2023年12月28日木曜日

4_181 自身の思索を巡る旅

 COIVD-19によって、数年間、野外調査が自由にできないときがありました。自粛で調査自体を、自身の地質学、地質哲学への思索を考えさせれることになりました。自粛期間、自身の内面、思索を巡る旅をしていたようです。


 今年の5月には、COVID-19も通常の5類感染症に移行しました。COVID-19がなくなったわけではなく、インフルエンザのように通常の感染症となったわけです。自粛で旅行もできなかったり、旅行するものはばかられたりと、のびのびとはできない旅となっていました。しかし、5類へに移行で、自由に各地を調査で巡ることができるようになりました。これは今年になっての大きな変化となりました。
 今年は、サバティカルで4月から半年間、愛媛県西予市城川に滞在しました。サバティカルと5類への移行が重なったことは、大きなメリットになりました。サバティカルの間、四国全域で宿泊を伴った野外調査や、西予周辺の日帰りの調査もたくさんできました。また、サバティカル終了後も、北海道での宿泊を伴う野外調査もしました。なにより、自由で旅できる喜びが味わえました。
 観光地では、人が多くて、のんびりと巡れない時もありましたが、観光業にとっては喜ばしい状況でしょう。多くの観光客が来ることで、店や旅館、ホテルの設備やサービス全般も充実してきます。これは、出歩く人にとってもメリットになっています。コロナ前の状態よりもっと活気が戻ったようです。
 自粛を経て、自由にどこでも、野外調査にでかけられるという、当たり前にできていたことが、如何に大切なことだったのかを感じることができました。ただ以前の状態に、何も変わらず戻っただけなのでしょうか。何か変わったことはないのでしょうか。少なくとも、自身には大きな違いが生まれていました。
 自粛前にも、地質哲学へと向かっていくとき、野外調査を重視していたのですが、哲学的思索と野外調査の関係について、その結びつきについての視座が定まっていませんでした。自粛中、野外調査に行けない時期、野外調査あるいは露頭や地質学に関する、より深い思索へと入っていきました。
 自身の著書のタイトルを見ても、その変遷を見ることができます。自粛前は、地質学に立脚したタイトルになっていました。内容には哲学的思索を進めていた部分もあったのですが、例えば2018年の「地球物質の多様性形成機構と火成作用の役割」や2019年の「地層の時間記録 規則性のある時間記録の解読」などとなっており、本のタイトルには哲学的思索の色合いは出ていませんでした。
 自粛になってから、思索が深まっていきました。2020年には「弧状シンギュラリティ: 島弧と沈み込み帯の地質学的重要性」として、哲学的思索の部分がタイトルに現れてきました。2021年には「地質哲学方法序説 地質哲学のための Organon を用いた普遍的テクトニクスへの Instauration」として、デカルトとベーコンの著書のタイトルから引用したものを用いていました。哲学的思索への傾倒が深まりました。
 また、地質学や科学教育の実践でも変化が現れてきました。2022年には「地質学的野外調査の解体: 地質学への新しい方法論の導入」として、これまで自身で実施してきた地質学での野外調査で導入し実践してきたいろいろな手法を「方法論」として総括しました。タイトルでは、キースやドーキンスの著作を借りています。2023年には「科学教育の拡張された方法論: 試行錯誤の実践の先へ」として自身の科学教育の「方法論」を総括してきました。これもドーキンスの拡張された表現型という考えを借りました。これら2冊では、自身の長年の各種の研究方法や試行を新しい「方法論」として、哲学的にどう捉えていくかを、実施したものになりました。
 かつては、これまでの地質学で通常に用いたいた手法(野外調査、科学教育)を深く考えずに、そのまま適用していました。しかし、自粛によって、いままで当たり前で進めてきたことを、立ち止まって再考、沈考することができました。これまで通り進めていいもの、もう一度深く考えるべきもの、考え直すべきもの、そんな機会になりました。
 本来であれば、これらの総括や方法論をもとづいて、次なる、そして新たなる地質哲学や方法論へと進んでいくべきでしょう。しかし、来年度一杯で現職が定年となります。次年度1年で、これまでの地質学と地質哲学の総括をしていきたいと考えています。
 それは、過去の研究テーマのやり直しにもなります。20数年前に追い求めた地球の起源と生命の起源を含む「冥王代」に関する地質学的のテーマがあり、一応の決着を見ていました。そのテーマに関して、ここ数年の大きな進展、特にブレークスルーがいくつかありました。それをもとに、20年目にして、再度総括のなり直しをする論文を、ここ数年書き続けています。
 それらをまとめて、さいごの著書にするつもりです。さいごの著書は、自身の「はじまり」をテーマにします。そんな「はじまり」が、さいごでもいいのではないでしょうか。深く考えた末の原点回帰です。
 少々長くなりましたが、ここ数年のCOVID-19から今年のサバティカルを経て、自身の思索を巡る旅の話でした。

・自身の変化・
自粛後、景観や露頭が少々違って見るように感じます。
自粛が空けた結果、観光地での人の多さや混雑、
あるいは訪れる人々の影響などは、
表面的なこと、ささやかなことでしょう。
何かもっと大切なことが起こったよう感じます。
景観や露頭は自然物なので、
COVID-19の前後で変わることはありません。
それを見ている自身の気持ちや見方が
変わってきたためでしょうか。
自身が感じていることに
敏感になっていくべきでしょう。
身近なところに、大切なことがあるのかもしれません。

・思索の旅・
退職後も、研究は進めたいと考えています。
地質学の科学的成果を上げるような手法は
この大学来たときからとっていません。
地質学に関する哲学的思索を進めること、
その思索のインスピレーションを野外からえること、
この手法であれば、野外を巡り、思索ができれば
どこに出かけても、いつまでも、続けられるはずです。
そんな思索の旅をこれからも続けたいと思っています。

2023年12月21日木曜日

2_216 生命誕生の条件 11:2つの疑問

 今回のシリーズは、これまでにない長いものとなっています。現在、取り組んでいる研究論文の主要テーマになっているので、ついつい力が入っているようです。


 このシリーズも長くなったので、これまで述べてきた、地球形成や生命誕生の条件もおさらいしておきましょう。そして地球形成と生命誕生で、それぞれで大きな疑問があるので、それもまとめておきましょう。
 地球は、揮発成分を持たない材料(Eコンドライト)から形成されました。地球ができたときは、ドライで裸の状態でした。また、小天体の集積して合体して、原始地球になっていきます。衝突のエネルギーで、表層の岩石が溶けて、マグマオーシャンができました。マグマオーシャンが、地球最初の海といえるかもしれません。小天体の衝突がおさまっていくると、エネルギー供給も終わり、地球の表層が冷えてきて最初の地殻ができます。
 45.2 億~ 44.4 億年前には、大きな原始惑星が地球に衝突するジャイアント・インパクトが起こり、その結果、月が形成されました。いったん形成された表層の岩石は、地殻からマントル(もしくは地球の核)までが、すべて破壊され、リセットされます。月の形成は短期間に終わり、再度地球にも月にもマグマオーシャンができます。地球表層が冷めていき、また地殻ができます。この時にできる地殻は、月と同じような斜長岩や玄武岩からなる岩石だったと考えられます。
 ジャイアント・インパクトのように大きな天体ではないですが、小天体が多数衝突する後期重爆撃が、43.7~42.0億年前にかけて起こります。この時また地殻は破壊されていくのですが、かろうじて地殻の破片は砕屑性ジルコンとして残されています。しかし、岩石が残されていないことから、激し爆撃で岩石が鉱物までバラバラにされてしまったようです。
 後期重爆撃をした天体は、小惑星帯や外側かわ来たため、水や揮発成分が多く含んでいました。その結果、地球に水と大気がもたらされました。そして、ハビタブルトリニティが整いました。やっと生物の合成過程がスタートし、1億年ほどの短期間で生物が誕生します。
 地球のはじまりは、激しい事件が、何度も起こったことがわかってきました。そんな激しさをくぐり抜けて、ジルコンの破片が残りました。穏やかな環境になったら、すぐに生物の合成がはじまります。このような生命誕生のシナリオは、条件さえ整えは必然的に起こるような現象に思えます。ここに大きな疑問が2つ生じます。
 最初の疑問は、地球初期の2度めの地殻(月の形成後)のうち、砕屑性ジルコンが残っているのに、なぜ岩石が残っていないのか。これが不思議です。砕屑性ですから、後にできた堆積岩(35億年前)の中の鉱物粒子として入っています。その堆積岩ができた時代には、もととのなるジルコンを含んだ岩石があったはずです。あるいは、岩石はすでになくなっていたのですが、砕屑性ジルコンを多く含んだ別の堆積岩があり、その堆積岩から再度、砕屑され、運搬されて新しい堆積岩に入り込んだのかもしれません。しかしこの由来は、可能性は低くなりそうです。
 次に、水や大気が存在しハビタブルトリニティが整わないと、化学進化がスタートしません。そうなると、後期重爆撃が落ち着く42億年前に、やっと環境が整います。ところが、41億年前には生命の痕跡が見つかっています。条件が整えば、短期間にすぐに生命が誕生するということになりそうです。化学合成の条件の多様さ、プロセスの複雑さを考えると、非常に多くの試行錯誤が必要だったはずです。なのに想定されている期間は、あまりに短いものです。
 この2つの疑問を、どう解決すればいいのでしょうか。

・寒波・
先週末から、毎日のように所用があり
夕方に出歩いています。
ちょうど寒波がきていました。
所用で何度も、寒い外と温かい中を
出たり入ったりするので
体が変調をきたしています。
少々、風邪気味になってきました。
年末年始は無理をしないようにしましょう。

・年末まで・
今週は非常に私用や校務があり
忙しい日々を過ごしています。
しかし、来週で、大学の講義が終わります。
週初めには、担当の講義がない日なので
今週で実質的な講義は終わりです。
しかし、学生が残った作業を進めに来ます。
まあ、月末まで毎日大学には来ていますので
対応は問題ないのですが。

2023年12月14日木曜日

2_215 生命誕生の条件 10:時間的束縛

 生命誕生の条件として、時間的な制限もありそうです。後期重爆撃の終わりから、生命の合成がはじまります。最古の生物の痕跡の時期、もしくはその少し前には生命が誕生していることになります。その期間はあまりに短いです。


 大気も海洋もない地球に、水や揮発成分をもたらしたのは、43.7~42.0億年前の後期重爆撃だと考えられています。42億年前ころに爆撃がおさまると、生物の誕生のためのハビタブルトリニティが整います。その時期から、生命の誕生のための化学合成がスタートすることになるはずです。
 化石の証拠は、どこまで遡れるのでしょうか。
 西オーストラリアのビルバラ地域の34億6000万年前以前のチャートから、化石が見つかっています。また、南アフリカの35億年前のオルフェルワクト層のチャートからも化石が報告されています。少なくとも、35億年前には、形がはっきりと地層に化石として残るような生物が存在していたことになります。生命誕生は、35億年前より古い時代となるはずです。
 グリーランドの37億年前より古い地層や38億年前の堆積岩中の黒鉛から、化石ではありませんが、生物の証拠となるような成分が発見されています。カナダのラブラドルの39.5億年前の地層の炭質物からも、生物の化学的痕跡が見つかっています。西オーストラリアのジャックヒルズからは、41億年前の砕屑性ジルコンの中にある鉱物(石墨含有物)から、生物の痕跡があったという可能性が指摘されています。化石のように直接の証拠にはなりませんが、41億年前には生物がいた間接的証拠が見つかったことになります。
 少なくとも35億年前には化石として残るような生物が存在し、41億年前には生物の痕跡がありました。41億年前には生物がいたようです。岩石が残る時代、以前、冥王代に41億年前より前に、生命誕生のプロセスが進んでいたことになります。
 冥王代の42億年前にはハビタブルトリニティが整い、41億年前には生物がいたことになります。1億年ほどの間に、生物合成のプロセスが進んでいくことになります。これらの年代にはいくつかの仮定はありますが、生物合成のために経なければらない複雑な過程を考えると、本当に1億年ほどの期間で、生物誕生まで進めるのでしょうか。

・風呂の修理・
サバティカルで戻ってきてからしばらくは
シャワーを使っていました。
寒くなってきたので、
風呂に入ろうとお湯を入れました。
すると水が激しく漏れていました。
いつもメインテナンスを
頼んでいるところに相談しました。
木の風呂桶なので、水を張ることで木が膨れて
漏れがおさまるかもしれないといわれました。
しかし、漏れがおさまりませんでした。
20年以上使っていた木の風呂が壊れました。
風呂をユニットバスに改修することになりました。

・不便も楽しみに・
木の風呂からユニットバスになります。
気に入っていた木の風呂桶なのですが、
ものには寿命がありますので
しかたがありません。
改修には1週間ほどかかります。
近くに温泉が3箇所あるので、
その間、ローテーションしながら
入っていくことにします。
不便も楽しみにできればいいですね。

2023年12月7日木曜日

2_214 生命誕生の条件 9:間欠泉

 天然の原子炉の稼働には、地下水が必要です。地下水が原子炉の中に溜まっていれば、化学合成を進めることが可能です。合成物を含んだ地下水が、間欠泉として噴出すれば、複雑な化合物ができそうです。


 生命に必要な材料物質(前駆物質と呼びます)のための化学合成には、かなり大きなエネルギーが必要でした。大きな熱エネルギーでは有機物が分解するので、放射エネルギーであれば熱を加えることなく、化学合成が進められそうでした。しかし、放射壊変で、水は熱くなっていきます。何らかの対応が必要です。
 冥王代に天然の原子炉が多数あったはずで、そこでは化学合成が進んだと考えられています。傍証として、20億年前の天然の原子炉オクロが発見されています。その時期に、真核生物が誕生しました。放射線の放出と同時期に急激な進化は、なにか意味がありそうに見えます。放射線は進化を促すのではないかという可能性です。
 もうひとつの課題は、多数の合成条件をどう作り出すかでした。複雑で多数の前駆物質が必要なので、天然の原子炉だけではすべての条件を満たすことは不可能です。一度で生命の化学合成が完成に至ることはありえないので、何度も試行錯誤を繰り返しながら、進めていく必要があります。いろいろな条件をもった環境に、合成物を移動させながら、合成反応を進めていかなければなりません。
 そのような要求を満たすモデルとして、原子炉で発生する間欠泉が提案されています。原子炉に水があり、放射エネルギーで溶液の中で化学合成が進みません。原子炉に地下水が常に供給されています。水が溜まって、放射壊変の熱で高温になると、間欠泉として噴出する場を想定しています。原子炉内で、周辺の岩石の成分を溶かした熱水と放射線で合成を進め、熱エネルギーで地下水を温め、間欠泉として合成物を地表に噴出します。
 冥王代は、原子炉と間欠泉以外にも、いくつかの特徴がありました。地表は、現在の岩石とは異なった地殻(斜長岩など)が存在して、火山列なども多数ありました。今とは異なった、間欠泉から合成物を含んだ熱水が放出され、多様な環境境に流れ込めば、多様な化学反応が起こったと想定できます。
 また、冥王代には月が地球の近くを短い周期で公転していたので、干潮のサイクルが早く、規模も大きかったはずです。海岸や湖岸での潮汐変動は大きくなり、複雑で周期的な環境もあったことになります。地表を流れている溶液が地下水となり、再度原子炉に戻ってくれば、反応が繰り返すことも可能となります。
 天然の原子炉と間欠泉で、エネルギーと多様な合成条件の困難さを解決していこうとするモデルです。

・車検・
北海道は、寒波のため、何度か積雪がありました。
寒波が緩むと、雪が溶けます。
まだ、根雪ではなさそうです。
12月は、車検の時期です。
車検を通して、もう2年間乗れればと思っています。
エンジンや基本的なところは
今のところは大丈夫そうです。
あちこち、細々としたところが
だいぶガタがきています。
来年度は道内各地を野外調査で
走り回る予定をしているので、
なんとか持ってくれれば思っています。
次回の車検時には、買い替えを考えています。

・家族で会う機会・
今週末から夫婦で、京都に帰省します。
私用での帰省ですが、親族と子どもたちに会います。
子どもたちとは、同日の夕方に予定が立たず、
別日に私達と夕食を摂ることになります。
それでも家族が会えるのは楽しみです。
今後、会える機会は減っていきそうですので。

2023年11月30日木曜日

2_213 生命誕生の条件 8:天然の原子炉

 冥王代には、天然の原子炉が、たくさん存在していたと考えられるようになってきました。地球の材料や、表層の初期環境から、存在していた可能性が高かったようです。


 生命の材料や前駆物質の合成には、大きなエネルギーが継続的に供給されなければなりませんでした。冥王代の地球に、普通にあったもので、供給されなければなりません。
 従来のモデルでは中央海嶺の熱水噴出孔が生命の誕生の場でしたが、そこではエネルギーは足りませんでした。また、火山のマグマに由来する熱のエネルギーでは、できた化合物を速やかに、高温から低温の場に移動するメカニズムが必要なります。合成の繰り返しが必要ですが、地下水として循環しても、再度、高温になるで有機物は分解されてしまいます。
 そこで提案されたのが、天然の原子炉で合成するモデルでした。天然の原子炉というのは非常に唐突なものに思えます。天然の原子炉とは、どのようなものでしょうか。原子炉とはその名の通り、ウランの核分裂によって、高エネルギーを発するものです。
 天然の原子炉が存在する可能性は、1956年に指摘されていました。アフリカのガボン共和国のオクロにウラン鉱山がありました。産出する鉱石のウラン同位体組成に不思議な値をもったものが見つかりました。それは、核分裂を起こした結果だと、1972年に報告されました。理論と自然界で見つかった証拠から、天然の原子炉があったことが明らかになりました。
 シナリオは、次のようなものでした。20億年前は酸素が急増した時期でした。酸素が多くなると、水にウランが溶けて運ばれ、岩石中に濃集していき、鉱床ができます。ウラン濃集すると、核分裂が起こる条件に達します。地下水があると減速材となり核分裂が進みます。熱で水がなくなると反応が停止します。鉱床が冷えて、再度水が加わってくると、また核分裂が起こります。計算では30分の核分裂、その後2時間30分は休止というサイクルになったようです。
 でも、証拠は20億年前に一箇所だけ見つかっているだけで、冥王代に多数あったかどうかは不明です。本当にあったのでしょうか。
 太陽系の材料になった元素は、一つ前の恒星の超新星爆発で形成されたものです。ウランはその材料にあったものです。放射壊変は時間とともに進むので、放射性元素ウランは、冥王代がもっとも多くあったことになります。
 水のない冥王代に存在したマグマオーシャンや初期地殻の火成作用では、ウランはマグマの残液に濃集しやすく、ウランの多い鉱物として表層にあっていたと考えられます。また後期重爆撃の時に落下した隕鉄にもウラン鉱物が含まれています。後期重爆撃で冥王代の地球表層に水が供給されるとで、ウランの多い堆積物ができ濃集が進み、天然の原子炉が多数できる可能性がありました。
 原子炉であれば、温度より放出される放射線から大きなエネルギーが供給されます。生命合成に必要なエネルギーは、原子炉の周辺では臨界値(10^-2W/cm^2)から数100倍、原子炉の中心部では数1000倍に達します。これれらは放射線ですので、大きなエネルギーを与えたとしても、それほど高温になることはありません。
 地下に天然の原子炉があれば、エネルギー問題は解決できそうです。しかし、それだけでは、多様な合成条件を満たすことはできそうにありません。他にも、別の環境を考えなければなりません。

・黒田さん・
天然の原子炉が存在する可能性は、
研究者たちが理論的に指摘していました。
当時、アーカンソー大学の黒田和夫さんが、
1956年に報告していました。
その後、フランスの物理学者のペランが1972年に
オクロのウラン鉱山で天然の原子炉が
あったことが報告されました。
理論が先で、証拠があとでした。
黒田さんは「17億年前の原子炉―核宇宙化学の最前線」
という一般向けの本を書かれました。
以前読んだですが、手元になく
内容も忘れてしまいましたが。

・小さめのサイズ・
オクロのウラン鉱床では、
数cmから数mほどの天然原子炉でした。
小さな原子炉ですが、
稼働していたようです。
冥王代の原子炉はモデルでは
サイズは不明ですが、
小さめのサイズだと多数あれば、
生命の前駆物質の合成のために
いろいろな試行錯誤ができそうです。

