2022年8月4日木曜日

5_199 小惑星の有機物 7:隕石の核酸

 次の話題は、「隕石」からの有機物の発見となります。素材は、隕石なので、由来もリュウグウとは違っています。見つかった成分は違うものですが、関連がありそうです。


 次の話題は、はやぶさ2が持って帰ったリュウグウの試料とは異なった材料を用いています。中村さんたちの報告(2022年6月10日)より少し前に発表された論文でした。2022年4月のNature Communications誌で公表されたもので、
 Identifying the wide diversity of extraterrestrial purine and pyrimidine nucleobases in carbonaceous meteorites
 (炭素質隕石中の地球外のプリン、ピリミジンの核酸塩基の大きな多様性の発見)
というタイトルで、北大低温研究所の大場康弘さんと共同研究者によるものです。
 この研究では、炭素質隕石として、マーチソン隕石(Murchison)、タギッシュレイク隕石(Tagish Lake)、マレー隕石(Murray)の3つを用いて分析しています。
 これらの隕石すべてから、18種の核酸塩基が検出されました。このうち、隕石からはじめて見つかったものが、10種類も含まれています。核酸塩基以外の窒素化合物も含めて、20種類が検出されています。
 非常に微量の成分を検出し同定する技術となっています。速液体クロマトグラフィー/電子スプレーイオン化/超高分解能質量分析法というものです。隕石1g当たり72ngという微量の分析をしています。
 さて、核酸塩基とは、生物のDNAやRNAの材料となっているもので、ウラシル、シトシン、チミン、アデニン、グアニンのうち4種類が使われています。シトシンとグアニンがペアに、またDNAではアデニンとチミンが、RNAではアデニンとウラシルがペアになり、二重らせんの構造をつくります。いずれも遺伝や生物の基本的設計となる成分です。
 これら5種の核酸塩基も検出されたものの中に含まれていました。これまで、核酸塩基のうち3種までは発見されたことがあります。5種が同時に発見されたことはなく、はじめてのことでした。
 論文のタイトルにあった、プリンとピリジンはいずれも核酸の構成成分となっているとともに、誘導体として核酸をつくりだすのに、重要な役割も果たしています。プリンはアデニンとグアニンの、ピリジンはシトシン、ウラシル、チミンの重要な誘導体とともに構成物となっています。これらの化合物が見つかったということは、核酸の形成が、その場で起こっていたことを意味しています。
 その詳細は次回とします。

・定期試験週間・
8月になりました。
わが大学では、これまで順次、
教室にエアコンが設置されてきました。
今週は、試験週間になっていますが、
暑ければエアコンをつけることができます。
コロナ感染対策で教室内では
常時マスク着用と換気が義務付けれています。
マスクでも、暑い時期でも、
集中して試験に望めようになっています。

・蒸し暑い日々・
北海道は7月末から暑くなってきました。
今年は、湿度も高くて蒸し暑いので
過ごしにくい日々になっています。
ただ、朝夕には涼しくなってくるので
自宅はエアコンがないのですが
なんとか耐えられています。
ただ、寝る部屋は風が通りにくいので
窓を開けていても、寝苦しい夜もあるので
寝不足になる日もあります。

2022年7月28日木曜日

5_198 小惑星の有機物 6:形成場

 リュウグウの試料からは、有機物とそこに同位体異常がみつかりました。有機物は高温で分解しますので、同位体異常は保存されないはずです。リュウグウは、高温に曝されることになく、できたままの状態を保持したようです。


