2022年12月29日木曜日

3_209 下部マントルの鉱物 6:課題

 隕石から見つかったアルミニウムを含んだブリッジマナイトは、下部マグマオーシャンでできた可能性が指摘されました。しかし、いくつかの課題を解決する必要もありそうです。


 下部マグマオーシャンの鉱物を推定して、それに相当するものが、特別な条件をもった隕石の中から見つかりました。しかし、下部マグマオーシャンの鉱物と隕石の鉱物が同じとみなすには、いくつかの課題を解決しなければなりません。
 課題として、現在の下部マントルの化学組成、下部マグマオーシャンの条件、下部マントルと下部マグマオーシャンの関係、隕石の衝突溶融の場とマグマオーシャンの関係などを解決していく必要があります。
 下部マントルのブリッジマナイトにアルミニウムが多く含まれているという推定では、下部マントルを原始的なマントル(primitive mantle)を想定して合成実験をしているものが多くあります。原始的マントルでは化学的分化をしていない、アルミニウムが多いという前提条件をおいているため、アルミニウムが多いブリッジマナイトが合成されてきます。その前提を隕石の衝突場は満たしていました。しかし、もし下部マントルも化学的分化をしていたら、アルミニウムが多い下部マントルにはなっていないかもしれません。
 2つ目の下部マグマオーシャンの条件は、現在の下部マントルの条件まで溶けていたかどうかです。溶けていた範囲の見積もりには、数10kmから2000kmまであります。小さな見積もりであれば、現在の下部マントル(深度は660から2700km)に達していません。大きな見積もりならば、2000kmまでマグマになっていたと考えられますので、下部マントルまで達しています。下部マントルのブリッジマナイトが下部マグマオーシャン由来と考えるならば、下部マントルの大部分まで溶けていたということになります。どこまで融けていたのかが今後の課題です。
 もし下部マントルまでマグマオーシャンになっていたとしたら、液体状態なので、速い対流が起こっていたはずです。化学的分化が活発で表層では、アルミニウムがもっと濃集するような状態で、月の高地を形成している斜長岩の陸地が形成されていたかもしれません。そうなると、下部マグマオーシャンのアルミニウムが枯渇していくことになります。
 隕石の衝突による溶融場は、瞬間ですが高温高圧状態になります。報告された隕石は、普通コンドライトという未分化の母天体が変成作用を受けてできたものです。衝突で溶融したところを、下部マントルあるいは固化した下部マグマオーシャンと見立てています。核の成分が分化していたのでしょうか。普通コンドライトでは分化していません。もし鉄が分化していなければ、化学的条件が異なってきます。化学的条件をどう考えるのでしょうか。
 現在の地球と隕石と比べるためには、多くの前提条件を設けなければなりません。課題がまだまだありそうです。しかし、今回の発見は、研究の進展に大きな契機になります。課題をひとつひとつ解決していくことで、新たな展開が可能になるはずです。現在と過去の地球内部が、隕石と関連させて捉えられていくようなことも進んでいくはずです。

・COVID-19との1年・
コロナ禍での生活も3年近くなりました。
初期と比べると驚くほどの感染者数ですが、
聞き慣れて驚きもしない情報になりつつあります。
感染対策も当たり前で、自粛も慣れっこになってきました。
感染者も身近に多数でています。
COVID-19とともに暮らした1年となりました。
来年以降は、COVID-19もインフルエンザのように
当たり前の感染症になっていくのでしょうか。

・ご愛読に感謝・
今年最後のエッセイとなりました。
この1年間、愛読ありがとうございました。
2000年9月にこのエッセイを発行をはじめて
22年以上も毎週発行を継続できました。
発行当時はメールマガジンも新しい手段でしたが、
今で文字だけのシンプルな形式は
多数のインターネットの情報の中に
埋もれてしまっている媒体です。
そんな埋もれた情報から、
このメールマガジンを購読を
継続をされている皆様に感謝申し上げます。
読者がおられるので
毎週発行していくモチベーションになっています。
来年も引き続きよろしくお願い申しあげます。

2022年12月15日木曜日

3_207 下部マントルの鉱物 4:ブリッジマナイト

 隕石内の衝突の痕跡で、高温高圧状態の鉱物がみつかりました。以前に見つかっていた同じ鉱物とは、化学的特徴がかなり異なっていました。その違いは何を意味するのでしょうか。


