2004年1月22日木曜日

2_30 謎の大絶滅(その1)

 顕生代になると、生物がたくさん化石となって発見されています。そのために、生物の絶滅や出現を時代の区切りに利用することができるようになってきます。古生代、中生代、新生代と区分されたのが、そうです。
 そんな大きな絶滅が、顕生代には、前回紹介したように、いくつもあります。そのうち、大きな絶滅を5つ(ビックファイブ)の中でも古生代と中生代の時代境界が、最大の絶滅の率を示しています。古生代の終わりはペルム紀(Permian)で、中生代のはじまりは三畳紀(Triassic)という時代です。それらの境界なので、P-T境界と呼ばれています。
 上で示した、P-T境界の絶滅率96%というのは、種のレベルでの見積もりです。海洋域の無脊椎動物の属のレベルでは74%が絶滅したと見積もられています。もちろんこの大絶滅の事件は、陸上生物にも及んでいます。
 そんなP-T境界の大絶滅は、どんなものだったのでしょうか。それを探っていきましょう。
 今までP-T境界の大絶滅の研究は、大陸棚の浅海性の石灰岩でなされてきました。このような地層は、すべて、パンゲア超大陸の周辺で堆積したものでした。しかし、このような地層の研究では、陸や陸に近い海の情報が主要なものとなります。広大な海洋域の環境変化を知ることができません。そのため、海洋域の地層の調査をすることが重要となります。
 そんな海でできた地層の重要性に気づかれたのは、磯崎行雄さんたちでした。最近まで、遠洋性の地層で、P-T境界の連続露頭は知られていませんでした。しかし、磯崎さんたちが、精力的に調べ、日本の各地で、連続露頭を発見しだしました。磯崎さんたちは現在も、日本列島の周辺で、P-T境界の絶滅について精力的に調べられています。
 現在、P-T境界の連続露頭が知られているのは、次の4箇所です。岐阜県各務原市~愛知県犬山市、岐阜県大垣市赤坂、愛媛県東宇和郡城川町、宮崎県西臼杵郡高千穂町上村。
 では、その4箇所の地層とはいったいどんな地層なのでしょうか。ひとつは海洋島とよばれる海の真ん中に火山でできた島の周りに成長した造礁性の生物がつくった石灰岩です。もうひとつは深海にたまった遠洋性のプランクトンの死体が固まってできたチャートと呼ばれる岩石でした。
 石灰岩は、海洋島や海山の上にたまってできる岩石なので、陸の影響を受けませんが、大気や環境の変化を受けやすいと考えられます。チャートは、深海底でできた岩石なので、陸や大気の影響をほとんど受けない環境です。
 チャートは愛知県犬山だけで、あとの岐阜県赤坂、愛媛県城川町、宮崎県上村は、石灰岩やドロマイト(炭酸塩からできた岩石で石灰岩の仲間)からできています。これらの地層は生物の遺骸からできていますから、保存の状態がよければ化石を見つけて、時代を決めたり、環境を推定したりすることが可能です。
 犬山のチャートの調査から、P-T境界では、事件が起こっていることがわかってきました。P-T境界前後の1000万年間は化石がないこと、P-T境界前後の1500万年間はチャートの堆積停止していること、P-T境界前後の2000万年間は還元的堆積物の堆積であること、さらにP-T境界は対称的な岩石の変化をしていることなどがわかってきました。
 石灰岩では、前期三畳紀には「リーフ・ギャップ」と呼ばれるものが知られていました。ペルム紀後期まで発達していた礁が、ペルム紀最末期から三畳紀中期まで、発達しない現象のことです。約1000万年間は、礁ができない時期があるです。
 さてこのような情報から、どんな事件が読み取れるのでしょうか。それは次回にしましょう。