2023年11月23日木曜日

2_212 生命誕生の条件 7:困難な条件

 後期重爆撃によって揮発成分や水が供給され、大気と海、そして陸ができました。生命誕生の材料や環境が整ってきました。しかし、それだけでは、生命の化学合成には進めませんでした。満たすべき条件が他にも必要でした。


 後期重爆撃によって、小惑星帯より外側にあった天体から、地球に水や揮発性成分が供給されました。その結果、生命に必要な材料がそろって、ハビタブルトリニティが成立しました。そこから、生命の誕生に向けて、一気に進むはずですが、なかなかそうはいきません。
 まだ課題がありました。生命合成のためのエネルギー源と化学合成に必要な条件が多様である点です。
 エネルギー源についてですが、生命合成には大きなエネルギーが必要です。ここで用いたエネルギーとは、厳密にはエネルギー密度(W/cm^2)を意味します。冥王代で想定される太陽光、大きなエネルギーをもった紫外線でも足りませんでした。冥王代当時は、現在よりも強かったと考えられる放電や宇宙線でも足りそうもありませんでした。
 また、生命誕生の場として、これまで定説となっていた中央海嶺での熱水噴出孔でも、エネルギーは足りません。もちろん、現在の太陽エネルギーや放電、宇宙線でも、まったく不足しています。
 「ユリー・ミラーの実験」として有名な、最初に無機物から有機物を合成した実験では、初期の海洋を模した沸騰した水、雷を模した放電などをエネルギーとして用いました。その時、供給されていたエネルギーは、非常に大きなものでした。その値は、たまたまでしょうが、生命合成に必要なエネルギーの臨界値を、かろうじて超える値(10^-2~10^-1 W/cm^2)であったようです。どのようなエネルギー源を考えればいいかが問題となります。
 火山活動であれば、高温のマグマや高温の熱水もあり、エネルギーは足りそうです。しかし、そのとき注意すべき点があります。大きなエネルギーを与えたとしても、合成場の温度が100℃を超えるような状態になっていると、形成された有機物は分解されてしまいます。有機物を、温度を上げることなく合成するか、もしくは温度が高い場で合成されても、合成後すみやかに高温環境から出ていかなければなりません。火山活動では合成物が速やかに移動するメカニズムを組み込む必要があります。
 化学合成に必要な条件が多様である点につても、課題があることがわかってきました。合成の流れは、無機物から有機物前駆体、生命の構成分子、機能性高分子、そしてそれらが集まってひとつの生命となっていきます。それぞれの部分で、さまざまな化学反応が必要になりますが、その条件が非常に多様になものになります。
 それらを整理してまとめているある研究では、還元気相、アルカリ性 pH、凍結温度、淡水、乾燥/乾燥-湿性サイクル、高エネルギー反応との結合、水中での加熱-冷却サイクル、生命の構成要素と反応性栄養素の地球外から流入が必要だとしています。別の研究では、エネルギー源、リンやカリウムなどの栄養素の供給、生命の主要構成元素(C、H、O、N)の供給、濃縮還元ガス、乾湿循環、ナトリウムの乏しい水、きれいな湖沼環境、多様化した地表環境、循環性などにまとめられています。
 材料物質が揃っているという前提で、多様で複雑な合成条件が、適切な順番に働かなければなりません。通常の地球環境、あるいは想定される冥王代の環境で、達成できるかどうか心配になるほど、多様な条件と複雑なプロセスが必要になりそうです。多様な合成条件もエネルギーと同様に困難な課題となりそうです。
 どんなに困難な条件であったとしても、地球では達成されたため、生命が誕生して、存在していることになります。このような困難を、どうして解決していくのでしょうか。次回としましょう。

・野外調査の終了・
北海道は、晴れと曇りが繰り返される
はっきりしない天気が続いています。
野外調査は終わりました。
前回の野外調査は、悪天続きで
吹雪や積雪で十分にできませんでした。
しかし、今シーズンの野外調査は終了しました。
道内各地の調査は、
来年度に再度挑戦したいと思っています。

・腰痛・
腰痛が再発しています。
発生する原因は不明です。
サバティカルの間は、プールで泳いでいました。
しかし、帰札してからは、
通勤の7kmほどの歩行だけはしていますが、
しっかり筋肉を使う運動はしていません。
筋肉衰えてきているのかもしれません。
一度、整形外科にで見てもらおうと考えています。
しょっちゅう腰痛が発生するとなると
少々心配です。

2023年11月16日木曜日

2_211 生命誕生の条件 6:ABEL

 形成直後の地球は「ドライで裸」だったと推定されるようになってきました。地球は、形成時から現在の間には、大きな表層環境の変化があったようです。いつ、何が起こったのでしょうか。


 月の表層にあるクレータ年代学から、月が形成されたあとに、激しい小天体の衝突があったことがわかってきました。クレータ形成年代は、43.7~42.0億年前に集中していました。約2億年弱ほどの期間に、激しい衝突がありました。月形成後の衝突だったため、「後期重爆撃」と呼ばれています。
 この小天体は、どこから来たのでしょうか。小惑星帯から木星や土星軌道あたりから飛来したと考えられています。その理由は、太陽系形成のモデルが更新されたことから考えられてきました。木星は太陽から離れたところで形成されたのです、形成直後に、太陽系の内側の地球軌道付近まで入ってきました。土星も続いて内側に入ってきます。2つの巨大天体が似た軌道に入ってくると、共鳴し合って、お互いの軌道が乱れて、両者が外に移動していきます。そして、今の軌道に落ち着きます。
 このような不思議な天体の移動や運動は、コンピュータによるシミュレーションでわかってきたものです。これまでの太陽系形成モデルでは、太陽系の外側の巨大惑星の成長が、非常にゆっくりとしたものになり、太陽系の惑星形成に期間に、現在の大きさには成長できそうもないという課題がありました。その課題が、木星と土星が移動するというモデルで、解消できるようになってきました。
 木星や土星が、現在位置に戻ると、小惑星帯から外側に多数あった小天体の軌道が乱されます。それらが太陽の引力に引っ張られて、内側に入り込み、地球や月に衝突してきたと考えれます。
 木星や土星の軌道でできた天体は、氷や揮発性成分を多く含んでいるものです。それらが月や地球に、2億年ほどの間に、多数衝突したことになります。小天体の衝突が、揮発成分をもたらしました。揮発成分は、地球の大気と海洋のもとになります。地球は十分に大きく、揮発成分を保持することできました。しかし、月は小さく引力も小さかったので、大気を保つことができませんでした。
 後期重爆撃によって、地球にはじめて海と大気ができたことになり、生物構成元素がそろうことになります。この小天体による元素供給を「生命構成元素の降臨」(ABEL:Advent of bio-elements bombardment)やレイトベニア(Late veneer)と呼んでいます。揮発成分のうち水蒸気は、やがて液体の水になり、海を形成します。海の誕生により、プレートテクトニクスも働きはじめ、大陸地殻ができています。その結果、ハビタブルトリニティが揃うことになります。
 生命の材料となる元素や成分はそろいましたが、次なる課題は、前に述べた生命の前駆物質や生命物質を合成するための多様な条件を、どう揃えていくのかがです。次回以降としましょう。

・予約配信・
先日まで野外調査にでていたので
このエッセイは予約配信としました。
北海道の山では、初雪はすでにあったのですが、
里ではまだ降っていません。
遠出をする時、途中に峠越えがあるときは、
スタットレスタイヤにいつ替えるかを
この時期にはいつも悩みます。
今年は、10月から野外調査にでていますので、
10月末の調査に備えて交換しました。
ですから、今回の調査での
峠越えの道でも安心していけます。
ただし、野外調査で雪があると
ほとんどデータが取れませんので
実質的な成果は乏しくなりますが。

・入試のシーズン・
大学は、入試のシーズンがすでにはじまっています。
9月以降、いくつもの種類の入試制度で
受験ができるようになっています。
受験生にとっては、いきたい大学や学部学科に
なんどもチャレンジできるのでいい制度です。
3月まで続くので、大学側の負担は多くなりますが、
入学生の確保が、多くの私立大学での
至上命題となっていますので、
仕方がありませんね。

2023年11月9日木曜日

2_210 生命誕生の条件 5:後期重爆撃

 過去の地球、それも形成直後の地球の姿を探るため、月の情報が役立ちそうです。月は地球についで、データや情報が多い天体なので、そこから過去の地球の姿が探求されています。


 地球は「ドライで裸」の状態からスタートしたことは、前回紹介しました。現在の地球とは、あまりにもかけ離れた姿でした。これは、小惑星の構成岩石や原始太陽系における太陽からの距離による条件から想定された姿でした。
 現在の地球になるためには、どのような事件があったのでしょうか。まず、地球の衛星の月に着目します。月は、小さいため内部にあった熱は、すぐに放出されてしまっており、地質学的活動は初期に終わっています。また、大気や海洋がないので、侵食はありません。月を見れば、地球軌道上で起こった大きな天文現象の痕跡が残っており、読み取れるはずです。
 月の特徴として、常に同じ面を地球に向けています。地球側には、黒っぽく見える「海」と、白っぽく見える「高地」と呼ばれているところとがあります。裏側は高地ばかりが広がっています。海にはクレータが少なく、高地にはクレータが多くなっています。海は、大きなクレータの地形や形状をしています。天体の衝突クレータができ、そこをマグマが埋めて新しい大地が海となりました。そして、時間経過ととも、新たなクレータが形成されたよう見えます。
 アポロ計画で人類が月に降り立ち、各地の岩石を持ち帰っています。岩石があれば、その特徴や正確な年代を調べることができます。海のクレータの中の岩石は新しい玄武岩で、高地は岩石は古い斜長岩であることがわかってきました。
 大きな天体に小天体(隕石)が落下するとクレータが形成されます。もし、隕石の落下が一定の比率だったとすると、一定範囲のクレータの数(数密度と呼びます)と、その大地のできた時期が、相関することが想定されます。海の岩石の年代とその地域のクレータの数密度の相関関係がわかれば、それ以外の地域での形成年代が推定できます。クレータの数密度から大地の形成年代を見積もる方法をクレータ年代学と呼びます。
 大きなクレータの形成年代を見積もっていくと、一様ではなく、ばらつきがあることがわかってきました。ばらつきは,ある時期に集中的にクレータ形成が形成されたことを示していました。
 月が形成された少し後に、クレータが多数形成されたことになります。そのような現象は、小天体が多数落ちてきて、まるで重爆撃がおこったようなので、「後期重爆撃(LHB: late heavy bombardment)」、あるいは「月面激変」と呼んでいます。
 後期重爆撃が、地球の表層変化にどのような影響があったのでしょうか。次回としましょう。

・雪虫・
先週の晴れた日には雪虫が多くでていました。
雪虫は、白い綿のようなものを見つけているので
白い雪が舞っているように見えます。
北海道では雪虫が舞うと雪が近いといいます。
雪虫は飛んでいるのですが、
か弱くハラハラとしが飛びません。
そのため、歩いていると、人に衝突してしまいます。
顔についたり、目や口に入ったりします。
衣服についても離れないので
薄い色の上着やコートを来ていると
雪虫が目立ちます。
潰すとシミになるので、
注意して払わなければなりません。
しかし、雪虫の発生もほんの一時期なので
風物詩となるのでしょうかね。

・野外調査・
今週末から今シーズン最後の野外調査にでます。
雪がない地域として北海道の南部にしました。
渡島半島を一周して、もどってきます。
何度もでかけているところですが、
古い岩石からなる付加体、
新しい活火山もいくつかあるので
同時に見て回ります。
野外調査は、寒い時は大変になるのですが
最後なので楽しんでこようと思っています。

2023年11月2日木曜日

2_209 生命誕生の条件 4:E コンドライト

 生命の前駆物質を合成するためには、非常に多様な条件が必要でした。最近では、地球の材料にも新しい考えが登場してきました。その材料から考えられる初期地球は、今まで想像されたことのない姿でした。


 生命誕生の条件には非常に多様なものがあり、ひとつの場での合成は不可能のようです。これまで、ひとつの材料、ひとつの場で生命を合成していくことを考えられてきましたが、それは難しいようです。次に、地球の材料と初期の環境が、これまで考えられていたものではなさそうだ、ということがわかってきたした。それを紹介していきましょう。
 これまで、地球の材料は、炭素質コンドライトだと考えられてきました。炭素質コンドライトには、中に大気の成分(二酸化炭素、窒素)、海の成分(H2O)、そして地殻・マントルになる岩石の成分、核の成分(金属鉄)など、すべてが含まれています。炭素質コンドライトが材料ならば、地球ができると考えられてきました。
 現在の太陽系では、地球に水が存在できますが、太陽系の形成時にも同じ条件だったのでしょうか。
 太陽系形成のころの条件を考えていくと、太陽の輝きが不安定で、かなり激しく輝く時期もありました。その証拠として、隕石のコンドライトがあります。コンドライトは、それまであった固体成分がすべて溶さかれています。その後、その後液滴として固まっり集まったものがコンドライトです。当初、太陽系を覆っていた原始太陽系ガスも、初期にすべて吹き飛ばされています。
 太陽の輝きが激しくなっていた時期、地球軌道は非常に温度が高かったときがあったと考えられます。
 現在の小惑星帯を見ていくと、炭素質コンドライトも多数存在しています。その軌道をみていくと、太陽に遠い側に炭素質コンドライトがあります。太陽に近づくと、H2Oを含まない隕石タイプになっていきます。小惑星帯で太陽にもっとも近い内側には、エンタタイト(頑火輝石)コンドライト(E コンドライトと略されています)が多くなっていることがわかります。E コンドライトは、H2Oをまったく含まない特異な隕石で、小惑星帯でも隕石でも稀なものです。
 以上のことから、冥王代の地球軌道には、H2Oや揮発成分を含んだ物質は存在できないと推定できます。地球軌道は、非常に乾いた(ドライ)な物質しかなかったと考えられます。地球軌道では、E コンドライトのような物質があり、それが材料になったのではないかと考えられてきました。
 そうなると、できたての地球には、海(水)も大気(二酸化炭素、窒素)もない「裸」の岩石惑星だったことになります。炭素質コンドライトであれば、地球のすべての素材があらかじめ揃っていたのですが、E コンドライトからできたとなると、「ドライで裸」の地球からのスタートとなります。
 そこから現在の、海と大気、生命のある地球になるのは、いくつもの事件が必要になりそうです。次回としましょう。

・E コンドライト・
E コンドライトは稀な隕石です。
小惑星帯は炭素質コンドライトが存在する環境で
E コンドライトはないところだったためでしょう。
E コンドライトは、エンタタイトと金属鉱物からできています。
エンタタイトは珪酸塩鉱物で
鉄含有量が少ないですが
鉄は金属や硫化物に含まれています。
この隕石は、非常に還元的で酸素の少ない条件で
形成されたことになります。
地球もそのような位置にあったと考えられます。

・道東の調査へ・
このエッセイは、週末から野外調査にでているので
予約配信をしています。
道東の山に入っていきます。
道東にたどり着く前には、
日高山脈を超える狩勝峠があります。
自動車道では、トンネルになっているため
雪の影響はかなりましになっています。
トンネルの前後には、長い上り下りの道があります。
積雪があれば、冬タイヤでないとだめでしょう。
もちろん冬タイヤにしてでかけます。

2023年10月26日木曜日

2_208 生命誕生の条件 3:多様な合成条件

 ハビタブルゾーンからハビタブルトリニティは、生命誕生の条件をより限定していくものでした。しかし、ハビタブルトリニティは、生命誕生のための必要条件にすぎず、もっと多くの条件が必要になります。


 ハビタブルトリニティとして、海の存在だけでは生命は誕生できず、大陸や大気も必要になることを示していました。ハビタブルトリニティとは、生命の材料を供給していく場を考えたとき、必要条件になります。しかし、それだけでは足りません。生命の材料から前駆物質をつくるには、物質が流動、循環していなければなりません。そのためにはエネルギーも必要になります。さらに、いろいろな反応が起こし、進めるには、化学的条件も必要です。そのような各種の条件が整っている必要があります。
 生物の前駆物質がどのような化学反応でできてきたのかを検討するために、実験室でその物質を合成していく研究分野があります。材料となる物質から目的の化合物を、自然界にありそうな条件で合成していきます。その時、個々の化合物を合成のために、多様な条件が必要になることがわかってきました。Kitadai and Maruyama(2018)によると、次の8つの反応のための条件が、必要だとわかってきました。
 還元気相、アルカリ性pH、凍結温度、淡水、乾燥/乾燥-湿性サイクル、高エネルギー反応との結合、水中での加熱-冷却サイクル、そして生命の構成要素と反応性栄養素の地球外から流入、の8つの条件です。反応によって、これらの条件がいくつか組み合わせが必要になることがもあります。
 例えば、ヌクレオチドからオリゴヌクレオチドを合成するには、アルカリ性pH、水中での加熱-冷却サイクル、高エネルギー反応との結合、凍結温度などの条件が必要になります。
 生命誕生の場では、それぞれの反応で、必要な条件を満たさなければなりません。複雑で多様な合成の環境がなければなりません。いずれの環境でも、大きなエネルギーが与えられて有機物ができたとしても、100℃以上の高温になると分解されていきます。そのため、エネルギーを与えながら、できた有機物は高温にされない状態にしなければいけません。
 生命誕生の場として、これまで深海の中央海嶺の熱水噴出孔が有力でしたが、エネルギーが足りなさうです。火山地帯や干潟なども考えられていました。いずれも単独の場所では、生命の前駆物質となる多様な化合物はできそうもありません。材料となる必要な化合物が必要な時に、それぞれの環境に供給されなければなりません。
 必要な多様な条件の場に、必要な材料物質が、次々に供給されていかなければなりません。このような条件を考える、生命の前駆物質を実験室のようにつるくことは非常に難しいものです。そのためは、多様な条件の環境が近接して多数あり、お互いに物質のやり取りが頻繁におこなわれ、試行錯誤が無数に繰り返されている必要があります。そんな場は都合のいい誕生の場とはどんなところでしょうか。

・短い秋・
北海道は10月になってから、
北海道は一気に秋が深まりました。
紅葉も進んでいます。
通勤の道すがら見える山並みでも
冠雪が何度も起こっています。
今週末には峠越えをして、調査でかけます。
来月にも調査を予定しているのですが、
今年は秋が短そうです。

・日常へと・
サバティカルから戻ってきて
すぐは戸惑っていましたが、
大学での日常にもだいぶ慣れてきました。
講義も1月あまり進んだので、
講義のための感覚も体力も
やっと戻ってきたようです。
一日3講ある日は、さすがに疲れます。
そんな疲れる日も
日常へとなってきつつあります。

2023年10月19日木曜日

2_207 生命誕生の条件 2:ハビタブルトリニティ

 ハビタブルゾーンは天体での水の存在だけを考えていました。それに比べて、ハビタブルトリニティは、より条件を加えることで、生命誕生の場や環境を限定していく考え方です。


 前回、生命誕生には、ハビタブルゾーンだけでなく、ハビタブルトリニティの考えが必要だという話をしました。では、ハビタブルトリニティとは、どのようなものを指すのでしょうか。みていきましょう。
 生命誕生には、液体のH2O、水(海洋)は必要不可欠ですが、量も考慮しなければなりません。水の量が多ければ、天体の表層がすべて海洋となります。また、水が少ないと、海が小さく点在したり、満ち引きが激しかったり、時には干上がったりすることもあるでしょう。生命誕生には、安定した海洋がなければなりません。
 生命の材料は、水の中で合成され、育まれていくと考えられます。そのため、安定した海は不可欠です。しかし、水だけが、生命誕生の十分条件ではありません。他にも必要な要素があります。ハビタブルトリニティでは、大気と大陸(大きな陸地)も必要だと考えました。
 生命を構成している元素をみていくと、多い順に、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)の4元素で96%に達するので、主要成分となります。酸素と水素は、海洋から供給されます。それ以外の炭素と窒素は大気から供給できます。しかし、量は少ないですが、生命に成分として、イオウ(S)、リン(P)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)の順になっています。これらの元素を合わせて99%を占めます。
 リン(P)、カリウム(K)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)などは、大陸の形成している花崗岩がもっている成分で、大気の風化作用や河川の浸食、運搬作用で海へと持ち込まれます。花崗岩は、大陸地殻を構成する岩石です。生命の材料の供給源として、大きな大陸地殻がなければなりません。
 ハビタブルトリニティとして、海洋、大気、大陸が必要となります。これらの三者が共存しながら、常に物質が流動し、循環していなければなりません。循環にはエネルギーが必要です。太陽エネルギーが、地球表層の水の循環をさせています。水の循環だけでなく、物質を合成するエネルギーが必要になりますが、それは太陽光だけでな足りなさそうです。
 それについては、次回としましょう。