 隕石から、再びブリッジマナイトが見つかったという報告がありました。2021年10月に、PNAS(米国科学アカデミー紀要)に
Natural Fe-bearing Aluminous Bridgmanite in the Katol L6 chondrite
(カトールL6コンドライトから天然の鉄を含むアルミニウム・ブリッジマナイト)
という論文が掲載されました。カトール(Katol)という変成をうけた普通コンドライト(L6に分類されるよく見つかる隕石)から、高温高圧条件でできる鉱物であるブリッジマナイトを発見したという報告です。発見自体は、前回紹介したように、別の2種の隕石から見つかっており、鉱物となり、命名もされました。別の隕石ですが、再度、同じ鉱物を報告するということは、新知見があったからです。鉄を含み、アルミニウムに富むブリッジマナイトというべき特徴を持っていたことが、新しい発見となります。
 カトール隕石でブリッジマナイトが見つかったのは、衝突で岩石がいったん溶けて固まった部分でした。衝撃によって発生した高温高圧条件(約23〜25GPa)で、瞬間的ですが岩石(母天体と隕石)が融けてマグマができ、再度岩石として固まったという場が想定されます。
 最初に見つかったブリッジマナイトは、頑火輝石(エンスタタイト)の組成((Mg、Fe)SiO3という構造式)の鉱物が、高温高圧条件でペロブスカイト構造になったものです。
 今回見つかったのは、論文のタイトルのように鉄とアルミニウムを含んだブリッジマナイトでした。以前に見つかったものもマグネシウムも含んでいるのですが、カトール隕石のものは、鉄とマグネシウムの比率も違っています。
 ブリッジマナイトの他にも、メージャライト(majorite)と硫化鉄も一緒に形成されています。鉄(Fe3+)の比率(Fe3+/ΣFe = 0.69 ± 0.08)が共存するメージャライト(0.37 ± 0.10)とは違っているのですが、これは合成実験の結果と一致しています。
 なによりも、アルミニウムを含んでいることが、大きな違いとなっており、新知見となります。アルミニウムを含むことが、どのような意味をもつのでしょうか。次回としましょう。

・大雪・
北海道は先週はじめから、寒波の来襲しました。
各地でも大雪になってのですが、
わが町でも今シーズン、はじめての大雪となりました。
前日に激しい降雪でしたが、翌日は晴れました。
わが町で、はじめて除雪車が入りました。
いよいよ冬本番となりました。
私は完全に厳冬期仕様の装いとなっています。

・前泊・
このエッセイは前週末に予約配信しています。
月曜日に校務があり、
車で出張することになっていました。
先週同じ地域に出張された先生の話しによると
高速道路がアイスバーンになっており
50km/h制限となっていて、夏より1時間以上も、
時間がかかるとのことです。
朝から校務があるので、
急遽、前泊することにしました。
そのため、日曜日の午後からでかけます。
幸い宿も取れたので、時間を使ってしまいますが、
重要な校務を優先することにしました。
卒業研究も一段落したので、のんびりしてきます。

3_207 下部マントルの鉱物 4:ブリッジマナイト

 隕石内の衝突の痕跡で、高温高圧状態の鉱物がみつかりました。以前に見つかっていた同じ鉱物とは、化学的特徴がかなり異なっていました。その違いは何を意味するのでしょうか。


 隕石から、再びブリッジマナイトが見つかったという報告がありました。2021年10月に、PNAS(米国科学アカデミー紀要)に
Natural Fe-bearing Aluminous Bridgmanite in the Katol L6 chondrite
(カトールL6コンドライトから天然の鉄を含むアルミニウム・ブリッジマナイト)
という論文が掲載されました。カトール(Katol)という変成をうけた普通コンドライト(L6に分類されるよく見つかる隕石)から、高温高圧条件でできる鉱物であるブリッジマナイトを発見したという報告です。発見自体は、前回紹介したように、別の2種の隕石から見つかっており、鉱物となり、命名もされました。別の隕石ですが、再度、同じ鉱物を報告するということは、新知見があったからです。鉄を含み、アルミニウムに富むブリッジマナイトというべき特徴を持っていたことが、新しい発見となります。
 カトール隕石でブリッジマナイトが見つかったのは、衝突で岩石がいったん溶けて固まった部分でした。衝撃によって発生した高温高圧条件(約23〜25GPa)で、瞬間的ですが岩石(母天体と隕石)が融けてマグマができ、再度岩石として固まったという場が想定されます。
 最初に見つかったブリッジマナイトは、頑火輝石(エンスタタイト)の組成((Mg、Fe)SiO3という構造式)の鉱物が、高温高圧条件でペロブスカイト構造になったものです。
 今回見つかったのは、論文のタイトルのように鉄とアルミニウムを含んだブリッジマナイトでした。以前に見つかったものもマグネシウムも含んでいるのですが、カトール隕石のものは、鉄とマグネシウムの比率も違っています。
 ブリッジマナイトの他にも、メージャライト(majorite)と硫化鉄も一緒に形成されています。鉄(Fe3+)の比率(Fe3+/ΣFe = 0.69 ± 0.08)が共存するメージャライト(0.37 ± 0.10)とは違っているのですが、これは合成実験の結果と一致しています。
 なによりも、アルミニウムを含んでいることが、大きな違いとなっており、新知見となります。アルミニウムを含むことが、どのような意味をもつのでしょうか。次回としましょう。

