2020年9月24日木曜日

1_186 初期重爆撃期 3:アパタイト

 論文では、隕石中の微小な鉱物で年代測定をしています。その鉱物は、丈夫な鉱物ではあるのですが、ある程度の温度で変成を受けてしまいます。その特徴を逆手にとって、温度と年代を利用しようというアイディアです。



 年代測定には、アパタイト(燐灰石)という鉱物が利用されました。アパタイトは、リン酸カルシウムという鉱物で、その化学組成は、Ca5(PO4)3F(一部ハロゲン元素を含むことがあります)となっています。いったん結晶が形成されると、変成や変質でも壊れにくい、かなり丈夫な鉱物です。ですから、変成作用などを受けた古い時代にできた岩石でも、もとの化学組成や年代を残しています。

 アパタイトは、もっと丈夫な鉱物と比べると、変成作用などによる温度の影響を受けやすくはなっていますが、もっと弱い鉱物よりは高温まで情報を保持しています。論文では、このような中間的な温度条件で影響を受けるアパタイトの特徴を利用して、変成温度に着目した年代測定がなされ、その温度と年代の意味を考えています。

 アパタイトの成分の一部(Caの部分)が、ウラン(U)に置き換えられることがあります。ウランには放射性をもった成分(核種といいます)が含まれており、その放射性核種を用いることで年代測定ができます。ウランの年代値から、アパタイトが形成された年代と、変成をうけた年代が読み取れることになります。

 この論文では、変成作用でウランが固定される温度(閉鎖温度といいます)に着目しています。アパタイトの閉鎖温度は、かなり高温(約450℃、論文では「中程度に高温」と表現されます)になっています。高温(900℃)で閉鎖するジルコンの年代測定(U-Pb法)や、低温(300℃)の斜長石の年代測定(K-Ar法)と比べて、アパタイトの450℃という温度は、中間的な温度の重要な手がかりとなります。

 ただし、隕石の中のアパタイトは非常に小さい結晶しかないので、年代測定も困難です。それを分析するためには、小池さんたちは、二次イオン質量分析計(SIM)というものでも、微小部分の分析ができるナノスケール二次イオン質量分析計(NanoSIM)という特別な装置を用いて分析されています。10μm程度の部分があれば年代測定が可能です。アパタイトの閉鎖温度と年代から、隕石が経てきた履歴を読み取ることができます。

 その年代値については、次回としましょう。


・秋の訪れ・

全国的でしょうが、一気に秋めいてきました。

北海道も、涼しくなり、朝夕は厚手の上着が欲しくなります。

気の早い家庭では、もうストーブを

たいているところもあるようです。

我が家はまだですが。

寒い夜に冬物の半纏を着ましたが、

ちょうどいいくらいでした。

今年は、暑さ寒さの変動が激しいようです。


・後期授業・

大学の後期の授業では、やっと一部ですが、

対面授業が戻ってきました。

対面授業の中で、落ち葉を用いるものがあるのですが、

あと2週で、紅葉が進み、落ち葉ができるが心配です。

毎年の心配していることですが

今年は、対面授業ができる喜びの方が大きです。

ただ、多くは遠隔授業の方が多いので、

その準備に、これから毎日、追われることになりますが。

2020年9月17日木曜日

1_185 初期重爆撃期 2:HED隕石

 石質隕石のうち、分化したHEDと呼ばれるグループは、小惑星ベスタから飛んできたのではないかと考えられています。HEDのなかでも玄武岩質ユークライトを調べることで、ベスタの地殻の情報が読み取られます。