・道内の調査・
先週末から野外調査にでていました。
研究計画に北海道に3回の調査を予定していました。
実施のための費用には問題はありません。
ただ、時期が問題となります。
9月までサバティカルで四国の調査をしてました。
北海道では、すでに初雪のニュースはありました。
雪がありそうな峠越えをするりなら、
冬タイヤに交換しなければなりません。
そのため、雪が降りそうな峠道を
10月に終わらせて、
最後は雪の少ない道南にいくことにしました。

・気持ちも体も・
講義のある日々も2週目となりました。
だいぶ、講義への感覚が戻ってきました。
気持ちの上では、だいぶ慣れてきました。
講義や会議にでてという日常で1週間を過ごすと
週末にはぐったりと疲れてしまいます。
しかし、これも日常だったはずです。
気持ちだけでなく、
体も順応していかなければなりませんね。

2023年10月12日木曜日

2_206 生命誕生の条件 1:ハビタブルゾーンの先へ

 今回のシリーズでは、進展してきた冥王代の研究と、それに伴って生命誕生でも新たな展開が起こってきました。生命誕生に関する話題をいくつか取り上げて、紹介していきます。


 地球での生命誕生のための条件やシナリオについて考えています。ここ20年ほど、地球最初の時代、冥王代(45.6億から38億年前)の研究で、進展がありました。その中には、生命誕生に関する成果も多く含まれていました。その成果は、冥王代や生命誕生に関する画期的なブレークスルーになるような大発見ではなく、新たなアイディアや地道な研究の進展の積み上げによるものでした。
 このシリーズでは、地球生命の誕生についてみてきます。そのきっかけにはいくつかものがありますが、多数の系外惑星の発見があります。系外惑星とは、太陽系ではない、もっと多くの恒星の周りを回っている惑星のことです。系外惑星探査専用の衛星も2機目となり、多数の惑星が発見されてきました。
 系外惑星の多様性は、重要な情報源、そして束縛条件となっています。系外惑星の多様性を説明するには、これまでの太陽系形成の標準モデルへの修正が必要になりました。
 系外惑星における生命誕生への束縛条件も、実際の観測からその頻度もわかってきました。系外惑星で、生命誕生の可能性を探す時、「ハビタブルゾーン」がキーワードになっています。ハビタブルゾーンとは、「生存可能領域」とも呼ばれ、生命が誕生し、生存している可能性がある領域のことです。ハビタブルゾーンとは、その天体に水が恒常的に存在しうるかどうかを、天文学的観測によって推定していきます。
 系外惑星におけるハビタブルゾーンをもっており、地球に似た惑星いまのところ数はかなり少なくなっています。そこには、正確な統計とはなりにくいバイアスがあります。
 遠くの恒星系で、恒星の近くある小さな惑星は、発見しづらいものです。観測している地球から見て、公転面が水平になっているものが、発見されやすくなります。恒星の比較的近の軌道に位置し、小さく、薄い大気と岩石の表層をもった惑星に、ハビタブルゾーンがあります。そのような惑星が発見できる条件を考えると、大きなガス惑星と比べると見つけにくくなっているはずです。それがバイアスとなっている考えられます。
 ハビタブルゾーンでいう水の存在は重要ですが、生命が誕生するには、水だけでは足りません。生命の材料として、水(H2O)だけでなく、各種の成分(例えば、炭素、リン、カリウムなど)が必要で、さらに元素から生命の材料を合成するための場(環境)やメカニズム(エネルギー)も必要になります。ハビタブルゾーンだけにでは生命は誕生できず、重要な条件も加味しなければなりません。それをドームと丸山さん(Dohm and Maruyama, 2015)は、ハビタブルトリニティ(Habitable Trinity)と呼びました。
 生命が誕生できる(ハビタブル)条件として、3つ(トリニティ)が必要だとしました。その詳細は次回としましょう。

・1週間の疲れ・
9月30日にも半年ぶりに帰宅してきて、
早1週間がたちました。
月曜日から金曜日まで、次々と
講義と準備、実施、会議、打ち合わせ、
土曜日にも校務がありました。
10月1日から毎日休みなく大学にきています。
毎日大学に来るのは、いつものことなので
大変さは感じません。
半年間、西予では片道2kmほどは歩いていたのですが
あとは温水プールでの水泳でした。
戻ってすぐに片道4kmを、毎日朝夕、
往復を歩くことになりました。
大学の日常に戻るのに1週間で十分でしたが、
長い距離を歩くのが久しぶりなので、
体力を思った以上に使っているようです。
週末にはぐったりしています。
これは体が慣れるまで、続けることでしょう。
ぐっすり寝て休養することしかありませんね。

・休講と遠隔・
サバティカルの最中の9月下旬からから、
大学では講義がはじまっていたので
1回しか開講しないものは休講として
2回開講するのは遠隔授業としました。
すべて遠隔授業だけなら対処してきたのですが、
一部、それも最初の2回の講義が
遠隔授業での実施はつらいものがあります。
学生の前提もバラバラなので
1、2回目の講義の要約をしなければ進めません。
それに時間を取られます。
まあ、仕方がありませんが、
各講義でできるだけ補うしかありません。

2023年10月5日木曜日

EarthEssay 4_180 西予紀行 7:四国西ジオパーク

 EarthEssay
4_180 西予紀行 7:四国西ジオパーク
を発行しました。

四国西予ジオミュージアムは、
西予市でも奥まった城川にあります。
なぜ、このような奥まった地にあるのでしょうか。
シリーズの最終回として、
ジオパークの精神にもとづいて考えていきましょう。

2023年9月28日木曜日

5_207 タンデムモデル 7:新しい提案

 タンデムモデルは、後発の仮説なので、これまでの標準モデルの課題を克服しているます。もっと重要なことは、これまで説明されることのなかった事実を取り込んで、より詳細なモデルを提案している点です。


 タンデムモデルは、太陽系惑星や系外惑星の形成モデルとして、これまでの課題を克服した。しかし、他にも、いろいろとメリットもありました。それを紹介していきましょう。
 タンデムモデルでは、岩石惑星と氷ガス惑星の違いを、すっきりと説明できました。このような違いは、他のモデルでも達成できていました。タンデムモデルでは、より精度の高い提案がなされています。
 小惑星帯では、太陽からの距離と固体物質の違いがありました。水の量の変化と酸化還元の変化です。小惑星帯の分布で、この傾向がわかっていました。
 ただし、この傾向を地球まで広げていく必要があります。拡大した視点で見ていくと、H2Oは、太陽に近づくと、氷から水、水蒸気となります。惑星の材料で考えるには、固体物質に取り込まれている必要があります。氷ならそのまま惑星の材料になります。水なら含水鉱物として含まれています。それより太陽に近づくと含水鉱物が分解されて、無水鉱物になっていきます。その位置は、地球より外側になります。したがって地球の位置は、無水鉱物だけからできている条件になります。
 地球は、無水の還元的な材料からできたと推定されます。太陽に近くなと、珪酸塩鉱物(酸化物)も還元されていくと推定されています。そのような隕石も稀ですがあります。エンスタタイトコンドライトと呼ばれる隕石です。エンスタタイトコンドライトの特徴は、還元的な条件であることもわかっています。
 地球は、大気も海洋もなく(裸でドライな地球と呼ばれています)、還元的な条件という、今とは全く異なった状態、姿からスタートしたことになります。原始地球の表面は、マグマオーシャンが固化した斜長岩の地殻からできています。そこにカンラン岩質の溶岩(コマチアイト溶岩)や鉄が多い玄武岩溶岩(KREEP 玄武岩)などもありました。現在の月を構成している岩石に似ています。
 このような地球からは、海や大気、さらには生命の起源が説明できなくなります。これは大きな問題となります。ところが、別の条件があることもわかっています。
 月のクレータや岩石の年代研究から、43.7億年前から42億年前までの2億年ほどの間に、隕石が大量に落下したことがわかっています。このような現象を、後期隕石重爆撃と呼んでいます。月で起こった後期隕石重爆撃は、同じ公転軌道にある地球にも、起こったはずです。
 後期重爆撃が起こった原因は、ガス惑星で軌道不安定が起こることにより、周辺の小惑星(隕石)の軌道が乱されます。その結果、この時期に後期重爆撃が起こったと考えられています。
 氷ガス惑星の形成場付近の小惑星なので、氷や揮発性成分(炭素質コンドライト)を含んだものになります。それらの小惑星が、内惑星の領域にも入り込み、後期重爆撃を起こします。
 その結果、地球には大気や海洋の成分が加わるとともに、還元的鉱物と水との激しい反応が起こります。その時、初期生命に必要な反応が進んだと考えられています。
 海や大気、生命の起源も、材料から重要な束縛条件を示していくことができるようになってきました。
 今では、後期重爆撃で揮発成分がもたらされせるモデルが主流になってきました。主のモデルには、レイトベニア説(Late Veneer)説やABEL(Advent of bio-elements 生命構成元素の降臨)爆撃説などがあります。これは、また別の機会にしましょう。

・現在進行中・
このエッセイが、サバティカル期間に配信する
最後のものとなります。
書いている論文で注目していたモデルとして
このタンデムモデルがありました。
タンデムモデルを、サバティカル期間に
最後まで紹介することができてよかったです。
一般に、研究は、データが積み上がってくると
これまでにない新しい知見も見つかってきます。
それをうまく取り入れたモデルがあれば
より有効性の大きなものになってきます。
今回のタンデムモデルも、そのようなものになります。
ただし、新しく提案されたモデルでは
修正、検証が必要な部分も多々あるはずです。
それが、現在進行中で進められています。

・感謝・
今回のサバティカルでは、
いろいろな目標を立てていました。
目標や計画は、
どうしても盛りだくさんなになっていきます。
想定外の事態も起こり、
予定通りに進まないこともありました。
目標をすべては
達成することはできませんでした。
予定通りにいかないことは、
もちろん想定内でしたが。
半年という期間ですが、
1年分に匹敵するほど、
実りの多いものになりました。
受け入れてくださった関係者や
地域の方々のおかげだと思います。
半年間ありがとうございました。

2023年9月21日木曜日

5_206 タンデムモデル 6:境界領域

 このシリーズの5回目にして、やっとタンデムモデルの紹介になります。比較的新しく提唱されたモデルですので、まだまだシミュレーションで検討の余地がありそうです。条件を変更すると、いろいろな変化が現れます。


 いよいよタンデムモデルを紹介していきましょう。タンデムとは、席が2つ並んでいるものをいいます。自転車や車などでツーシートの場合にタンデムと呼ばれています。太陽系形成で、惑星の形成場が二箇所できるというモデルになることから、タンデムと名付けられました。
 タンデムモデルは、標準モデルで課題となっていた、原始星の磁気回転の不安定性の影響を考慮しています。それらを重視してシミュレーションをしていくと、円盤内に乱流ができるところと静穏になるところができました。乱流が二箇所でき、乱流域と静穏域の境界があります。この境界が重要で、そこに形成時に物質が移動して集中してくる特別な場になることがわかりました。
 外側(5~30AU)の境界では、空隙の多い多孔質の氷粒子が多く集まる場ができます。内側(0.3~1AU)の境界では、岩石粒子だけが集まり岩石惑星ができていきます。惑星の形成の場は、二箇所での2種類の惑星(岩石惑星と氷惑星)が形成されることになります。
 そこでは、暴走的な成長が起こり、100万年以内に地球サイズになります。できた惑星は、ある程度の大きさに成長すると、内側に移動します。そして、次の惑星ができていきます。
 太陽系に見られる岩石惑星と氷とガス惑星の2種類の形成過程の違いを、このモデルでは説明できました。
 タンデムモデルで、標準モデルの課題を解決しようと、10年ほどの前に提唱された比較的新しいモデルです。シミュレーションにおいて磁気の強度の程度を変えていくと、系外惑星で見られた多様やタイプの惑星が、このモデルでかなり説明できそうなことがわかってきました。
 今後も、改善されていくでしょうが、今のところ有力なモデルとなっていきそうです。

・予約送信・
このエッセイが発行日は
サバティカルで最後の帰省の最中です。
そのためエッセイは予約送信しています。
家族が一同に会することが
今回が最後になりそうです。
長男が今年で就職します。
遠くに住むことになります。
次男の就職はもう一年先ですが、
東京での就職先を探しています。
そうなると、あとは来年の正月くらいが
家族全員が集まれる機会となりそうです。
さてさてどんな宴席になるか楽しみです。

・新しいアイディア・
現在書いている論文で必要なため、
タンデムモデルを調べていきました。
ここ10年ほどに、地球初期、生命起源などの研究に
大きな進展がありました。
当然新しいモデルでは、
これからも課題や修正も必要でしょう。
新しいモデルは、いくつか重要な事実がわかり
それらを説明する必要に迫られています。
そこには新しいアイディアが盛り込まれています。
今回のタンデムモデルでも
重要な事実をいくつか説明して、
そこから新しいアイディアが生まれています。
次回で少し紹介できま

2023年9月14日木曜日

5_205 タンデムモデル 5:Grand Tack モデル

 惑星形成の標準モデルは、いくつか課題もありました。その課題を解決するために、新しいモデルが提唱されてきました。そのうちのひとつとして、グランドタックモデルが、有力なものとして知られています。


 惑星形成の標準モデルは、固体の粒子が円盤の中心面に落下しながら、小石サイズへと成長していきます。中心面の円盤では、小石が重力不安定性を起こして微惑星へと成長していきます。お互いに衝突することで、成長してていき、惑星になっていきます。
 しかし、課題もいくつかありました。例えば、ガス円盤内に乱流はないと磁気回転不安定が生じました。固体成分の密度が足らずに、重力的に不安定になります。固体は中心円盤内では移動がないと考えられていたのですが、固体粒子は移動することがわかってきました。微惑星の衝突による成長の速度が遅すぎました。
 これらの課題を解決するモデルはいくつかあったのですが、グランドタック(grand tack)モデルが有力でした。それを紹介していきましょう。
 このモデルは、太陽から離れH2Oが氷となる位置(3.5AU、AUは地球と太陽の距離を1とする天文単位)でできた木星が、内側(1.5AU付近)まで移動してきます。土星も内側に移動していきます。移動した先で、木星と土星が共鳴することにより、木星は外に向きを変えて移動し現在の位置(5.2AU)で停止します。土星も外に移動してきいます。
 木星が、内側から外側へと移動方向が反転することになります。舟のセーリングで風上に方向転換をすることを「タッキング」と呼びます。このモデルでは木星が移動方向を転換することから、この名称になりました。
 火星のサイズが小さいことと組成が異なっていることや、小惑星帯の軌道が歪(離心率と傾斜角が大きい)ことと全体の質量の小さいことなども、グランドタックモデルで、説明できました。
 ただし、グランドタックモデルをうまく機能させるためには、いくつかの条件が必要になります。
 木星と土星が移動しているときは、物質の合体や追加は無視しています。また、外に移動していくためには、軌道にはガスが存在する必要あります。しかし、ガスがあるので、質量の追加が起こらないというのは、矛盾しています。
 共鳴の状態によっては、タックが起こらないこともありました。時には、太陽に落下していくことになります。
 木星が、1AUまでの粒子を集めてしまうこともあり、地球などの岩石惑星の形成が進まなくなります。1から10AU間には、現在、種類の異なった物質が並んでいます。このような物質の勾配が、木星と土星の移動で消されてしまいます。
 このような問題が存在しているのですが、いろいろとシミュレーションの条件を調整することによって、解決が目指されてします。しかし、多様な系外惑星をグラントタックモデルでは、説明できないものもあるようです。

・野外調査終了・
サバティカルの期間の野外調査が
先週で終了しました。
台風の影響で一時激しい雨に見舞われましたが、
一応、予定通りのコースで、調査を進めました。
もっと見たい地域もありました。
天候不順で十分に調査できない地域もありました。
しかし、野外調査は自然相手なので、
予定通りにすべてが進むことはありません。
そんな名残を残した調査が、次回に繋がります。
まあ、サバティカルは今月で終わります。
四国の野外調査は、
最後のチャンスになるはずだったのですが、
仕方がありません。

・帰省・
来週、京都に帰省します。
今回が2度目となります
本来ならもっと2度ほど帰省する予定でしたが、
親族が対応してくれたので、半分の帰省ですみました。
今回の帰省では、子どもたちの在京のスケジュールが調整でき
なんと一緒に食事をできることになりました。
今回が、家族が一同に会する
最後の機会になるかもしれません。
いつもと同じような宴席となりそうですが。

2023年9月7日木曜日

4_179 西予紀行 6:須崎海岸

 サバティカルのうちに訪れたいと思っていたところに須崎海岸があります。四国西予ジオパークを象徴する露頭がある海岸です。しかし、危険で立入禁止となっています。許可と準備を経てやっと立ち入ることができました。


 8月下旬の晴れた日、三瓶町の須崎海岸にいきました。暑い日でしたが、撮影に適した晴れでした。須崎海岸は四国西予ジオパークの目玉になるような露頭のある海岸です。須崎観音の駐車場から、長い階段を降りて、海岸沿いの歩道を歩けばたどり着けます。
 ところが、2020年7月の大雨による土砂崩れで、歩道が通れなくなりました。その後も、大雨が降ると崩れているため、現在、立入禁止となっています。
 ジオパークの許可をもらい、調査のために入りました。地すべりのところは海岸の磯に降りて迂回して、再度歩道に上がっていきました。地すべりのところ以外は、歩道もしっかりとしていたので、いい海岸の散策路になると思えました。
 この海岸の露頭は、黒瀬川構造帯の地層がでているところです。陸地で噴火した火山灰が海底に堆積したものです。火山角礫岩、酸性凝灰岩、貫入岩など陸地の火山活動が近くの起こっていました。凝灰岩が何層も連なっているのですが、級化構造があることから、海底に流れ込んだタービダイト流だと考えられています。また保存状態の良い放散虫化石もあることから、海で堆積したこともわかります。
 凝灰岩を不整合で覆う凝灰角礫岩の中から、4億年前のハチノスサンゴの化石が見つかっています。凝灰角礫岩層は不揃い(淘汰が悪いといいます)な礫からできているため、海底地すべりのような崩壊してできた堆積物だと考えられます。
 黒瀬川構造帯は、城川付近に典型的で広く分布している地層なのですが、西の延長がいったん途切れます。それが、この須崎海岸で再び出ています。しかし、その先は豊後海峡になって露頭は途切れます。
 須崎海岸の露頭は、直立した地層からできた切り立った崖は、迫力満点です。また、海岸に2本の塔のような露頭もあります。海岸沿いでアプローチもよく、風化が少なく、露頭の表面もきれいに見ることができるはずのところです。ジオサイトとにも指定されているのですが、なんとか見学できるようにできることを願っています。

・立ち入り禁止・
ジオパークの関係者に、
以前から須崎海岸の様子がどうなっているのか見たい、
露頭を撮影したいといっていました。
しかし、立ち入り禁止のところに、
入っていくことになるので、
公的に入っていることを示すために、
腕章やヘルメットをお願いしていました。
先日、腕章もヘルメットもできたので
借りてやっと入ることができました。
幸い天気に恵まれて、
黒瀬川構造帯の大露頭にたどり着くことができました。
地すべりしているところを見ると、
今後も大雨などがあると、
地すべりが発生してもおかしくないところのようです。
ジオパークでも定期的にドローン調査を依頼して、
状況確認をしています。
現状での通行は危険なので、
迂回路や網などの対策が不可欠です。
予算も調査も必要になるので、すぐには無理でも
そのうち対策されることを願っています。