・大雪・
北海道は先週はじめから、寒波の来襲しました。
各地でも大雪になってのですが、
わが町でも今シーズン、はじめての大雪となりました。
前日に激しい降雪でしたが、翌日は晴れました。
わが町で、はじめて除雪車が入りました。
いよいよ冬本番となりました。
私は完全に厳冬期仕様の装いとなっています。

・前泊・
このエッセイは前週末に予約配信しています。
月曜日に校務があり、
車で出張することになっていました。
先週同じ地域に出張された先生の話しによると
高速道路がアイスバーンになっており
50km/h制限となっていて、夏より1時間以上も、
時間がかかるとのことです。
朝から校務があるので、
急遽、前泊することにしました。
そのため、日曜日の午後からでかけます。
幸い宿も取れたので、時間を使ってしまいますが、
重要な校務を優先することにしました。
卒業研究も一段落したので、のんびりしてきます。

2022年12月8日木曜日

3_206 下部マントルの鉱物 3:隕石内の高温高圧

 合成された結晶は、人工物です。天然物のみが鉱物になります。地下深部の条件の高温高圧で結晶を合成しても、自然界で発見されなければ鉱物とはなりません。そんな高温高圧条件が隕石で発生しています。


 結晶とは、原子が規則的に配列したもので、人工でも天然のものでもすべてを含んでいます。鉱物とは、天然に存在しているものだけをいいます。地球深部の高温高圧条件での合成実験で結晶ができたとしても、天然に存在していることが示されなければなりません。そんな高温高圧実験でしかない結晶も合成されています。そのため、自然界で見つけようという努力はなされています。
 自然界で高圧高温が発生する場として、クレータがあります。火山によるクレータもありますが、ここでは隕石の衝突によってできるクレータのことです。隕石の落下で、一瞬ですが高温高圧が発生します。衝撃による高温高圧の発生は、実験室の合成でも用いられている手法ですが、クレータは大規模に起こったものです。衝突クレータを探すことで、高温高圧でできる結晶が発見され、鉱物と認定されてきたことも何度かありました。
 隕石は、どこから由来するのでしょうか。隕石は、もともとどこかの天体(母天体と呼ばれます)を構成していた岩石が、小天体の衝突によって飛び出したものです。飛び出した岩石のうち、地球の交差する軌道をもったものが、隕石として地球に落下したものです。
 小天体の衝突の規模が大きければ、高温高圧状態が出現するはずです。隕石には、高温高圧の変成作用や衝撃による変形作用が記録されているものも見つかっています。高温高圧条件の履歴を持った隕石を調べれば、天然の高温高圧結晶が見つかるかもしれません。
 マントルの深部の条件での合成実験で、1970年代にはペロブスカイト構造をもった結晶だとわかってきました。その後、1990年代にテンハム隕石とAcfer 040隕石から、結晶が見つかりました。結晶は「ブリッジマナイト」という鉱物名が与えられました。
 ブリッジマナイトは、頑火輝石(エンスタタイト)という鉱物が高圧になってできたものです。頑火輝石は、マントルのカンラン岩の構成鉱物ですが、隕石(普通コンドライトと呼ばれるタイプ)を構成している鉱物でもあります。ですから、変成作用や変形作用を受けた隕石を探せば、見つかる可能性があったのです。
 最近、別の隕石からもブリッジマナイトが見つかったのですが、その鉱物は、以前見つかったものとは少し異なった性質を持っていました。その詳細は次回としましょ。

