2016年10月13日木曜日

4_130 南紀の旅 4:那智の滝

 南紀の旅は、前回の天鳥褶曲は知る人ぞ知る地質ポイントでしたが、今回は白浜、白崎に続いて、まただれもが訪れる観光地です。観光地ならではのよさもありますが、不都合な部分もあります。地質学者側の都合を紹介します。

 和歌山の海岸からは山に入るのですが、那智勝浦町には、有名な那智の滝(那智滝と表記することあるようです)があります。幅13m、落差133mの圧倒されるようなサイズの滝です。落差が日本1位だそうで、日本三名瀑としても有名でもあります。もともと宗教の場でもあったのですが、観光地としても有名なところです。
 私は、今回2度目の訪問となります。那智の滝は、周辺が熊野那智大社の社有林でもあり、滝自体は飛瀧神社のご神体となります。さらに周辺は、「那智原始林」と呼ばれて、古くから(1928年より)国の天然記念物に指定されています。そして2004年には、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」が決まり、那智の滝はそのひとつに加えられています。そのため、より観光客が多くなっているようです。
 人が多く訪れる観光地なので、狭く険しい山沿い場所なですが、周辺は整備されていて、滝を見るまでの道も整っていて、足下を気にすることになく見学ができます。ただし長い石の階段があるので、足腰の弱い人、足の不自由な方には、少々大変かもしれません。ただ多くの観光客が訪れているところなので、アクセスは非常にいいところだと思います。
 ところが、整備された観光地や通路は、地質学者にとっては、あまりありがたいことではありません。なぜなら、通路以外への立入禁止、石を詳しく見るため叩くこともできません。石の表面には風化、植生があって、本来の色や組織などの特徴が見づらくなっていることが多いです。「本当の地質学者」は、石を叩いて新鮮な面を出したいのですが、叩けないと観察に困ります。さらに保護されているところからは、石を採取したくてもできないので困ることになります。地質調査をするには、特別な許可が必要になります。
 しかし、私は「変な(偽の?)地質学者」なので、石や露頭は「みる」ことを中心にしています。記録を残すために、「とる」のは写真だけにしています。ですから、観光地でアプローチが良くなっているのは歓迎です。でも、石の新鮮な面が見えないは少々困りますが、まあなんとか石が見れれば、諦めがつきます。
 那智の滝に来たのは、石を見るためでした。ここには熊野酸性岩類が出ています。地質についての詳細は、別のエッセイである
http://geo.sgu.ac.jp/geo_essay/2009/53.html
を参照いただければと思います。
 那智の滝を構成している石には、近づけないのはわかっていました。ですから、ただ「みて」、自然や景観を「感じる」ことが目的でした。その目的は達成できました。

・本当と偽・
「本当の地質学者」であっても、
保護されていないところでも
やたらと石を叩いて割ったりするのは
控えるべきでしょう。
景観だけでなく、重要な露頭を損ねるような
試料採取は他の地質学者、後世の地質学者に対して
チャンスを減らしてしまうからです。
今では強くそう思うようになりました。
以前の私の姿がそうだったからです。
同業の地質学者の案内で
珍しい石の見学にいくと、
その度に試料を採取していました。
多くの地質学者にも同じような経験があると思います。
採取された試料の内どれくらいが、
その地質学者の研究材料になったのでしょうか。
なったとしたらそれは問題ないと思います。
私も博物館時代は、博物館の標本として
展示に使えるように採取しことはありました。
しかし、博物館以前は、研究材料としてというより
見聞を広げるため、土産代わり、
皆が採るからなどという、
今思えは無駄な、無謀な試料採取をしていたと思います。
もちろんいくつは薄片にして顕微鏡で観察し
研究に使用したものもあります。
しかし、多くの試料は死蔵されていました。
その石も、転居、転職によってどこかにいきました。
今思えば、貴重なもの、珍しいもの、
少ししかないものもありました。
いずれも「欲しい」という気持ちで採取していました。
反省しています。

・同じ画像なのですが・
観光地には、人を惹きつける何かがあります。
私は、観光地で石や地質がよく見られるところで
撮影することが多いです。
以前は人がいない瞬間までまって
シャッターチャンスを狙っていました。
最近では、人も景観の一部だと思うようにして、
対象物が隠れない限り、
人の存在をあまり気にしなくなってきました。
私自身が自然体になってきたのでしょうか。
それともよりよいものを目指す気力が
衰えてきたのでしょうか。
結果としては同じ撮影なのですが、
前者であることを願っています。