2020年6月11日木曜日

1_179 大陸地殻の新知見 4:地殻下部

 アフリカのクラントン下の地殻について調べられました。キンバーライトの捕獲岩を用いています。捕獲岩は、大陸下部で変成作用を受けた岩石であることがわかり、原岩の化学的特徴から大陸の形成史の証拠もでてきました。

 大陸地殻に関する3つ目の論文は、3月17日に発表された
Eclogite and garnet pyroxenite xenoliths from kimberlites emplaced along the southern margin of the Kaapvaal craton, southern Africa: mantle or lower crustal fragments?
(南アフリカ、カープヴァール・クラトンの南縁に沿って定置したキンバーライトからのエクロジャイトとざくろ石輝石岩の捕獲岩:マントルもしくは下部地殻の断片か?)
というものでした。この論文もひとつ目に紹介したのと同じく、キンバーライト(深部で形成されたマグマによる火山岩)から見つかった捕獲岩を調べたものです。調べた捕獲岩は、エクロジャイトとざくろ石輝石岩です。この2種の岩石の説明を少々しておきましょう。
 エクロジャイトとは、超高温高圧の条件でできる変成岩の一種です。主にザクロ石と輝石からできた岩石です。玄武岩組成の岩石が変成されてできるもので、造山帯ならば、沈み込んだ海洋地殻がその候補となります。また、ザクロ石輝石岩(輝岩ともいいます)も、超高温高圧の条件でできたことを示しています。アルミニウムの多い岩石では、珪酸アルミニウムの成分が温度圧力条件で変化していきます。浅いところでは、斜長石(この岩石では少ない)や輝石になっているのですが、高圧になるとザクロ石になっていきます。それより深くなるとスピネルになっています。ガーネットはキンバーライトの捕獲岩によく見られるもので、地殻下部からマントルの条件で形成されるものです。
 今回調べられた捕獲岩は、エクロジャイトはザクロ石と輝石(オンファス質輝石)を主として、ザクロ石輝石岩はザクロ石を含む斜方輝岩と輝岩(斜方輝石と単斜輝石を含むウエブステライトと呼ばれるもの)でした。いずれもカンラン石が少ないのが特徴の岩石となります。これはマントルを構成している岩石でないことを意味します。
 捕獲岩を分析した結果、エクロジャイトは、815~1000℃の温度、1.7GPaほどの圧力(50~55kmの深さ)の条件で変成されたもので、この地域の地殻下部の条件に相当するそうです。ザクロ石輝石岩の変成条件は、686~835℃となりやや低い温度ですが、変成圧力(深さ)は似ていました。
 両岩石の同位体組成(Nd、Sr同位体)を調べても、この地域の下部地殻に相当する値でした。いずれも似た原岩から由来したようで、オンファス質輝石が主とすることからナトリウム(Na)が乏しい、つまり斜長石が少ない岩石が起源となっていると推定されています。これらの2種類の捕獲岩の由来は、古い時代の玄武岩組成の岩石が変成を受けて、オンファス質輝石(Na成分が少ない)を主とする輝岩となり、さらに高温高圧条件での変成作用を受けてザクロ石輝岩やエクロジャイトになったと考えられます。
 その形成場としては、大陸が衝突してナマグア-ナトル帯となり、地殻の短縮と厚化とともに変成作用が起こりました。その衝突は、10億~12億年前にカープヴァール・クラトンが形成された時の出来事だと推定されました。その時、地殻下部にあった玄武岩質の岩石が、変成を受けたと考えられます。その後、マントルで形成されたキンバーライト・マグマが地殻を上昇してくる時、地殻下部にあった変成岩を、捕獲岩として取り込んだと考えられます。
 この論文では、地質学の基礎知識がない人にとっては、いろいろな複雑な論理構成をとっているため、非常に難解な内容となっています。ですが筋の通った説明となっていますので、信憑性はありそうです。
 地下の深い場所の様子が、地表に持ってこられた捕獲岩から探ることでできました。そこから、大陸の衝突の歴史、大陸形成史がわかってきました。