 専門的論文をみていくのに、まず、隕石の紹介からはじめていきましょう。
 この論文では、隕石でも少々特異な種類に注目され分析されています。隕石の種類には、石質隕石、鉄隕石、両者が混在した石鉄隕石の3つに区分されています。一番多いのは石質隕石ですが、それぞれの隕石はさらに細分されています。
 隕石は、それを供給した天体(母天体と呼ばれています)があると考えられています。その天体が成長していき、ある時破壊され、その破片が地球に落ちてきたのが隕石となります。隕石の中で似たものは、同じ母天体から由来したと推定されています。
 成長していった母天体では、鉄が溶融しが落下、中心部に集積していき、核にが形成されていきます。核の部分が砕けると、鉄隕石の起源となります。石鉄隕石は、核とマントルの境界や鉄の集積途中にあたる部分から由来していることになります。
 石質隕石には、球状の粒子(コンドルール)が集まったコンドライトと呼ばれるものと、粒子がないエイコンドライトに区分されます。隕石の大半はコンドライトです。コンドライトは、太陽系の最初に形成された固体物質の集合体で、惑星や衛星などの材料になったものと見なされています。最初の固体が集まった組織が残っているので、母天体があっても、変成や溶融が起こることなく、成長していない小さい天体から由来したことになります。
 一方、エイコンドライトは稀なタイプです。エイコンドライトは、溶融した特徴をもっており、成長した母天体から由来したことになります。エイコンドライトにもいくつかの種類があり、その中で半分近くを占めるのが、HED隕石(ホワルダイト、ユークライト、ダイオジェナイトの頭文字をとったグループ)です。このHED隕石のグループの母天体は、小惑星ベスタの地殻に由来したと考えられています。
 HED隕石の研究すれば、小惑星ベスタの実態が明らかにあります。年代から、ベスタが激しい火成作用で結晶化した時期が、約44.3億年前から45.5億年前と推定されています。溶融し分化した隕石なので、当然、惑星として内部に層構造(核、マントル、地殻)ができていたり、地殻には火山岩である玄武岩もありました。かつては、火山活動をしていた可能性があることもわかってきました。
 今回の論文で分析されたのは、ベスタを母天体とするユークライトでも玄武岩質ものでした。これらを知らべることは、ベスタの惑星表層の地殻を探ることになります。論文では、5つの玄武岩質ユークライトと調べられています。その3つ(Juvinas、Camel Donga、Stannern)は角礫状で、他の2つ(AgoultとIbitira)は角礫化していないものです。

・隕石は人を選ぶ・
小さな隕石でも、珍しい種類もあり、
そこから読み取れる情報は、貴重なものになります。
素材は小さいですが、読み取った情報は
惑星形成や太陽系の創世期の重要な証拠となります。
小さいですが、貴重な試料です。
隕石から情報を読みとるためには、
施設や機材を備え、それを扱える研究者でなければなりません。
そしてなにより、アイディアが必要になります。
隕石の研究は、人を選びます。

・博物館にて・
博物館に在籍しているときは、
業務として多様な隕石を集めていました。
その結果、いろいろな隕石を肌で感じることができました。
しかし、隕石からの情報は、
高度な分析装置を用いてしか読み取ることができません。
博物館では、専門家の研究のために
試料を提供することもありました。
しかし貴重な展示用資料でもあるので、
誰にでもというわけにはいきませんでした。
日本では、極地研究所があり、
南極で採取した大量の隕石を収蔵しています。
目的をもった研究者には無料で提供されます。
また、研究設備も整っています。
今の研究者は恵まれた条件が提供されています。

2020年9月10日木曜日

1_184 初期重爆撃期 1:専門誌の論文

 専門誌に紹介された論文で、興味深いものが掲載されました。専門論文は、限られたコミュニティ内でのものなので、前途となる知識がそれなりにないと意味が理解できません。今回はそんな論文を紹介します。

 地球、あるいは太陽系惑星の形成過程に再考を迫る重要な論文が報告されました。地球・惑星科学の専門誌である"Earth and Planetary Science Letters"の9月号(電子版には2020年8月26日公開)に掲載されたものです。
 Evidence for early asteroidal collisions prior to 4.15 Ga from basaltic eucrite phosphates U-Pb chronology
 (玄武岩質ユークライトのリン酸塩のU-Pb年代測定から41億5000万年前より以前の初期重爆撃期の証拠)
というタイトルの論文でした。広島大学大学院の小池みずほ助教らの研究グループによる成果です。専門誌なので専門家のための論文になり、タイトルだけでは、一般の人にはその意義がなかなか理解できないものになっています。まあ、これが専門誌の役割でもあります。
 まず、この論文のタイトルを理解するためには、玄武岩質ユークライトとリン酸塩の年代測定、41億5000万年前より以前という年代、重爆撃期というものを理解していないとなりません。
 少し詳しくいうと、玄武岩質ユークライトという隕石の種類があるのですが、論文内では、角礫化していないものと、しているものでの年代測定をして比較しています。また、年代測定に利用されたのは、リン酸塩なのですが、アパタイトと呼ばれる微小な鉱物でした。そもそもアパタイトとはどのような鉱物で、なぜ年代測定に用いるのでしょうか。年代測定には、SIMという装置(この論文ではNanoSIM)という特別な装置を用いて、微小なアパタイトが分析されています。年代として、41億5000万年前というものと、それ以前の意味するところ、また重爆撃期には初期と後期があるので、年代とどう関係がるのでしょうか。これらのいろいろなことを理解していないと、次の段階へ進めません。
 この論文は、ある種の隕石から得られた年代から、今までの惑星形成の一般的なシナリオに対して修正を迫る内容となっています。次回からは、上の専門的な内容を紹介ながら、論文の意義も示していきましょう。

