2011年12月8日木曜日

2_99 先取権:古い化石 1

もう師走ですが、今回のシリーズは、今年の夏に流れたニュースからです。本当はもっと前から、その研究の口火は切られていました。研究の先取権とも関わっていますが、新しい発見は名誉なことでありますが、それよりすごいものが見つかると、その名誉もほんの一時のものとなります。あるいは以前のすごい発見に新しい発見を付け加えるとき、どう売り出すか。そんことが背景にある古い化石をめぐる話題です。

 今年の夏に、最い化石が発見されたというニュースがあちこちのメディアに流れました。ニュースを見た方もおられるでしょう。しかし、このニュースは最古の化石の新発見ではなかったのです。最古の化石は、以前にも別の研究者たちが、発表しているものなですが、このたびイギリスの科学雑誌「Nature Geoscience」のオンライン版にニュースが出たので、大きく伝えられることになりました。今回は、その化石をめぐるニュースを紹介しましょう。
 最古の化石探しの舞台に、グラーンランドのイスア周辺の38億年前の堆積岩が、たびたび登場していました。このエッセイでも何度か紹介しました。しかし今のところ、確実に化石だと認定さているものは、まだ発見されていません。
 少し時代は新しくなりますが、西オーストラリアのピルバラ地域も、最古の化石探しの舞台として、何度か重要な役割を演じました。ピルバラ地域には35億年前から29億年前の堆積岩が分布しています。グリーンランドより地の利があるのと、露出がいいので、調査はしやすい地域ではあります。ただし、荒野で岩石砂漠のような地帯なので、過酷な地でもありますが。
 1993年にピルバラの35億年前の地層から、小さな化石の発見の報告がありました。その後の再検討によって、化石の根拠、化石の種別や堆積環境の推定に疑問が起こり、一時はその信憑性が危ぶまれました。しかし、2000年代後半になって、相次いでこの地ので、化石の研究がなされてきました。最も古い化石として、2006年10月23日の科学雑誌「Nature」に、約35億年前のものが報告されました。東京工業大学の上野たちが発見されたもので、深海底の熱水噴出孔で生息するメタン生成菌であることを示されました。
 名古屋大学の杉谷や三村さんたちも調査を継続されてきました。杉谷さんたちは、2007年にはその成果を発表され、その後も研究を継続されてきました。2010年にはアメリカの科学雑誌「Astrobiology(宇宙生物)」で発表され、その重要さから、雑誌の表紙にもなっています。そのような地道な研究の結果、それらが化石であることが、受け入れられるようになりました。35億年前には化石に残るような生物がすでにいたことを、多くの人に認知されつつあります。
 今回のニュースは、西オーストラリア大学のワーシー(Wacey)らとイギリスのオックスフォード大学の研究グループによるものです。化石は、34億2600万から33億5000万年前に浅い海でたまった堆積岩(Strelley Pool層)からみつかたものです。杉谷さんたちが調べた地層と同じものです。ただ、杉谷さんたちは、チャートから化石を見つけました。一方、ワーシーたちは、チャート層より下にある砂岩から化石を見つけています。地質学的には下にある地層の方が古いので、ワーシーたちの化石の方が古い可能性があります。
 両チームの化石の産地は、数10kmも離れたところだそうです。地層の比較から、時代差は5000万年程度あるのではないかと、ワーシーらは見積もっていますが、そこには正確さはありません。ワーシーたちの成果は後発なので、発見した場所と岩石の種類の違いと、なによりも時代がより古いことを強調しています。そして、より権威のある雑誌に掲載されることで、ニュースバリューを持たせることに成功しました。
 どんな化石であったかは、次回、紹介しましょう。

・研究動機・
この地層での化石発見の先取権は
杉谷さんたちにあります。
もちろん地域が違うので別物という見方はできるでしょう。
後発の報告は、より大きな成果を謳わなければなりません。
その一つが、より古いことをより有名な雑誌で、
強調することになったのでしょう。
でも、杉谷さんたちの発見した化石の多様性の方が
多くなっています。
これはより詳細な調査を繰り返してきた証でもあります。
まあ、科学的にはだれが記録したかより
その化石が本物かどうか、
あるいはその化石の数や、多様性のほうが重要です。
しかし、科学は研究者がおこなうものですから、
人の営みには、動機が必要になります。
先取権は大きな動機になります。

・宇宙生物学・
杉谷さんたちの発表の舞台が
宇宙生物学の雑誌であったことは、
なかなか興味深いものです。
なぜなら、最古の化石は、
生命誕生に直結するような証拠となります。
最古の化石の発見された環境が
ある種の惑星でも達成できそうなものであれば、
地球以外でも生命が誕生した可能性を示せます。
ですから、最古の化石は宇宙に関わる研究者も
大きな関心を持っているのです。