・サバティカル・
来年4月から半年間、サバティカルで愛媛県に滞在します。
その決定自体は2年前に出ていました。
いよいよその説明会もはじまります。
それに伴って申請書類も
いくつか提出する必要もでてきました。
チケットや引っ越しなども考えなければなりません。
今回は半年で家内も一緒です。
前回は1年で単身でした。
短期間で2名などのなにかと慌ただしくなります。

・寒波・
寒波の訪れで、連日雪となり、
あたり一面、雪になりました。
今まで雪のない冬枯れだったのですが、
一気に白い冬の景色になりました。
連日の寒さで、研究室が冷えています。
服装も靴も厳冬期対応のものにしました。
考えればもう師走ですから、
今年の雪は遅かったことになります。

2022年12月1日木曜日

3_205 下部マントルの鉱物 2:高温高圧実験

 地震波で推定した地球内部の条件を実験装置で作り出すことができます。マントルの岩石を高温高圧状態にすることで、間接的ですが、深部を探る研究が進められています。


 地球内部で浅いマントルを構成する岩石は、造山帯などでカンラン岩が見つかっています。もともとマントルにあった岩石を、直接調べることができます。しかし、マントルの浅いところの岩石しか地上にはありません。マントルはカンラン岩からできていることはわかってきました。
 間接的に調べる方法として、前回紹介したように、地震波を用いると、地球の中心まで探ることができます。その探査から、地球内部の密度や温度分布がわかってきました。マントルの岩石を地球内部の条件にすることで、深部の岩石の状態を再現することができます。このような方法は高温高圧実験と呼びます。
 高温高圧実験には、いくつかの手法があります。隅に切り込みを入れた超硬金属を組み合わせて、隙間に試料を入れて、大きな加圧装置で試料に力がかかるようにして、電熱線で加熱をする技術があります。これは非常の大掛かりな装置となります。2個のダイアモンドの狭い先端を平らにして試料を置き、両側から押すことで加圧し、結晶内をレーザーを通して加熱する技術もあります。これは、コンパクトな装置となります。また、高速で物質を発射した衝撃、あるいは爆発の衝撃波で、瞬間的ですが、高温高圧状態を発生する方法などもあります。いずれも実験室で実施される方法ですが、それぞれ長所短所があります。
 このような高温高圧実験で、地球深部の条件でカンラン岩がどのように結晶に変わっていくかを調べられています。カンラン岩を構成している鉱物は、カンラン石と輝石が主なものですが、高温高圧になるとペロブスカイト構造になることがわかってきました。ペロブスカイト構造とは、灰チタン石(CaTiO3)という鉱物がもつ結晶構造です。非常にコンパクトな構造で、密度が大きくなり、高圧条件で安定な結晶となります。カンラン石や輝石も、高温高圧ではその構造をもつことがわかってきました。
 高温高圧実験で合成された鉱物は、天然に存在するかどうかは不明です。そのため、天然の鉱物が見つかったときに、はじめて正式名称がつけられることになっています。通常の岩石では見つかりそうもありません。どんなところで見つかるでしょうか。次回としましょう。

・師走・
いよいよ師走に入りました。
里にも何度か降雪がありましたが、
積雪にはなかなか至りません。
日毎に暖かい日や寒い日が繰り返されていますが、
少しずつ寒さは募っていきます。
北海道の冬は、雪があるのが、当たり前です。
ですから、一面が白くならないと
冬という実感がなかなかわきません。
本当は一面が白くなると
面倒なこともいろいろ起こってくるのですが。

・卒業研究・
12月上旬が、わが大学では卒業研究の締め切りになっています。
ゼミの学生は、必死になって取り組んでいます。
提出後の1月には発表会があるので
提出が終わっても、気を緩めることなく、
発表準備に入らなくてはなりません。
ゼミでは、年末に発表の予行演習をすることしています。
とりあえず作成しておくことと、
他の人の発表を見ておくことで
修正のための方針が立つはずです。
ラフな発表原稿と方針があれば、
安心して正月が過ごせるでしょう。
そんな親心ですが、伝わるでしょうか。

2022年11月24日木曜日

3_204 下部マントルの鉱物 1:地球内部を調べる

 地球深部の様子を調べる方法を考えていきます。深部の探究では、実証できない困難さもあります。実証は空から降ってきます。そんな不思議な研究手法をシリーズで紹介していきます。


