2006年9月7日木曜日

3_48 マントルの水4:浮沈法

 マントルの水のシリーズです。少し、間が開きましたが、遷移層にマグマが留まれるかどうか、みていきましょう。


 遷移層にマグマができることは、前回示しました。ところが、マグマが遷移層に留まれるかどうかと、遷移層に水があることを、まだ説明していませんでした。
 まず、マグマが遷移層に留まれるのでしょうか。マグマは、まわりの岩石が溶けてできたものです。一般に同じ成分の固体と液体を比べれば、液体の方が密度が小さく、固体が大きくなります。ですから、マグマができると、上昇してきます。これは、マグマの上昇のメカニズムでもあります。
 マグマが遷移層に留まるというのは、常識を破る現象なのです。では、この常識破りが正しいかどうか、どうすれば判定できるのでしょうか。前にも紹介しましたが、高温高圧実験で遷移層の条件をつくり出し、そこでマグマをつくってみればいいわけです。そしてそのマグマが周囲の岩石より、密度が大きいか小さいか比べれてみればいいわけです。
 実際の遷移層では、水があるためにマグマができるのでした。ですから、実験でも、水を入れてマグマをつくらなけばなりません。実は、水を含んだマグマの密度をはかるのは、非常に難しい実験で、だれもできてせんでした。その実験に大谷さんたちのグループが成功したのです。
 その方法は、「浮沈法」と呼ばれるもので、大谷さんたちのグループが、以前に開発したものです。浮沈法とは、マグマの中にダイヤモンドをいれて、そのダイヤモンドが浮くか沈むかで、マグマの密度を決めようというものです。ダイヤモンド自身の密度は、温度圧力の条件が決まれば、状態方程式から決めることができます。
 高温高圧の実験でマグマをつくり、その中でダイヤモンドが完全に移動を終えてから、その装置の温度を急激に下げます。すると、マグマは一気に冷めて固まります。ダイヤモンドの位置を維持したまま、固まります。それを装置から取り出して、資料を顕微鏡で観察して、どの位置にあったかをみて、密度を決定するものです。
 実験の結果から、マントルの遷移層の条件で、マグマが滞留できることがわかりました。これによって遷移層にマグマが存在できる根拠が見つかったわけです。
 マントルの岩石にも水は入ることができますが、マグマができれば、水はマグマの方へ移動します。また遷移層でマグマができる条件は水があることです。ですから、マグマがあれば、その中に水がきっとあるはずになります。
 実験から、マグマが遷移層に滞留できるには、水が6.7重量%の含有量までなら、大丈夫ということが分かりました。つまり遷移層のマグマには最大、6.7%まで水が入りうるということです。
 6.7%というのは、一見少なそうに見えますが、遷移層全体と考える、膨大な水の量になります。
 単純な試算をしてみましょう。海水は1.4×10^21kgあります。遷移層の岩石の重さは、体積と密度から3.9×10^23kgと推定できます。その6.7%なら2.3×10^22kgとなり、あとはマグマが遷移層にどの程度あるかによって水の量が決まります。マグマが重さで5%ほどできるとしたら、海水の同じほどの量が遷移層にあることになります。
 まだマグマの量ははっきり分かりませんが、少量でもマグマがあれば、その水の総量は、膨大な量となります。遷移層のマグマが、地球の海に匹敵するほどの水の貯蔵庫となりえます。
 地震波を詳しく見ると、上部マントルと遷移層の境界に、でこぼこが見つかっています。このでこぼこは、温度のムラという説明がされていますが、大谷さんたちは、遷移層の水の含有量の違いによって、説明したほうが無理がないと考えています。
 でも、この水はいったいどこから来たのでしょうか。それは、次の回としましょう。

・シンプルな問いが難しい・
マントルの水シリーズの4回目をお送りしました。
冥王星の騒ぎで、2回、間が開きました。
ここまでの説明で、遷移層の水があってもいい
という論理的な根拠ができました。
遷移層の実体をよく詳しく解明してされて来ました。
そこには、困難とされた実験を解決する方法を以前開発してました。
その方法が、今回の実験にも活かされました。
その結果、マグマがマントルの深部に留まれることが
明らかになってきました。
今後は、次のステップへと進みます。
次のステップとは、
遷移層に水があるのか
あるとするとその水はどこから来たのか
という問題を解決することです。
実は、この一番シンプルな問いが、
答えを得るものが一番難しい問題です。
それは、次回説明しますが、
推定するしか現状ではありません。
でも、簡単な問題ほど、研究者なら誰もが取り組みたい、
そして誰もが知りたい問題となります。

・四国へ・
このエッセイは、四国の城川に出かける前に書き、
発行したものです。
8月の段階で書いています。
ですから、四国の様子をここでは、報告できません。
近いうちに、紹介しますので、お楽しみに。