2008年12月25日木曜日

2_74 DNAの解読:マンモス5

 今年のエッセイも、今回が最後となります。マンモスシリーズも、今回が最後です。マンモスのDNAの解読からわかったことを見ていきましょう。

 アメリカとロシアの研究グループが、マンモスのDNAを大部分を解読したと、Natureという科学雑誌の11月20日号に発表しました。今回の報告では、2頭のマンモスの毛の細胞から、核の中のDNAが採取され分析されました。以前にマンモスの毛から採取したミトコンドリアのDNAを解読したという研究はありましたが、細胞の核の中のDNAの解読は、今回が初めてのことでした。
 マンモスのDNAの分析に用いる素材として、毛を用いたことが、DNAの破損や他のDNAの汚染を回避する決め手になったようです。その理由は、マンモスの毛は、プラスチックのようなもので、細胞の入れ物として非常に頑丈なようです。そのような頑丈の入れものに入っている毛の細胞は、分解することなく、他の生物の細胞によって汚染されることからも保護されていたようです。
 さて、解読されたマンモスのDNAを見てみていきましょう。
 マンモスのDNAは約40億対の塩基から構成されていました。このようなDNAのサイズは、現生のアフリカゾウでも見られる特徴と同じでした。今までもいわれてきたのですが、現生のゾウとケナガマンモスは、DNAレベルで非常に似ています。ヒトとチンパンジーが似ているといわれていますが、その違いは1.24%なのに対し、ゾウとマンモスの違いは0.6%となり、その類似性がわかります。
 2個体のマンモスのDNAを比べると、遺伝子の多様性が非常に乏しいことがわかってきました。たった2頭のデータから結論を下すのは少々危険な気がしますが、もしこれが全マンモスの特徴を現しているとすると、ある重要な推定ができます。
 遺伝子における多様性の大小と、その種全体のもっている環境変化への適応性の大小が、対応する可能性があるからです。もし、この推定が正しければ、マンモスの絶滅が、遺伝子の多様性の少なさに由来するかもしれません。
 遺伝子の多様性が大きければ、もしなんあらかの環境異変が起きたとすると、その異変に対処できた遺伝子を持つ個体が生き延びて、なんとか種を維持していくことができます。ところが、遺伝子の多様性が小さい種は、病気や環境変化などに対して弱く、一気に絶滅してしまう危険性を秘めていることを意味します。
 前に紹介したように、マンモスの絶滅の時期は、氷河期が終わって暖かくなっていくという気候変動が起こった時代であります。一般的に考えれば、マンモスのような草食動物には、草がいっぱい生えて棲みよい環境に変わっていったはずです。マンモスは繁栄してもいいはずなのに、なぜか絶滅しました。だから、環境変化ではなく、別の原因で絶滅したのではと、今まで考えられていました。
 しかし、今回の報告で、遺伝子の多様性の乏しいことがわかったので、環境変化によって、たとえば植生の変化や病原菌の発生などが起これば、マンモスはすぐに絶滅する危険性をはらんでいたことになったのです。
 遺伝子の多様性が大きいということは、異端も含むことになります。平時には、異端は種にとって波乱を起こし、ありがたくないことも存在かもしれません。しかし緊急時にこそ、そのような異端が種の継続に重要な役割を果たす可能性もあります。そのような異端や多様性のなさが、マンモスを絶滅に追いやったのかもしれないのです。つまり、マンモスの純血さゆえに、滅びさったのかもしれません。

・ほぼすべて・
前回、マンモスの全DNAを解読したと紹介しましたが、
私の勘違いで、ほぼすべてのDNAの解読の間違いでした。
全DNAの内、5分の1ほどは、まだ解読されていませんが、
あと数回の装置によるスキャンをおこなえば、
数年後には解読されるはずだとされています。
しかし、絶滅種の核のDNAが解読されたのは、
今回が初めてのことでした。
これは十分、意義のあることです。
他の絶滅種でも、適切な素材さえあれば、
DNAの解読ができることが証明されたのです。

・DNAとゲノム・
本エッセイではDNAという言葉を使いましたが、
ゲノムという言葉が使われることがあります。
DNAは核やミトコンドリアなどにある塩基の対から構成されるものです。
DNAは、4種の塩基ができていますが、
その3種の組み合わせで遺伝情報が書かれています。
その遺伝情報が発現すると何らかの形質を生みます。
もちろん遺伝情報は、複製可能です。
このようなDNAの中で意味を持つ遺伝情報が
遺伝子と呼ばれています。
ゲノムとは、DNAに記録されている遺伝子全体のことです。
DNAとゲノムが混在すると、呼んでいて混乱するので、
本文では、ゲノムではなくDNAに統一して書きました。

・来年は・
今年は、夏から秋にかけて、体調不良でした。
11月あたりから体調は戻ってきたのですが、
ぱっとしない一年だったような気がしました。
いまさら、それを悔やんでも仕方がないのですが、
来年こそは、体調に気をつけて過ごしていこうと思っています。
今回が今年最後のエッセイです。
よいお年をお迎えください。