・リモート・
北海道は、まだ新規感染者が出ていますが、
徐々に緊急事態からの回復が進んでいます。
大学も、今週からレベルが一つ下がりました。
ただし、現在の状況では、
学生は大学への入構はまだできません。
授業も会議、校務のリモートでやることになっています。
レベルが好転したことは、気分的にいいことです。

・静な夏・
北海道は初夏の陽気になりました。
朝、歩いてく時カッコーの鳴き声、
昼間にはエゾハルゼミのうるさいほどの鳴く声もします。
夏の気配が濃くなってきました。
今年の夏は、いつもの夏にはなりそうもありません。
いつもこの時期には、YOSAKOIの音が
あちこちで聞こえてくるのですが
今年は、聞こえてきません。
静な夏を迎えそうです。

2020年6月4日木曜日

1_178 大陸地殻の新知見 3:初期は小さな大陸

 地球の創成期には大陸はありませんでした。時代とともに大陸が形成されてきました。これまで、大陸の形成のメカニズムは、大陸の岩石が用いられてきました。今回の報告では、海洋地殻から大陸の様子が探られました。

 2020年3月に報告されたジョンソンとウィング(Johnson, B. W. and Wing, B. A.)の論文は、
Limited Archaean continental emergence reflected in an early Archaean 18O-enriched ocean
(初期太古代の18酸素に富んだ海洋を反映した限定された太古代の大陸出現)
というものでした。
 この論文での調査は、西オーストラリアのピルバラ・クラトンのパノラマ地域でおこなわれたものです。岩石は約32億4千万年前の海洋地殻を構成したものですが、熱水変質を受けていました。著者らは、100個以上の岩石を採取し、酸素の同位体比の分析をして検討しています。
 一般に、海洋の化学的堆積物では、時代を経るとともに、酸素の同位体比(18O/16O)が増加していくことが知られています。酸素同位体比は、海水と岩石の2つの成分が、どの程度混合するかによって決まってきます。今回分析した岩石の酸素同位体比は、重い(18Oの比率が大きい)ことがわかりました。
 もし、海水成分の酸素同位比が現在ものと同じだとしたら、この時代の海水は非常に高かったことになります。あるいは、岩石と海水との相互作用が、現在のものとは異なっていたことになります。重い酸素同位体比は、いずれかの理由によることになります。
 著者らの仮説は、当時は大陸が非常に少なかったと推定しています。もし、大陸が存在したら、大陸表層に存在したはずの粘土鉱物が、重い酸素を吸収し、同位体比を下げる(軽くする)からです。そのような大陸が少ないという推定から想定される値に、今回のデータが相当していました。
 西オーストラリアのジャック・ヒルでは約44億年前の大陸できた鉱物が、カナダでは約40億年前の、グリーンランドで38億年前の大陸の岩石が見つかっています。ですから、古くから大陸が存在したことは確かです。
 これらの証拠と今回の報告との両者をうまく説明するには、大きな大陸はなくて、小さな陸地が存在した、というモデルになります。現在の伊豆マリアナ列島のような海洋島弧のようなものが、広い海洋のあちこちに多数あればいいものです。ただし、大陸地殻の岩石が形成されていなければなりません。幸い、島弧では大陸地殻の岩石が形成されます。
 今回の研究は、ひとつの地域のものですが、多数のデータからの推定なので、確かなものです。ただし、この地域の一連の岩石からだけなので、他の時代、他の地域との比較が必要になります。その結果、この仮説が支持されるかどうかが、検討できるでしょう。著者らは、より新しい時代の海洋地殻で検証を進めるようです。
 大陸地殻は時代ととともに成長したと考えられます。その成長の様子はまだ確たるモデモはありません。れまで、大陸地殻の形成過程は、大陸の岩石を用いて調べられてきました。今回、海洋の岩石から大陸の様子を調べる手段が見つかったことになります。これは、地球の大陸と海洋の進化を考える上で、重要な方法論を示したことになります。