・奇遇の連続・
海岸の歩道から284段の階段を大汗をかいて登って、
ヘトヘトになり駐車場につきました。
すると、業者の方がおられたので話をしました。
ジオパークの依頼を受けて、地すべりを、
ドローン調査をしていたのことです。
私も写っているかと思ったのですが、
階段を登っている頃のようで気づかかったそうです。
二人のインターシップに来てもらっている学生さんも一緒でした。
外国の学生さんがいたので話をしたら、
大学の友人のところに来ている学生さんでした。
思わぬ出会いに驚きました。
宇和にもどって昼食を摂ろうとしたら
そこでも合うことになりました。
奇遇の連続でした。

2023年8月24日木曜日

5_203 タンデムモデル 3:多体問題

 太陽系形成を方程式から考えていく方法は、答えが出ない問題でした。しかし、計算方法を工夫して、コンピュータを駆使して、なんとかシミュレーションをすることができます。そして太陽系の形成過程がわかってきました。


 古典的な太陽系形成の標準モデルは「京都モデル」と呼ばれ、今日では「微惑星集積説」へと発展してきました。当初は、物理学的な方程式から、どのような状態、変化していくを考えていました。しかし、コンピュータの発達によって、方程式をシミュレーションしていく方法が導入されてきました。
 なぜ、コンピュータの導入が必要になったかというと、この方程式には解がないことがわかっているからです。宇宙空間にある粒子の挙動に関する方程式で、そこには重力の方程式が用いられてます。
 この問題は、質点が2個の場合は、ニュートンの方程式で解くことができます。しかし、質点の数が3個以上になると、多体問題と呼ばれ、一般解がないことがわかっています。これは、ポアンカレによって証明されました。
 物理的には厳密に解けない問題であることが明らかになっています。多体問題を解くには、現象を単純化して近似として解いたり、特別な条件や制約のもとで解いたりしていくしかありません。それぞれの方法を改善して、精度をいかに上げていくかということになります。
 ところが、コンピュータの発達によって、数値計算によるシミュレーションができるようになってきました。短い時間に区分した二体問題にして、それを解いた結果を反映した質点と別の質点で計算していきます。これをつぎつぎ繰り返しながら、質点全体を計算して、別の時間区分へと進んでいきます。
 精度を上げるためには、質点の数を増やしたり、時間の刻みを小さくしていくことになっていきます。精度を上げていこうとすると、計算ステップが爆発的に増えていきます。コンピュータの性能がシミュレーションの精度を決めていくことになります。コンピュータが高速になれば、質点を増やしたり、規模を拡大したり、2次元を3次元(平面を球体)にしたり、時間を長くしたりして、精度を上げることができます。
 太陽系形成の微惑星集積説ですが、シミュレーションを用いた方法は重要なアプローチになりますが、すべての過程をシミュレーションすることはまだ不可能です。いろいろな条件や状態や場面を設定してシミュレーションが進められています。その条件や状態を考えることで、まだまだ新しい仮説がでてくる余地があります。
 そんな条件の中から、タンデムモデルが出てきました。

・野外調査・
このエッセイは、現在野外調査中なので、
予約配信しています。
今回の調査は、高知と愛媛の県境付近と
愛媛の県立科学博物館と鉱山跡の見学も考えていきます。
移動距離は比較的短いのですが、
山道が多いので、疲れそうです。
このエッセイが跛行される日に
戻ってきます。
1月半ぶりの野外調査となります。

・お盆が終わる・
お盆も過ぎたので、
交通量や人でも少し減ったようです。
天気のほうが今ひとつです。
台風7号が通過して以降、
晴れても、毎日にように夕立があり
湿度も高い状態です。
まるで梅雨が戻ってきたようです。
しかし、お盆も過ぎたので、
暑さもピークが過ぎたようです。
夜も涼しくなり、寝やすくなりました。

2023年8月17日木曜日

5_202 タンデムモデル 2:シミュレーション

 太陽系形成のモデルは、古くはアイディアが先行していました。その後は、物理学の法則で考えられてきました。近年では、より精密な各種の方程式を導入して、コンピュータを駆使したシミュレーションになってきました。


 太陽系形成の二つ目の説である潮汐説をみていきましょう。
 太陽の近くを他の天体が通り、その時の潮汐力で太陽の物質が飛びだし、それが惑星になったという説で、古い時代からあったありましたが、現実的でないので消えていました。ところが、1901年にチェンバレンや1905年にモールトンが再度唱えました。太陽の近くを別の恒星が通り過ぎたときに、2つの星で潮汐作用が働き、恒星のガスが飛び出し、放出されたガスが冷却して惑星になったという「近接遭遇説」です。
 1919年にはジーンズは、近接遭遇説で、ガスがそのまま惑星となったと考えました。1935年にはラッセルや1936年のリットルトンは、太陽がもともとは連星で、別の星である伴星との接近で、潮汐作用が働いてガスが放出されたと考えました。
 潮汐説が唱えられていたのは、19世紀後半に、星雲説の問題点、例えば角運動量など観測と合わない事実がわかってきたためです。遭遇説では、そのような観測事実に合わない星雲説の課題を説明することができました。しかし、遭遇説にも問題があり、そもそも別の恒星との遭遇が非常に稀れな現象であること、それに飛び出したガスも散逸するので固まる可能性がないことがわかってきました。
 いずれの説も問題がありましたが、20世紀後半になると、星雲説をより緻密にした「微惑星集積説」に修正されてきました。この説は、1969年にサフロノフ、1972年に林忠四郎らが唱えたものです。
 恒星の周りにガスとダスト(小さな固体粒子)からできた円盤(原始惑星系円盤)が形成されます。ダストが集まり成長していくと微惑星ができて、微惑星が集積して原始惑星ができるというものです。大きく成長した固体惑星には、ガスも集まりガス惑星ができます。
 このような「微惑星集積説」は、それぞれの場や過程に働く原理をもとに、惑星の成長を方程式を考えて計算していきました。また、もともとの太陽組成、ダストの面積当たりの密度分布、雪線(スノーライン、H2Oが固体になる条件)、天体のサイズや質量などの初期条件を定め、厳密に検討を進めていきました。これらの研究は、林らの京大の研究グループが精力的に研究したため、「京都モデル」と呼ばれるようになりました。
 物理学的な方程式を導入して、現在の状態がどのようにできてきたかのを説明していく方法は、シミュレーションの一種と考えられます。現在では高速のコンピュータを用いて、緻密に進められています。

・停電・
先週は、非常にゆっくりとした台風6号の影響で
時々激しい雨や風になりました。
しかし、台風が直撃したのではなかったので
涼しくていいくらいに思ってました。
ところが、我が地区だけが停電しました。
調べたら、1200戸ほどが停電したようです。
朝の9時45分頃に起こった停電でしたが
11時40分には復旧しました。
多分、電力会社の人が、現地入して
原因究明をしてすぐに修復したのでしょう。
2時間弱ほどで復旧したので助かりました。
その間、読まなければならない
文献を読んでいたので、
停電の時間は無駄にはなりませんでした。

・ファイルの復旧・
突然の停電だったので、アセリました。
作業中にパソコンが、突然切れました。
まめにWordのファイルは保存していたのですが
イラストレータのファイルは何度か修正していたのですが
最終版は保存していませんでした。
修正中の途中のファイルは
保存した記憶があります。
それより、パソコンが壊れていなか心配でした。
電気が復旧後、また停電すると困るので
15分ほど待ってからパソコンを立ち上げたら、
また、数分で停電しました。
その後は、パソコンを立ち上げても作業はせず
昼食を食べてから、作業をはじめました。
イラストレータのファイルも途中段階のものが
「復元」用ファイルとして
アプリが保存していくれました。
優秀です。それで被害なくてすみました。

2023年8月10日木曜日

5_201 タンデムモデル 1:空想から科学へ

 太陽系形成について、考えていきます。今ではコンピュータを用いたシミュレーションが研究の主流となっています。そこに至るには、太陽系形成の考え方には、先駆者がいました。


 私たちの太陽系がどのように形成されたのかについて、古くから考えられてきました。大きく星雲説と潮汐説の2つの流れありました。
 星雲説は、デカルトからはじまります。1677年、デカルトは星雲説から渦流によって惑星が形成されたという説です。カント(1755)に高温の回転している星雲が冷却しながら収縮して惑星ができる説です。ラプラス(1796)はカントの星雲説を力学的に修正した説、などがあります。
 かつて、宇宙は現在のように真空ではなく、架空の「エーテル」で埋め尽くされているとされていました。エーテルが、天体の運動を駆動していると考えられていました。
 デカルトも、エーテルを利用しました。エーテルが渦を巻いていて、太陽系星雲の物質が渦の中心に集まっていき、それらが太陽や惑星となり、円運動をするようになったと考えました。
 カントの星雲説は、ゆるやかに回転していた高温の星雲が、重力により収縮をしていき、いくつかの軌道上に環ができ、やがて環の中で球状の天体ができるとした。
 デカルトやカントの星雲説は概念的、定性的でしたが、ラプラスの説は、力学的で精密でした。力学では3体以上の多体問題は、一般的な解法はないことがわかっているのですが、ラプラスは、摂動法と呼ばれる近似計算で太陽系の惑星の運動を計算し、天体の運動は安定していることを示しました。このような物理学的手法を、太陽系形成にも導入して説明していきました。
 最初、高温の太陽系星雲が回転していました。冷却にともなってガスが収縮していくと、角速度が増えていき、赤道付近に物質が集まり、遠心力で周囲のガスから分離していきます。温度低下にともなって、その収縮と分離が進行していきます。中心部に原始太陽が生まれ、赤道面にガスからなる環ができていきます。収縮が進むと、やがて原始太陽は太陽に、環の中では惑星が成長していきます。土星の環はその名残だとしました。
 このような星雲説の他に、潮汐説もありました。次回としましょう。

・帰省・
今年のお盆は、本来なら実家の京都に
帰りたかったのですが、
お盆の京都への移動は、
混在もさることながら、
泊まるところが異常に高くなっているので
帰省を諦めました。
長男の来年度から就職するので
家族が集まれるのは、
この機会が最後になるかと思い
サバティカルが終わる直前の
9月に京都に帰省することにしました。
ところが、ちょうどその日、次男は就活で
不在になるかもとのことです。
なかなか家族全員集まるのが
難しくなってきました。

・暑い夏・
8月になって、北海道でも真夏日など
全国的な酷暑のニュースを毎日にように聞きます。
家内は、自宅でできるだけエアコンを
使わないようにしているようです。
あまり無理しないでつけるようにいっているのですが、
昼食のときはつけているとのことです。
夕方になると、かなりへばっています。
私が自宅に帰ると、
居間と台所のエアコンをつけます。
台所は家内しか使わないのですが、
つけています。
梅雨が終わって蒸し暑さがましになったので
扇風機が有効になります。
寝ているときは、扇風機が不可欠です。
しかし、エアコンも必要です。

2023年8月3日木曜日

4_178 西予紀行 5:宇和盆地

 西予市の市庁舎は宇和にあります。宇和が自動車道やJRなどの交通が通っており交通の要衝でもあります。宇和は、少々不思議な地形になっています。宇和の特徴を見ていきましょう。


 宇和は盆地にできた町です。盆地なのですが、肱川の最上流に当たります。肱川の源流は鳥坂峠(標高460m)で、盆地の北側の山地にあります。盆地の標高も200mという、高い位置に広がっています。
 宇和盆地からは、北南に幹線道路や鉄道が繋がっています。南は、国道56号線も自動車道、JR線も宇和島に向かいますが、険しい山を越えていきます。北には、北東にある大洲か北西にある八幡浜に抜けることになり、こちらも険しい山地を乗り越えていくことになります。
 盆地の西は宇和海に近いのです山があります。肱川は、海とは逆方向の東に向かって流れていきます。肱川は一級河川で、本流は103kmの長さがあります。「つ」の字、肘のように曲がっているため、源流から河口まで18kmしかありません。四国山地に源流をもった多数の支流が流入しています。
 肱川の宇和盆地から下流側には、険しい山地が続きますが、侵食が進んでおり、深いV字谷になっています。しかし、侵食が進んでいるため、河川の傾斜はゆるくなっており、ゆるい流れとなっています。昔は海運に利用されていました。
 なぜ、山地の中に宇和盆地ができたのでしょうか。盆地とは、周囲が山に囲まれていることです。山のでき方はいろいろですが、宇和周辺の山は、地質学的な構造運動によってできています。
 宇和盆地は秩父帯と呼ばれる地質になっており、ジュラ紀の沈み込み帯で形成された堆積物(付加体)からできています。盆地の南側は、急な斜面となっています。南斜面は仏像構造線と呼ばれるもので、四万十帯(白亜紀の付加体)と接しています。北側も山地で、御荷鉾構造線と呼ばれるものがあります。秩父帯が三波川変成帯(白亜紀に変成を受けたジュラ紀の付加体)と断層によって接しています。
 両側の境界が構造線により持ち上げられたので、山地となりました。楮線の間には広い谷ができたのですが、下流域にはV字谷で河川は狭くなっています。そのため、侵食によって運ばれてきた土砂が、宇和の谷に堆積していき、埋め立て盆地平野となりました。
 上流部に盆地があり、支流も多いため、雨が大量に一気に降ると、下流の大洲盆地では、たびたび水害に見舞われてきました。今では、野村ダムや狩野川(かのがわ)ダム、支流の河辺川にも山鳥坂(やまとさか)ダムなどが建築され、洪水対策がなされています。しかし、近年の激しい集中豪雨で想定外の災害も発生しています。
 宇和盆地では、稲作が盛んで、稲わらを使ったモニュメントがあちこちつくられています。マンモスやウサギなどみかけました。地域お越しの一貫でもあるでしょうが和みます。

・エアコン・
四国もやっと梅雨明けは終わりましたが、
湿度が高く、暑い日が続きます。
エアコンのつけて寝る日も多くなりました。
先日、大野ヶ原の馴染みに店で話していると
エアコンはないといいます。
窓を開けるとなんとかなるということです。
大野ヶ原の平均気温は
北海道の札幌や帯広と同じくらいです。
そのため、北海道のような気候が
すぐ近くにありました。

・うろうろと・
8月になりました。
下旬からはまた野外調査が再開します。
それまでに論文を仕上げて
投稿しなければなりません。
落ち着いて研究に向かう時期になっています。
しかし、地元をうろうろすることも楽しいので
集中が途切れがちになってしまいます。
注意して、集中していく必要があります。

2023年7月20日木曜日

6_204 知的生命体の起源 2:コペルニクスの原理

 地球外の知的生命は、科学技術をもっているはずです。科学技術誕生には、どのような惑星の条件が必要でしょうか。その条件とは、生命誕生の条件と一致するのでしょうか。コペルニクスの原理から考えていきます。


 ハビタブルゾーンが設定されるのは、背景に地球生物が誕生の必要条件として水の存在があるからです。地球や地球生物が、宇宙で特別な存在ではなく、平均的、一般的、平凡(凡庸)な存在と考えています。ハビタブルゾーンの概念には、地球や生物で考えられる条件が一般論として適用できる、と考えて構築されています。このような考え方は、「コペルニクスの原理」あるいは「メディオクリティの原理」と呼ばれています。
 ハビタブルゾーンには生命誕生には水の存在が不可欠であるという考えは、「コペルニクスの原理」に基づいて設定されています。水の状態は、惑星表層が水で覆われた水惑星だけでなく、天体内であっても、必要な条件がそろっていれば、生命が誕生できる可能性があると考えられています。
 例えば、氷の地殻の下に存在する地下の海(内部海)でも、素材とエネルギーなどがそろっていれば、生命が誕生できるかもしれません。このような天体は、太陽系にも候補(木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドゥスなど)があり、生命の発見が期待されています。
 一方、技術痕跡(technosignature)の担い手である技術的知性(Technological Intelligence、TI)は、陸上で進化したと考えられます。なぜなら、科学技術は、電気や電波を用いたものなので、陸上でないと使えません。科学技術に至るためには、水蒸気やガソリンのエンジンなどの動力を使用した工業が発展していたはずです。工業に至るためには、農業や酪農などをする産業が必要で、火の使用する文明がなくてはなりません。知性をもつに至る生物へは、陸上で進化していったことを前提としています。これも技術的知性に至るための「コペルニクスの原理」の適用です。
 生命誕生には海の存在が、技術的知性には陸の存在が不可欠となります。海で誕生した生命が、段階的に進化をして、やがて陸上に進出していく必要があります。その間、惑星の環境が維持されなければなりません。つまり、技術的知性には、海と陸の恒常的存在が不可欠となります。
 生命誕生においてハビタブルゾーンは必要でしょうが、「コペルニクスの原理」によれば、技術的知性の探査には海と陸の存在が不可欠になります。惑星表層で占める海と陸の比率が問題となります。海と陸の存在を探査で知ることはできません。その可能性を、統計を用いて探求するアイディアがあります。次回としましょう。

・暑い夜・
現在は、論文作成に専念しています。
連日、蒸し暑い日が続いていますが、
借りている部屋では
入ったときから、
襖や障子をはずしていました。
風通しはいいのですが、
それもでエアコンを必要な時にはつけています。
しかし、寝るときは、扇風機で過ごしています。
寝苦しい日もありますが、
あと少しこの状態を続けてみようと思っています。

・近隣の散策・
北海道では、夏は野外調査の最盛期なのですが、
四国では、夏は野外調査には向かない時期です。
四国での7月上旬の調査は、
蒸し暑くでヘトヘトに疲れました。
幸い、もともと8月下旬まで、
調査は休止の予定にしていました。
その間は山里で、じっと過ごす予定です。
ただし、週日のうち、2日間、昼食を外食しながら
半日ほど出かけるようにしていきます。
これは来たときから続けています。
家内があまり地元を知らないので
我が家の休日として
近隣をあちこち回るようにしています。
次はどこにいこうか、と考えるのを
楽しみにしています。

2023年7月13日木曜日

6_203 知的生命体の起源 1:条件と仮定

 系外惑星の探査は、現在も盛んに進められています。多くの系外惑星が発見され、多様な惑星の存在がわかってきました。探査では、水、生命、知性などがキーワードですが、それらには仮定と条件が絡み合っています。


 高性能の宇宙望遠鏡による探査によって、大量の太陽系外の惑星が発見され、その多様な姿が明らかになってきました。それまで、太陽系内の天体が、惑星の多様性の範囲で、それらがいかに形成されたかを考えることが、惑星形成の重要な目的でした。ところが、多様な系外惑星の発見により、これまでの前提が大きく変更されました。
 数ある系外惑星の中で、地球型惑星の探査、そしてハビタブルゾーンにある惑星が注目されてきました。ハビタブルゾーンとは、惑星表層に液体の水が存在する領域で、恒星のタイプと惑星の公転軌道から推定できます。そこに地球型惑星があれば、海が存在する可能性が高くなります。その軌道上に、惑星が安定して長期間あれば、生命誕生と進化の必要条件がそろうことになります。ただし、その惑星に液体の水があること、生命が誕生していること、生命が進化していることを検証すのは困難です。
 ハビタブルゾーンから生命の進化までの推論は、連続した仮説を積み重ねていく論理構造になっています。
 系外惑星の公転軌道と惑星タイプは、観測で検証されていますが、ハビタブルゾーンの存在は推定になります。ハビタブルゾーンが仮定できる条件があっても、地球型惑星に水が存在するかどうかは検証できません。水が存在する惑星があると仮定でできても、そこに生命が誕生するかどうか、さらに誕生した生命が進化を続けていくかどうかは、仮説の上の仮説の連続となります。
 このように、仮定の上に仮定を積み重ねていくことになります。探査機がその惑星に近づかないと、生命の存在は、なかなか検証できそうもありません。
 ところが、地球外文明を探すことは、比較的容易で検証可能です。ここでいう地球外文明とは、科学技術が発達しており、電波を用いているものです。電波であれば、文明から遠く離れた遠隔地からも受信できます。もし受信できれば、その信号の意味や中身が分からなくても、文明の存在を知ることになります。文明の背景の知的生命は、生命や水の探査を一気に飛び越していますが、生命の存在の十分条件を満たしています。
 このような技術の痕跡は、技術痕跡(technosignature)と呼ばれ、その担い手を技術的知性(Technological Intelligence、TI)、あるいは地球外知性(Extra Terrestrial Intelligence、ETI)と呼びます。
 TIの検出に関してベイズ統計を用いた、不思議な論文が報告されました。次回から紹介していきましょう。

