2003年6月5日木曜日

6_28 奇岩に秘められた大気の謎

 鉄鉱石の起源(2003年4月号)と酸素の由来(2003年5月号)について紹介してきました。今回は、それらと密接な関係がある二酸化炭素の話をしましょう。中国の雄大な景観に、その謎をとく鍵がありました。

 悠久の中国というと、どのような景色を想像するでしょうか。それは、山水画の世界のようなものでしょうか。それは、奇岩の岩山が立ち並ぶ間を大河が流れ、朝霧に川面には、漁をする小舟が浮かんでいるでしょうか。そんな景色は、山水画の世界だけでなく、石林や桂林に行けば、現実のものとしてみることができます。中国でなくても、似たような景色は、規模は違いますが、地球のいたるところで見ることができます。
 石林や桂林の奇岩をつくっている岩石は石灰岩です。石灰岩は、それほど珍しい岩石ではありません。石灰岩は、日本の都道府県には、どこにでもあるといわれるくらい、ありふれた岩石です。また、石材としてもよく利用されています。石灰岩がたくさんある地域は、石灰岩がつくりだす固有の景観をつくります。石灰岩台地や鍾乳洞などがそうです。その不思議な地形は、観光名所になります。
 石林や桂林の景観は、どのようにしてできてきたのでしょうか。もちろん、長い年月をかけてできたはずです。
 現在の奇岩の景観そのものも、人類にとっては気の遠くなる時間ですが、地球の時間からすると、石灰岩の地域が奇岩となるまでの時間、あるいは奇岩としていられる時間は、それほど長い時間ではありません。それよりもっと長い時間が、その背景には流れているのです。
 その時間とは、現在の奇岩が、今のような姿になった時間ではなく、奇岩の元となる岩石ができて、今の位置に来るまでの時間のことを意味します。つまり、石灰岩が海ででき、そしてプレートテクトニクスという地球の営みによって陸地に持ち上げられ、そしていろいろな変動を潜り抜けて、何億年という年月の後に、今の地に、石灰岩はたどり着いたのです。その後に、雨や河川によって削られたのが、いまの石林であり、桂林であるのです。
 つぎに、石灰岩のでき方をみていきましょう。石灰岩は、いろいろな時代のものがあります。古生代以降の石灰岩には、化石が見つかることがあります。古生代以降の石灰岩は、生物の遺骸、それも、さんご礁など礁をつくる生き物の遺骸、あるいはそれらの破片が集まったものからできたと考えられています。もともと化石がいっぱいあった岩石でも、長い年月といろいろな変動を経ることで、化石の痕跡が消えてしまっていることもよくあります。
 石灰岩は、ほとんどが方解石という鉱物からできています。方解石は、炭酸カルシウム(化学式はCaCO3)という成分からできています。生物は、硬い炭酸カルシウムを殻や骨(サンゴの場合は外骨格)として利用しました。その材料は、海水中に溶けている炭酸イオンとカルシウムイオンを利用したのです。
 海の中のカルシウムは、陸地の岩石を溶かした川の水から途切れることなく供給されます。炭酸イオンは、大気中の二酸化炭素が海水に溶けこむことから供給されます。
 大気から海水への二酸化炭素のやり取りされ、そして生物の殻や骨になることを考えると、気体の二酸化炭素が固体なると、非常に容積は小さくなります。理科の実験で、石灰岩に塩酸をかけると、大量の二酸化炭素を発生するという実験を思い出してください。この実験では、二酸化炭素を固体から気体にしたとき、どれほど大きくなるかを知ることができます。
 陸地にたくさんの石灰岩があるということは、生物の体の一部として固定された二酸化炭素が、石灰岩として陸地にたくさん貯蔵されていることになります。それも非常にコンパクトにです。陸地の石灰岩をすべて気体に戻すと50~100気圧分にもなると見積もられています。つまり、もともと大量にあった大気中の二酸化炭素は、生物によって、固体にされ、陸地に保存されたのです。そのため、大気中の二酸化炭素は、今のように少ない量となったのです。もし、そのような作用がなければ、地球は、温室効果が働き、暑い星となっていたはずです。
 昔の大気には、酸素がなく二酸化炭素が主な成分でした。そんな原始の大気に酸素を加えたのは、前回の話に登場したストロマトライトをつくったような光合成生物です。さらに、原始の大気中にあった大量の二酸化炭素を取り去り、今の大気を二酸化炭素の少ない状態に維持しているのは、これまた生物の活動となります。
 まさに、生物と地球の共生というべき関係によって、それも長い時間の共生関係によって、今の地球環境がつくられ、そして現在も維持されているのです。もちろん、そのとき起こった環境変化によって、今では知りようもないような大絶滅が起こっていたはずです。私たちの祖先は、そんな環境変化を生き抜いてきた勝者なのです。