2018年7月12日木曜日

1_158 大陸の形成 3:新仮説

 これまでの常識は、実は漠然としたデータに基づくものであるかもしれません。データを、整理したら、新たな事実が判明し、これまで誤解に基づいて常識が構築されてた。そんな実例が、今回の田村さんたちの報告です。

 これまで安山岩質マグマは、厚い島弧地殻のあるところで形成されると考えられてきました。しかし、今回のシリーズで紹介している田村さんたちの報告では、伊豆小笠原とアリューシャンの両海洋島弧では、地殻の薄いところで安山岩質マグマが活動していることを見出しました。これは、今までの常識とは違った結果となりました。
 田村さんたちは、自分たちが見つけた事実、
  地殻の厚い地域(厚さ30km以上)では玄武岩質マグマ
  地殻の薄い地域(厚さ30km未満)では安山岩質マグマ
が活動する、という前提を置きました。つまり、安山岩質マグマが薄い海洋島弧地殻ででき、厚いところでは玄武岩質マグマが活動します。これまでの地質学の常識に反しますが、これが事実です。そのため、島弧のマグマ形成に、新たな考え方(仮説)を導入する必要がでてきました。
 沈み込み帯では、海洋プレートから水分が陸側のマントルに供給されていきます。そのため、マントルの溶融とマグマ形成は、含水量の多い条件で起こることになります。沈み込み帯は、すべて同じ条件となるはずです。
 岩石溶融の高温高圧実験では、圧力が低い条件では、含水マントルでは安山岩質マグマが、高圧条件では玄武岩質マグマが形成されることがわかっています。低圧条件は地殻の薄い海洋島弧(厚さ30km未満)下のマントルで、高圧条件は厚い島弧(30km以上)の条件に相当する、と田村さんたちは指摘しています。これで海洋島弧の事実は説明できました。
 次なる問題は、成熟した島弧の安山岩質マグマの活動の事実をどう説明するかです。高温高圧実験では、高圧条件では玄武岩質マグマができ、マントルを上昇してくると、すでに形成されていた海洋島弧地殻を構成する安山岩、あるいは成熟した島弧地殻の岩石に突き当たります。
 成熟した島弧では、安山岩だけでなく堆積物や花崗岩もあり、玄武岩質マグマによる溶融作用でデイサイト質マグマの形成が定常的に起こます。そして、玄武岩質マグマとデイサイト質マグマのマグマ混合が起こり、島弧の安山岩質マグマができていると考えられています。伊豆小笠原弧では玄武岩質マグマが島弧地殻を溶かすことが知られています。
 今回に報告で私が考えた重要な点があります。海洋島弧に安山岩や玄武岩が活動していることは、すべての地質学者は知っていました。今回の田村さんたち論文は、海洋島弧の地殻の厚さとマグマの関係を調べ、相関があることを示して、それが今までの常識に反していたのですが、事実に基づき、新たな大陸の形成メカニズが地殻に薄い海洋島弧でおこっていると提案しました。
 かつて、同じようなことがあったことを私は思い出します。島弧を代表する、あるいは平均値がマグマが安山岩質だということを多くの地質学者が知っていました。大陸も平均すると安山岩質の組成なることもしっていました。それらを結びつけて、島弧の安山岩が大陸地殻の形成につながることが指摘され、多くの地質学者は目からウロコでした。
 今回の同じような驚きがあり、非常に重要な指摘です。今後慎重に検証していく必要がありますが。
 西之島という海の中の新しい火山が安山岩ばかりだという事実と、なおかつそこで新しい大陸の形成が始まっているのでは、という指摘もなされました。これだけでも、興味深い仮説なのですが、この報告には、もう少し大きな可能性を示しています。それは次回としましょう。

・雨の中の調査・
本州の大雨の頃、
私は道南の4回目の調査にでていました。
北海道も降ったりやんだりの天気で、
なかなか思うように調査ができませんでした。
道路が通行止で予定通りにコースを
進むことができないところもありました。
でも、目的としていた露頭をみつけ、
ざっとですが見ることもできました。
やはり予想通りの露頭でした。
でも、海岸に降りれずに次の機会にしました。

・前期も終盤・
7月になり、大学は前期の授業が
終盤に差し掛かっています。
授業の最後の詰めになっています。
学生はそろそろ期末の試験やレポートなどが
気になってきているようです。
大学の授業評価のアンケートなどもあり、
学生にはいろいろ手間をかけていますが、
これもよりよい授業、学生が望む授業に
近づけるための基礎データとなります。