 これまで、隕石で同位体異常が発見されていたのは、高温に耐えられた鉱物からでした。リュウグウの粒子には、もっとも熱の影響を受けてない隕石(炭素質コンドライトのCIと呼ばれるタイプ)より、酸素とクロムで高い同位体組成をもっていました。これは、より熱の影響を受けていない環境であったことを意味します。
 隕石には、一部太陽系以前の成分(プレソーラー粒子と呼ばれています)が残っていましたが、高温に曝され均質化した素材からできていました。そのため、原始太陽系星雲は一度高温にさらされてから、隕石として凝縮してきました。その後、隕石ではさまざまな程度の温度に曝されていきます。ところが、リュウグウには一度も高温に曝されることがない成分がありました。それは、今回報告された、有機物の組成からわかります。
 その有機物に、水素、炭素および窒素、ネオンで同位体異常が見つかりました。ネオンの同位体異常は、宇宙線の照射に曝されてできる成分でした。太陽系外縁で宇宙線に曝されてでできた成分を含んでいました。つまり、太陽系外縁でリュウグウの有機物はできたことになります。その後も有機物は高温に曝されることなく、保存されてきたことになります。
 そこから、次のようなリュウグウ形成のシナリオが考えらえました。
 太陽系の材料物質は、初期の高温期には、内側では高温の変成作用、外側では水質変質(炭素質コンドライトが受けたもの)を受けました。太陽系の外縁部は、太陽風より宇宙線に強く曝される環境で、そこで有機物が形成されました。有機物は変質を受けることなく、形成されたままのものも残っていました。
 このような異質な成分を含む天体は、氷を主として珪酸塩と有機物を含む小さな天体(数10km)として「リュウグウ前駆天体」ができました。氷天体が破壊され、彗星核が形成され地球近傍を巡る軌道に入ったと考えれます。氷は昇華していき、リュウグウになったと考えられます。
 少々複雑なシナリオですが、太陽系の外縁では、高温に曝されていない初期のままの素材が残っているかもしれません。その一部が、リュウグウとなりました。有機物とその化学組成がその根拠になっています。隕石では見つかっていない成分を含んだタイプの小惑星が、太陽系の外縁に多数ある可能性も示しています。

・前期終了間近・
今週で講義がすべて終わりました。
祝日などの関係で、15回の講義が
同じ回数をこなせない曜日ができます。
最後の週では、水曜日の講義が2回行われます。
担当している講義が水曜日には3つあるので
それが金曜日に振り替えられます。
今週は少々大変ですが、
その後、定期試験の期間になります。
それでやっと前期が終わります。

・論文投稿・
前期の講義の終わる前に、
論文の締め切りが今週末にあります。
このマガジンが発行されるときには、
投稿しているはずです。
査読を受けるので、その後に修正も生じるのですが、
とりあえずは一段落です。
途中で止まっている大きなプロジェクトを
進めなければなりません。

2022年7月21日木曜日

5_197 小惑星の有機物 5:同位体異常

 太陽系の材料は、初期に元素レベルで均質化され「太陽系ブレンド」になりました。太陽系の材料にあった多様性が、消えずに残っていることがわかりました。隕石の中に見つかる「同位体異常」と呼ばれているものです。

 中村さんたちの論文は、
On the origin and evolution of the asteroid Ryugu: A comprehensive geochemical perspective
(小惑星リュウグウの起源と進化:包括的な地球化学的見通し)
というタイトルで56ページにおよぶ大著です。副題の「包括的地球化学的見通し」に、大局的な地球化学的視点で見ていこうという意気込みを感じます。
 前回、均質化が太陽系成分の同位体組成にまで及んでいると紹介したのですが、そこに重要な意味があります。同位体とは、同一元素の中で中性子の数が異なるもので、質量数の違いとなります。放射性の同位体がなければ、同じ元素内の同位体の比率は決まっています。まったく起源の違う物質では、異なった同位体組成をもつことになります。
 前回紹介したように、さまざまな起源の元素、さまざまな由来の化合物から太陽系はできたと考えられます。しかし、現在の地球や月、火星、隕石などすべての物質の同位体組成は、均質になっています。太陽系の材料に混じっていた化合物も、元素、同位体にまで均質化されたことを意味します。
 しかし、例外が見つかりました。同位体組成から、稀に均質化を免れた物質が見つかっています。そのような太陽系外の固体物質は、ばらばらの同位体組成をもっているはずなので、当然太陽系の均質化した値とは異なっているます。そのような太陽系外の同位体組成が見つかったので、「同位体異常」と呼ばれました。
 同位体異常は、隕石の中にあるいくつかの粒子から見つかっていました。そのような粒子は太陽系形成前のものなので、プレソーラー粒子(presolar grian)と呼ばれています。何種類かの同位体組成が、何種類かの粒子から見つかっています。隕石で見つかっていた同位体異常を示す物質が突き止められていて、いずれも高温でも残るような鉱物でした。
 今回、リュウグウの有機物で、そのような同位体異常が見つかったという報告です。有機物は高温に弱いので、高温状態にはならない場所に由来するものです。これは重要な発見です。その詳細は、次回にしましょう。

