2003年9月18日木曜日

4_37 巨人の敷石道:北アイルランドにて

 2003年9月1日から13日まで、イギリスに調査に行きました。イギリスへは昨年も行ったのですが、今回は北アイルランドと北ウェールズが目的地でした。まずは、北アイルランド旅を紹介しましょ。


 北アイルランドを訪れたのは、ジャイアンツ・コーズウエイ(Gaiant's Causeway)という世界遺産を見るためでした。ここは、柱状節理が有名なところで、その景観と岩石を見たいと以前から思っていました。
 節理(せつり)とは、岩石の中にできる割れ目のことです。不規則な割れ目を、亀裂(きれつ)とよび、規則的なものを節理と呼びます。節理は、岩石が収縮したときや圧力が開放されたときできます。割れ方によって、柱状節理、板状節理、放射状節理、方状節理があります。
 ジャイアント・コーズウエイの柱状節理は、大きな溶岩が流れ、それがゆっくりと冷えたものです。マグマがゆっくりと冷えるとき、液体のマグマより固体の岩石のほうが少し体積が縮み、岩石に規則正しい柱状の節理ができたものです。節理の柱の断面は、差し渡し30から50cmほど六角形をしています。正確な六角柱状ではないのですが、一個一個の形や大きさは似ていいます。でも良く見ると、どれひとつとして同じものはありません。不思議な幾何学的な模様で、それぞれ類似と相似があり、いくら眺めていても見飽きない面白さがあります。
 私も各地で大小の柱状節理を見てきましたが、ここの節理はみごとでした。北アイルランドの柱状節理は、多くの人が簡単に訪れることできる場所にあります。また300年以上前から観光名所として、イギリスでは、知られていたようです。
 ジャイアント・コーズウエイは、柱状節理で有名ですので、観光の内容も地質学の内容が中心になります。観光案内書にも地質学の内容がたくさん盛り込まれています。ビジターセンターでは、地質図が何種類も売っていました。その地質図がそのまま観光案内にもなっていて、自然道沿いでみられる岩石や節理の説明がついています。
 地質学がイギリスのこの地では、常識なのです。玄武岩、ドレライト(粗粒玄武岩と訳されることがあります)、岩脈、岩床など地質学的用語があたりまえに使われています。日本ではなかなか考えられないことですが、ここでは地質学的現象が観光の中心となり、地質学的説明がなされています。
 ジャイアンツコーズウエイの周辺には自然道もいくつもかあり、その多くは海岸沿いの崖に見えるさまざなまな節理をみていくものです。地質のガイドブックにもいくつかコースが載っています。ナショナル・トラストによって、そのような自然道がよく整備されています。
 私も1日、自然道をあるきました。最初はジャイアンツコーズウエイの海岸沿いを歩き、途中から崖の上の牧場の柵沿いに歩くものです。8kmほどのコースです。4時間半ほどかけて、観察しながら歩きました。ガイドブックでは3時間ほどのコースと書かれていましたが、観察をしながらいったためでしょうか、それとも体力のないせいでしょうか、長い時間がかかりました。でも、5500万年前のマグマがつくったさまざなま節理を堪能しました。

・我を忘れない生き方・
ジャイアンツ・コーズウエイは、
北アイルランドの北部の田舎の町外れにありました。
世界遺産になっていますから、多くの観光客が訪れます。
そして、ビジターセンターのすぐ横に、ひとつだけりっぱなホテルもあります。
ビジターセンターには、土産物屋も少しあります。
でも、それはささやかなものです。
いちばん近くの町も、古くからの観光地ですが、
土産物屋らしきものはありませんでした。
ただ普通のアイルランドの田舎の町のたたずまいでした。
夕食を食べるところも、いくつかしない小さな町でした。
日本だったら土産物屋さんが乱立していたことでしょう。
生活に必要な小さなスーパーマーケットが3つ、
床屋や美容室などの専門店がいくつかあるような普通の田舎町でした。
ここは、地元の人とたちが、生活に必要なものを手に入れるために集まる、
町本来の意味を持っているところなのだという気がしました。
でも、とても、静かな町でした。
アイルランドの人たちは、観光客が来ても我を忘れることがないのでしょう。
自分たちがすべきこと、そして通り過ぎていく人たちには、
最低限のサービスで済ませている様な気がします。
金を目当てに自分たちの生活を崩していない気がします。
昔から生きてきた生き方を守り、
それが普遍性、恒久性を持っていることを知っているように見えました。
世界の先進国で、エネルギー危機や食料危機などが起こっても、
ここでは、そんな危機を乗り越えられる地道さがあるような気がします。
自分たちの生きる生き方を知っているような気がしました。

・観光施設のない観光地・
コーズウエとは、「敷石などにがひかれた昔の舗装道路」という意味です。
ですから、ジャイアンツ・コーズウエイとは、
言葉どおり、「巨人の敷石道」という意味となります。
アイルランドの古い民話が由来だそうです。
人間には、敷石の道とは思えない大きなものです。
しかし、節理がつくりだす幾何学的な景観は、
やはり印象深いものです。
マグマの活動したところには、柱状節理ができることがあります。
ですから、柱状節理は、日本の各地でも見られます。
兵庫県豊岡の玄武洞(国の天然記念物)や、
福岡県芥屋の大門(けやのおおと)、
静岡県下田の爪木崎(つめきざき)などが有名ですが、
日本各地で見ることができます。
でも、日本の観光地は、観光地らしい趣があります。
観光地にはきまって土産物屋、観光旅館など
各種の観光施設があるからでしょう。
地元の人が、その観光物を金儲けの素材にしています。
また訪れる観光客も、観光物と観光施設を暗黙の了解の上に結び付けています。
でも、それが本当の観光物の味わい方でしょうか。
観光物をみることがいちばんすべきことなのではないでしょうか。
ジャイアンツ・コーズウエイには、
非常にたくさんの人が、世界各地から観光に訪れます。
日本人の観光客にもありました。
でも、観光客によってあらされていない自然を満喫できる観光地でした。