・野外調査・
7月上旬でサバティカルにて予定していた
前半の野外調査を終えました。
前半には、野外調査を6回予定していたのですが
そのうち1回は家内に体調不良が起こり
その看護で中止になりました。
中止した地域は、
後半の調査地の予定を変更することで
対処することにしました。
プライベートでの京都への帰省も
前半に2回、後半に1回予定していたのですが、
前半の1回をキャンセルしました。
何事も予定通りには進みませんが、
可能な限り予定消化を目指して
進めていきたいと考えています。
野外調査に専念できるのは
最後のチャンスと考えています。

・集中すること・
サバティカルも折り返しが過ぎました。
あれもこれもと、欲張りながら
日々を過ごしています。
高齢のため、体力や身体は
無理がきかなくなっていますので
労りながら進めていくしかありません。
心身ともに余裕はもちながら
無駄を省いていくしかありません。
短時間で集中して進めていくことです。

2023年7月6日木曜日

4_177 西予紀行 4:大野ヶ原

 西予紀行は、前回の明浜の石灰岩に続き、今回は大野ヶ原の石灰岩です。西予市の西(明浜)の海岸と東(大野ヶ原)の山にある石灰岩です。離れたところですが、いずれも石灰岩が景観をつくっています。


 5月下旬、どんよりとした日でしたが、大野ヶ原にいきました。日吉から稜線に登る林道(東津野城川林道)を使いました。舗装されたいい林道ですが、以前と比べると少し荒れてきているようです。その後、6月下旬に、友人がジオミュージアムに来たので、皆で一緒に西予市のジオサイトを周るときに、同行しました。その時、同じルートで大野ヶ原に上がりました。下りは別ルートでしたが。巡検では、各地にお住まいのガイドの方に、案内をしていだきました。
 最初に大野ヶ原にいったとき、林道沿いで造材がされており、そのために拓かれた道沿いに露頭ができていました。そこで蛇紋岩の産状がよくみえるところがありました。以前にも尾根沿いに蛇紋岩の露頭があったのですが、風化が進んでいるので、産状が分かりにくいものでした。今回、新しくできた露頭では、広く新鮮な面がでていました。黒瀬川帯の蛇紋岩となるのでしょうか。造材が終われば、この露頭も、風化、侵食が進んでいくのでしょう。
 ガイドの人から、地質だけでなく、この地の起こりや伝説、歴史、そして現在の生活について伺いました。ガイドの方は、植物にも詳しく、石灰岩の中にある断層の両側で、植物種が異なっているとのことです。
 大野ヶ原は、四国山脈の西方延長に当たります。四国山脈には、石灰岩台地が点々と分布しています。石灰岩が広く分布している大野ヶ原のようなところでは、カルスト台地となっています。石灰岩の侵食地形をいろいろ見ることができます。石灰岩は、秩父帯北帯に属するもので、東に向かってその先20kmには、日本で有数の石灰岩採掘地の鳥形山があります。ガイドさんの話では、源氏ヶ駄場からは、天気がよければ、鳥形山も見えるとのことです。しかし、この日は濃い霧に包まれて、眺望はできませんでした。
 大野ヶ原は、稜線沿いの高原に、牧草地が広がっています。斜面の牧草地はには石灰岩が点々とあり、牛とのコントラストが面白いです。山並みの中に平らな地域に集落があります。カルストの中で石灰岩が溶けてできたくぼみで、ドリーネ、ウバーレ、そしてポリエと成長してきてものです。くぼみなので水がたまりやすく、畑作ができます。ポリエに集落と耕作地があります。また、小松ヶ池という地下水がたまっているところがあります。この池はドリーネにできたものです。池の中には、ミズゴケでできた浮島があり、動くこともあるそうです。
 大野ヶ原に「森の魚」という小さな店があり、そこで2度ともソフトクリームをいただきました。初回には土産にミルクパンを2種買って帰りました。店のご夫婦からいろいろ話しを聞かせていただきました。
 ご主人は、大野ヶ原のジオサイトでガイドをしてくださいました。下は蒸し暑かったのですが、上がると半袖では寒いほどでした。ガイドの人も、まだ上では長袖でないとダメだと仰っていました。
 仕事をしている支所の標高は130mで、自宅では200mになっています。大野ヶ原は、標高が1400mもあります。標高100mで気温が0.6℃下がります。下から大野ヶ原まで上がると、7℃ほど下がります。下界が茹だるような暑さでも、大野ヶ原まで上がれば、一気に涼しくなります。
 7月中旬から8月下旬までは、夏の最中なので、野外調査は休みます。その間に、下界が暑いときは、避暑に大野ヶ原に上がっていくつもりです。

・森の魚・
ソフトクリームをいただいた店の名前の「森の魚」は、
そのテーマで彫刻された作品に由来しています。
石でできた魚の彫刻で、力強い作品です。
作者は、藤部吉人(ふじべ よしと)さんで、
三間町に生まれたのですが、
大野が原で製作をされていました。
「森と魚は表裏一体:
森から水が生まれ、そして海に流れ、
生命を育み、大地に恵みを与える」
というテーマで彫刻されています。
独特の個性と力強さをもった作品です。
愛媛の各地で見かけます。

・作品の記録・
作者の藤部吉人についてお店で聞いたら、
だいぶ前に亡くなられたとのことです。
調べたら、2013年12月3日に
67歳で亡くなられていました。
西予や愛媛各地に森の魚の作品はあるので、
目についたら記録に残しておこうと考えています。

2023年6月29日木曜日

3_214 内核の話 5:内核形成のはじまり

 前回は、カンブリア紀の強磁場から内核の成長の話でした。今回は、それより前、エディアカラ紀にあった超低磁場から、内核の形成時期についての話です。内核はいつできたのでしょうか。


 地球ダイナモの原理によって、地磁気は外核の流動で起こっています。外核の活動は、地磁気の変動となります。過去の地磁気の変動は、古地磁気として記録されているので、試料と技術があれば、読み取ることが可能になります。内核の成長に関する変動を、古地磁気から探る方法は、外核の変動から間接的ですが、捉えることにできました。
 しかし、内核がいつできたかは、よくわかっていません。内核の形成がはじまったころは、地磁気への影響も少なかったでしょうし、少しずつ一様に成長したとすると、その変動はかすかなものになるはずです。
 内核の形成を調べるのには、主に2つのアプローチがあります。ひとつは、熱力学的モデルからのアプローチです。熱力学的モデルによると、内核の成長開始は、25億年前から約5億年前までの20億年間にわたる推定がありました。あまりに長い期間にわたるため、形成過程はまだ十分には解明されていることにはなりませんでした。
 2016年、Geophysical Research Letters誌に、Driscollさんの論文
Simulating 2 Ga of geodynamo history
(地磁気のシミュレーションによる20億年の歴史)
で、詳しくシミュレーションされました。
 論文によると、17億年前より以前は強磁気ダイナモが多極子になり、17億~10億年前は強磁場ダイナモは主に双極子になり、10億~6億年前は弱磁場ダイナモで非軸性双極子に、そして6億年前から現在は内核の形成後の双極性の強磁場ダイナモになると推定しています。いずれも正確に古地磁気が読み取られれば検証可能です。
 アメリカのロチェスター大学のBonoさんらの共同研究で、Nature Geoscience誌に2019年に掲載された
Young inner core inferred from Ediacaran ultra-low geomagnetic field intensity
(エディアカラの超低磁場強度から推定された若い内核)
という論文です。
 エディアカラ紀(約5億6500万年前)のSept-Ile貫入岩類の斜長石と単斜輝石で、古地磁気の強度を調べました。その値は、これまで調べられたもっとも低いものになりました。現在の磁場強度の10分の1以下しかないことになります。地球ダイナモのシミュレーション、高い熱伝導率などから、エディアカラ紀ころに内核が形成されはじめたと考えました。
 また、2つの異なる方向の極性があることから、Driscollさんの熱力学的モデルによる「6億年前から双極性」という推定と一致していました。
 内核は6億年前ころから形成されはじめて、成長してきたようです。

・帰省・
6月末から4日間、京都に帰省します。
帰省初日の夜に、息子たちと会食します。
その後は、実家で親族と会います。
今年の正月に母が亡くなったので
墓参りをして、その後親族と
いろいろ相談しておきます。
初盆に帰省しようとしたのですが、
暑さと混雑が予想されたので
この時期にしました。
初盆などは親族におまかせすることにしました。

・日々精進・
先週、徳島から高知にかけての
太平洋岸沿いを調査しました。
メインは、四万十層群を調べることです。
気づいたら、もう6月も終わります。
サバティカルの期間のうち半分が経過しました。
目標の半分が達成できたかが問題です。
なかなか、予定通りには進みません。
しかし、日々、精進をしています。

2023年6月22日木曜日

3_213 内核の話 4:地球ダイナモの更新

 内核の変化を、外核の変化から推定していきます。外核の変動は、ある時代の形成された岩石の、古地磁気の測定から調べることができます。ただし、その考え方は、いくつかの段階を経たものになります。


 前々回、内核の歪な成長の観測から、内核の形成が新しかったのではないかという報告を紹介しました。今回は、2段階のステップで内核の起源を考える論理になります。
 2段階とは、まず古地磁気を探ることで、地磁気の発生源の地球ダイナモの変化を知ることができます。地球ダイナモは、外核の流動によるものです。外核の流動は、マントルを通じての熱の放出によって駆動されていると考えられています。熱の放出は、外核の結晶化と内核の成長率に影響を与えます。つまり、古地磁気の変動は、内核の成長の変動と対応しているとみなしていきます。
 内核が成長する時は、地磁気が強くなると推定されています。逆に成長していない時は、地磁気が弱くなっていくことになります。この考えを用いた報告がありました。2022年のNature Communications誌に、アメリカのロチェスター大学のZhouさんたちの共同研究で、
 Early Cambrian renewal of the geodynamo and the origin of inner core structure
 (カンブリア紀初期の地球ダイナモの更新と内核構造の起源)
という報告がなされました。
 古地磁気の変動として、エディアカラ紀(約5億65000万年前)に非常に低い地磁気になっていたことがすでに知られています。そこから強い地磁気に戻っていきます。しかし、この変動の期間のデータが不足していました。
 この報告では、カンブリア紀初期(約 5億3200万年前)に形成された斜長岩を用いて、空白の期間を埋めるために、地磁気を測定しています。この観測データから、エディアカラ紀の低い時と比べて、5倍も大きい強度になっていることがわかりました。短期間に急激に変動したことになります。
 超低強度の地磁気の定義データから、変動の開始は5億5000万年前ころからと推定されました。その時期を変動の開始年代と仮定して、熱モデルを作成したら、3300万年以内で回復していきました。また、内核が現在のサイズの50%(半径620km)まで、約4億5000万年前には成長していたと考えられます。この50%という値は、前々回示した地震波異方性が見つかった位置に相当します。
 エディアカラ紀からカンブリア紀にかけて、内核の成長に大きな変化が起こっていたようです。
 今回の報告と、前々回紹介した報告は独立した研究でした。いずれもいくつかの仮定やモデルを用いたもので、観測データを説明しています。そこには検証性が少々問題がありそうでした。それが、今回、関連がでてきました。このような独立した方法での関連は、検証性を高めていくように見えます。

・四万十層群・
このエッセイは、予約送信しています。
今回は、徳島から高知まで、
太平洋沿岸を調査して回ります。
海岸沿いのルートは、決まっているので、
以前にも訪れた露頭も多く巡ることになります。
しかし、典型的な露頭は、
何度みてもよく、いろいろと考えることもでてきます。
四万十層群で、さまざまな産状を見て回っています。

・梅雨・
梅雨になりました。
気象庁によれば、四国は5月29日に
梅雨入りしているとのことです。
6月上旬には台風の影響の大雨もあり
涼しい日も続いています。
梅雨のない北海道からきたので、
久しぶりの梅雨を体験していますが、
まだ蒸し暑い日があまりないので助かっています。

2023年6月15日木曜日

3_212 内核の話 3:逆回転か

  このシリーズでは、内核に関する最近の論文をいくつかまとめています。内核の存在はよく知られていますが、その実態は必ずしもよくわかっていません。今回は、内核が逆転しているという報告を紹介します。


 液体の鉄の中心部に固体の内核があります。液体の内部に固体が釣り合った状態であることになるので、自由に動くことができます。地球は自転しているため、その影響も受けるはずです。
 しかし、内核がどのように運動(回転)しているのかについては、いろいろな説があります。今回は、固体の内核の運動についてのものです。
 2023年1月23日にイギリスのNature誌の姉妹誌「Nature Geoscience」に、Yi YangとXiaodong Songの共著の論文、
 Multidecadal variation of the Earth's inner-core rotation
 (地球の内核の回転の数十年の変動)
が発表されたました。この論文は、タイトル通りに、内核を通る地震波の観測データを、過去数十年間分集めて、検討していき、変動を調べています。
 内核は地表に対して振動しているとしました。その振動の周期は、一往復に約70年かかり、約35年毎に回転方向が変わるとしています。報告によると、2009年ころに回転が一度停止し、その後逆回転をはじめことになり、次の変化は2045年ころにかわると想定しています。
 内核を通過する地震波の変動はすでの多くの研究者が検出していますが、そのデータの説明には定説がありません。内核の運動に関するどのようなモデルを用いるかによって、いろいろな説があるようです。また、どのモデルでも観測データを完全には説明できないようです。
 回転方向の変化の周期には、約6年ごと、あるいは20から30年ごととする説、また2001年から2013年に大きく変動し、その後静止しているという説など、さまざまなものがあります。
 外核の運動は、地球ダイナモを駆動していると考えられているので、外核の変動は地磁気への影響がありそうに思えます。内核の動きが、地球全体や、表層環境にどのような影響があるのでしょうか。それはまだ不明です。

・雨の日もある・
台風の通過の後、四国山地の中心部を
東から西に横切るルートで野外調査をしました。
主には三波川変成岩と四万十変成岩を
見ていくことが目的でした。
メインの場所は、大歩危周辺でしたが、
2日目は雨で見ることができませんでした。
3日目は晴れていました。
しかし、増水で河原へはいけませんでした。
川船に乗って遠目で眺めることにしました。
今回は、4日間のうち、2日間は雨でした。
晴れは移動の初日と3日目でしたが、
まあ野外調査にはこんな時もあるでしょう。

・競争的研究費の採択・
先日、競争的研究費の採択通知が届きました。
研究成果を公開するためのもので
専門書2冊の印刷出版を申請しました。
以前から継続してるシリーズの出版です。
サバティカルの初期の作業として
2冊の本の推敲、編集、校正作業がありました。
初校の推敲を2つとも終わりました。
あとは、時間をおいて再度校正を繰り返します。

2023年6月8日木曜日

3_211 核の成長 2:歪な内核の成長

 内核の成長が、歪になっていることがわかってきました。インドネシアとブラジルの下では、内核の成長に違いが見つかりました。この観測から、地球の歴史や熱の歴史へと、話が波及していくことになりそうです。


 内核は鉄の結晶でできていますが、調べる方法は地震波となります。地震波の伝わり方を詳しく調べることで、一様でないことがわかっています。内核の深さとともに地震波速度が変化していること、内核の境界部が歪な形をしていることが見つかっています。
 赤道(東西)方向に伝わる地震波よりも、南北方向に伝わる地震波の方が速くなっています。ブラジル(東半球と呼んでいます)と比べると、インドネシア(西半球)が大きくなっていることがわかりました。成長の程度でいうと、東側のほうが60%ほど多く結晶ができていると見積もられました。西側では、半径が年間 1 mmの成長することになります。インドネシアの方が結晶化が進むということは、冷めやすいことも意味しています。
 このような地震波速度の変化は、核の力学的成長と鉄の結晶の物理的計算からシミュレーションしていくと、結晶が一定の方向を向いて成長(異方性といいます)していることで説明できました。インドネシア側だけが速く成長していることになり、観察のデータと一致しました。
 さらに、結晶の成長速度から、内核がかなり短時間で形成されてることが推定されました。これは内核の形成が若い(15億年前から5億年前)という説にも合っていました。
 内核の形成が、最近、内核が若いといわれてきています。しかし、30億年前にはすでに、地球には現在と同じ程の地磁気があったことはわかっています。現状の地球ダイナモに匹敵する磁場が、かつては液体の鉄だけで発生していたことになります。それは、現在の地球ダイナモとは異なったメカニズムになりそうです。そこについて、再考が必要になるかもしれません。
 また、もし15億年や5億年で今のサイズに成長してきたのなら、今後、液体の鉄がどの程度の期間、残るのことになるかも、気になります。
 このような内核の成長過程は、地球の磁場の歴史、あるいは熱の歴史にも大きな影響がありそうです。

・四国山地・
今回も、予約送信しています。
四国山地に沿って東から西に向かって
野外調査をしていきます。
中央構造線の南側に沿って
険しい山並みが四国山地になっています。
構造線や山並みは東西に走っているので
東西の谷沿いに道があります。
ただし、険しい山中なので
移動に時間がかかりますが。

・台風2号・
台風2号による線状降水帯が
四国を通り抜けました。
2日には、町で緊急警報がでました。
高齢者等避難の状態でした。
激しい雨が降っていました。
洪水と土砂災害が心配でしたが、
3日には晴れ間が戻ってきました。
野外調査に出れるのでホッとしています。

2023年6月1日木曜日

4_176 西予紀行 3:明浜の石灰岩

 明浜にいってきました。好天で暑いくらいの日でした。三瓶まで回ろうかと思っていたですが、予想以上に時間がかかったので、今回は明浜だけを巡りました。



 西予市は四国山地の西はずれに位置する四国カルストのある野村から、肱川上流の宇和盆地、そして野村と宇和の間にある城川、さらに豊後水道に面するリアス式海岸の明浜と三瓶があります。地形や気候の変化に富んだところです。現在住んでいるのは、山地の城川の土居という集落に住んでいます。
 5月のはじめに、海沿いの明浜を訪れました。宇和から野福峠に出ると、リアス式海岸を眺めることできます。入り組んだ海岸を利用した漁業が盛んなところで、イカダをつかって真珠などの養殖もされています。
 真珠の作業場を見ようと思って立ち寄ってみたのですが、見学はできませんでした。その会社は、貝の洗浄を社員総出でやっている日でした。しかし、作業場だけは少し見せてもらい、社長の名刺もいただきました。見学や体験を希望するときは、事前に予約してくださいとのことでした。残念でしたが、調べると、予約は3名からとなっていました。もともと無理だったのかもしれません。
 明浜では、斜面が多く険しいところですが、農業も営まれています。段々畑になっていますが、石垣は石灰岩を用いてなされています。植えられているのは柑橘類です。狩浜は段々畑の景観が名所で、国の重要文化的景観ともなっています。葉の緑、石垣の石灰岩の白のコントラストがきれいな色合いとなっていました。この時期はミカンの実はなっていませんでした。秋ならミカンの黄色が加わって、にぎやかな彩りになります。
 段々畑は、もともとは稲作をしていましたが、明治には養蚕のための桑を栽培するようになりました。昭和30年代には柑橘に切り替えていったようです。今では柑橘の栽培が中心となっています。柑橘の栽培には、水はけのいい斜面で、石灰による栄養供給と中和機能が役立ち、海から潮風などがあり、この地が適していたようです。
 石垣の石灰岩は、秩父帯南帯のものです。石灰岩より少し北側には層状チャートもあります。海岸沿いが険しい傾斜になっているのは、ひとつには石灰岩やチャートなどの険しい地形を作りやすい岩石が斜面の上部にあるためです。しかし、ここには大きな断層(仏像構造線と呼ばれています)が通っていることが大きな原因です。
 仏像構造線は、秩父帯と四万十帯の境界に当たるところで、大きな地層境界になっています。四万十帯側が落ち込んでいるため、海側に険しい地形となっています。海岸で少しだけ四万十帯の地層が見ることができます。
 リアス式海岸沿いに道はくねくねしていて、また狭いところも多く、通るのに時間がかかります。今度は三瓶も訪れたいと思っています。