・面談練習・
大学はいよいよ前期最後の講義になってきました。
8月上旬からは定期試験となります。
並行して学科の4年生の教員採用試験のために
面談練習をしています。
8月初旬まではバタバタしています。
昨年は、オリンピックの開催のため
教員採用試験のスケジュールも変更されていました。
それが以前の状態に戻りました。
1次試験の発表から2次試験がすぐなので
準備期間が短くなりました。
集中的にできるのでいいのかもしれません。

・論文の締め切り・
7月下旬に論文の締め切りが迫っています。
現在、まだ完成していません。
空き時間は論文にかかりきりになっています。
毎年、論文の締め切りではバタバタします。
一方、著書の出版には、締め切りがないで
自分のペースで進められます。
精神的には非常に楽なので健全です。

2022年7月7日木曜日

5_195 小惑星の有機物 3:リュウグウの岩石タイプ

 イトカワは、もっとも一般的なタイプの小惑星で、隕石とも対応しました。では、リュウグウはどうなっているのでしょうか。今回から、リュウグウの特徴を紹介していきましょう。


 これまでのエッセイでは、イトカワの岩石の特徴を見てきました。イトカワは、小惑星の反射スペクトルでは最も多いS型タイプで、隕石の中で最も多い普通コンドライトとは異なった特徴もありました。試料で確かめられた結果、イトカワは普通コンドライトと一致しました。惑星表面での宇宙風化によってスペクトルが変化していくことも、明らかにされました。これまで謎であったスペクトル型と隕石の違いが、サンプルリターンで解消されました。
 さて、リュウグウは、望遠鏡での観測ではC型スペクトルをもち、炭素の多い天体と推定されていました。炭素の多い隕石は炭素質コンドライトで、リュウグウはそれに相当すると推定されていました。ただし、炭素質コンドライトは、落下比率が5%程度しかなく、稀なタイプとなります。それが今回の試料分析から炭素質コンドライトであることが確認されました。
 炭素質コンドライトは、水も炭素も多く含むのが特徴となっています。普通コンドライトは高温状態を経験していることが多いのですが、炭素質コンドライトは高温の状態を経験することなく、地球に落下したことになります。炭素質コンドライトをもたらした天体(母天体と呼びます)は、内部が高温になったり、溶融したりすることのない状態で、太陽系初期からある小さな天体であったことになります。
 また、リュウグウの試料は、炭素質コンドライトの中でも水分に富むCIコンドライトであることがわかりました。CIコンドライトは、最大では重量比で20%まで含み、炭素も3wt%も含んでいますが、高温包有物(CaとAlに富む包有物でCAIと略されています)を含みません。ところが、CIコンドライトと比べて、密度が小さいこと、反射率が低いことなど異なる点もあることもわかってきました。
 水による変質を受けているかもしれませんが、太陽系初期の固体物質の特徴を、そのまま残している隕石の可能性があります。
 では、リュウグウの試料から、どのような新しいことがわかったのでしょうか。それは次回としましょう。