 地球深部を調べる方法はいくつかあります。ただし、直接調べられるのは少しだけです。直接調べる方法とは、深部にある試料をその状態のまま調べることです。しかし、それは不可能です。人が深部にいって、そこの温度や圧力の条件で調べることできません。深部になるほど、高温高圧となるためです。
 そもそも、それほど深部にはいけません。深部の高温高圧の条件下での調査はあきらめて、深部にある岩石をとってきて、実験室で調べることになります。
 深部の岩石をとってくるには、穴を掘って取り出してくる方法があります。ボーリングと呼ばれます。ところが、その深さは数kmから、せいぜい10km程度までです。地球の半径6400kmと比べると、あまりにもささやかです。
 ほっと他の方法を考えなければなりません。もともと深部にあった岩石を用いる方法です。地球の営みで深部から地上に持ち上げれた岩石が見つかります。変成岩では変成作用の条件から深度を推定できますが、地殻の深部からです。火成岩はもっと深部のマントルを構成していた岩石が、造山帯では見つかっています。マントルですから、数10kmの深さからもたらされています。
 特別な岩石ですが、もっと深部からもたらされた岩石も見つかっています。キンバーライトと呼ばれる火山岩です。深部から高速で上昇してきたマグマであることがわかっています。この岩石にはダイアモンドが見つかります。ダイアモンドは、150kmより深いところでないと安定に存在しません。圧力が下がると、同じ炭素からできた鉱物で石墨にかわってしまいます。ダイアモンドのまま地表に上昇するには、急速な圧力低下(クゥンチ quench)が起こらなければなりません。そのため、キンバーライトマグマの高速での上昇という現象が推定されています。それでも深度150kmです。マントルの上部までです。
 もっと深部を調べるためには、直接では無理です。となると、間接的な方法となります。地震波を用いた方法があります。この方法であれば、地球の中心まで推定することができます。岩石でできた地殻とマントル、鉄でできた核があることわかってきました。地震波を詳しくみると、岩石の密度や温度などを推定することができます。なかなか強力な方法です。
 しかし、間接的ですが実物を入手する方法があります。次回としましょう。

・初雪・
先週、冷え込みがあった日
平野部のわが町でも雪となりました。
ベチョベチョの雪ですが、
2日ほど降りました。
平年より初雪が遅いようですが
これで、北海道もいよいよ冬到来となります。

・時代の流れ・
現在の学科の4年生は卒業研究の作成に
かかりきりになっています。
ひとそれぞれで取り組み方が違います。
熱心だったり、生き絶え絶えだったり、
最小限で済まそうなど
その取り組む姿勢はさまざまです。
指導する側では一定のレベルを設けているのです
最近、苦労している学生が
ポツポツですが増えているようです。
時代の流れでしょうかね。

2022年11月17日木曜日

6_194 多様な系外惑星 5:特異な条件での海

 近くの系外惑星でハビタブルゾーンがありそうなことが、シミュレーションでわかりました。特異な条件での特別な環境で出現しそうです。しかし、近いところにあることが重要です。


 2021年12月5日、日本の点もが学会の雑誌に
TOI-2285b: A 1.7 Earth-radius planet near the habitable zone around a nearby M dwarf
(TOI-2285b:近隣のM矮星の周りのハビタブルゾーン付近で1.7地球半径の惑星)
という論文が報告されました。東京大学の福井さんらの共同研究となっています。
 このTOI-2285bと呼ばれる系外惑星は、太陽系から約138光年とかなり近いところにあります。半径は地球の1.74±0.08倍で、地球型惑星としてはぎりぎりの許容範囲内にあります。質量は19.5倍ほどで、海王星に近いサイズになります。公転周期も27日ほどになり、とても生命が誕生し住めそうもない惑星です。恒星からの距離は、太陽と地球の距離の1/7ほどしかなく、その位置はハビタブルゾーンの外になります。
 ところが、恒星の温度が3200℃と低いことから、恒星からの日射量が少なく、地球の1.54±0.14倍程度におさまります。恒星からのエネルギー照射は多くはありませんが、もし岩石惑星で薄い大気しかなければ、表層の海はすぐに蒸発してしまいします。
 なかなか厳しい条件の惑星です。ところが、福井さんらはシミュレーションによって、海王星のように氷とガスの惑星であれば、海が存在できる可能性を示しました。もし、核の外側に氷の層が存在し水素の大気があれば、氷の一部が溶けて、大気下の氷層の表面には、液体の海が存在できる可能性があることを示しました。
 かなり特異な条件での海の可能性なので、生命探査としては有望とはいえません。もっと近いハビタブルゾーンにも有望な天体も見つかっています。近ければ、性能のいい望遠鏡があれば、大気組成を調べることができます。しかし、生命探査には、ある程度の数の天体を調べなければなりません。多数の候補の系外惑星が必要です。
 液体も水が存在する条件や可能性を知っておくことが重要になるでしょう。比較的近いところで系外惑星の候補を、多数、ストックすれば、そんな中から、確実な海の存在が検証されるかもしれませんね。