・買い物・
新型コロナウイルスのため、日用品以外の買い物は、
これまでネット通販を使ってきました。
残念ながら、まだしばらくこの状態が続きそうです。
先週末、必要なものがあってホームセンターにいきました。
実際の店舗で商品を手にとって選ぶことは、
買い物の醍醐味でいいものでした。
私は、実店舗での買い物は2ヶ月以上行っていません。
日用品の買い物は、家内に任せています。
毎日、大学と自宅の往復だけだったので、
ついつい店で長居をしてしまいました。

・集団感染・
北海道では、まだ感染者の発生が継続しています。
北九州では、学校での集団感染もありました。
安心できない状態が続いています。
大学は、前期はまだWEB講義が継続中です。
会議もリモートでの開催す。だいぶ慣れてきました。
ただ、毎回の講義の作成には手間取っています。
今年からはじまる新しい講義もあるのですが
それを最初からリモート用につくると、
来年は再度、対面の講義用に変更が必要になります。
まあ、仕方がありませんね。

2020年5月28日木曜日

1_177 大陸地殻の新知見 2:クラトン下のマントル

 マントルは地殻より下にあります。マントルを直接調べるのは、限られた方法しかありません。キンバーライトという特異な火山岩から、今まで知れられていなかったクラトン下のマントルが見つかりました。

 3つの大陸地殻の新たな知見を発表順に見ていきます。
 まずは、The metasomatized mantle beneath the North Atlantic Craton: Insights from peridotite xenoliths of the Chidliak kimberlite province (NE Canada)(北東カナダ、北大西洋クラトン下の汚染されたマントル:チャドリカ・キンバーライト地区のカンラン岩捕獲岩からの観点)というタイトルの論文から紹介していきましょう。
 この論文では、キンバーライトと呼ばれる岩石の捕獲岩からわかったことが報告されています。キンバーライトは、特異な火山岩です。非常に深部(150km以深)で特徴的なマグマと形成されます。その特徴は揮発成分に富むこと、そしてなんといってもダイアモンドを伴うため、古くから知らています。ダイアモンドの存在から、超高速(30~60km/時)で上昇してきたことがわかります。なぜなら、ダイアモンドは超高圧下でしか形成されず、地表では不安定な鉱物です。そのため、ダイナモンドが別の鉱物に変わる前に一気に圧力低下して準安定のまま地表に上昇したことになります。そしてキンバーライトは、古い大陸地殻にのみ見つかっています。
 キンバーライトには、経路にあった岩石も捕獲して上昇してきます。キンバーライトはダイアモンドだけでなく、地下深部の情報も一緒に持ってきます。そのような岩石を捕獲岩といいます。この報告では、チャドリカのキンバーライトの捕獲岩のうち、120個のカンラン岩と輝石岩から、この地域のクラトン下のマントルの様子を探っています。いずれも大陸下のマントルを構成していた岩石だと考えられています。
 チャドリカのマントルは、カンラン石(フォルスレライト成分に富むもの)が多いことが特徴です。他の地域でのクラトン下のマントルは、単斜輝石岩(単斜輝石に富むカンラン岩)のマントルからできています。チャドリカのマントルは、一般のものとは異なっています。似たものは、北大西洋クラトンと呼ばれるマントルに似ています。北大西洋クラトンは、現在のように大陸が分裂する以前に存在したクラトンです。北大西洋クラトンは分裂し、現在ではスコットランドやグリーンランド、カナダ東部のラブラドール地方などで見つかっています。今回の研究で、バフィン島下での存在が初めて明らかになりました。
 チャドリカのマントルは、典型的なクラトンのものより、かなりの程度溶融してマグマを出した(メルト成分が枯渇している)マントルになっていました。マグマを出したマントルは、カンラン石の比率が多くなり、このようなものを枯渇したマントルと呼んでいます。
 その後、珪酸ー炭酸塩の交代作用(metasomatism)が起こっています。この交代作用は、大陸が分裂する前の現象だとしています。交代作用は、ラブラドール海を挟んだ北大西洋クラトンが、ジュラ紀の240kmから古第三紀の65kmに接近してきた時、地殻の薄化が起こったことが重要な役割を果たしたと考えられています。
 論文の内容は、このように淡々とした記述になります。また、この論文は、もともと過去のクラトンについて調べようとしたものではなく、キンバーライトの捕獲岩を調べていたところわかったことです。まあ、予想外の成果となります。