・野外調査終了・
前期の調査が先週分ですべて終わりました。
今回は雨が少し降りましたが、
幸いなことに海岸沿いでは
晴れ間が多くて助かりました。
予定地域はほぼ調査することができました。
内陸はフェーン現象で高温になっていたのですが、
海岸沿いは涼しく、調査も順調でした。
しかし、自宅にもどったら暑くでぐったりしました。

・夏・
いよいよ後期の授業も2、3回となりました。
暑くなってきたので、学生も教員も大変です。
定期試験が最も暑い時期にあります。
しかし、北海道にある我が大学の教室にも
エアコンが設置されました。
酷暑の中での試験がなくなりました。
幸いなことですね。
しかし、研究室にはエアコンはないので暑いです。

2022年6月30日木曜日

5_194 小惑星の有機物 2:イトカワの岩石

 小惑星のスペクトル分析と隕石との対比から生まれた、不一致という問題がありました。イトカワのサンプルリターンから解決されました。小惑星からの実物試料の重要性が示されました。


 日本では、小惑星のイトカワとリュウグウからサンプルリターンをしています。両者の天体は、恒星岩石の種類が異なっていました。それは、事前にわかっていました。小天体の表層部分の成分は、スペクトル分析によって知ることができるからです。
 スペクトル分析とは、直接処理できない物質を、光を詳しく調べること知る方法です。未知の物質が発する光の波長(あるいは周波数)と波長ごとの強度(エネルギー)を測定します。その測定値と、既知の成分(元素)ごとの波長と強度を比べることで、未知の物質の成分を推定する方法です。
 天文学では、光を発する恒星では放射光によるスペクトル分析をしますが、光を発しない天体では、恒星からの光を反射した光(反射スペクトル)の分析をしていくことになります。いずれでも、スペクトル分析が可能です。入手できる隕石のスペクトル分析と比較することで、天体の構成物を推定することができます。
 多数の小惑星の反射スペクトル分析がされており、そこから天体の区分ができています。S型に区分されるタイプが最も数が多く、小惑星帯の内側(太陽に近い側)に多く分布していることもわかってきました。
 一方、隕石でもっとも多いタイプは、普通コンドライトと呼ばれるものです。隕石が小惑星帯から飛んでくるとすると、S型が普通コンドライトに一致すれるはずです。
 ところが、S型の小惑星と普通コンドライトのスペクトは一致しませんでした。普通コンドライトよりは、石鉄隕石に似ていることがわかってきました。これは、大きな謎でした。スペクトルが一致していませんので、もしかすると未知の隕石からなる小天体や、別の原因があるのかもしれませんでした。
 スペクトルの不一致に対して、いくつかの仮説が提示されていました。
 小惑星帯から地球に落下する隕石は偏った軌道でそこには普通コンドライトが多いという説、地球から観測できないほどの小さいサイズの天体は普通コンドライトが多いという説などがありました。いずれも、S型と普通コンドライトは異なっているという考えの説でした。
 一方、小惑星の表面は宇宙風化(太陽風や宇宙塵の衝突など)を受けるという説がありました。もともとは普通コンドライトだったものが、宇宙風化でスペクトル型が変化したという説です。
 イトカワはS型と呼ばれるスペクトル区分で、実際に入手された試料から、普通コンドライト隕石であることがわかりました。また、はやぶさが接近して観測しているので、宇宙風化の様子も確認されました。以上のことから、これまで謎であった、S型小惑星が普通コンドライトで、スペクトル型が異なっているのは宇宙風化のためであることがわかってきました。
 イトカワの試料が入手でき、分析することで、これまでの謎が解決できました。実物試料があれば、さらに詳しい分析ができます。
 普通コンドライトは、鉄の量で区分されているのですが、鉄の量からEコンドライト、Lコンドライト、そして鉄も金属も少ないタイプがLLコンドライトに区分されています。イトカワは、LLコンドライトで、さらにLL4からLL6に分類される試料が多いこともわかってきました。
 このように実際の試料をもとに調べていくことで、多くの情報をえることができます。リュウグウについては、次回としましょう。

