いよいよ房総石の紹介です。房総石は千葉石の中に混じっていました。この新鉱物の発見は、メンタンハイドレートやシリカクレスレートの研究だけでなく、天然ガスの起源や付加体の実態解明などの新しい展開を予感させます。
「房総石」は、2011年の千葉石の研究の過程で見つかったそうです。千葉石を詳しく調べていくと、量は少ないですが、異なった結晶構造をもっている鉱物があることがわかってきました。それが新鉱物であることが明らかになり、2020年に「房総石」と名付けられて報告されました。
前回紹介した千葉石は、メタンハイドレートに見つかっている3つの構造(I型、II型、H型)のうち、II型の構造をもっていました。調べていくと、II型の構造の中に、H型の結晶があることがわかりました。この構造をもったシリカクラスレートは、これまで見つかっていませんでしたので、新鉱物になります。
房総石の「カゴ」のサイズは、千葉石よりもっと大きいものでした。「カゴ」が大きいと、より大きな分子が入ることになります。千葉石では入っていたのがメタンでしたが、房総石にはメタン(CH4)も入ることができます。より大きな分子として、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8)などのガス分子がありますが、結晶構造の解析から、さらに大きな分子も入っている可能性もあることがわかっていました。
一般に天然ガスでは、温度や圧力が上がってくると、分子が分解されてサイズが小さくなっていきます。千葉石の中から見つかってのですから、房総石は本来なら分解されてしまう、より高温高圧の条件に置かれていたはずです。しかし、分解を免れた状態の鉱物が残ったと考えられます。報告者は、房総石を天然ガスの「タイムカプセル」と呼んでいます。
これまで、シリカのクラスレート鉱物として、I型の「メラノフロジャイト」が見つかっていました。そして、II型の千葉石が2011年に見つかりました。今回、H型の新鉱物「房総石」が見つかったことになります。これらの発見によって、シリカクラスレート鉱物も、メタンハイドレートの結晶構造と同様の多様性があることが明らかになりました。
天然ガスは、本来地層の間にガスとして溜まっています。しかし、天然ガスが、海底に上昇してきたとき、冷たい海水に接触することで、メタンハイドレートができます。メタンハイドレートが、長く地層中で地下水にさらされていると、水の分子がシリカに置き換わっていきます。つまり、シリカクラスレート鉱物になっていく可能性があります。地層中の石英脈がよく見つかります。もしかすると、その石英脈の中に、千葉石や房総石が含まれているのではないと考えられます。
今後そのような展開が起こると、多くのところで、千葉石や房総石が見つかってくるかもしれませんね。
・タイムカプセル・
天然ガスの「タイムカプセル」という意味は、
房総石のカゴ中に、天然ガスの成分が残されているためです。
房総石の量は少ないのですが、
「あった」という証拠を提示したことが重要になります。
存在の証明がされれば、
そこから推測される仮説の説得力もでてきます。
今回見つかった地層に似た環境、
つまり付加体中の過去の冷湧水の痕跡には
石英脈が多数があります。
その中には、今回報告されたようなシリカクラスレートが
形成されているのかもしれません。
問題は、鉱物の中のガスの種類を
それも微量のものを、どう検出していくかでしょうか。
これは、なかなか難しいでしょうね。
・アイディアが・
新しい発見があると、その応用が可能になります。
発見のための場所や方法などがわかったことになります。
さらに、これまで探査されなかったところかも
新たに見つかるかもしれません。
その方法論は、他の鉱物などの探査に
利用できるかもしれません。
あとは探索のための技術的な困難さでしょうか。
普及した装置であればいいのですが
特別な装置なら、それを利用できる人だけが
調べることができることになります。
しかし、重要なのは、どんなアイディアで
調査研究を進めていくでしょう。
その場で、なぜシリカクラスレートを探すのか
という点が重要でしょうね。