・専門誌・
専門誌に掲載される論文は、
専門家のコミュニティだけでの
成果報告とその評価の場に提供されるものです。
同じ専門誌に多数の掲載された論文でも
雑誌がカバーする分野が広ければ、
自身が興味を持っている分野以外は
なかなか理解が難しいこともあります。
今回の論文でいうと、隕石、年代測定、惑星形成過程など
それぞれに関する基礎知識がないと、
その意義は理解できません。
専門誌の論文は、読む人も選びます。

・自然災害・
大型の台風10号が沖縄から九州を襲いました。
大型であったので、早くから特別警報がだされ、
その後も各地で警報が続きました。
九州や四国、中国では、洪水や停電の被害もでたようです。
お見舞い申し上げます。
幸い北海道は大きな影響を受けまぜんでした。
夏の暑さから一転、台風の被害です。
自然災害がここ数年繰り返されています。
しかし、気象の観測技術が向上して予報が正確になっても
やはり最終的に個々の人の判断が重要になってきます。

2020年9月3日木曜日

4_154 支笏の森で昼食を

 新型コロナウイルスの猛威はとどまりません。北海道も下火ではありますが、まだ抑えられていません。大学では自粛が継続しているのですが、久しぶりに私的に市外へ出かけました。

 先週の平日、一日、休みをとって、人気のなさそうなところで、好きなコースを巡ることにしました。今年は、8月下旬に北海道では蒸し暑い日が続いたので、避暑として一日涼みにいくことにしました。恵庭の市街地から漁川を遡り、支笏湖を周って、千歳川を千歳の市街地へと下るコースです。このコースには、漁川沿いには、いくつもの滝があり、千歳川沿いには、きれいな川による景観が広がっています。気温に関係なく、清涼感があるところです。それに標高もかなりあるので、外界よりは涼しいはずです。2、3年に一度は、この気に入ったコースをドライブします。
 支笏湖周辺には温泉や旅館も多数あり、またキャンプ場もいくつもあるので、短時間でも宿泊でも、さまざまな時間で楽しむことできます。今回は、標高の高い支笏湖の涼しいところで、昼食を食べるという短時間のドライブを予定していました。
 まだコロナ禍なので、人出は少ないだろうなと考えていました。漁川沿いの道は、もともと人通りの少ないところですので、のんびりと川や滝を見学しながら、進みました。しかし驚いたことに、支笏湖のキャンプ場は三密といえるほどの混みようでした。自然の中でのキャンプなら、三密にならないだろうとのことで、多くの人が来ていたようです。札幌からも近いし、支笏湖なら涼しいしと、考えることは、皆同じですね。
 売店は人がいっぱいの様子なので、すぐに諦めて、Uターンをして、別のところを目指すことにしました。支笏湖の温泉街の駐車場は、車を多くなかったのですが、それなりに停まっていました。もともとそこは行く予定ではなかったので、地元の人だけが知っている公園にいきました。
 ところが、そこも駐車場が思ったより多く車が停まっていました。しかし、広い公園なので、視界に人はいません。湖を眺める展望台に時々人が見えたり、車の出入りが少しあります。多くは、湖を散策に行っているのでしょう。人気のない穴場となっていました。
 その湖畔の森は、暑いほどではなかったので、標高が高く、湖沿いの静かな森の中なので、昼食をとることにしました。持ってきたキャンプ用に椅子を担いで、気持ちのよさそうな木陰を見つけて、買ってきた食事を、家内とのんびりと摂りました。コロナを避けながら楽しめるドライブでしたが、久しぶりの外出で、半日の外出でしたが、リフレッシュしました。