・緊急事態宣言解除・
全国的に緊急事態宣言が解除されました。
感染者数は一時の数と比べると
だいぶ少なくなってきました。
しかしまだ、小さなピークが繰り返し起こりそうな様相です。
北海道で繰り返しピークがあります。
一気に日常に戻るのは危ないはずです。
少しずつ様子を見ながらでしょう。
しかし、感染していない人が多いのであれば、
いつでも大量感染が起こる危険性があります。
全員の抗体検査で感染状況を調べることと
ワクチンか治療薬の開発が
決定的な解決になると思います。

・学生支援・
大学は、前期は原則はWEB講義になっています。
ただし、大学から全学生に対し支援金が支給されます。
また、文部科学省からの学生支援緊急給付金もあります。
国の給付金は、一部の学生にしか支給されません。
条件がいろいろあり該当しない学生も多くなります。
支給されない学生には、
仕送りの低額化、アルバイトの中止(休業補償がない)で、
かなり厳しい生活を強いられています。
そのような学生の中には、
大学を継続できるかどうかの瀬戸際の学生もいます。
ケチらず、全学生を支援してもらいたいものです。

2020年5月21日木曜日

1_176 大陸地殻の新知見 1:3つの論文

 2020年になって、大陸地殻に関する論文が相次いで報告されました。いずれも大陸の形成や特徴に関するものです。今回のシリーズでは、それらをまとめて紹介していくことにします。

 まずは、発表順に論文タイトルを紹介していきましょう。2020年1月7日、イギリスの専門雑誌「Journal of Petrology」(岩石学の雑誌)に報告されたものは、
The metasomatized mantle beneath the North Atlantic Craton: Insights from peridotite xenoliths of the Chidliak kimberlite province (NE Canada)
(北大西洋クラトン下の汚染されたマントル:チャドリカ・キンバーライト地区のカンラン岩捕獲岩からの観点)
でした。
 3月2日、イギリスの科学雑誌「Nature Geoscience」に報告されたのは、
Limited Archaean continental emergence reflected in an early Archaean 18O-enriched ocean
(初期太古代の18Oに富んだ海洋を反映した限定された太古代の大陸出現)
でした。(注)18Oとは酸素の同位体で質量数18のものの比率をいいます。
 3月17日、イギリスの専門雑誌「Journal of Petrology」に報告された、
Eclogite and garnet pyroxenite xenoliths from kimberlites emplaced along the southern margin of the Kaapvaal craton, southern Africa: mantle or lower crustal fragments?
(南アフリカ、カープヴァール・クラトンの南縁に沿って定置したキンバーライトからのエクロジャイトとざくろ石輝石岩の捕獲岩:マントルもしくは下部地殻の断片か?)
でした。
 いずれも専門書の論文のタイトルなので、日本語訳を読んでもよくわらかないと思います。その内容は、次回以降、順次紹介していきます。
 最初の論文の調査地は、カナダ北東部のバフィン島の北大西洋クラトンで、2つ目の論文は、オーストラリア北西部のピルバラ・クラトン、3つ目は南アフリカのカープヴァール・クラトンです。いずれもクラトンという名称がついています。論文の紹介の前に、クラトンの説明からはじめていきましょう。
 クラトン(craton)とは、大陸地殻の中でも、非常に古いもの(先カンブリア紀)を意味しており、「安定地塊」、「楯状地」などとも呼ばれています。安定地塊とは、古くから存在している大陸地殻なので、それは安定していることを意味しているために呼ばれています。また、楯状地とは、古い時代に形成され侵食され、地形も平らでなだらかになって盾状になっているという意味です。
 地球にはクラトンと呼ばれてるものがいくつかあります。論文で出てきた以外にも、カナダ楯状地、バルト楯状地、シベリア卓状地、ブラジル楯状地、アラビア楯状地、シナ地塊(アジア大陸東部)など、大きさはそれほどではないですが、古い時代の大陸の様子や大陸形成についての研究では重要な地域となります。
 次回から、それぞれの論文を紹介してきましょう。