・野外調査へ・
今週後半から、野外調査にでます。
前期では最後の調査になります。
大雪から道北を周っていきます。
何度も訪れているところですが、
調べる内容が違うので、
記載内容も少々異なってきます。
最近は道内各地を調査しているので、
主だった道路はたいてい走っています。
ですから、通いなれたところになります。
でも、自然や景観は毎回異なっているので、
気持ちが癒やされ、リフレッシュされます。

・面接練習・
前期の野外調査が7月以降できなくなるのは、
7月から8月までは校務が細切れにつまってくるためです。
6月下旬に教員採用の1次試験がありました。
次は面接が中心の2次試験になります。
7月以降、4年生の面接練習をしていきます。
毎日にように個別面接の練習をしていきます。
数日単位で大学をあけることができなくなります。
8月上旬の2次試験が終わるまでは
野外調査ができなくなります。
毎年のことなので、致し方がありません。

2022年6月23日木曜日

5_193 小惑星の有機物 1:サンプルリターン

 2022年6月6日、リュウグウから有機物が見つかったというニュースをご覧になられた方もいるかと思います。今回からシリーズで、小惑星における有機物についての話題をいくつか紹介します。


 月以外の天体の試料は、日本のはやぶさによるイトカワと、はやぶさ2によるリュウグウの、2つからしかえられていません。これらからえられるデータや知見は、非常に重要となります。
 リュウグウとは、はやぶさ2が訪れた小惑星です。リュウグウは、地球近傍小惑星と呼ばれるグループに分類されています。地球近傍小惑星とは、地球に接近する軌道をもったものです。交差すれば、衝突する可能性もあります。
 その小惑星でも、いくつかに区分され、アポロ群またはアポロ型小惑星と呼ばれるグループがあり、イトカワもリュウグウも、これに属します。アポロ群とは、火星より内側の軌道で、地球軌道の中に入ったり、外にでたりする楕円の軌道をもっています。
 このような小惑星には、地球周辺の軌道に近づくので、太陽からの軌道を大きく変化させる必要がありません。そのため、燃料をあまり使わずに行き来できるというメリットがあります。試料を地球に回収を目指すには、好都合の天体となります。
 はやぶさ2は、リュウグウに2回着陸をしてサンプルを採取しました。そして、試料の入ったカプセルを切り離し、地球に届けました。はやぶさ2の本体は、現在も別の小惑星に向けて、新たな探査ミッションに入っています。
 はやぶさも、小惑星イトカワから試料を採取しています。直径が0.01mm以下、最大でも直径が0.2~0.3mmの、微小な試料が多数採取されました。しかし、1μgにも満たないほどのとても小さいもので、いずれも小さいので質量は測定されていません。約1500個がイトカワの由来と確認され、研究者に配布され、分析されてきました。
 一方、リュウグウの試料は、5.4gが回収されています。イトカワと比べると、非常い多くの試料が持ち帰られたことになます。由来のはっきりとした天体の試料は、月とイトカワについで3番目となります。
 ニュースは、このリュウグウの試料を用いて分析した結果となります。詳細は次回としましょう。

・予約送信・
このエッセイは、予約送信しています。
前回の調査のときは、
ひとつ目のメールマガジンを送信に続いて
ふたつ目の送信をすべきところを忘れていました。
日曜日、気づいて慌てて送信することになりました。
このところ2週間に一度、調査にでているので、
スケジュールが混み合っているため、混乱しています。
今回は忘れないように送信しました。

・4回の野外調査を・
5月から7月初旬まで、
4回の野外調査を予定しています。
7月になると、4年生の採用試験の対応で
時間がなかなか取れなくなるためです。
例年より多くなっています。
それは道外の長期調査が
できるかどうかわからなかったので
道内調査を何度もすることにしました。
秋になったらまた何度かでかけたいのですが、
講義と校務が重なってくるとので
予定を立てるのが難しくなります。
いつでも日程が合えば出かけられるのはいいですね。
以前は、当たり前のことでしたが。