・諦めない人たち・
否定的条件が出てくると
それ以上の探究をしなくなります。
否定的条件とは、
先入観に捕らわれているから
そう見えるのでしょう。
それでも諦めずに可能性を追求していくと
少しの僥倖に恵まれることもあります。
そんな僥倖は、先入観を排除した人にしか訪れません。
僥倖を逃さないのは、諦めなかった人たちでしょう。

・嵐のあと・
週末は北海道は激しい嵐になりました。
道内各地で、被害を受けたところがありました。
幸いにもわが町は、
風だけで雨はひどくありませんでした。
週末の夜の風だけですみました。
寒気が入ってきたので寒さは増しました。

2022年11月10日木曜日

6_193 多様な系外惑星 4:ハビタブルゾーン

 太陽系以外の天体は離れているため、生命を見つけるのは難しいことです。そこで、ハビタブルゾーンと呼ばれる生命が存在できる条件をもうけて、その範囲に存在する地球に似た惑星を探すことになります。


 系外惑星の探査で、重要な目的になっているのは、地球外生命の発見でしょう。文明をもたない生命の探査は、困難です。文明があれば、電波を用いて通信をしているでしょうから、電波ならば遠くからも検知できます。しかし、文明もたない生命ならば、存在を知ることはできません。
 ですから、地球外生命の探査には、生命が住めそうな惑星を探すことになります。その前提として、地球の生命の誕生し、進化するための必要条件として水の存在を仮定します。
 系外惑星で海の存在を直接調べるのは難しいので、恒星の特徴と惑星の軌道の位置から、水が存在できそうな場(ハビタブルゾーン Habitable zone、あるいはゴルディロックスゾーン Goldilocks zoneとも呼ばれる)にあり、表層に水が存在できることが必要条件になります。系外惑星のうち、ハビタブルゾーンに存在する天体を探すことで、間接的に海が存在できる条件を見つけていくことになります。
 惑星にも条件が必要になります。表面がガスではなく固い地表(岩石)があり、液体の水を維持できる(海が継続的に存在できる)地球に似た惑星(地球型惑星)でなければなりません。惑星の半径としては地球の0.5~1.6倍、質量として0.1~6倍までは可能性があるとされています。そのような系外惑星が、現在いくつも発見されていますが、決定的な海の証拠はまだ見つかっていません。それは、遠くなので、海の証拠を検出するのが困難になるためです。
 海の存在を検出するためには、できるだけ近いところにあるものが望ましくなります。約138光年のところに、限定条件をつければ条件を満たしそうな系外惑星が見つかりました。その詳細は次回としましょう。

・雪近し・
北海道は平地での積雪のニュースを
何度か聞くようになりました。
幸いわが町ではまだ初雪は降っていません。
寒い日で降りそうな日があったのですが雪は免れました。
まあ、季節としても、気象条件としても
雪の降るのは時間の問題でしょうが。

・帰省・
先週、次男が帰省していました。
変な時期ですが、講義の都合でこの時期になったそうです。
長男も学会が札幌にあったので、
一晩だけ自由時間ができたたので、
夕食を食べにくる時間があると、
当日連絡があったそうです。
私もその日は出張から帰宅した日にあたり、
次男の帰省する日でもありました。
いくつかの偶然が重なって
家族が揃うことになりました。

2022年11月3日木曜日

6_192 多様な系外惑星 3:連星系での系外惑星

 次に紹介するのは、連星系で直接撮影による系外惑星の発見です。それも質量の大きな恒星の周りでの発見でした。今回の報告では、直接撮影なので確実に存在が証明されました。


