訪れています。
湖畔のホテル街は、賑わっていていました。
小さい観光地なので、土産や飲食店が充実しています。
ビジターセンターもあり、
情報がえやすくなっています。
ただし、少々価格が高くなっています。
私たちは老夫婦なので、
多くを望むことはありません。
美しい景色と温かい温泉、
美味しい食事が少々あれば
満足できます。