2013年7月4日木曜日

6_112 バイオミメティックス 2:先駆者

 バイオミメティックス「生物模倣」は、新しい考え方ですが、先駆者がいました。その成果は、今も身の回りに使われているマジックテープです。その後、いろいろな分野で研究が進められていますが、課題もあるようです。

 バイオミメティックスは「生物模倣」と訳されて、生物がもっている仕組みを模倣して、新しい技術や素材を開発していこうとするものです。新しい分野で、現在、盛んに研究されているものです。
 このような新しい研究分野ですが、50年以上前にバイオミメティックスを活用した先駆者がいました。
 先駆者は、機械工場で働いていたスイス人のジョルジュ・デ・メストラル(George de Mestral)でした。彼は、1941年にアルプスに狩猟旅行をしていました。山から降りてくると、自分のズボンや犬には、たくさんの野生のゴボウの種子(ひっつき虫とも呼ばれる)がついていました。種がくっつくことに興味をもったメストラルは、顕微鏡で詳しく調べていきました。種には、多数のフックがあることがわかりました。種のフックは、衣類のようなループをもったものや犬の毛には、非常にうまく付くことがわかりました。
 この仕組を利用した製品を、苦労の末に製造できるようにしました。特殊なナイロン製の糸を使って、一方にフックがついたもの、他方にループがついた布をつくりました。両者の布は、接着剤なしでくっつたいり、剥がしたりできる画期的なものでした。1951年に特許出願をし、1955年に認定されました。
 日本ではマジックテープという商品名として知られています。英語ではベルクロ(Velcro)と呼ばれていますが、これも商品名です。
 今ではマジックテープも、いろいろ進化しているようですが、孤立した技術でもあります。マジックテープが、残念ながら技術のイノベーションになることにはありませんでした。メストラルの仕事は、先駆的でしたが、このような発想をまねる研究は、残念ながらその後、続きませんでした。
 近年になって、やっとバイオミメティックスが注目されてきました。
 研究がなされるようになってきたのは、1970年代からで、まずは化学の分野でした。生物の仕組みを分子レベルと模倣しようとする、Biomimetic Chemistryと呼ばれるものでした。X線を用いる装置が発展して、生物の酵素や生体膜、分子の認識などの基礎研究が進みました。
 1990年代から2000年代にかけては、電子顕微鏡の進歩によって、μmからnm(ナノメートル)にかけての構造を観察できるようになりました。生物の構造は、実は階層的な仕組みがあり、それを解明し、ナノテクノロジーとして発展させようと考えられています。素材や材料の分野で、バイオミメティックスの研究が生まれて来ました。
 1970年代には、工学的な研究も並行して進んでいました。昆虫の飛行の仕組み、魚の泳ぎ、コウモリの位置探査のメカニズムなどの解明をしていくことで、流体力学、音響工学、センサー技術などに新しい知識を加えました。これらの成果は、多くの産業にすでに適用されてきました。
 現在、ナノテクノロジーのバイオミメティックスと、工学的バイオミメティックスが、どう融合させるかが課題となっています。バイオミメティックスは、まだまだ基礎研究ですので、着実に成果を積み重ねていくことが重要ではないでしょう。
 次回は、バイオミメティックスのいくつかの事例を紹介しましょう。

・マジックテープ・
マジックテープは商標名です。
製品名としては、
「面ファスナー」や「タッチファスナー」というそうです。
あちこちでみかける製品となっています。
マジックテープとしていろいろな改造や工夫はなされています。
しかし、マジックテープから、大きな技術の
発展や展開がなされることはありませんでした。
これをエッセイでは「孤立した技術」と呼びました。
本来、技術は、仕組みであれば、
いろいろ転用されていくはずです。
マジックテープは、くっつくことが目的となっています。
異質のものをくっつけるのには、接着剤があります。
それとマジックテープは方向性が違います。
バイオミメティックスでも
イノベーションとなるような発想が
みつかれば素晴らしいのですが。

・締め切り・
北海道の夏めいてきたので、
学生たちも夏休みを意識する頃でしょうか。
大学も前期の講義が終盤となりました。
やっと先が見えてきた感があります。
私は、ただただ多忙な日々を過ごしています。
今日はこれ、明日はあれを、
と日々の仕事をこなすことに
四苦八苦しています。
本来であれば、じっくり頭を使って
したいことがあるのですが、
なかなかその時間と余裕がありません。
でも、締め切りだけは着実に迫ってくるのですが。