・石灰岩・
この地には海岸近くに石灰岩があります。
昔から明浜では石灰岩を利用して
石灰を生産していました。
その鉱山や窯がジオサイトで展示されています。
江戸時代後期から生産していたようです。
海の近くなので輸送には有利だったのでしょうか。
こんら埋もれた歴史も
ジオパークのサイトに指定されることで
掘り起こされていきます。

・真珠・
真珠の養殖には、リシアス式海岸のような
入り組んだ海岸で波の穏やかな地形が有利です。
似たような地形は、四国西岸に連続的に続いています。
宇和島から愛南までは、
真珠の養殖で有名なところです。
転々とイカダがあり、
その多くで真珠の養殖がされています。
家内にも真珠のひとつも贈れればいいのですが。

2023年5月25日木曜日

3_210 核の成長 1:金属の鉄

 地球の中心にある核に関する論文が、いくつか集まってきましたので、今回から、まとめて紹介していこうと考えています。まずは、核の基礎的な知識からはじめていきましょう。


 地球内部は、地震波から探ることができます。地震波から、構成している岩石の密度や状態(液体か固体か)、温度などを推定することができます。その結果、地球の内部は、外側から、地殻、マントル、核(コア)に区分されました。地殻とマントルは岩石ですが、両者の密度が違っていました。それは、岩石の種類が異なっていることになります。
 核は、金属の鉄からできています。核の内部の状態から、同じ金属鉄でも融けている液体の部分と固体の部分があることがわかってきました。核では、マントルの温度が低いため、核の上部を冷やすことになります。そこでは、結晶化が起こり、液体より固体のほうが密度が大きいので結晶は沈んでいきます。固体が沈み、中心部にたまり、内核となっていきます。
 結晶の沈降や低温の液体鉄の密度差によって下降流が生じ、外核では年間1mほどの速度で対流しています。さらに、地球の自転によって対流が変化して、南北に細く伸びた円筒形がいくつも並んで回転している様子もわかってきました。
 このような回転する対流では、磁場が発生します。対流が継続するので、磁場の中を伝導体の金属鉄が流動することで、大きな電流の流れができ、地球全体がひとつの磁石のような磁場(双極磁場といいます)をもつことなると考えられています。このようは仕組みは、地球ダイナモと呼ばれています。地球の最深部の運動が、地球の外側の磁場を生み出していることになります。
 液体の核で固化が続けば、外核はだんだん減少していき、固体の内核は成長を続けていることになります。では、成長している内核は、きれいな球状になっているのでしょうか。それに関して、2021年6月のNature Geoscienceに次のようなタイトルの論文が掲載されました。
Dynamic history of the inner core constrained by seismic anisotropy
(地震学的異方性によって制約された内核の動的歴史)
カリフォルニア大学バークレー校のフロストさんたちの共同研究となっています。この論文によると、どうも核の成長に偏りがあるようです。その内容は、次回としましょう。

・3度目の調査・
3度目の野外調査にでています。
淡路島と香川を中心に調査していきます。
淡路島ははじめて訪れるところです。
四国の西側に住んでいるので
四国を東西に縦断することになります。
高速道路がつながっているので
一気に進めるのですが、
距離があるので、疲れないように、
休み休みいくしかありません。
このエッセイは、現在調査中なので、
予約送信をしています。

・時間と忍耐と・
あれよあれよという間に
サバティカルに来て、2ヶ月近くも経過しました。
目的を達成するには、調査もさることながら、
研究も進めていかなければなりません。
予定していたことを、
少しずつ進めていますが、
地道な努力が必要な作業なので
時間だけでなく、忍耐も必要です。
今は、淡々と文献を読むこと、
原稿の推敲を進めていくことになります。

2023年5月11日木曜日

4_174 西予紀行 1:黒瀬川の地で

 西予市城川町にて、2度目のサバティカルを過ごしています。ふと思いついたのですが、現在滞在している西予やその周辺の様子を、月に一度ほどお送りすることにしました。5月になって思いついたのですが、4月にいったところを、一伸目としてお送りしましょう。

 2022年4月に四国西予ジオミュージアムが開館しました。その結果、もともとあった地質館が閉館してしまいました。地質館の建設や、運営に協力していたこともあり、30年来通っていたところです。
 城川でも、かなり奥まった地に地質館がありました。この地は、黒瀬川帯、あるいは黒瀬川構造帯と呼ばれるものに属する岩石類がでているため、地質学では有名な地となっています。この地を流れる黒瀬川、あるいは黒瀬川村にちなんで命名されています。他にも地層や岩石名にも、この地の地名が多数用いられています。
 さて、四国の東西を走る大断層である中央構造線(北側)と仏像構造線(南側)があります。その間には、秩父帯とよばれる地層が広く分布しています。黒瀬川帯は、秩父帯の中に、点々と分布しています。秩父帯は、海洋プレートの沈み込みによって形成される特徴的な地層群(付加体と呼ばれます)からできています。秩父帯が付加した時代は、北側(秩父帯北帯)はジュラ紀で、南側(秩父帯南帯)はジュラ紀から白亜紀前期となっています。
 黒瀬川帯が区別されるのは、秩父帯とは明らかに異なった性質もっているためです。黒瀬川帯にも、付加体の地層(長崎層群、野村層群相当層、窪川累層)がありますが、秩父帯のものより古い時代(古生代ペルム紀)のものです。また、中生代(ジュラ紀)の地層(宮成層群、土居層群、河内ヶ谷層群、嘉喜尾層群、成穂層)もありますが、大陸棚でできた地層で、形成場は形成機構が異なっています。
 なにより、黒瀬川帯の中には、黒瀬川構造帯と呼ばれる、さらに異質な岩石群があります。黒瀬川構造帯は、より古い大陸の岩石や大陸起源の砕屑岩類からできています。大陸起源の岩石にはいろいろな種類の岩石があり、火成岩(三滝火成岩類)、変成岩(寺野変成岩類)、堆積岩(岡成層群)が見つかっています。三滝火成岩類は4億4000万年前頃(オルドビス紀)の大陸の花崗岩類(少し斑レイ岩類)、寺野変成岩類は4億5000万年前頃(デボン紀)の大陸の片麻岩類、岡成層群は4億2000万年頃(シルル紀~デボン紀)に赤道付近で堆積した石灰岩や陸の酸性火山活動に由来する岩石です。
 このような黒瀬川帯の岩石の実態が、戦後すぐに調べられました。物資もまた不十分な時代に、地質学者が、のべ400日以上かけて、城川周辺(当時は黒瀬川村)で野外調査をしました。地元の人たちの協力もあったと、論文の謝辞には書かれています。
 黒瀬川流域は、日本の地質学で重要な役割を果たしてきました。だから地質館ができ、今では四国西予ジオパークに認定され、四国西予ジオミュージアムもできました。そんな地で2度目のサバティルを過ごしています。

・城川ロッジ・
今回のサバティカルには、家内も同伴しています。
夫婦で近隣を回ることにしています。
現在住んでいるのは、城川町土居ということろです。
先日、土居からほど近い、
窪野(くぼの)の小学校の跡地にある
城川ロッジのレストランでかけました。
土曜日にだけ営業しているところで
昼食をとりにでかけました。
このレストランは、もともとは城川ロッジという宿舎に
併設されたものでした。
宿舎には、なんども宿泊したことがあり
懐かしかったですが、
今では荒れていて、中を見ることもできませんでした。

・日本地質学の古戦場・
地質学で日本の地質史を学ばれた方は、
古い地層や古い岩石として、
黒瀬川帯、あるいは黒瀬川構造帯と呼ばれるものを
聞いたことがあると思います。
日本では「最古」の化石や岩石、地層がでることで
城川は有名な地でした。
日本でも古くから研究されてきたのですが、
詳細が明らかにされてきたのが
城川の黒瀬川流域の地だったのです。
日本の地質学の戦後すぐの古戦場ともいうべき地です。

2023年5月4日木曜日

6_202 ターミネーター・ゾーン 4:少ない可能性と多数

 ターミネータ・ゾーンで、ハビタブルゾーンの存在の可能性は、少ないながらもでてきました。M型恒星の数が多いので、少ない可能性であっても、生命誕生が起こったかもしれません。



 M型恒星の周囲を潮汐ロックされて巡る惑星には、夜明けや日没のところには、ターミネーター・ゾーンができます。潮汐ロックされていますので、安定した領域となります。その環境のシミュレーションは、長期的には水が安定に存在できないことわかってきました。しかし、ロボさんらの研究では、水が存在できる可能性が示されました。
 シミュレーションで重要になる初期条件は、恒星からの距離(放射量)と水と氷の割合、大気圧であることが判明しました。
 水が少ない状態でスタートすれば、水蒸気の発生が抑えられ、放射量が多くても暴走温暖化は起こらないことがわかってきました。そして、ターミネーター・ゾーンで、温度が0~50℃の範囲になり水が存在できることがわかってきました。
 水が多い状態で惑星がスタートすると、海から大量の水蒸気が発生して暴走温室効果が起こることになります。そんな状態であっても、もしかすると水が再度形成される可能性も指摘しています。例えば、いったん夜の側に移動して凍った水も、その量が多ければ氷床が厚くなり流動しはじめ、もしターミネーター・ゾーンまで流れる氷河があれば、そこで融けて水になり川や湖ができることになります。ただし、このシミュレーションはなされていません。
 M型恒星で、地球のように7割が海のような水の多い惑星では、特別な条件を満たさないと、ターミネーター・ゾーンに水が存在できません。水が少ない陸が多い惑星では、ターミネーター・ゾーンに海が位置していれば、ハビタブル・ゾーンが安定して存在できるかもしれません。
 まだまだM型恒星の惑星におけるハビタブル・ゾーンの存在については、不明な点が多いのですが、可能性は残されたことになります。M型恒星は数が多く、寿命も長いため、近くを巡る惑星があれば、安定期的なハビタブル・ゾーンが存在するかもしれません。そこには、生命誕生の可能性もあるはずです。そんな期待を残す報告でした。

・明浜の段々畑・
ゴールデンウィークは出歩くことは控えています。
動くときは、休日や祝日ではなく平日にしています。
先日も昼前から、明浜にでかけました。
快晴の空の暑い日でしたが、
みかんの段々畑と石灰岩のコントラストが綺麗でした。
地域のイベントがあれば参加するようにしています。
大きなイベントがあった先日の土曜日は
あいにくの雨なので出かけるのを諦めました。
残念なので町内で
土曜のみ開かれるレストランにいきました。
昔よく泊まった施設を利用しています。
今はレストランだけが使われています。
地質館も使われなくなりましたが、
鍵を借りて中をみてきました。
それほど傷んではいなかったのですが、
いい施設なのでもったいないでした。

・土佐清水ジオパークへ・
来週から2度目の野外調査にでることにしています。
今度は高知県西部を中心に回る予定です。
高知ではジオパークが2つあります。
室戸は世界ジオパークとして有名ですが、
新しく2021年9月に土佐清水ジオパークが
日本ジオパークとして認定されました。
そこを中心に見て回ろうと考えています。
もともと地質学では、土佐清水の竜串の三崎層群や
白山龍門のラパキビ花崗岩で有名な地域でした。
何度が訪れていますが、
再度、見て回ろうと考えています。

2023年4月27日木曜日

6_201 ターミネーター・ゾーン 3:否定的意見

 ターミネーター・ゾーンのハビタブルゾーンには、否定的意見もあります。M型星も長期的には変化していくので、惑星の環境も変化していきます。やがて、ハビタブルゾーンが消えるというものです。


 多数存在するM型星で、潮汐ロックされた惑星には、ターミネーター・ゾーンがハビタブルゾーンになるのではないかという考えを、前回紹介しました。特殊なM型星ですが、そこにも利点もありました。しかし、否定的な意見もあります。それを紹介していきましょう。
 長寿命のM型星ですが、変化していきます。恒星は水素がヘリウムになるという核融合で輝いています。時間経過とともに、恒星内での核融合の効率が上がっていきます。その結果、明るさが増大していきます。
 周辺の惑星、特に近い軌道を巡る惑星は、大きな影響を受けます。明るくなるにしたがって、ターミネーター・ゾーンの暖かくなり、海からの蒸発も多くなっていきます。大気中の水蒸気が多くなると、温室効果が激しくなり、やがて暴走して(暴走温暖化と呼びます)、灼熱の惑星へとなっていくだろう。こんな可能性が指摘されています。
 ところが、別のシミュレーションでは、逆の結果もえられています。恒星が明るくなると、惑星の海が蒸発していき、水蒸気が大気圏外に逃げ出したり、夜の領域に入ってものは、雪となり凍結してしまったりす可能性がでてきました。ターミネーター・ゾーンに存在していた水が、だんだんとなくなっていきます。やがて、ターミネーター・ゾーンも乾燥し、生命が誕生できず、存続もできないという指摘です。
 いずれのシミュレーションに向かうとしても、これまで考えられていた、ターミネーター・ゾーンという安定した領域は、継続できないのではということになってきました。
 このような相反する推定がでてきたということは、詳細なシミュレーションをしてみる必要があります。そこで、カリフォルニア大学アーバイン校のロボさんらは、潮汐ロックされたさまざまな条件でシミュレーションをしました。その結果を、2023年3月に天文学雑誌(The Astrophysical Journal)に報告しました。そのタイトルは、
 Terminator Habitability: The Case for Limited Water Availability on M-dwarf Planets
(ターミネーターゾーンでのハビタブルゾーンの可能性:M型赤色矮星の惑星において水が限られた条件での存在する可能なケース)
というものです。タイトの日本語訳はかなり意訳になっています。
 つまり、限定された条件になりそうですが、水が存在できるハビタブルゾーンができそうだという報告になります。その詳細は次回としましょう。

・最初の野外調査・
このエッセイは、予約配信となります。
ちょうどこの時期、野外調査にでかけています。
最初なので、近場として、しまなみ海道を利用して、
広島に渡り、主には島々を調査する予定です。
しまなに海道ははじめてなのと、
借りた車で自動車を走るのもはじめてなので
少々緊張するかもしれませんが、
なんとか無事に調査が
終わればと思っています。

・ゴールデンウィーク・
週末からゴールデンウィークになります。
土日のあと中に二日間、平日を挟んでいますが、
そのあと、4連休となります。
2日間、休みをとれば、9連休になります。
各地で混雑が予想されるので、
あまり動き回らないでいようと考えています。
日常の通りに、執務室で
研究に専念したいと考えています。

2023年4月20日木曜日

6_200 ターミネーター・ゾーン 2:M型の赤色矮星

 多数存在する赤色矮星は、あまり系外惑星の探査の対象にはされていませんでした。この恒星の惑星にあるターミネーター・ゾーンは、安定して存在します。そこには、ハビタブルゾーンができていそうです。


 太陽は、G2V型(スペクトル型という分類)というもので、多くの恒星のありふれたものです。そこには、ハビタブルゾーンに惑星(地球)があり、生命がいる天体となっています。しかし、私たちの太陽以外の恒星で、G2V型に限定すると、恒星の数は多くても系外惑星はそれほどは見つかっていません。
 生命誕生の条件はまだ不明ですが、生命が誕生するには、多数の天体で試行錯誤が必要かもしれません。もし多数の天体に生命が存在するのであれば、生命の痕跡(例えば、酸素の多い大気が見つかるなど)が観測できるかもしれません。そこには至っていませんが。もし、少数の天体にしか、生命が誕生していかなければ、見つけることができないかもしれません。
 現在、太陽系近隣の恒星で、通常の恒星(主系列星と呼ばれています)をターゲットにして、探査が進められています。発見されているハビタブルゾーンをもった系外惑星が少ないため、生命誕生の可能性は多くなさそうです。
 生命誕生の条件として、惑星内のどこかに、局所的にでも海が恒常的に存在すればいいと考えていけば、可能性が上がってきます。そのような場として、今までターゲットとしてきたものより、もっとたくさんある恒星であれば、惑星の存在確率も多くなるはずです。問題は、多数存在する恒星の惑星に、ハビタブルゾーンに存在するかどうかです。
 まず、恒星として、主系列星ではないのですが、多数存在する赤色矮星と呼ばれるもの(M型星)があります。太陽よりずっと小さいのですが、数は多くあります。軽くて暗い恒星なのですが、恒星の3/4がこのタイプだと考えられています。
 M型星は暗い恒星なので、惑星でのハビタブルゾーンも恒星に近くなってきます。恒星が暗いため放射も少なく、惑星の表層を擾乱させることもなく、海が安定に存在しやくすくなります。近くを巡る惑星は、潮汐ロックが起こり、自転と公転が一致します。これは地球と月の関係で起こっているもので、月は常に同じ表面を地球の方に向けることになります。そこに「ターミネーター・ゾーン」ができます。
 潮汐ロックされた惑星のターミネーター・ゾーンは、明暗境界線とも呼ばれているのですが、朝と夕方の領域です。潮汐ロックされた惑星では、昼の地表が暑く、夜が寒くても、ターミネーター・ゾーンでは中間的な条件のところができます。ターミネーター・ゾーンは、常に同じ位置に存在し、そこに海ができるハビタブルゾーンとなります。
 M型星の惑星は質量が小さく、暗いので、主系列星よりずっと長寿となります。そのため、長く安定した条件が継続することになり、生命誕生の試行錯誤も長期にわたってできます。恒星の数も多いので、このターミネーター・ゾーンが、生命誕生の可能性として注目されています。
 しかし、M型星のハビタブルゾーンに関しても、問題点はあります。その内容は、次回としましょう。

・近隣の散策を・
サバティカルの生活も
だんだんと落ち着いてきました。
火曜日と金曜日に、半日、
近隣を散策するようにしています。
近隣地域は、以前に一通り巡っていますが、
家内ははじめてです。
観光や買い物などを兼ねて
あちこちを周っています。
再訪すれば、それなりに知らないこと、
新しいことも見つかります。

・温水プール・
これまで通勤で、往復7kmを歩くだけが
運動だったので筋肉が衰えてきました。
野外調査をしていると
体幹や足腰の衰えを度々感じています。
サバティカルを機会にして、
町内にある温水プールに、
夕方、家内と一緒に通うことにしました。
最初は、少ししか泳げなかったのですが
少しずつ泳ぐ距離も伸ばしています。
そのせいか、夜もすぐに眠りにつけます。
この生活サイクルと続けていければと考えています。

2023年4月13日木曜日

6_199 ターミネーター・ゾーン 1:ハビタブルゾーン

 地球外生命が存在する可能性を考えるとき、稀な天体から探すより、多数の候補から探したほうが、見つかる可能性があるはずです。そんな可能性として、ターミネーター・ゾーンと呼ばれるものがあります。


 地球外生命については、このエッセイでも、何度か取り上げてきた話題となります。今のところ、地球以外の天体で、生命の存在は確認されていません。ここでいう生命とは、炭素を主体とした有機物からなる地球型です。また、生物と認定でき、さらに検出できるものでなければなりません。もしかすると、地球型生命でないものや、有機物を用いない生命、炭素型でない生命がいても、観測していたとしても、生命とは認識できていないかもしれません。認識でない生命に関して議論してもしかたがないので、私たちがよく知っている生命を考えていきましょう。
 地球外生命を探すときは、遠くの天体が対象になるので、ハビタブルゾーン(Habitable zone)という条件を考えていきます。ハビタブルゾーンとは、地球型生命が生存できる領域に、天体があるかどうかを調べるためのものです。生命居住可能領域とも呼ばれています。
 その条件とは、惑星の表層に液体の水が安定して存在できるかどうかです。表層温度が0℃以上から100℃以下になっている条件のことです。恒星の明るさ(放射量)と惑星の軌道半径(恒星からの距離)によって、一義的に決まってきます。まずは、そこに惑星が存在するかどうかです。
 ハビタブルゾーンにあったとしても、液体の水(海)が存在するためには、惑星に大気が必要です。ただし、巨大ガス惑星になると、表層は水素やヘリウムの大気になり、液体の水が存在できそうにありません。そのため、固体表面をもった小型の岩石惑星(地球型惑星)で薄い大気をもったものでなければなりません。
 太陽系では、地球だけが、その条件を満たしています。過去には、火星も条件を満たしていて海が存在していたのですが、大気が少なくなり、現在では液体の海は消えています。
 太陽系以外で、多数の惑星の発見されきました。系外惑星と呼ばれています。当初は、大きなガス惑星だけが発見されてきましたが、最近では地球型惑星も発見されてきました。その中には、ハビタブルゾーンになりそうな地球型惑星を見つかってきました。しかし、数は多くありません。これでは、生命がいたとしても、見つけることが困難になります。
 生命存在領域が、もっと多くならないでしょうか。そんな可能性として、ターミネーター・ゾーン(Terminator zone 明暗境界線と訳されています)が考えられるようになってきました。次回としましょう。

