2003年1月9日木曜日

6_20 1月の誕生石

 1月の誕生石は、ガーネットです。和名としては、柘榴石(ざくろいし)という名称があります。しかし、今では、ガーネットのほうが普及しているようです。そんなガーネットの話を、今回はしていきましょう。

 ガーネットは、英語のgarnetを、そのままカタカナ書きしたものです。ガーネットの和名は、石榴石です。和名の石榴石は、文字が示すように、ガーネットの結晶は、集合して出ることが多く、そのようすが石榴の種(たね)のようにみえることから、つけられたものです。
 ガーネットは、立方晶系に属する鉱物です。ガーネットそれ自体は、結晶でひとつの鉱物ですが、単一の成分からできているのではなく、6つの成分の組み合わせでできています。このように、ひとうの結晶だけれど、いくつかの成分(端成分(たんせいぶん)といます)をもち、その間の成分の混合比が自由にとれる結晶を固溶体(こようたい)といいます。
 カーネットは、岩石をつくる代表的な鉱物(造岩鉱物)のなかでも、複雑な成分を持つものです。6つの端成分は、パイロープ、アルマンディン、スペサルティン、ウバロバイト、グロッシュラー、アンドラダイト、です。
 パイロープ、アルマンディン、スペサルティンの3成分は、連続に成分が変化していく固溶体をつくる系列で、これを3つの端成分の頭の文字を並べて、パイラルスパイト(pyralspite)とよぶことがあります。最後の2成分、グロッシュラーとアンドラダイトも連続的な固溶体の系列をつくり、グランダイト(grandite)と呼ぶことがあります。しかし、パイラルスパイトとグランダイトとの2つの系列は、完全な固溶体をつくりません。
 6つのそれぞの端成分に近いガーネットは、特徴をもち、出る場所もちがっています。
 パイロープ(pyrope、Mg3Al2(SiO4)3)は、苦礬(くばん)石榴石という和名をもちます。マグネシウムとアルミニウムを、主成分としています。パイロープは、高圧変成岩やカンラン岩からみつかります。淡い桃色から、血のような赤色を示します。
 アルマンディン(almandine、Fe3Al2(SiO4)3)は、鉄礬(てつばん)石榴石よばれ、鉄とアルミニウムが主成分です。アルマンディンは、変成岩や酸性火成岩に広く見られる鉱物で、石榴石の仲間で、もっともふつうにみられるものです。暗い赤色から、暗い褐色をもちます。四方に尾をひいた星のように輝くスター効果をもつものもあります。
 1月の誕生石のような宝石として、ガーネットとされものは、アルマンディンからパイロープ、そしてその間の固溶体である(ロードライト、rhodoliteとよばれることがあります)の3種です。
 スペサルチン(spessartine、Mn3Al2(SiO4)3)は、満礬(まんばん)石榴石とよばれ、マンガンとアルミニウムを主成分としています。スペサルティンは、マンガンをたくさん含む結晶片岩や、マンガン鉱床帯、酸性火成岩にでます。黄橙色から、赤褐色の結晶で、宝石として利用はされません。
 ウバロバイト(uvarovite、Ca3Cr2(SiO4)3)は、灰クロム石榴石とよばれ、クロムとカルシウムが主成分です。ウバロバイトはクロム鉄鉱床や接触変成岩にでます。色は、緑色あるいはエメラルドグリーンなのですが、結晶がごく小さいため、宝石としてもちいることができません。
 グロッシュラー(grossular、Ca3Al2(SiO4)3)は、灰礬(かいばん)石榴石とよばれ、カルシウムとアルミニウムが主成分です。グロッシュラーと次に説明するアンドラダイトは、石灰質堆積岩が熱変成や広域変成作用を受けたときに生成されます。グロッシュラーは、白色から褐色ですが、南アフリカでとれる緑色のものは、産地名をとって、トランスバール・ジェードとよばれて、珍重されています。
 アンドラダイト(andradite、Ca3Fe2(SiO4)3)は、灰鉄石榴石という和名を持ち、カルシウムと鉄が主成分です。この石榴石は、成分や色(黄緑から黒色が多い)が、広い範囲で変化します。アンドラダイトは、上で述べた変成岩だけでなく、アルカリ深成岩に出ることがあります。黒く不透明なものは黒ザクロ石とよばれ、イタリアから産する透明な黄色のものは、トパーズに似ているためトパゾライトとよばれることがあります。
 美しい結晶は宝石として用いますが、宝石とならないものは、硬度6~7.5ですが、研磨材として用いられています。最近では、石榴石構造の合成結晶としてYAG(化学組成Y3Al5O12)やYIG(化学組成Y3Fe5O12)が、レーザー発生のための素子や、磁性体として広く用いられています。

・石榴・
ガーネットをいまや、石榴石と書く人はほとんど見かけません。
ちなみに、このエッセイでは、あえて、
和名の石榴石という書き方をしてみました。
しかし、和名の「石榴石」を、
「ざくろいし」と読める人は、どれほどいるでしょうか。
果実である石榴を見たことのある人は、どれほどいるでしょうか。
まして、石榴を食べてみて、その味を知っている人は、
どれくらい、いるでしょうか。
そのような現状を考えると、和名の柘榴石が使われなくなったのは、
仕方がいないことかも知れません。
古くからの和名が、消えていくこと、
それは、単に鉱物名が、カタカナになったというだけでなく、
石榴という、文字、そして自然、文化が
消えていきつつあることを象徴しているのかもしれません。

・ガーネットの赤1・
ガーネットの和名は、柘榴石でした。
英語のgarnetの語源は、ラテン語のgranatusです。
これは、「種(たね)をもつ」という意味で、
日本語と似た語源となっています。
ガーネットは古くから宝石として使われた結晶のようです。
古代エジプト遺跡からは、ガーネットを彫刻したものが出土します。
ギリシア・ローマ時代には、お守りとして用いられたようです。
それは、ガーネットの赤色が、血を連想させるため、
負傷から身を守ると考えれました。
血の色を嫌うのではなく、血の色が身を守ると考えたのです。
ものは、考えようです。
中世の十字軍兵士も、戦場におもむく時、
赤い小さいなガーネットを好んで身に着けたと伝えられています。
そのような丸く小さくカットされたガーネットは、
カーバンクル(carbuncle)と呼ばれています。

・ガーネットの赤2・
ガーネットの赤は、真実、友愛、忠実を象徴しているといいます。
非常にすばらしい言葉をもつ宝石です。
ガーネットも身につけている人は、
真実、友愛、忠実を持っている人でしょうか。
それとも、ガーネットにあやかって、
真実、友愛、忠実を身に着けたいのという
潜在的な願望を示しているのでしょうか。
これも、ものは考えようですね。