 ガイドス(Gaidos)らの報告では、惑星の特異性が重要でした。その惑星を接撮影されました。最近、直接撮影による報告はいくつも出されています。
 ガイドスらの論文では、地球から420光年ほどの位置でした。今回紹介するジャンソン(Janson, M)らの報告では、325光年のところで発見しました。ケンタウルス座b星は、連星となっています。連星とは恒星がお互いの周りを巡っている状態のものです。連星系で系外惑星(ケンタウルス座b星b)を、直接撮影しました。直接撮影されるということは、確実に存在するという証拠となります。
 2021年のNature誌に掲載された論文のタイトルは、
A wide-orbit giant planet in the high-mass b Centauri binary system
(連星系での質量の大きなケンタウルス座bでの広い軌道の巨大惑星)
というものでした。
 連星系での発見であること、質量が木星の約10.9倍もあること、主星から約550AU(天文単位)という非常に離れた軌道(太陽ー木星の距離の100倍のところ)を公転しているます。系外惑星として、かなり大きな質量をもった天体で、軌道も最も遠くにあるという特徴を持っています。
 もっとも特異なのは、連星全体としては太陽の6~10倍ほどの質量があり、表面温度が高い、重い方の恒星(B型星と呼ばれています)での発見でした。太陽の3倍以上の質量をもっている重い恒星の周りで、系外惑星が見つかったのは、はじめてのことでした。大きな恒星の周りでは、惑星を形成するのが困難だと考えられていました。なぜなら、これまでのモデルでは、質量の大きな恒星では、温度も高く激しい放射をするため、周囲のガスが短時間で蒸発されてしまうため、惑星を形成するのが困難だからです。
 このような環境で惑星が発見されたので、その形成として、別のところで形成された惑星が重力による相互作用によって移動させられた可能性、または周囲のガス円盤が自身の質量でつぶれることで、重力の不安定が起こり、短期間で惑星を形成できるようなメカニズムが働いた可能性、などが指摘されています。連星系という特殊な環境では、これくらい遠くでないと惑星は生き残れないのかもしれません。
 形成モデルに関しては、今後も検討が必要ですが、比較的近いところなので、より高性能の望遠鏡で観測すれば、詳細がわかれば新たな可能性がるのではと、期待されています。

・科学の進歩・
系外惑星で多様なものが見つかっています。
その多様性に驚かされます。
これまで太陽系で構築されてきた惑星形成モデルが
太陽系の説明には使えなくなってきました。
多様な惑星系には、これまでのモデルで
大幅な修正が必要になってきたことを意味します。
修正でどこまでやっていけるのでしょうか。
それとも全く新しいモデルを
考える必要があるのでしょうか。
特徴のある惑星ごとに、
固有のモデルの調整が必要になるのでしょうか。
このような多様性の発見と説明の努力は、
きっと科学の進歩に貢献できるはずです。

・日常が戻る・
昨日まで校務出張をしていました。
ですから、このエッセイは出かける前に
事前予約して発行しています。
11月はいろいろと校務や出張が重なっています。
落ち着かない日々が続きます。
講義や校務、出張などが、
通常通りにこなせるようになってきたためしょう。
日常が戻ってきた証なのかもしれませんね。

2022年10月27日木曜日

6_191 多様な系外惑星 2:特異な惑星

 今回発見された系外惑星は、直接撮影という話題だけでなく、特異な特徴をいくつかもっていました。特異性は、これまで惑星形成モデルでは説明できないもので、新たなモデルを考えなければなりません。


 ガイドス(Gaidos)の論文では、スバル望遠鏡を3年かけて使用したデータを用いて、直接撮影された系外惑星であることは、前回紹介しました。この系外惑星は2M0437bと名付けられています。
 観測された惑星が属する恒星(主星といいます)は、おうし座の2M0437で、地球から420光年ほど離れています。この主星は小さな質量(太陽の0.15~0.18倍ほど)しかありません。また、この主星のある領域は、星が形成されているところに位置し、2M0437も形成されたばかりの若いM型矮星だと考えられています。形成後、200 〜 500 万年ほどしかたっていません。ですから、この主星の周辺を回る系外惑星の年齢も、似た若いものになるはずです。
 2M0437bは、できて数100万年ほどの惑星となり、これまで発見された系外惑星の中では、最も若いものになります。2M0437bは、木星の3~5倍ほどの質量があると見積もられ、「スーパージュピター」(大きな木星という意味)と呼ばれる系外惑星のタイプになります。1100~1200℃ほどの高温になっています。恒星からの位置は、118AU(天文単位:太陽と地球の平均公転距離を1としたもの)となり、非常に離れたところで見つかりました。
 この惑星は、特異です。質量の小さい主星であること、遠く離れた位置の軌道であること、さらに短時間で巨大惑星が形成さたこと、がこれまでにない特異性となります。
 巨大惑星が遠く形成されるには、コア降着による惑星形成過程をたどることになり、かなり時間かかると考えられていました。恒星の質量が大きければ、ディスクの不安定性で大きな惑星を短期間で形成できますが、今回の恒星は小さいもので、その効果は働きません。
 非常に若く、非常の低質量の恒星の周りで、遠く離れた位置での巨大惑星(スーパージュピター)の発見は、これまでのモデルでは説明できないことになります。新しい形成モデルを考える必要がでてきたことになります。

