2008年9月18日木曜日

4_79 千里浜:能登と飛騨の旅1

 9月5日から11日まで、能登から飛騨をめぐる調査をしました。海岸と河川沿いを主に見てきたのですが、そのときの様子を紹介しましょう。まず最初に紹介するのは、石川県の千里浜です。

 石川県宝達志水町の今浜から羽咋市(はくい)の千里浜町に至る長い海岸があります。長さ約8km、幅50mほどの砂浜です。ここは、千里浜と書いて「ちりはま」と呼ばれています。長い砂浜海岸は、それほど珍しくなりませんが、実は、この海岸では、車が走れる海岸道路として有名なのです。千里浜は、4輪駆動の特別な車でなくても、普通の乗用車でも、観光バスでも走行することが可能です。
 私もレンタカーでこの海岸を走りました。海岸に車を止めて、海や砂浜を眺めているときにも、何台もの乗用車や観光バスが、砂の上を走っていきました。なぜ、重い観光バスまでも、砂に埋もれることなく、走ることができるのでしょうか。
 それは、砂が、車が上に乗ってもくずれることなく、締まっているためです。
 実際には、車が走れるところと、走れないところがあります。波打ち際から近い砂浜はいいのですが、岸から離れていくと、さらさらした砂になります。そちらは、車ではいると、車輪が埋もれてしまいそうです。さらさらした砂は、丘につながっていて、それは砂丘になっています。ちなみにこの砂丘は、全国第4位の規模があります。
 走れるところと走れないところを比べると、走れるところは、砂の色が違います。色が違うのは、砂がしっとりに湿っているためです。たぶん、ここの海岸は、波打ち際からある程度離れても、乾くことなく、常に濡れているのでしょう。あるデータによると、この砂には、90%ほどの含水量があるといわれています。そのため、締まった砂となっているようです。
 その他にも、砂が締まるいくつかの理由があります。地質学定義では、直径2mmから0.0625mmまでが、「砂」に分類されます。「砂」より大きいものを「礫」、小さいものを「シルト」(0.0625~0.004mm)や「泥」(0.004mm以下)といいます。千里浜の砂の構成粒子は、石英・長石・雲母・輝石・貝殻などいろいろなものを含んでいますが、粒の大きさが0.2mm程度(中央粒径0.17mm)と細かくそろっていることが、特徴です。このように粒径がそろっている砂を、「淘汰がいい」あるいは「分級がいい」といいます。
 これらの砂の特徴が、重要な役割を果たしています。湿って粒径がそろっている砂は、剪断力にたいして抵抗力が強くなります。つまり、重いものが上に乗っても崩れにくいという性質を持ちます。
 ではなぜ、粒径のそろったすなが、千里浜にあるのでしょうか。それは、砂の供給源と運搬の仕組みによるものです。砂の粒径を、海岸を南に向かって調べていくと、手取川に向かって粒径が大きくなっていることがわかりました。つまり、千里浜などの能登半島の付け根にある滝崎まで、手取川の砂が、対馬海流によって運ばれているのです。粒径の大きな砂は、手取川の近くに、小さいものは遠くまで運ばれます。もっと小さい粒径のものは、海岸に打ち上げられることなく、遠くの海底まで運ばれていくのです。
 同じような条件の砂浜が、いたるところにあってもいいはずなのですが、そうそうはないようです。日本では、千里浜だけのようです。世界でも米フロリダ州とニュージーランドの海岸に知られているくらいで、珍しいようです。千里浜は、能登半島国定公園に選定され、1996(平成8)年には日本の渚百選にも選ばれています。千里浜は、自然の妙が生み出した海岸なのです。

・人工の浜・
千里浜では、実は、砂の流出が起こっています。
一説によれば、10年で約12mも侵食されているといいます。
そのため、関係機関では、海岸保護のために、
1984年から毎年3000~6000m3の砂を持ち込んで、養浜がなされています。
海岸の浸食は、いまだにとまっていないようです。
その原因は、砂利採取や金沢港の影響も考えらえていますが、
砂の供給源である手取川の
ダムや護岸ではないかと考えられています。
千里浜は、自然の妙が生み出した海岸です。
そこに、人工的に砂を入れるというのは、
自然の妙を消してしまう行為に見えるのは、私だけでしょか。

・塵浜・
千里浜が「ちりはま」というのは、
珍しい読み方です。
もともとは「塵浜」と書いたそうです。
この地域は、「作物ができず、税のかからない土地」
ということから地名が由来したそうです。
塵浜をゴミハマと蔑称する人ともいたため、
1927年に千里浜村と変えられました。