・研究のルーティン・
サバティカルに来て10日ほど過ぎました。
住む環境が変わったので、
一日の過ごし方としてのルーティンがまだできません。
しかし、心身ともに健全な生活ができつつあります。
また仕事のための環境も、
施設や執務室は整えてもらったのですが
インターネットやパソコンやその周辺設備も
整えるに時間がかかりました。
ハードディスクの電源を間違って持ってきたり、
SDカードリーダが足りなかったり、
パソコンが変わったので、
アプリケーションを入れ直したりと
いろいろセットアップに時間がかかりました。
しかし、少しずつルーティンも整ってきました。

・生活のルーティン・
北海道にいるときよりは通勤距離が短く
30分ほどで付きます。
遅めに出ても、6時過ぎには研究をはじめています。
基本的に土・日曜日も、毎日執務室で仕事をしています。
近隣への観光やイベント、大きな街に買い物など
家内と週に2、3度、出かけるようにしています。
それは平日の昼前後からになります。
曜日ごとに、ルーティンを組んでいきたいのですが、
まだできていません。
家内も新しい環境での生活なので、
いろいろと戸惑っていますが
少しずつ慣れていくしかありません。
半年間、英気を養いながら
研究を深めていこうと考えています。

2023年4月6日木曜日

1_206 天体衝突の頻度は 5:スフェルール

 クレータがなくても、隕石の衝突を調べる別の方法もあります。それは、衝突で飛び散った隕石物質を検出して、調べていく方法です。そこから、新たな衝突の様子が見えてきました。


 太陽系の惑星形成の時期には、宇宙空間には小惑星や小天体が多数あり、それらが衝突合体していきます。やがて、公転軌道には、大きな天体が成長して、唯一の惑星となっていきます。地球も同じように形成されたました。
 惑星形成後も、初期のころは、まだ小天体の衝突も激しかったと考えられます。地球初期に起こった小天体の衝突の様子を直接しらべることはできません。なぜなら、証拠となる隕石やクレータなどは消えてしまっているからです。衝突の頻度を見積もる方法は、これまでの紹介してきたもの以外にも考えられています。
 隕石が衝突すると、隕石物質が砕けたり融けたりして、周辺に広く飛び散ります。大きな隕石ほど、広域に、時には地球全体に飛び散ります。飛び散って地球にばらまかれた物質のうち、隕石の融けた物質は、大気中を飛んている時、小さな球状のガラスとして固まり、スフェルールと呼ばれる物質になります。
 スフェルールが堆積物としてたまれば、地層に取り込まれます。時代のわかっている地層ごとに、スフェルールの量を調べると、隕石物質の量がわかります。時代ごとに衝突量がわかれば、衝突頻度が推定できます。
 地球の隕石の衝突頻度が、このような考え方で求められていました。モデルにはいろいろなものがあります。米国サウスウエスト研究所のMarchiさんが、2021年の第31回ゴールドシュミット国際会議で、モデルを再検討した結果を報告しました。
 小天体の衝突の頻度(衝突フラックス)に関して、新たなモデルを作成しました。そのモデルに基づいて、地層中のスフェルールの統計データを見直していきました。すると、これまで考えられていた衝突頻度とは異なることがわかってきました。
 新しいモデルでは、これまでの衝突頻度の見積もりと比べて、約35億~25億年前に、最大で10倍にもなることがわかってきました。非常の激しい衝突が予想されました。その頻度は、直径10km程度の隕石にすると、1500万年に一度は衝突していたことになりました。
 もし地球初期の太古代に、そのような激しい隕石の衝突があったとすると、大気や海洋に大きな影響を与えたはずです。また、生命誕生や進化にも影響を与えたことになります。その検討に関しては、今度の課題となるでしょう。

・予約配信・
滞在中のインターネットは、
自宅も執務室も、
期間限定のSIMとルータで接続する予定です。
インターネットとパソコンの接続が
どうなるかは不明なので
トラブルが発生する可能性もあります。
大学では、一応、接続は確認していますが、
別の地域、環境では、どうなるかは不明です。
いつものように、このメールマガジンも
予約配信しました。

・荷物を搬出・
サバティカルのために
先日、荷物を搬出しました。
引っ越しも、混んでいるため、
2月初頭に引っ越しの予約をしたのですが
この日程を取るもの大変でした。
なんとか27日に引っ越しをすることができました。
出かける前は、バタバタしましたが、
無事、送り出すことができました。

2023年3月30日木曜日

1_205 天体衝突の頻度は 4:8億年前の爆撃

 8億年前ころに、月では、大きなクレータができるような、衝突が多数あったことがわかりました。その衝突は、地球にも大きな異変を起こしたのかもしれません。


 クレータは、小天体あるいは隕石の衝突によってできます。小天体が衝突してできるクレータは、大きなものは少なく、小さなものが多くなるという冪乗則が適用されました。ところが、前回紹介したように、大きなクレータの形成年代を調べると、8億年前ころに、8個(もしくは17個)もできていることが明らかになりました。このような衝突は、偶然には起こる確率は極めて低いはずです。
 では、大きなクレータが、同時に多数できるということは、大きな隕石、つまり小天体が、多数、月に衝突したことになります。月は地球の周りを回っており、地球の方が引力も強いので、地球にも多数の小天体が衝突したと推定されます。
 8億年前に、地球にも激しい小天体の爆撃をもたらした、もとの天体はどのようなものだったでしょうか。寺田さんたちは、アポロが持ち帰った試料で月で衝突で融けて飛び散ったガラス(インパクトガラスといいます)の放射性年代を文献から収集しています。それらと、年代の一致したクレータのサイズ、そして月と地球の直径から、もとの小天体を推定しています。
 100km以上のサイズで、4~5・10^16kgの質量の小惑星だと見積もられました。小天体は、小惑星帯(火星と木星の間の公転軌道)にあったはずですが、衝突に砕かれました。その結果、公転軌道が変わり、地球の軌道を横切るように変更されたと考えられます。
 もし元のサイズの小天体が、地球と衝突すれば、中生代と新生代の境界で恐竜大絶滅を起こした隕石の30~60倍の物質が落ちてきたと考えられてます。100kmサイズの小天体の衝突は、10億年に一度の頻度と見積もられています。
 大きな天体の衝突が、地球でも複数回繰り返されたとすれば、大きな異変がおこっていたはずです。全地球凍結と呼ばれる氷河期の7億000万から7億年前に起こっています。8億年前はその少し前です。全地球凍結との関係はまだ不明ですが、この大きな衝突の繰り返した、全球凍結という異変を起こしたのかもしれません。そのクレータ自体は、全地球凍結の前に形成されているはずですが、氷河により消されているのでしょう。
 でも、地球は幸運だったのかもしれません。この小天体がバラバラになっていたため、破片が月にも落ちて、中には衝突しなかったものもあるはずです。ですから、ひとつの小惑星の衝突よりは、地球への被害は少なくなっているはずです。

・サバティカル・
4月1日から四国の愛媛県にサバティカルで滞在します。
滞在期間中、いろいろな目標と研究計画を立てています。
当然、滞在先の人たちには、
研究のために、生活していくために
いろいろとお世話になります。
何度も訪問してきたこともあり、
これまでの人間関係に感謝しています。
半年間ですが、なにか貢献できることがあればと考えています。
私の場合は、研究での貢献となります。

・年度末・
大学は学位記授与式も終わり
年度末の進級と新入生のための準備、
在校生へのガイダンスなどがありますが、
今年ばかりは免除されています。
サバティカルなので
新年度の準備はなく、
講義、校務から開放されます。
出発のドタバタありますが、
大学の年度の切り替えのドタバタはありません。
いつもとは異なった年度末を過ごしています。

2023年3月23日木曜日

1_204 天体衝突の頻度は 3:クライオジニアン紀

 日本の月探査衛星「かぐや」は、詳細な画像を多数撮影しました。画像を利用して、大きなクレータの形成年代に関する研究が報告されました。そこでは、小さなクレータを用いてクレータ年代学を用いています。

 2020年のNature Communications誌に、大阪大学の寺田健太郎さんたちが、
Asteroid shower on the Earth-Moon system immediately before the Cryogenian period revealed by KAGUYA
(かぐやによって明らかにされたクライオジニアン紀直前の地球ー月系の小天体シャワー)
というタイトルで報告されました。この研究には、クレータ年代学が巧妙に利用されています。
 まずは、論文のタイトルに使われているクライオジニアン紀という聞き慣れない時代について説明しておきましょう。
 クライオジニアン紀とは、原生代の後期(7億2000万年前から6億3500万年前)の時代名になります。論文では、「クライオジニアン紀直前」となっているので、8億年前ころになります。カンブリア紀(5億4100万年前がはじまり)より前の時代です。
 小惑星のシャワーとは、シャワーのように降り注いだとことになります。これは、大量の隕石が衝突したことを意味します。また、地球-月系となっているのは、月は地球の衛星と一連の関係にあるという意味です。月で8億年前ころに大量の隕石の衝突が見つかったのですが、月での衝突の現象は、月の母星となる地球でも起こっていたはずということになります。
 寺田さんたちは、かぐやの画像から、直径20km以上の59個のクレータを調べました。このクレータの形成年代を正確に決めるために、少々複雑な方法が取られています。
 年代を調べたいのは、20km以上の大きなクレータです。本来なら表面の形成時代を調べるクレータ年代学を、クレータができた時代を決めるために利用しています。
 大きなクレータができる時は、激しい衝突によって、周辺の地域に物質が飛び散っていきます。クレータ周辺は、放出物が覆ってしまい、きれいな平坦な地面が形成されます。その面は形成されたばかりでクレータはなく、そこに隕石が衝突すると、新たに小さなクレータが形成されていきます。
 大きなクレータの周辺にできている、直径1kmから100mの小さなクレータの数を調べ、そこにクレータ年代学を適用して年代を調べいきます。このような方法で、大きなクレータができた時代を推定していきました。なかなか素晴らしいアイディアです。
 直径93kmの大きなコペルニクスクレータの周辺では、860個の小さなクレータで年代を調べてチェックされています。それだけの数があれば、統計的にも十分な検討ができます。
 さて、59個のクレータで、この方法で形成年代を調べて比べました。すると8個のクレータで、形成年代が一致することがわかりました。モデルを変えると、17個も一致することがわかってきました。8個もの年代が一致することは確率的にはありません。
 このクレータの形成時代の一致は、なにを意味するのでしょうか。次回としましょう。

・今年の年度末・
年度末の大学はバタバタします。
学位記授与式は終わったのですが、
入学手続きや、入学生への準備など
多くの仕事あり、忙しくなります。
4月からのサバティカルで、
3月末には四国への引っ越しがあります。
今度は夫婦ふたりですが、
引っ越しも、その分大掛かりになります。
でも、移動のバタバタが終われば、
四国での新生活への期待が溢れます。
半年ですが研究と調査だけでなく、
田舎の生活を満喫したいと考えています。

・城川町・
サバティカルは、愛媛県の西予市です。
市町村合併以前は、城川町という町があり、
後輩がそこの役場にいて
地質館の開設の手伝いから付き合いがはじまりました。
そこから、現在まで交流が続いています。
2010年に1年間サバティカルで滞在し、
西予市は2013年9月に日本ジオパークに
「四国西予ジオパーク」として認定されました、
2020年春には四国西予ジオミュージックが開館しました。
サバティカルの期間に、
博物館活動にも協力できばと思っています。

2023年3月16日木曜日

1_203 天体衝突の頻度は 2:クレータ年代学

 天体衝突によって、クレータが形成されます。地表の形成年代とクレータの数を調べることで、その地域のクレータ密度がわかります。そこから時代ごとの衝突頻度を見積もることができます。


 隕石の落下でできたクレータは、火山噴火でできるクレータとは異なっているので、見分けることができます。ただし、クレータを探すことができるのは、多くは大陸地域のもの主となります。
 大陸地域は、常に侵食や風化で古い地形は消えていき、火山活動や造山運動で上書きされていきます。古いクレータほど、消えていく可能性が高くなっているので、その効果を考慮にいれなければなりません。さらに、大陸では、長期に渡り寒くなると氷河に覆われ、古い地形は消されてしまいます。全地球凍結と呼ばれる、地表全体が氷に覆われる時代が、6億5000万~6億4000万年前と、7億3000万~7億年前に、少なくとも2度起こったことがわかっています。これ以前のクレータの多くは、消された可能性があります。
 海に落下した隕石が海洋底にクレータを形成しても、海洋地殻はプレートともに移動して、やがて海溝に沈み込みます。古いものでは2億年前のものしかありません。海洋地殻には古いクレータはなくなっています。
 このような理由から、全地球的を対象にして、クレータの数と地表の時代から、衝突の頻度を探るのは、どうしても不正確になってしまいます。ではどうすれば、正確な値が求められるでしょうか。
 大気のない天体では、表層での侵食は起こりませんし、プレートテクトニクスが働いていないところであれば、古いクレータも残っているはずです。問題は、その地域の形成年代をどうして探るかです。
 幸い月は、探査が進んでおり、試料も回収され、年代測定された岩石も多数あります。そこから、地域ごとの形成年代が比較的よくわかっています。月のクレータは、日本では月の観測衛星「かぐや」の撮った詳細が画像があります。その画像から、精密に調べることが可能になります。月の表層の形成時期と、クレータの数から、時代ごとの衝突頻度、またサイズごとの衝突頻度も調べることができます。
 その関係(相関係数や比例定数)が決まれば、関係を逆に利用することもできます。ある地域で、クレータのサイズごとの頻度を決めることができれば、その地域の形成年代を推定することができます。このような方法はクレータ年代学と呼ばれています。詳細な画像がえられている天体では、それぞれの地域にクレータ年代学が適用されています。そこから、天体の形成史が考えられています。
 かぐやの画像を用いた研究が報告されていますが、次回としましょう。

・祝賀会・
大学は、今週末に学位記授与式があります。
一度に開催すると、人数が多くなるので、
学部学科を3つに分けで実施されます。
その後学科で、学位記をそれぞれに手渡ししていきます。
昨年まではそれで終了でしたが、
今年は、ホテルを会場を借りて
祝賀会が実施されることになりました。
やっとここまで日常が戻ってきたかと思います。
ただし、祝賀会では飲食ができないままです。
一堂に会することもなく3つに分散したまま実施されます。
以前のような状態にもどるには
あと少し時間が必要かもしれません。

・マスク着用・
マスク着用のルールは緩和されましたが、
今後、どうなるのでしょうか。
最初にマスクはずすのは勇気がいります。
人混みでは着用し、人の少ないところや
屋外では外しているということから
はじめていくことになりそうです。
しかし、その頃には四国へと旅立っているのでしょうが。

2023年3月9日木曜日

1_202 天体衝突の頻度は 1:2つの方法での報告

 天体衝突は、太陽系初期に終わっています。しかし、小さいの物体は隕石として、時々落ちてきます。その頻度はどうなっているのでしょうか。今回、新しい報告が2つあったので、シリーズで紹介していきます。


 太陽系初期、小さな物体が衝突合体することで、天体が成長して惑星になっていきました。天体衝突の事件は太陽系初期が激しかったのですが、その後は穏やかになりました。現在、地球軌道上には、大きな天体は月以外はなく、小天体もありません。ですから、衝突合体のような激しい事件は、初期に終わってしまったはずです。
 現在でも地球には隕石(天体ではなく、小さな物体というべきでしょう)が時々落ちてきます。その頻度は、小さなものほど多く、大きなものほど少なくなります。これば他の天体の表面の観測によって、冪乗則になることが知られています。
 小さい隕石は、毎年かなりの数の落下が観測されています。そのため、小さい隕石については、現在の隕石のサイズの落下頻度はわかります。しかし、大きくなるほど稀になるので、頻度を正確に求めることができません。地球で大きな隕石の落下頻度は、どうすれば調べることできるでしょうか。最近、報告があったので、それもとに紹介していきましょう。
 小さい隕石とか大きな隕石といういい方をしていましたが、ここでは、大きな隕石を地表にクレータができるほどのものとします。大きな隕石の落下でできたクレータのサイズと、その時代を調べることで、過去の落下頻度を推定することができます。ひとつ目の報告は、そのようなクレータを用いた方法です。
 別の方法もあります。クレータがなくても、隕石が衝突すると、隕石の痕跡となる物質が広く飛び散ります。大きな隕石ほど、広域にわたって、多くの物質が飛び散ります。その飛び散った物質は、地球にばらまかれます。そして、海底にまで飛んだものは、堆積物の中に取り込まれます。
 地表では古い時代のクレータは、地表の営み(風化侵食、火山活動、造山運動など)で、消されていきます。クレータが消えてしまった時代でも、隕石の痕跡の成分を調べることで、落下の頻度を調べることができるはずです。その報告がされました。
 まずは、クレータのサイズと時代から探る方法を、次回から紹介しましょう。

・うんざり・
先週は、帰省していろいろな儀式をすませ
役所での手続きもしてきました。
儀式は、あまりに因習的です。
役所でも様式や手続きも煩雑でした。
役所にも2度いって、チェックしてもらい、
電話での問い合わせも何度もしました。
うんざりしました。
これで終わったはずです。
もうしばらくはしたくないことです。

・事前指導・
今週は、来年度、教育実習にいく
現3年生への事前指導の時期になっています。
毎日、講義に集中する期間になります。
この間、他のことが手がまわりません。
このエッセイも、いつものように
事前に書いておき、予約送信してあります。

2023年3月2日木曜日

4_173 火星のマントルプルーム 5:活動史の編成

 エリシウム平原は、マントルプルームの直上という特別なところだったのかもしれません。そのため、地震も活発に起こっているのかもしれません。今後の探究の可能性も示してくれます。


 このシリーズも最後になりました。マントルプルームとエリシウム平原との関係をみていきましょう。
 エリシウム平原は、もっとも静かな地域だと考えられていたため、探査がされていました。ところが、前にも述べたように、活動的な地域であったことがわかってきました。
 エリシウム平原では、火山活動が長く続いていて、5万3000年前にも小規模な火山噴火も起こっていたことが報告されていました。最近まで火山活動があった地域となります。地震計で火星の地震も観測していました。エリシウム平原の中にあるケルベロス地溝帯の割れ目に、地震が集中して起こっていました。地溝帯は、現在も運動している可能性があります。
 エリシウム平原は、現在でも火山や地震が起こっている非常に活動的なところであることがわかってきました。しかし、前回述べたように、火星にはプレートテクトニクスを示す地形はありません。この活動の原動力は何でしょうか。
 論文では、エリシウム平原の地形や重力の分布などを分析していくことで、下にマントルプルームがある可能性が示されました。マントルプルームが上昇しているため、エリシウム平原の標高が高くなり、ケルベロス地溝帯ができたのではないかと考えられました。
 では、どれくらいの大きさのプルームが上昇しているのでしょうか。ブロクエさんたちの地球物理学的モデルの解析によると、幅4000kmの大きさのプルームと推定しています。幅4000kmとは、火星の半径3400kmより大きなものとなります。火星のサイズから考えると、このプルームは異常な大きさに見えます。
 エリシウム平原の火山活動もプルームに由来している可能性があります。プルームの上昇させていきた熱が、火星内部に現在でも残っていたことになります。現在も上昇してくるプルームがあるということは、過去にもプルームの上昇が起こっていたはずです。いろいろな時代に、何度も上昇してきたプルームによって、火成活動が継続されてきたかもしれません。
 地球のように活火山があれば、発見できるはずです。火星では、まだ活火山は見つかっていません。活火山があるという視点で探査すれば、見つかってくるかもしれません。また、いろいろな時代の火成活動が見つかってくれば、プルームの上昇履歴を知ることができるかもしれません。火星でのプルームテクトニクスを再現できるかもしれませんね。

・帰省中・
現在帰省中なのでこのエッセイは、
予約して配信しています。
京都に帰省しているので、
息子たちとも会えるのは楽しみです。
今回は、儀式といろいろな手続きをしてきます。
多分、ぐったりしていると思います。
親族のことですが粛々と進めましょう。

