2010年4月22日木曜日

3_89 ダイヤモンドアンビル:マントル7

 今回は、マントルシリーズの最後ですが、最新の情報をお届けします。それは、地球内部のあらゆる場所の物質合成実験が可能になったというニュースです。ダイヤモンドを使った手のひらサイズの実験装置です。そんな小さなものが偉業を達成したのです。

 高温高圧発生装置を利用したマントルの再現実験は、上部マントルからマントルの遷移層までの条件は達成できていました。しかし、もっと深部となるとなかなか難しいものです。なぜなら、同じタイプの装置でより深部を再現するには、高圧を発生しなければなりません。そのためには装置が大きくなります。また、温度を上げると保持する材質が高圧に耐えられなかったりして、なかなか困難なものとなっていました。
 それを克服する試みはいろいろなされてきたのですが、最新の話題として、東京工業大学の廣瀬敬さんを中心として開発された高温高圧発生装置を紹介しましょう。
 その装置は、それほど大きくありません。手のひらに乗るほどのサイズです。ダイヤモンドを利用する方法です。ダイヤモンドはそれほど大きくはありません。ダイヤモンドを二つ、先端のとがった方を同士を合わせて圧力をかけます。
 ハイヒールで足を踏まれると、普通の靴で踏まれるより、ものすごく痛いものです。それは、ハイヒールを履いた人の体重が、ヒールのとがったところにすべてかかると、その圧力は大きなものになるためです。このハイヒールの原理を利用するわけです。ダイヤモンドアンビル超高圧発生装置とよばれるもので、以前から利用されていました。この装置は、以前から高圧発生装置の中でも、もっと高圧を発生させられるものとして、利用されてきました。
 高価にも関わらずダイヤモンドを利用するのは、高圧を発生するために硬いので適しているのですが、そのほかにもいろいろメリットがあります。ダイヤモンドは透明なので、光を通すという特性が利用できることです。
 ダイヤモンドアンビルの場合、狭いところなので熱をどう発生するのかが問題となります。その問題をレーザーを使って解決しています。レーザーを透明なダイヤモンドの中を通して、先端の試料に照射して温度を上げてきます。これで、ある程度温度の問題も解決できました。問題は、どこまで温度や圧力を上げられるかです。
 特に圧力は狭い範囲にする必要があるので、固いダイヤモンドを精巧に加工する必要があります。廣瀬さんは、ダイヤモンドの先端を40μmほどの直径の円形の平坦な面をつくり、そこに20μmの試料をつめて実験を行います。そこまで加工精度を上げられたことが、廣瀬さんが長年取り組んできた成果でした。
 20μmの試料というのは非常に微小です。しかし、入舩さんも利用したSPring8での強力X線を用いることで、そのような小さなものの構造解析が、高温高圧を発生したままでおこなえるようになりました。
 廣瀬さんは、これまでに、ダイヤモンドアンビルの改良を加えながら、発生圧力を上げてこられました。2008年4月には、マントルの最下部の条件を達成しています。そこには、電気の通りやすい層(高電気伝導層と呼ばれています)があり、その層が地球の自転速度を変動させていることを明らかにしました。
 そしてとうとう、2010年4月5日に、広瀬さんたちは、364万気圧、5550℃という人類未踏の条件での実験に成功しました。実は、この条件は、地球の中心部(364万気圧、5000℃以上)を越えるのもでした。この小さなダイヤモンドアンビルのおかげで、地球内部のすべての条件を、再現することができるようになったのです。もちろん広瀬さんたちの技術をもってしてですが。この技術を利用して、今後いろいろな成果が出されることになるはずです。期待したいものです。

・シリーズが終了・
今回でマントル・シリーズが終了です。
本当は、マントルの全貌を紹介するために
はじめたつもりだったのですが、
ついつい後半は高温高圧発生装置の話になりました。
それは、4月になってすぐに
廣瀬さんの研究成果の発表があったためでした。
また、すでに報告されていた入舩さんたちの成果も
紹介してなかったことあって、
ついつい話が変わっていきました。
まあ、最新情報を織り込んでいますから、
ご容赦ください。

・ミクロとマクロの融合・
小さなダイヤモンドを利用する実験手法です。
しかし、そこには硬いダイヤモンドを、
高精度に加工し、レーザーを絞り正確に照射するという
最先端技術が必要になるあずです。
そして、なんといってもSPring8という大型の装置も
不可欠でした。
このシリーズで紹介したものは、
すべてミクロとマクロの融合してはじめて達成された技術です。
これらは、日本が世界に誇れる技術だと思います。