・涼しい北海道・
北海道は先週末から涼しくなりました。
一気に10℃ほど下がってきました。
多分、これが例年の北海道の気候ではないでしょうか。
暑い日から、一気に涼しくなると、
一気に気持ちも体も、ホッとするような気がします。
涼し気温のままでいることはないのでしょうが、
もう真夏の暑さはこないでしょうね。
そう願いたいものです。

・野生との共存・
今年の北海道では、ヒグマの目撃ニュースが
各地から報道されています。
2年ほど前、わが町にもヒグマが徘徊していると
警戒されてたことがありました。
畑を荒らしたり、
設置さられたカメラに写ったりしていました。
被害を与えたり、人に危険にならない限り
駆除されることはありません。
人間側が警戒して近づかないという方針です。
そもそも、人間が野生の中へと侵略していったため
起こっている摩擦のはずです。
だから、人間側が遠慮すべきなのですが、
いつも遠慮させられるのは野生側ですね。
野生動物との共存はなかなか難しい問題です。

2020年8月27日木曜日

1_183 チクシュルブの衝突 4:シミュレーション

 K-Pg境界の隕石衝突でできたクレータを、シミュレーションで再現したら、衝突の様子が復元できました。わかっていたことですが、シミュレーションで検証でき、新しい可能性もでてきました。

 これまで、K-Pg境界の大絶滅の原因について、20年以上に渡って論争され隕石衝突であることが決着をみました。その結論は、2010年には集大成されました。かといって、衝突現象のすべてがわかっていたわけはなく、詳細がわからないことも色々ありました。
 そのひとつとして、隕石の衝突した軌道については、よくわかっていませんでした。そこで、いよいよ論文の内容の紹介となります。コリンズ(Collins)たちの共同研究で、2020年5月のサイエンス誌の公開されました。そのタイトルは、
A steeply-inclined trajectory for the Chicxulub impact
(チクシュルブ衝突の急角度の軌跡)
というものでした。
 チクシュルブの衝突でできたクレータの地下構造からわかっていることを整理してきます。衝突当時のチクシュルブは、海に面し、そこには石灰層が堆積しているような浅海でした。衝突により、直径約200km、深さ15から25kmの巨大なクレータがユカタン半島と海底にできていることがわかってきました。衝突による放出物は、対称な形で飛び散っているのですが、クレータの構造は非対称になっています。このことから、隕石が、北東方向から斜めに突入した衝突であったことがわかります。
 コリンズたちは、この斜め衝突を3次元でのシミュレーションで再現していきました。隕石の直径を17km、衝突速度を12km/秒という初期条件を設定しました。衝突の角度を地表に対して90度、60度、45度、30度で変化させてシミュレーションしました。クレータの形状と放出物の分布を、衝突のシミュレーションで再現できるか確かめました。
 その結果、90度と30度では合わず、45度~60度の角度で衝突したとすれば、クレータの構造をうまく説明できることがわかりました。この衝突の角度ならば、放出物が対称に散らばることも説明できました。さらに、ガス放出量も最も多いこともわかりました。この結果は、K-Pg境界で起こった現象を考えるときに重要な情報、あるいは束縛条件になるはずです。
 結論としては、当たり前のことになりましたが、いろいろな手法での検証は必要でしょう。今回のエッセイでは紹介をはぶきましたが、カリブ海からメキシコ湾沿岸には、高さ300mもの巨大な津波による堆積物も確認されています。また、世界各地でイリジウム以外にも衝突の痕跡がみつかっています。衝突から、全地球に及ぶ現象のシナリオを、考えることが課題となりそうです。多分さまざまな現象の連鎖になっているはずです。海でも、陸でも大絶滅が起こっているのですから。

・出張・
先週、校務で久しぶりに市外に出張することになりました。
2日間、別のところにいきました。
1日目は、自家用車で近隣の街へでかけました。
車の運転も久しぶりになりました。
2日目は、大学の公用バスで旭川へとでかけました。
長距離移動も久しぶりで、なんとなくワクワクしました。
今週は計画有給をとることになっていますので
一日、家内と山へドライブに出かける予定です。

・PC更新・
8月になって、メインで使用しているデスクトップパソコンが
突然、立ち上がらなくなりました。
3年間しか使っていません。
その時も破損によって更新しました。
どうも最近パソコンの破損が繰り返されます。
そのため、新しいパソコンが、急遽、必要になりました。
研究費を工面して、とりあえず購入することにしました。
5月に自宅のパソコン環境を5年ぶりに新しくしたところで、
再度、多くのソフト、データのセットアップが必要になります。
できれば、前のパソコンで使用していた
SSDとHD、メモリを増設したいのですが、
小さすぎて入れるスロットがありませんでした。
グラフィックカードはいれましたが、残念です。