・緊急事態宣言・
全国の新型コロナウイルスの感染者数は
自粛を進めたため、だんだんと減ってきました。
ただし、いくつかの地域では、
緊急事態宣言はまだ継続中となっています。
北海道も緊急事態宣言は、まだ継続中です。
北海道でも、いくつかの地域で発生しています。
わが町では感染者は6人ですが、
市内での確認は8人となります。
少ないといえば少ないのですが、
札幌の隣の石狩管内なので、
札幌の同列に扱われています。
致し方がないのですが、少々長い自粛が続いています。

・どさくさ紛れ・
大学はWEB講義も3週目となりました。
なんとなくリズムがでてきたのですが、
大変さはが経るわけではありません。
新たに準備すべきことが、例年以上に多くなります。
そのため、未だにとまどっている人もいます。
また、大学の会議も遠隔になりました。
発言が少なくなるようで、
時間短縮になり、これはこれで効用もありそうです。
しかし、大事な議題も流されると困ります。
国会でも無法な法案を通そうしましたが、
検察庁法改正法案はだけは
国民の声で阻止できました。
今の政府は、こんなどさくさ紛れの所業が
いろいろと目に付きます。
困ったものです。

2020年5月4日月曜日

6_175 月の地質図 2:レゴリス

 月の表面は、レゴリスと呼ばれる堆積物に覆われています。レゴリスの形成過程から、いろいろ読みとれることがあります。月の歴史、そして地球や他の天体の歴史も、読み取ることも可能となります。

 月の表面は、砂のようなレゴリス(regolith)に覆われています。レゴリスは、聞き慣れない言葉です。アメリカの地質学のメリル(Merrill)が1897年に「風化や植生などでその場できた物質による被覆層」や「風、水、氷などで運ばれ分解された破片」に対してはじめて使いました。その後、惑星や月の探査で、天体表層を被覆する堆積物がたくさんあることから、レゴリスという用語がよく使われるようになりました。
 月には大気も水ないはずなのですが、岩石が砕かれて破片になっていることは、どういう意味があるのでしょうか。月では、破片をつくるような作用には、隕石の衝突しかありません。隕石の衝突は非常に稀な現象に思えますが、大気も水もないので、一度できたクレータは侵食を受けることがなく残り、レゴリスも次のものが飛び散って覆うまで残っています。
 クレータは、付近に別の隕石が落ちれば形が壊され、レゴリスに覆われていきます。稀な現象でありますが、確率的には、古いクレータほど、後の時代のクレータによって破壊されることになります。近接するクレータ同士では、破壊された形状やレゴリスの覆い方から、新旧の判別が可能になります。
 前回紹介した、黒っぽい岩石からできている地域はクレータが少なく、白っぽい地域はたくさんのクレータができます。これは、黒っぽい地域が新しい岩石(35億前から30億前)で、白っぽい地域が古い岩石(45億前から40億前まで)であるという、アポロの年代と一致します。このようなクレータを密度から、年代を見積もる「クレータ年代学」も考案されています。年代測定の試料の手に入らない天体であっても、クレータの数から密度が見積もれれば、その地域の年代を推定することが可能になります。
 クレータの形成率を時代ごとにみていくと、古い時代ほどクレータの形成率が高く、新しくなるにつれて減っていくという現象も見つかりました。これは、太陽系の形成の初期に、大量の隕石が落下したこと、つまり隕石が初期に一気に集積したことを意味しています。惑星の公転軌道にあった隕石が、惑星(例えば、地球)や衛星(例えば、月)となる大きな天体に、集っていったことになります。このような天体の形成は「暴走成長」モデルと呼ばれています。
 月の大きなクレータには、すべて名前がつけられています。クレータの中でも大きなものは、飛び散らさせた破片やレゴリスなども多くまります。そのような大きなクレータの衝突時期を、時代の区切りに利用し、クレータの名称が時代名にされています。
 月では、岩石の種類と時代が、ほぼ推定できるようになりました。そこから、全月の地質図が作成されました。

