2006年3月9日木曜日

3_44 雪考5:豪雪

 雪考シリーズの最後の回です。2006年の冬の豪雪は、いったいなぜ起こったのでしょうか、考えていきましょう。


 2006年3月1日、気象庁は、2006年の冬(2005年12月~2006年2月まで)に発生した大雪について、「平成18年豪雪」と命名しました。積雪を観測している339地点のうち23地点で、積雪の最大記録を更新しました。冬平均気温は、北・東・西日本ですべて低温になりました。12月の平均気温では、1985年以来20年ぶりに全国すべての地域で低温となりました。さらに、東・西日本では1946年以降の最低記録を更新しました。記録づくめの冬となったわけです。
 冬に雪が降るのは、分かりやすい理由があります。冬は北半球では太陽の光が傾き、日射量が減ります。大陸と海洋を比べれば、大陸は冷えやすく、海洋は冷えにくくなっています。
 大陸が冷やされ、シベリア東部から中国北部で冷たいシベリア高気圧が形成されます。シベリア高気圧は、南はヒマラヤ山脈にさえぎられているため、発達していきます。一方、暖かい太平洋(アリューシャンの南側)では温帯低気圧(アリューシャン低気圧と呼ばれます)ができます。
 このような状態は、日本から見ると西高東低の冬型の気圧配置になっています。大陸のシベリア高気圧から流れ出した乾燥した冷たい空気は、日本海上空で湿気おび、加熱されて、白い筋状の雲となって日本に流れ込んできます。この湿った空気が、日本の日本海側の山脈にぶつかり、雪を降らせます。
 豪雪となったは、シベリア高気圧とアリューシャン低気圧の気圧差が大きかったこと、そしてが西高東低の冬型気圧配置を持続していたこと原因だと考えられます。
 今年のシベリア高気圧とアリューシャン低気圧は、ともに非常に強く、大きな気圧差ができていました。気圧差が大きいと、風が強くなります。日本では、冬の季節風が強くなります。その気圧差が平年の1.6倍もありました。このように発達したシベリア高気圧とアリューシャン低気圧ができると、上空では北極域の寒気が中緯度まで流れ込みやすい状態となります。この2つの発達した気圧が、今年の豪雪の重要な要因となりました。
 西高東低の気圧配置を持続していた理由は、もともの冬型の気圧配置とは持続されやすい条件にあります。日本列島は、南西から北東に吹く偏西風の範囲にあり、上空の強いジェット気流が蛇行することによって、四季に変化を起こします。この蛇行は、偏西風波動と呼ばれています。春と秋には、6つから8つの山や谷をもっていますが、夏と冬には、2つか3つの波動になります。この波動が東に進んでいきます。つまり冬には、波動が少なく、波動の移動速度も遅く、冬型の気圧配置がしばらく続くことになります。
 それに加えて、強く発達したシベリア高気圧とアリューシャン低気圧が、偏西風波動を長く持続したのではないかと考えられます。
 今年の冬は気象庁が豪雪を命名するほどのものでした。記録づくめではありますが、実はこのような雪の多い冬は何度もあったはずです。年配の人は、今年のような大雪を何度か経験しているはずです。
 北海道では、昨年も大雪に見舞われて、雪捨て場に困るというニュースがたくさん流れていました。今年も昨年同様に大雪でした。しかし、長年雪と戦った経験と、昨年の苦い経験があるため、さらに本州の豪雪があまりに記録的だったので、北海道の豪雪はそれほどニュースになりませんでした。ここ数年暖冬だったので、油断していたのかもしれません。それに地球温暖化という言葉が流布しているために、冬も温かくなっていくという先入観があったのでないでしょうか。
 今回の豪雪が、日本の気候、自然の驚異と恵みについて考えさせてくれるきっかけとなること願っています。

・平成18年豪雪・
5回に渡った雪考シリーズも、やっと終わりました。
先週気象庁は「平成18年豪雪」と命名しました。
地震と豪雨には命名のための基準がありますが、豪雪についてはありません。
そのため、豪雪という命名は、あまり前例がなく、
1963年の「昭和38年豪雪」以来、43年ぶりとなります。
昭和38年豪雪による死者は18道県で118名になりました。
その他にも豪雪と呼ばれているものがありますが、
それは気象庁が正式に命名したものではありません。
例えば、1981年冬の通称「56豪雪」では、152名の死者・行方不明者があり、
1984年冬の通称「59豪雪」では、131名の死者・不明者数となっています。
昭和38年豪雪以上の被害があったのです。
今回の平成18年豪雪では、屋根の雪下ろし、除雪作業中の事故等により、
139 名(2月28日現在、消防庁調べ)の死者・行方不明者が出ています。
今回の豪雪は、本当に記録的な出来事だったのです。
今年の豪雪で亡くなれた方のご冥福を祈ります。

・経験の継承・
気象現象とは、毎日、毎年、同じように繰り返し起こるものです。
毎日、日が昇ると暖かくなり、日が沈むと寒くなります。
毎年、梅雨があり、夏は暑く、秋には台風が来て、冬は寒くなります。
このように気象現象とは、大局的に見れば、
同じ繰り返しをしています。
しかし、ご存知のように、毎日、そして毎年、その様子は違っています。
海洋、大気、地形など地球表層を構成するものが、
いかに複雑に変化し、
そして相互作用を及ぼしあっているかということを教えてくれます。
そんな複雑な連鎖が、暖冬や豪雪を生んでいます。
気象庁が、災害に命名するのは、
「大規模な災害における経験や貴重な教訓を後世代に伝承する」
なのです。
でも、人間は知恵があり、その知恵で自然との闘っています。
そんな闘いの経験を継承するためにも、
災害に名前をつけて、記憶、記録していくことも重要なのでしょう。