2020年8月20日木曜日

1_182 チクシュルブの衝突 3:衝突説へ

 K-Pg境界の事件が、隕石衝突説として決着するまで、多数の反論がでてきました。その多くは地質学者からのものでした。しかし、隕石衝突説を支持する証拠も、地質学者が提示しています。

 ルイスらは、K-Pg境界にある薄い層だけにイリジウムが濃集している、という測定結果から、推測を進めていきました。
 K-Pg境界の事件は、生物の大絶滅を起こしていますから、隕石衝突の影響は地球全体に広がっていたと考えられます。その前提から、イタリアのグッビオのK-Pg境界の地層の濃度から、イリジウムが全地球に分布するために必要なイリジュウムの全量が推定していきます。隕石のイリジウムの平均的な濃度から、全地球にイリジウムを衝突でばらまくには、どれくらいの量が必要か推定できます。その結果、直径10kmとなりました。
 K-Pg境界の地層が、グッビオ一箇所だけでは、説得力がありません。デンマークのスティーブン・クリント(Stevns Klint)海岸の崖にも、K-Pg境界の地層が分布していました。そこからも試料を入手して、放射化分析しました。すると、やはりイリジウムの濃集が見つかりました。その濃度を用いて隕石の大きさを推定したら、直径が約6kmとなりました。
 このような証拠と推定からの結論を、1980年に論文にして報告しました。その論文は、大きな反対にあいました。なぜなら、隕石衝突による大絶滅は、このシリーズの最初に書いた、激変説の再来だったからです。
 反対論者も、イリジウムの濃集という現象を説滅する必要があります。その由来を地球内の現象に求めました。候補として、その時代に活動した巨大な火山として、インドのデカン高原の火山噴火(デカン・トラップと呼ばれている)が上がりました。そこでもイリジウムの濃集は見つかっています。火山活動は、K-Pg境界の時代より100万年前から始まり、その後も100万年間続いています。地球全体で大絶滅を起こすには、十分な規模と期間でした。
 ところが、その火山活動中も、恐竜が生き延びていたこと(恐竜の卵化石の発見)が、後にわかってきました。ですから、かなり巨大の火山噴火でも生物種を絶滅させることは難しいことになります。また、デカン・トラップの火山では、他の元素(クロムやニッケル)の濃集もありました。ところが、他のK-Pg境界では、そのような元素の濃集はありませんでした。大絶滅の原因として火山説には、不都合な証拠が見つかってきました。
 隕石衝突説の論理は明快で、他地域でもK-Pg境界があれば、さまざまな検証作業ができます。激変説に賛同した人(あるいは反対した人も)は、隕石衝突のさまざまな証拠(反対論者は隕石ではない証拠)を探していきました。その結果、スス(大火災の証拠)、衝突石英(激しい衝撃を受けた石英に現れる構造)、巨大津波の堆積物(海での衝突で発生)など、いろいろと衝突の証拠が、世界中のK-Pg境界で見つかってきました。そしてとうとう、隕石の衝突現場も、メキシコのユカタン半島付近のチクシュルブであることが、突き止めされました。
 そして、2010年には、各分野の研究者40数名の共著論文が、アメリカの科学雑誌サイエンス誌に掲載され、隕石衝突がK-Pg境界の大絶滅を起こした、と結論づけられました。この論文をもって、K-Pg境界の大絶滅は隕石衝突で一応の決着をみたことになります。
 さて、いよいよ次回からは、衝突クレーター、チクシュルブの実態についての最新の話題へと入ってきましょう。

・チョーク・
デンマークのスティーブン・クリントは訪れたことがあります。
地元の人には、なんの変哲もない海岸なのでしょうが、
日本から来たものにとっては、興味深い海岸でした。
海岸の崖は、白亜からできていました。
白亜とは「チョーク」のことです。
もともとチョークは海のプラントンの遺骸の集積で
殻は炭酸カルシウムからできています。
この地には、駐車場がありましたが、
小さなレストランと小さな博物館があるだけでした。
一応、観光地だったようですが、
多分観光のメインは海水浴場のようでした。
とことが大きな石ころだらけで
日本の海水浴場の海岸とはかなり違っていました。