2022年6月16日木曜日

4_168 火星研究への旅 13:トゥーティング・クレータ

 シャーゴッタイトと呼ばれる火星起源隕石は、トゥーティング・クレータから飛んできたのではないかと、推定されました。その推定には、どのような方法が、用いられたのでしょうか。


 シャーゴッタイトが由来したクレータ探しの報告の紹介しています。放射線の照射年代から、隕石が、宇宙空間にあった期間が110万年間であったことがわかってます。その頃に起こった衝突クレータを探せばいいことになります。ただし、シャーゴッタイトの岩石学的性質から、枯渇したマントルから形成された火山岩であることもわかっています。また、岩石ができた形成年代も、5億年前から1億8000万年前だとわかっています。そのような場所に起こった衝突によるクレータから由来しという束縛条件になります。
 まず、クレータができた時期を正確に調べる必要があります。クレータの形成年代は、クレータのその地域での衝突頻度とサイズの関係が、べき乗則に基づいていることから、年代を推定する方法があります。ただし、それでは誤差が大きな年代しかできず、新しいクレータを識別するのは困難なので、もっと詳細に調べていきます。
 幸い火星の表面の精密画像があるので、そこからより詳しく年代が推定できます。
 大きな衝突のときにできたクレータ(1次クレータと呼ばれています)から、周囲に破片が飛び散り、それらのうち大きなものが、再度小さなクレータ(2次クレータ)を形成します。火星には大気があるので、小さいクレータ(直径1km以下のもの)は、時間がたてば消えていきます。このような小さな2次クレータが残っているような、1次クレータは新しい時代の衝突になります。
 小さなクレータを識別し、その数やサイズを計測するのは、人手では困難になります。そこで、AIを導入して画像解析をしています。
 AIによる解析で、クレータが約9000万個も見つかりました。到底、人にはこなせない作業です。
 シャーゴッタイトは火山岩なので、これらのクレータのうち、火山平原であるものを探します。そのような場所から、19個が新しいクレータが、2次クレータに囲まれていることがわかりました。これら19個が、新しい時代のクレータとなります。そのうち、いくつかが110万年前ほどの新しいものだと推定されました。
 次はシャーゴッタイトの形成年代と火山岩のタイプを参考に、さらにクレータを絞っていきます。そのような場所にあるクレータは、「09-00015クレータ」と「トゥーティング・クレータ(Tooting crater)」の2つになってきました。いずれもタルシス高原にあり、そこはマントルプルームが上昇してできたところです。
 2つのクレータの形状をみていくと、違いがありました。後者は、氷や水があるところに斜めに衝突したと考えられています。そのような場で斜めに衝突すると、破片が宇宙空間に飛び出しやすいことがわかっているので、トゥーティング・クレータが有力な候補になると考えられています。
 今回は候補が2つまで絞られ、さらに有力候補も出すことができました。この2次クレータまでを利用してAIで画像解析する手法は、他のSNC隕石の由来にも適用可能で、また他の天体でも応用できそうです。将来性のある手法です。

・道東の調査・
今週末から来週にかけて、道東に調査でます。
やっと思い切って調査にでかけられます。
7月はじめにも調査にでる予定です。
ただし、7月から8月にかけては、いろいろ校務があり、
調査に出る日程が確保できなくなります。
次の野外調査は、9月になってからですかね。

・喉元すぎれば・
喉元すぎれば、という状況が
コロナ対応でもでてきたようです。
私も野外調査に通常通りでかるようになりました。
感染者数は変動がありますが
現在でも、まだ高止まり状態のままです。
感染しても症状がひどくなく、
後遺症も残らないのであれば、
インフルエンザと同じような対処でよいのかもしれません。
安全を期した対処が、取られているので
それに従うするのはいいことでしょう。