2003年4月17日木曜日

5_18 地下水はどれほどあるの

 日本は水に恵まれています。雨が少ないときには、送水制限が出たり、プールも閉鎖されることもありますが、飲み水にこまって、生死に関わるようなこうとはほとんどなくなりました。乾燥地や砂漠地域などの水の少ないところや、大陸の飲むのに適さない水しかない地域と比べれば、日本の水は安心して飲めます。今回は水に関する話題です。

 川の水は、下流になるほど、汚れてきますが、地下水はきれいなものが多いです。ただし、飲料水に適するかどうかは、保険所などに確かめてもらう必要があります。でも、日本の多くの地域で、地下水があり、そのいくつかは、古くから利用され、造り酒屋の多い地域は、水もきれいで豊富なところです。近年では、湧水でも名水とされるものは、人気があり、多くの需要があります。
 いつも、こんこんとわいている湧水は、どこからくるのでしょうか。湧水、つまり地表にわいてくる地下水は、いったいどれほどの量があるのでしょうか。この謎を解くには、地下水のもとをる必要がありそうです。地下水のもとをたどれば、上流のどこかに降った雨が、地下にしみこんだものです。雨と川と地下水の関係をみていきましょう。
 湧水の量は、
・雨は地下にどれくらいの期間たまっているのか。
・山はどれくらいの水をためられるのか。
ということを考えれば、答えができてそうです。
 以下で、これらについて考えていきますが、これは一般論ですので、地域ごと、山ごとによって、その数値は大きく変動する可能性がありますので、その点は御了承ください。
 まず、雨水が地下にある期間についてです。これは、観測できます。放射性同位体という成分を用いる方法です。地下水の年齢決定用いられる放射性元素として炭素14やトリチウム(三重水素)などがあります。このような放射性同位体は、大気中の水蒸気や大気では、ある一定の値を持っているのですが、大気から隔離されると、ある規則で壊れていく(崩壊といいます)性質を利用しています。
 大陸地域の地下水の年齢は、アフリカのサハラ砂漠やテキサス州カリゾ砂岩では2万~3万年という値が出ています。日本の平野部では、関東地方の地下水の年齢は数十年から数百年と推定されています。
 次に、地下にしみ込む量を推定しましょう。
 山に降った雨の一部は、川となって流れていきます。海に注ぐ川の水量は、その川が集める全地域(流域といいます)に降った雨で、地下にしみ込まなかった分です。ここでは、蒸発するぶんは少ないので、無視することにしましょう。
 川の水量は、河口で観測できます。ですから、川が海に流し込む水の量は求めることができます。
 川の地域の年間降水量×流域面積が、年間の総雨量となります。年間総雨量から、川の年間の流水量を引いてやれば、地下に染み込んだ雨水の量が推定できます。
 雨水が、河川と地下水に配分される比率は、地域によって違ってきます。その地域の植生や地形、地質などによって大きく左右されます。
 地下水も、流れています。地表の流れの方向とは必ずしも一致しません。地下水の流れる方向は、地層の構造、地質によって規定されていますが、地下の地質は、地表のものとは一致するとは限らないからです。
 地下水の流れていくスピードは井戸を掘って実測したり、上で述べた地下水の年齢の降雨地域との距離から推測することが可能です。
 地下水の流速は、アフリカのサハラ砂漠やテキサス州カリゾ砂岩では1~2m/年、日本の平野部では1m/日前後、武蔵野台地では3~5m/日です。富士山麓の三島溶岩中では300~500m/日と非常に早く、地下川とも呼ばれるほどです。
 でも河川の流速が0.1~1m/sですので、これと比べれば、地下水の流速は非常に小さいといます。いいかえると、地下水は、長く地下にとどまっている、あるいは古いものが地下にはある、ということになります。大部分の地下水は浅いところを流れていますが、一般に深いほど移動が遅くなります。
 さて、2つ目の問題となる山がどれくらい水をためているかは、降雨量と面積、河川水の量、地下水の年齢によって決めることができます。
 試算をしてみましょう。
 ある地域(東海地方)を想定して試算しいきましょう。その流域面積は、約5000km2(天竜川)としましょう。降雨量を年間1600mm(飯田)としましょう。この2つの数値から、全流域の降雨量は年間8km3と計算できます。
 平均流速は、221m3/s(天竜川)としましょう。これを年間の値にしますと、年間7km3という値になります。
 全流域の年間降雨量8km3から、河川に流れる年間7km3を引けば、年間1km3が、地下に蓄えたれていると見積もれます。
 地下水の年齢が50年(柿田湧水)とすると、50年分の地下水が大地には貯められているのはずですので、総量は50km3と試算できます。これは、河川が流す7年分くらいの量、あるいはその地域に振った雨の6年分が地下に蓄えられているということになります。
 もちろん、概算ですので、先ほどもいったように、この値は、地域や状態によって変動します。でも、日本では、その地域に降った数年分の雨が、地下に貯められているといえそうです。日本の水は、川を流れているのではなく、地下に地下水としてためられているのです。

・素朴な疑問シリーズ・
前回の「5_17 オルバースのパラドックス」は、
「夜の空はなぜ暗いのか」という素朴な疑問でした。
前回のオルバースのパラドックスに続いて、
今回も「地下水はどれほどあるか」という素朴な疑問です。
これから、少しシリーズとして、
ちょっと考えると不思議な素朴な疑問をあげて、
それをテーマにして考えていくことにします。
そんな疑問は、結構ありそうです。
たとえば、
「地球は本当に自転しているの」
「地球は本当に丸いの」
などにように、考えてもすぐには答えが浮かばないようなものもあります。
そんな「素朴な疑問シリーズ」をしばらく続けましょう。

・質問に答えて・
2003年3月20日の「4_28 湧水:厳冬の道南1」に関連して、
Shiさんから次のような質問を受けました。

「以前、柿田川に行った時、
50年前後も前に降った雨や雪が
今ここに流れているということが看板に書いてありました。
かなりの流量なのにあれの50年分となると大変な量ですが、
それが富士の麓に溜まっているということですか。
わが地元の標高百数十メートルの里山でさえ年中小川が流れています。
いったい山というのはどのくらいの水を湛えられるんでしょうか。
どの山も数十年も前に降った水を流しだしているんでしょうか。」

このエッセイは、Shiさんの質問に答えたメールに大幅な修正したものです。