2010年4月15日木曜日

3_88 メガリス:マントル6

 マントルの遷移層までの実態が明らかになってきました。その物質は、よく知られているものでしたが、予想外の広がりをもって横たわっていました。それを解明したのは、SPring-8という巨大な装置でした。

 SPring-8を用いた入舩さんたちの実験を紹介している途中でした。それを続けましょう。
 入舩さんたちは、高温高圧条件においたマントル物質に、強力なX線をあてて、試料の長さを正確に測定しました。また、超音波を用いてその試料を通過する時間も正確に測定しました。この2つの測定データから、長さ/時間=速度ですから、その物質を波(弾性波)が伝わる速度を精度よく決めることができます。この弾性波速度が、地球では地震波速度に相当します。つまり、入舩さんたちは、マントル遷移層の地震波の様子を実験で再現することに成功したことになります。
 いくつかの候補の物質を用いて実験し、そこから求めた弾性波速度と、実際の地球の地震波速度を比べました。すると、マントル遷移層も上部マントルと同じカンラン岩であることがわかりました。その結果、遷移層が柘榴石が多いという説が否定されたことになります。これで、マントルの化学組成の問題がかなり限定されたことになります。
 また他にも、新たなことが分かってきました。遷移層の下部には、従来から想定されていたマントル物質ではない、ハルツバージャイトと呼ばれるカンラン岩があることが明らかになりました。
 ハルツバージャイトとは、カンラン岩の一種だですが、少々特殊で、普通のカンラン岩から玄武岩の成分が抜けたものです。このようなハルツバージャイトは、玄武岩組成のマグマである海洋地殻が抜けたあと、その下にあるマントルを構成していると考えられています。つまり海洋プレートの主たる成分と同じものが遷移層の下部にあるようなのです。
 これは沈み込んだ海洋プレート、メガリスと同等にものであると考えられます。メガリス自体は、地震波でもその姿は捉えられています。
 今回の入舩さんたちの報告は、メガリスの存在根拠を見つけただけでなく、実は重要な問題提起もしています。メガリスの成分(海洋プレートの残骸)が、深度650kmあたりに全地球的にたまっていることになります。
 しかし、メガリスは、沈み込み帯の先に形成され、ある一定時間が経過すると、下部マントルに落下していくもので、全地球的にあるものとは考えられていませんでした。地震波のデータもメガリスは一時的にある場所に形成されているように見えていました。
 ところが、入舩さんたちのデータは、全地球に数10kmから100kmの厚さで、ハルツバージャイトの成分があることを示しています。これは、メガリスが、すべて落ちてしまうのではなく、一部がマントル遷移層下部に残ってしまうことを意味しています。それが、長年にわたって蓄積されたため、プレートの墓場の層ができているのではないかと考えられます。これも、今後のさらなる検討が待たれます。
 入舩さんたちの高圧発生装置は遷移層までの条件しか到達できませんので、下部マントルについてはまだ実験がされていません。しかし、別の方法で、もっと深部まで実験に挑んでいる人たちもいます。それは次回としましょう。

・新たな謎・
入舩さんたちは、上部マントルと遷移層が
カンラン岩からできていることを示しました。
それは、マントルの上半分が化学組成に
大きな違いはないことを示しました。
一方、遷移層下部がハルツバージャイトであることを示し
化学的に不均質があることも示しました。
沈み込んだプレートがメガリスとして
マントル対流が完結させるはずでしたが、
しかし、地球はどうも残渣をマントルの境界に残していたようです。
その数10kmの残渣を科学者は捕らえたのです。
今までの議論があったところは解決したのですが、
新たな謎を提示したことになります。
こんな繰り返しが、科学の進歩といえます。

・日常・
やっと研究の態勢が整い、
日常と呼べるものが始まりました。
校務の束縛がなく、
やりたいことを中心に生活ができる幸せを感じています。
家族と離れる寂しさがありますが、
メールと家族間の無料通話で連絡を取っています。
やるべきことも進めなければなりません。
それは、深く考えて論文を書くことと、
調査のために野外に出ることです。
しかし、野外での地質調査は、
5月以降から始めるつもりですが、
市内のいろいろな名所や風物を
見て回ることも目的としています。
その散策も日常に組み入れる必要があります。
それも考えているところです。