・バタバタと・
大学では、来週から、
共同で担当する集中講義がはじまります。
その後には、学位記授与式が続きます。
今年から祝賀会も復活しそうです。
4月からの四国でのサバティカルがあるので
引っ越しの準備もあります。
3月は何かとバタバタします。

2023年2月23日木曜日

4_172 火星のマントルプルーム 4:プレートがない

 地球にはマントル対流があり、地表付近ではプレートテクトニクスが働いています。火星にもマントル対流はあるのですが、地球とは異なっているようです。火星にはプレートがなく、プルームが直接見えているようです。


 論文タイトルにもあるマントルプルームについて説明していきましょう。
 マントルプルームとは、地球にも起こっているマントル対流の仕組みです。マントルは固体の岩石からできています。ですから、マントルの対流とはいっても、液体が運動しているわけでありません。岩石も、高温状態になっていくと、柔らかさがでてきます。粘性が小さくなり、固体状態のですが、長い年月はかかりますが、割れることなく流動する性質をもつようになります。マントルは、このような流動性をもっています。
 惑星内部には、形成時の熱エネルギーが中心部の核に残ってるます。核に接したマントルの部分は、温められていきます。温かい部分は、密度が小さくなり、周辺の物質との密度のバランスがくずれ、流動性をもったマントルの中を上昇していきます。これがマントル対流になり、対流の上昇している部分を、プルームと呼びます。地球には、大きなプルームが2箇所にあります。
 地球ではマントルプルームは、マントルの物性により上部マントルと下部マントルの境界(深度670kmあたり)で止まってしまいます。しかし、そのプルーム上部からは、小さな流動が上昇していることがわかっています。
 地球では表層が冷たいため、硬いプレート(リソスフェアと呼ばれています)とよばれる岩盤層になっています。上部マントルの最上部は、柔らかく流動性をもっています(アセノスフェア)が、リソスフェアの下側でとまってします。その結果、アセノスフェアの上を、硬い板状プレート(リソスフェア)として運動していきます。これが地球でプレートテクトニクスが起こっているメカニズムです。
 プレートは、年間10数cmから数cm程度の速度で動きます。これが、マントル対流の地表での運動となります。プレートテクトニクスが起こると、特徴的な地形ができます。例えば、海洋プレートのあるところでは、海洋底の地形として、海底山脈(中央海嶺)からはじまり、平坦な海洋底ができ、海溝で、マントルに戻ります。大陸プレートのところでは、衝突しているところに山脈ができます。地球の大きな地形は、このようなプレートテクトニクスで説明できます。
 惑星表面の地形から、プルームテクトニクスが働いているかどうかは、見分けることができます。火星では、プレートテクトニクスによる地形は見当たりません。そのため、別の運動が起こっていると考えられます。それはマントル対流の上昇部のプルームが直接表層に出ているのではないかという可能性でした。詳細は次回としましょう。

・雪解け・
北海道は降雪はいまだに続いていて
夜には氷点下になっています。
でも、だんだんと温かい日がめぐってきます。
昼間はプラスの温度となり、
雪解けが進んでいきます。
春の来るのは楽しみですが、
雪解けの泥水状態が大変になるのですが。

・帰省・
来週から、帰省します。
1月に親族に不幸があったので、
その儀式のために、再度帰省します。
儀式とともに、役所への届け出もしてきます。
そのためにこちらの役所で
事前チェックを2度も受けました。
書類も、様式としての決まりごとが
いろいろなあるので大変です。
まあ、言われた通り進めていくしかありません。

2023年2月16日木曜日

4_171 火星のマントルプルーム 3:エリシウム平原

 火星のエリシウム平原はオリンパス山の近くにあります。何度も探査がおこなわれている地域です。エリシウム平原で活発な活動を示す新しい証拠が見つかりました。それはどのような意味があるのでしょうか。


 前回、火星の火山に関する疑問として、巨大な火山と最近までの活動を示しました。それに関係するような、火星内部の新しい成果を紹介していきます。2022年末、ブロクエ(A. Broquet)とアンドリュー・ハンナ(J. C. Andrews-Hanna)さんの共著で、
Geophysical evidence for an active mantle plume underneath Elysium Planitia on Mars
(火星のエリシウム平原の下にある活発なマントルプルームの地球物理学的証拠)
というタイトルの論文が、科学雑誌Nature Astronomyに掲載されました。
 前回は、オリンパス山を取り上げたのですが、論文の対象としている地域は、火星の北半球のエリシウム平原です。オリンポス山の西側に位置しています。火星の北半球には、低地が広がっているのですが、エリシウム平原では、地表が隆起しているところになります。北半球の中でも標高が高い地域にあたります。
 2012年に火星探査機キュリオシティが着陸し、2018年11月には探査機インサイトが着陸しています。エリシウム平原は、よく探査されているところになります。
 エリシウム平原では、長く火山活動が続いていたと考えられています。アンドリュー・ハンナさんは、別の研究グループで、5万3000年前に小規模ですが火山噴火が起こったと報告しています。非常に最近まで火山活動があった地域となります。
 また、インサイトに搭載されていた地震計が、火星での地震を観測しています。地震のほぼすべてが、ケルベロス地溝帯で発生していることがわかりました。ケルベロス地溝帯は、エリシウム平原の中にある1300kmに渡る割れ目の集まっているものです。このような割れ目が、現在活動しているのかもしれません。これが最近まで活動していることと繋がります。
 もしかすると、深部にはマグマの活動、あるいはマントルなどの運動が継続しているのかもしれません。火星は活動を終えた冷めた天体と考えられていたのですが、内部にはまだ熱が残っているのかもしれません。火山活動が起こっていることを明らかにすることは、火星の現状を明らかにする上で重要な意義があります。
 大きな地球と比べても、火星の火山は、非常に巨大なものになっています。この謎をどう解明するのかは、次回としましょう。

・三寒四温・
北海道は寒さも和らぐ日が訪れるようになりました。
いわゆる三寒四温というものです。
春が近づくと、3日ほど寒い日があり
4日ほど温かい日になるという
1週間周期の繰り返しが起こることです。
これは、高気圧と低気圧が交互に
日本列島の南岸を通り過ぎることで起こります。
最近は南岸低気圧と呼ばれ
関東平野に雪を降らす天気もこの影響です。

・事前準備・
大学は、一般入試が終わり、
後期の採点評価が終わったばかりです。
次は、卒業と新学期に向けての
準備に入りつつあります。
在学生の現2年生と3年生では
教職をとっている人は
教育実習への事前準備がはじまります。
集中講義になるので
学生も教員も大変な労力をかけていきます。
しかし、これを乗り越えないと
教員への道は拓けません。
努力していくしかないですね。

2023年1月26日木曜日

6_198 ボイジャーは生きている 3:得がたい情報

 遠くにいるボイジャーは、現在も観測装置は稼働中で、データを送り続けています。昨年、ボイジャー1号から、変なデータが送信されてきました。改修するエンジニアたちがいました。


 ボイジャーは45年も前の探査機なので、装置はすべてその当時のものです。電源も観測装置も老朽化しているのですが、観測は継続されています。コンピュータはすでに作動しなくなっているのですが、データは送られてきていました。ところが、2022年5月に変なデータが送信されてきました。
 この不具合にNASAのエンジニアが対処をしていました。不具合は、姿勢制御システムが不正確な情報を送っていることがわかってきました。
 45年も前の古い探査機なので、対処は困難を極めました。運用のためのドキュメント類は受け継がれていました。しかし、長い年月とともに、エンジニアも入れ替わり、重要なドキュメント類も失われ、保存場所もわからなくなっていたそうです。
 当時は、ドキュメント類をライブラリにして保存することもされてませんでした。もちろん現在では、きっちりと保存する体制は捉えてられています。エンジニアの自宅のガレージに保存さているものもあったそうです。当時の担当者の名前からたどり着かなければならず、見つけるのが大変だったとのことです。しかし、なんとかドキュメントは発見されました。なんとか関係するドキュメントを掘り出して、対処法を見つけ出しました。その結果、8月30日には解決したと発表されました。
 故障していたコンピュータを経由してデータを送ってきたことが、異常なデータ送信の原因だと判明しました。しかし、その異常が発生した理由は解明されていません。探査機の老朽化と宇宙空間の状況によって引き起こされたのではないかとエンジニアたちは考えていますが、確かなところは不明です。
 1970年代の古い装置ですが、探査データは、デジタルで処理され送信さてきています。観測装置の補修もデジタル信号を送ることで対処されることになります。しかし、まずは担当者を探すること、関連するドキュメントを見つけること、分厚いドキュメントから対処法を探すという、限りなくアナログ的な対処でした。
 これまで人類は、太陽系内からしか調べることができませんでした。今でもほとんどの探査はそうです。しかし、ボイジャーは、太陽系の中から外への移り変わりを、継続的な情報として送信してくれました。今でも太陽系外からの情報を送り続けています。これは長い年月をかけて、長い旅をしなければえられない情報です。
 今後も探査活動を続けることを願っています。

・真冬日・
北海道はここしばらく、真冬日が続いています。
晴れば、室内は暖かくはなるのですが、
陰ったり、朝夕になると、急激に冷え込んできます。
自宅のストーブも通常の燃焼では寒いので
朝夕は、火力を高くしています。
真冬日は、体がこわばるのか
肩もこりそうになります。

・記憶、記録すること・
故障した実物を見ることができれば、
対処や修理ができるかもしれません。
遠くで見えないところにある探査機です。
しかも、情報のやり取りも
45年前の方法でしなければなりません。
対処もドキュメントがあったからできました。
ドキュメントの存在を記憶していた
人の存在も重要でした。
記憶、記録に残すことは大切ですね。

2023年1月19日木曜日

6_197 ボイジャーは生きている 2:太陽系外

 ボイジャーは慣性飛行を続けています。観測装置も、現在も運用中です。ボイジャーは、太陽系の外にいるのですが、太陽系とはどこまででしょうか。ボイジャーの位置を知ることで、太陽系の構造を知ることもできます。


 ボイジャー1号も2号も、現在、太陽から遠く離れて飛行しています。2022年8月現在、2号は地球から195.2億kmのところに、1号の方が遠くに達していて238億kmのところにいます。1号の位置は、人類が送り出した探査機(人工物)でもっとも遠くにいることになります。
 1号も2号も、太陽系を脱出しています。太陽系を脱出しているといったのですが、そもそも太陽系の範囲とは、どこまでをいうのでしょうか。
 私たちがよく知っている、もっとも遠くの天体は冥王星でしょう。冥王星は準惑星に区分されています。その外にはも天体が見つかっています。その領域は、冥王星も含めて、「カイパーベルト」と呼ばれる領域になり、天体が多数あると考えられています。この領域を飛行しています。
 太陽から放出されるプラズマやイオンなどの粒子を「太陽風」と呼びます。太陽風が届く範囲を「ヘリオスフェア」といいますが、それが太陽系の範囲となります。銀河から飛んでくる粒子を「銀河風」といいます。太陽風と銀河風がぶつかるところが遷移帯となって境界になります。
 ボイジャー1号は、2004年12月に、太陽から140億kmのところでヘリオスフェアを抜け出しました。ボイジャー2号は、2018年11月5日に、約178億kmで飛び出しました。ボイジャーはいずれも、カイパーベルトの遷移帯を飛行しています。
 カイパーベルトの外にも天体があると考えられています。その領域は、「オールトの雲」と呼ばれ、小天体が多数ある領域だと考えられています。オールトの雲の小天体は、水、一酸化炭素、二酸化炭素、メタンなどの氷からなる彗星のようなものです。太陽系に彗星となって飛んでくる「彗星の巣」となっているのではないかとも考えらえています。
 ボイジャーからは、磁場センサーやエネルギー粒子観測装置、プラズマ観測装置などで、現在も観測を続けています。そのデータが送られてきています。そんなボイジャー2号から2022年5月、不可解なデータを送っていました。その内容は次回としましょう。

・緊急帰省・
先週の9日月曜日に親族に関する連絡があり、
急遽、帰省することになりました。
京都に1週間滞在しました。
今週の月曜日から大学に復帰しました。
校務がいろいろたまっていたので、
ドタバタしています。
今週で講義が終わるので、
その対処も必要になっています。

・寒波来襲・
先週は関西は3月や4月の暖かさでした。
北海道も暖かく、雪が一気に融けていました。
その直後に寒波がきて、融けたあとが、
ツルツルのアイスバーンになっていました。
さらに大雪でアイスバーンの上に
ふかふかの雪が積もり滑りやすくなっています。
北海道は今週は寒波になっています。

2023年1月12日木曜日

 6_196 ボイジャーは生きている 1:遠く離れても

 45年以上に渡って稼働している探査機があります。その探査機は1977年に打ち上げられた、ボイジャー1号と2号です。現在も、太陽系から遠く離れたところから信号を送ってきています。


 ボイジャーという探査機を知っているでしょうか。科学や宇宙に惹かれるきっかけのひとつにもなった人もいることでしょう。昔の科学少年には、馴染み深い探査機でしょう。かなり昔に打ち上げられた探査機なので、若い人は知らないかと思います。
 ボイジャーには1号と2号があります。1号は1977年9月5日に、2号は同年8月20日に打ち上げられました。いずれも外惑星の探査をしました。続けて打ち上げられたのは、木星、土星、天王星、海王星が絶妙の位置関係になっていたためです。スイングバイという省エネの飛行方法を用いることで、外惑星まで到達できる条件を満たしていました。うまくコースをとることで、スイングバイですべての惑星の探査ができる位置になっていました。このような条件は、今後、175年後までこないという、絶好のチャンスでした。
 1号では、木星と土星を、2号では木星、土星、天王星、海王星を観測しました。いずれも成功して、惑星やその衛星から、次々と新発見をしていきました。なにより、人類にはじめて鮮明な外惑星の姿を見せてくれました。それが科学に興味をもった子どもたちには、大きな夢を与えました。
 ボイジャーは、いいことだけでなく、いろいろな考えさせられることがありました。
 そのひとつは、エネルルギー源として原子力電池を用いていたことでした。当時は、外惑星の探査では、太陽から遠くなり、ソーラ発電機の効率もよくなかったので、ソーラ発電は利用できませんでした。そのため、原子力電池が使用されていました。
 原子力電池とは、半減期の長い放射性核種(プルトニウム238やポロニウム210、ストロンチウム90など)が崩壊するときの熱エネルギーを、熱電変換素子で発電するものです。もし探査機が事故で地球に落下すると、放射性物質での汚染が起こる危険性があります。実際にそのような事故が起こり、大気中にプルトニウムが放出、拡散し、検出されたこともありました。現在では、ソーラ発電の効率が良くなったので、地球近傍では原子力発電の探査機は使われなくなりました。
 もうひとつは、異星人に向けて人類からのメッセージを記録したレコードが付けられたことです。このレコードは、金メッキされていたためゴールドレコードと呼ばれています。レコードには、115枚の地球の画像と、自然の音として「地球の音」と、90分間の音楽、55の言語でのあいさつが記録されていました。レコード面には、再生方法とともに、地球の位置が特徴的な14個のパルサーから示されていました。人類の情報が、もし悪意をもった異星人に知られたら、将来に不安や不利益を生じないかという問題です。
 いろいろな課題がありますが、現在もボイジャー1号も2号も飛行を続けています。それぞれからの信号は地球に届いています。遠くにいるボイジャーの最近の話題を、次回から紹介していきます。

・航海者・
ボイジャー voyager とは、航海者という意味です。
ボイジャーは名前の通り宇宙空間を航海しています。
1号と2号は、今ではかなり遠くにいますが、
お互いは、離れた位置にいます。
それは外惑星の探査のために
たどったコースが少し違うためです。
少しの違いが、時間が経過することで
大きな違いとなっています。
地球から遠く離れたところを
今も生きて(通信可能)航海しています。

・大学入学共通テスト・
今週末は大学入学共通テストが
2日間にわたって実施されます。
毎年、大学の全教職員が試験業務を
分担して担当することになります。
ミスがあると、受験生に大きな不利益となるので
毎年講習を受けて臨むことになります。
北海道は、雪で公共の交通機関で遅延があると
それに応じて試験時間を変更することになります。
そのような事態が起こらないことを願っています。

2023年1月5日木曜日

6_195 熊楠の不思議

 今回のエッセイは、今年考えるべきことの整理ともなります。今後の思索のための方向性を示そうと考えました。少々、複雑な内容になりますが、お付き合いいただければと思います。


 今年の4月から半年間、校務から離れてサバティカル(研究休暇)で、愛媛県西予市城川町に滞在します。その時の研究テーマは2年前の申請時に決めています。地質学を中心にして、哲学的思索、科学教育も含むものになっています。なによりライフワークの締めくくりをするために、頭の整理をしたいと考えています。そのために、静かでじっくりと思索に取り組める環境が重要になると考えています。その場として、今回滞在する城川がベストだと考えています。
 どのようなことを考えるかというと、可知と不可知の境界についてです。自然科学は、研究者の好奇心に駆動されて、未知の世界を探ることです。では、科学はどこまで未知の世界を解明できるのでしょうか。そもそも未知の世界とはどのようなものでしょうか。科学はそれを示すことはできるのでしょうか。
 未知のすべてを解明するのは困難でしょう。なぜなら、解明されたことがひとつあったとしても、それに関連して次々とわからないことが出てきます。可知の外には、広い不可知の世界が広がっていると考えられます。可知の不可知の境界を、どのように捉えるかということを、考えていきたいと思います。
 そのような探究には、南方熊楠の思索が参考になるのではないかと、以前から考えています。熊楠の思索は、密教の体系を西洋的な論理性で説明しています。宗教的な部分はあるので、その考え方は、非常に参考になり、重要だと思っています。現在の理解の範囲で述べていきましょう。
 この世は、過去から現生に現れる因果によって成り立っている世界(胎蔵界)があります。因(原因)と果(結果)の関わりには縁と起があり、それは非常の広大です。一方、不思議を司る真理の世界(金剛界)があり、こちらは可知の部分があります。人が解明可能なのは金剛界となります。胎蔵界と金剛界がこの世を構成しています。
 金剛界の真理を探究して悟った賢者(仏)は、その真理を言語化していきます(真言と呼ぶ)。しかし、悟りも人によって異なった言語化がなされていきます(金剛の相承)、そのため、違いは人や時代によって変化していきます。金剛の世界を理解するにしても、一筋縄ではいかないようです。しかし、すべての科学(自然も人文、社会科学も)は、金剛界の解明を目指すことになります。
 解明すべき不思議には、心(不思議)、物(不思議)、事(不思議)、理(不思議)、そして大不思議があります。心(精神界)と物(自然界)の関わりを、熊楠は事(理事とも呼んでいます)といいました。心不思議は心理学が、物不思議は自然科学で解明可能ですが、その領域は狭いものです。
 金剛界の理(不思議)は、絡み合った糸のように複雑で、いくつかの理が交わった萃点(すいてん)に、解明の緒(いとくち)があります。しかし、不思議には、理と萃点をもった可知の理の外にもあり、それが不可知の大不思議となります。可知の理と不可知の理の構造(不思議で分類)を、物心事(すべては理不思議となる)で見ることには限界があると、熊楠はいいます。
 その不可知やこの世の構造をどう捉えるかを、熊楠は独自の図を使って説明しています。事が力によって名として伝わり、それを心に映して生じるものが印となると、熊楠は金剛を深く解析していきます。
 少々長くなりましたが、このような熊楠の思索について、サバティカルの時に読み込んでいこうと考えています。文献はあるので、あとは読んで、自分なりに解釈していく作業となります。

・大雪・
先日、北海道のわが町周辺は
大雪にみまわれました。
明け方までは、通常の積雪ですが、
朝から日中で吹雪いてきて、
30cm以上も積もったようです。
でも、今まで比較的少ない積雪だったので
一気に取り返すように降りました。
白い正月となりました。

・腰痛・
正月の2日、風呂に入っている時
突然、腰痛がでました。
最初の部分的な痛みでしたが、
3日には、一日中、痛みました。
4日には大学でてきて、動き出しました。
少しでも動いていると
痛みは残っていますが、和らぎます。
これが私の腰痛への対処です。