・課題とコメント・
いろいろWEB講義が今週からはじまりました。
ゼミナールのメンバーに対しては、
すでにテレビ会議システムで
個別面談やゼミをスタートしています。
問題は、大人数の講義です。
いちおうWEB講義は作成していますが、
動画を使わないように、
資料と課題提出で講義を進めることになりそうです。
100名を超える授業が2つあるので、
課題に対して、すべてコメントをすることは不可能です。
どうしたものか考えあぐねています。

・高くつく教訓・
新型コロナウイルスは疫病ですから
だれのせいでもありません。
したがって、その渦中の国や地域は
その対処をしていくしかありません。
淡々と自粛を継続していくしかありません。
本来なら、完全が外出自粛を徹底すれば、
もっと早くおさまったかもしれません。
日本では、100年前のスペイン風邪以来の疫病なので、
準備不足と指導者の無能を露呈してしまいました。
自粛をもっと継続することになります。
高くついた教訓となりそうです。

2020年4月30日木曜日

6_174 月の地質図 1:白と黒の違い

 月の地質図が新たに作成され、公開されました。月は地球とは全く異なった進化をしています。地質図もかなり異なったものになるはずです。月の地質図を紹介してきましょう。

 2020年4月20日に米国地質調査所(United States Geological Survey)は、月の地質図を作成して公表しました。その地図は以下からダウンロードできます。
 この地質図は500万分1の縮尺ですが、大きなサイズの画像もあり、詳細に地質が描かれています。この地質図は、北半球と南半球に分けたもの(丸いかたち)と、メルカトール図法の平面図(横長の四角)で表示がされています。また、地質時代も細かく分けられています。
 ご存知だと思いますが、月は常に地球に同じ面を見せています。これは、月の公転が地球に共鳴しているため、やや重い側を地球に向けるようになっています。地球に向けている側を慣例として表側と呼びましょう。月の裏側の様子は、地球から見ることはできません。ですから、月にいって、裏側に回り込まないと、裏面を見ることができません。
 月の探査機は、米ソの冷戦時代をきっかけ活発になされ、Apollo計画で有人探査がなさました。有人探査も表側での調査でした。しかし、裏側も見ることができました。その後も月の探査は、とぎれとぎれですが、継続しています。
 月の裏側は、表側とは全く異なったものになっていることがわかってきました。表側は、黒っぽいものと白っぽいもので模様ができています。白っぽいところにはクレータが多く、黒っぽいところは少なくなっていました。裏側は白っぽく、多数のクレータがありました。
 Apollo計画で試料が持ち帰られたので、岩石の特徴や形成年代もわかりました。月の表明はすべて火成岩からできており、白っぽいところは形成年代が古く、花崗岩の仲間(長石の多い岩石、アノーソサイトと呼ばれています)でています。また、黒っぽいところは、新しい時代の玄武岩からできていました。新しいとはいっても、35億から30億年ほど前で、白っぽいところは45億年前から数億年ほどでできています。その後は、月のマグマの活動はありません。
 月の表面には砂のようなもの(レゴリスと呼ばれています)で覆われています。これらは地球では堆積物に相当するのですが、月では地球のようなでき方とは異なっています。月には大気も海洋もないので、地球のような風や水による堆積物はできません。
 では、月でどのようにしてレゴリスはできたのでしょうか。次回としましょう。

・WEB講義・
大学でのWEB講義が来週からはじまりますが、
ゼミナールのような講義は、事前にスタートしています。
私は、今週からWEBでテレビ会議システムを使って、
いくつかのゼミナールをはじめることにしています。
このメールマガジンは、テレビ会議システムを
はじめる前に送信しています。
テレビ会議システムでは有名なZoomも試して、
それなり使いやすかったのですが、
大学では別のシステムを、
使うことになっていますので、
私はそれを使うことにしました。
うまくいのでしょうか、少々不安です。
まずは、やってみることでしょう。

・指導者・
新型コロナウイルスの緊急事態宣言は
連休明けに終わるのでしょうか。
感染者の増加率を見ていると、難しそうです。
多分今までの対策のことごとくが、
中途半端だったようです。
やるときは対処に一気に徹底的に進めるべきでしょう。
孫氏の兵法にもそうあります。
緊急事態、非常時に弱い指導者は
問題をより大きくしてしまいますね。

