2007年5月31日木曜日

6_58 年々歳々:諺・慣用句3

 地球時間の流れを読んだ詩を知りました。それは実は日本人ならよく知っている「年々歳々」という言葉に込められていました。

 北海道では、桜やツツジは終わりましたが、リンゴや八重桜の花が咲いています。もうじき、ヨサコイ祭りやライラック祭りなどの初夏の行事がはじまります。毎年同じ季節に咲く花をみると、「花相似たり」という言葉を思い浮かべます。
 そして、「花相似たり」の前には「年々歳々」ときます。諺・慣用句ではないのですが、「年々歳々」という言葉をきくと、ついつい「花相似たり」や「人同じからず」という言葉が続いて浮かびます。高校の漢文で習ったものですが、その他の部分は、すっかり忘れていました。「年々歳々 花相似たり」を思い出して、調べてみました。その詩は、実は地球時間を詠ったものでした。
 唐詩選の巻2に劉廷芝(りゅうていし)の「代悲白頭翁(白頭を悲しむ翁に代る)」という七言古詩があります。その詩に「年々歳々花相似 歳々年々人不同」という一節があります。
 「年々歳々花相似たり 歳々年々人同じからず」と読みます。「毎年毎年、花は同じように咲く。しかし、毎年毎年、人は変わっていく」という意味です。老人が白髪を悲しんでいることを詠んだ詩です。この詩では、植物は毎年変わることなく花を咲かすのに、人は年々変わり、そして老いてくということをいっています。
 論理的に考えれば、このような比較が必ずしも正しくないことがわかります。まず、比較している対象が、植物の花(桜や桃、松、柏、桑)と動物のヒトを比べています。生物種の違うものを比べて導いた結論が、果たして正しいといえるでしょうか。また、植物とヒトとは、違った時間の流れで一生を送ります。ですから、異質なものを比べて嘆いてもしかたがないはずです。
 どのような種であっても、種一世代で考えれば、植物だって老化し、花は咲くなくなり、枯れて死にます。どのような生物だって、ヒトと同じような老いや死を迎えます。その死の時期やタイプは、生物種によって違ってきますが、死は生物が本来持っている属性であります。死があるからこそ、生が定義できるのです。こう考えると、より普遍的な比較をすれば、共通項が導き出せ、自然の摂理というものいきつきます。
 また、地球に流れる長い時間スケールで見れば、大地は海になり、海に溜まった地層は大地になることだってあります。
 実は、劉廷芝は同じ詩の中で、「已見松柏摧爲薪 更聞桑田變成海」と詠んでいます。「已(すで)に見る松柏の摧(くだ)かれて薪(たきぎ)と為るを 更に聞く桑田の変じて海と成るを」という意味です。
 松や柏だって、くだかれて、たきぎとなり、桑の畑だって、海になることもあるのです。植物や大地も、長い時間の流れで見れば、生命として必然としての死、あるいは大地も海へと移ろうのだといっているのです。これは、地球時間で、大地や生物の移り変わりを見ていたのではないでしょうか。
 こう読んでいくと、この詩もなかなか奥深く感じます。まあしかし、詩というものは、その科学的背景をいちいち問うものではなく、感性で読むものでしょうがね。

・代悲白頭翁・
劉廷芝の代悲白頭翁の全文を
(http://www.geocities.jp/sybrma/29ryuuteishinoshi.htmより
引用させていただきます。

洛陽城東桃李花  洛陽城東 桃李の花
飛來飛去落誰家  飛び来たり飛び去つて誰が家にか落つる 
洛陽女兒惜顔色  洛陽の女児は 顔色を惜しみ
行逢落花長歎息  行くゆく落花に逢ひて長歎息す
今年花落顔色改  今年(こんねん)花落ちて顔色改まり
明年花開復誰在  明年花開いて復た誰(たれ)か在る
已見松柏摧爲薪  已(すで)に見る松柏の摧かれて薪(たきぎ)と為るを
更聞桑田變成海  更に聞く桑田の変じて海と成るを 
古人無復洛城東  古人 復た洛城の東に無く
今人還對落花風  今人 還た対す 落花の風
年年歳歳花相似  年年歳歳 花相似たり
歳歳年年人不同  歳歳年年 人同じからず
寄言全盛紅顔子  言(げん)を寄す 全盛の紅顔子
應憐半死白頭翁  応(まさ)に憐れむべし 半死の白頭翁
此翁白頭眞可憐  此の翁白頭 真に憐れむべし
伊昔紅顔美少年  伊(こ)れ昔 紅顔の美少年
公子王孫芳樹下  公子王孫 芳樹の下(もと)
淸歌妙舞落花前  清歌妙舞す 落花の前
光祿池臺開錦繍  光禄の池台に 錦繍を開き
將軍樓閣畫神仙  将軍の楼閣に 神仙を画(えが)く
一朝臥病無相識  一朝病(やまい)に臥して相(あい)識る無し
三春行樂在誰邊  三春の行楽 誰(た)が辺(ほとり)にか在る
宛轉蛾眉能幾時  宛転たる蛾眉 能く幾時ぞ
須臾鶴髪亂如絲  須臾(しゅゆ)にして 鶴髪乱れて糸の如し
但看古來歌舞地  但(ただ)看る 古来歌舞の地
惟有黄昏鳥雀悲  惟(ただ)黄昏(こうこん)鳥雀の悲しむ有るのみ

自然の摂理を歌ったなかなか含蓄ある詩ですね。

・今年の5月・
北海道は、暖かい日や寒い日が繰り返します。
暖かい日は初夏を思わせ、
寒い日はコートが欲しくなります。
寒い日に半袖のTシャツの学生が寒そうに震えながら、
「こんな天気じゃ風邪をひきそうだ」といってました。
私は、コートを着たり、脱いだりを繰り返しています。
日が出て昼間は暑くても、朝夕は冷え込むことがあります。
今年の5月は、どうも対処の難しい気候でした。