・日本のK-Pg境界・
日本でもK-Pg境界の地層が見つかっています。
北海道の十勝郡浦幌町の川流布(かわるっぷ)川の支流の
河岸の小さな露頭に、
5から10cmほどの薄い粘土層としてあります。
いったことはないのですので、
写真で見る限り、よくこの地で見つかったな
と思えるような小さい露頭です。
変形して曲がっているので、
衝突を想像させる露頭ではなさそうです。
よく、K-Pg境界だと判定できなと思います。

2020年8月13日木曜日

1_181 チクシュルブの衝突 2:イリジウム

 K-Pg境界の大絶滅は、隕石の衝突であることがわかってきました。そこには、物理学者の父と地質学者の息子がかかわっていました。両者の専門が組み合わさることで、はじめて謎が解明されました。

 K-Pg境界(中生代と新生代の時代境界)で起こった大絶滅事件は、どのようにして提唱され、検証されたのか、概要をみていきましょう。
 大絶滅の原因解明には、アメリカの物理学者ルイス・アルバレス(Luis W. Alvarez)が、大きくかかわっています。ルイスは、素粒子の挙動を調べるために、水素泡箱と呼ばれる装置を利用して素粒子の研究をしたり、さまざま独創的な物理実験のための装置を開発しました。素粒子学への貢献によってノーベル物理学賞を受賞しています。
 このルイスが、恐竜絶滅とどういう関係があるのでしょうか。それは、放射化分析という装置と方法をルイスが使えたからです。原子炉や加速器などで、中性子や荷電粒子を試料に照射すると核反応によって、成分の元素(核種)が放射化(放射能を持つ状態になる)され、短い時間の放射線(ガンマー線)を放出して安定な元素(核種)に変わります。この時、ガンマー線のスペクトル解析をすると、その元素のガンマー線強度が測定できます。同時に放射化した濃度がわかっている試料(標準試料)と、強度を比較することで、濃度を測定することができます。この方法は、微量は成分の検出に非常に適しています。
 ではなぜ、K-Pg境界に適用しようとしたのでしょうか。それは、ルイスの息子のウォルター(Walter Alvarez)が地質学者であったことと関係しています。ウォルターは、イタリアの昔の地中海で堆積した地層で、古地磁気学の研究をしていました。磁気の反転の繰り返しから、古地磁気から年代を推定する方法を確立したことで、過去1億年間の年代の同定が可能になりました。調査地のイタリアのグッビオに、K-Pg境界の地層が連続して分布していまました。
 グッビオの境界をまたいで、ウォルターが連続的に試料を採取しました。その試料をルイスが放射化分析をしました。親子の関係だけでなく、両者の専門とする地質学と物理学(放射線分析学)が、この時結びつきました。
 分析の結果、K-Pg境界の薄い粘土層からだけ、イリジウム(Ir)という元素が、他の地層の20倍から160倍の高濃度になっていました。イリジウムは、白金(Pt)グループに属する元素で、地表の岩石にはほとんど含まれない元素です。
 地表で見つかったとしても、地下深部で形成された深成岩か特異な火山岩にしか見つからない成分です。グッビオの地層は、石灰岩なので堆積岩です。イリジウムの濃集は、堆積作用では考えられません。そのため、グッビオのイリジウムの由来は、隕石だと考えられました。
 そこから、ルイスの想像力が広がります。その内容は、次回としましょう。

・前期の最後に・
今週でわが大学は、遠隔授業が終わります。
日程的に定期試験ができませんので、
定期試験以外での評価法で
成績を判断していくことになります。
ゼミや少人数の講義では、
名前と顔が一致しているので
受講態度なども把握できます。
大人数の講義での評価は、悩ましいところです。
でも、していくしかありません。

・集中講義・
前期の講義が終わったらすぐに、
夏の集中講義がはじまります。
これも遠隔授業となります。
リモートでのライブ講義もできますで、
先週からその構成を考えているのですが、
どうすればいいのか、まだ悩んでいます。
以前は前期におこなっていた講義なのですが、
新しい講義が入ってきたので、
この講義を集中講義として
再構成しておこなう予定で組み替えていました。
そこに遠隔授業となりました。
再度、講義の組み換えとなります。
短い準備期間で、多大な労力を使わなくてはなりません。
かなり辛い作業となります。