2020年4月23日木曜日

2_182 真核生物の誕生 7:進化モデル

 古細菌から真核生物への進化の鍵を、ロキアーキオータが握っているようです。ロキアーキオータの培養が成功した結果、実態が明らかになってきました。古細菌から真核生物への進化の道筋が見えてきました。

 井町さんたちが培養に成功したロキアーキオータは、MK-D1株と呼ばれていました。では、MK-D1株とは、どんな生物なのでしょうか。培養に成功したために、DNAや形態の特徴などが詳しくわかってきました。
 MK-D1株は、酸素のない環境でしか培養できませんでした。ですから、嫌気性の生物となります。細胞を電子顕微鏡で観察をすると、直径550nmという非常に小さい球形でした。他の古細菌と同様に、単純な細胞であることもわかってきました。ただ、細胞の外に向かって、特異な触手のような長い突起を伸ばしたり、多くの小胞を放出することがあるのもわかりました。
 DNAの解析も進められました。MK-D1株には、真核生物に特有のゲノム(アクチンやユビキチンなどを作るための遺伝子)をいくつも持っていることがわかりました。分子系統樹からみると、原核生物としては、真核生物にもっとも近縁であることもわかってきました。
 MK-D1株と呼ばれるロキアーキオータは、無酸素の環境でしか生きられず、古細菌として単純な細胞内の構造しかもたない生物でありながら、真核生物に似た特徴もいくつも持っています。形態的にも不思議な特徴をもっていました。
 不思議な形態は、増殖が終わったときに現れます。長い触手のような突起を外に伸ばし、小胞を外に出すという、活動をします。これは、他の古細菌やバクテリアではみられない特徴です。では、なんのために、このような不思議な活動をするのでしょうか。
 MK-D1株は、形態の特徴や、古細菌でありながら真核生物のDNAに似ていることなどから、古細菌から真核生物への進化の道筋が推定されています。その進化の仮説は、前に紹介したE3モデル(Entangle-Engulf-Endogenize model)と呼ばれるものでした。その仮説をアニメーションにしたものが公開されています。この動画には、発見から培養の様子もまとめられています。興味ある方は、御覧ください。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=18&v=p1Zr4t6Vmtg&feature=emb_logo
 このアニメーションでは、ロキアーキオータの祖先(MK-D1祖先と呼びましょう)は、次のような進化シナリオを紹介します。
 酸素のない時代から、酸素の多い時代になってくると、MK-D1祖先は酸素を利用できるミトコンドリアに触手を伸ばしていきます。MK-D1祖先は栄養をミトコンドリアに供給します。ミトコンドリアは酸素を利用して水素を排出します。硫黄還元菌はその水素を利用してアミノ酸を合成します。そのアミノ酸をMK-D1祖先が利用していきます。ばらばらであると効率が悪いので、MK-D1祖先が放出した小胞がミトコンドリアに付着して、からめてくっつきます(Entangle)。MK-D1祖先から細胞膜が広がり、飲み込み(Engulf)、やがて細胞内に融合していきます(Endogenize)。
 井町さんたちは、「単純な細胞構造を持つ無酸素環境下で生育するアーキア」から「複雑な細胞構造を持ち酸素で呼吸する我々真核生物」へとなっていくという新しい進化のE3モデルを提案しました。
 今後、MK-D1株のより詳しい研究が期待されます。

・緊急事態措置・
日本全土で緊急事態宣言がでました。
北海道も緊急事態措置の対象となりました。
大学でも、健康診断などの一部の行われる予定の行事も
すべて中止になりました。
職員もかなりの割合が在宅勤務となりました。
教員も可能な限り自宅待機となっています。
ただし、私は大学の研究室にこもっています。
会議は仕方がありませんが、
あとは極力、電話やメールですませています。

・学ぶチャンスに・
緊急事態で大学の講義が中止、延期
校務が最小限になっているため、
研究に専念しています。
いいことか悪いことかはわかりませんが、
研究が進みます。
この時期をチャンスに研究や教養、趣味など
今まで時間がなくて、できなかったことに
集中するのがいいのではないでしょうか。
私は研究に専念しながら数学の学び直しをしています。