・雪・
今週はじめ、北見に校務出張しました。
一気に寒波が来て、寒くなる時期でした。
山は白くなっており、雪も降りそうでした。
幸い、行きも帰りも、
路面が雪や氷になることはありませんでした。
冬道の心配をする時期になりました。
自家用車ででかけたのですが、
新しい冬タイヤにしていました。
それでも、シーズンはじめの雪道は気を使います。

・校務出張・
校務出張が続きます。
来週は青森です。
あと道内4箇所が別日であります。
青森は公共の乗り物と一部レンタカーになります。
不便なところへ行く必要があるので
2泊3日の出張になります。
休みになる講義への対処がなかなか大変です。
11月になっても校務出張が続きます。
コロナ禍が終わったことになるのでしょうかね。

2022年10月13日木曜日

1_201 火星の隕石衝突 3:クレータ

 火星探査機インサイトは、音を記録し、地震も記録していました。両者を合わせることで、隕石の衝突を検証できます。さらに、軌道からの画像と比べることでクレータとも照合できます。


 火星探査機インサイトは、火星の赤道近く(北緯4度、東経136度)に着陸しているのですが、そこはかつてキュリオシティ(南緯4.6度、東経137度)が調査した近くです。現在、パーサヴィアランス(北緯19度、東経78度)が探査をしているところも近くになっています。このように調査されているところが、集中しています。
 インサイトは、音を記録し、地震も記録もしていることから、隕石の衝突を特定できることができると前回しょうかいましました。本当に、このような現象を捉えることができるのでしょうか。インサイトの地震計は、15か月間の観測で、数百回の地震を観測しています。その中で、4回の衝突の振動を記録していました。それらを解析して衝突による振動だと確定しています。さらに、軌道上から観測された画像によって、衝突によって形成されたクレーターも限定されています。
 そのような成果は、フランス、トゥールーズ大学のガルシアと共同研究者による報告で、2022年9月19日のNature Geoscience誌に掲載されました。タイトルは、
Newly formed craters on Mars located using seismic and acoustic wave data from InSight
(インサイトの地震と音波データを用いて位置決定された火星に新しくできたクレータ)
というものです。
 これまで地震計は天体の内部を調べるためのものだと考えられてきました。しかし、同じ装置の同じデータであっても、解析することで、別の意味をもった情報が見つかってきました。
 クレータの位置が確定されたことが重要です。なぜなら、地震計が多数あれば、地震が起こった場所(震源)は特定できますが、ひとつだと場所がよくわかりません。そうなると天体内部を正確に推定することが難しくなります。しかし、今回クレータから震源の位置が確定していますので、より正確に内部を推定することできます。今後、天体観測にも役立ちそうですね。

・初冠雪・
最近、一気に秋めいてきました。
北海道では、先週には初冠雪が各地でみられまた。
通勤中に見える山並も白くなっていました。
我が家でも、朝夕のストーブが当たり前になってきました。
今週末に野外調査にでかけます。
これが、今年最後の野外調査になりそうです。
そろそろ峠道での雪が心配になってきました。
いつ冬タイヤに変えるかが悩みどころです。

・まだらな紅葉・
秋の連休はいかが過ごされたでしょうか。
私はいつもと変わらない生活をしていました。
先日の晴れたい日に少し雪虫が飛んでいました。
まだ少し早い気がします。
今年の紅葉はまだらなので、
秋の深まりも、
いきつもどりつしているのでしょうか。

2022年10月6日木曜日

1_200 火星の隕石衝突 2:地震、月震、火震

 このシリーズは、火星の隕石衝突のテーマです。なかなか話題に入りません。前提となる知識があったほうが、よりよくわかるからです。ということで、今回も、火星の隕石衝突には、まだ入れません。


 探査機は、天体の外側からか、あるいは着陸すれば天体の表層を、直接調べることができます。着陸する予定の探査機には、地震計が搭載されること多いです。なぜなら、地震計は、地震を観測し、地震のデータで天体内部を様子を推定することができるからです。
 地震計は、月にもアポロ計画で5台が置かれ、そのうち4台が長期わたって観測しました。8年10月間で、12558回もの月震を観測しています。地球では地震(earthquake)ですが、月なので月震(moonquake)と呼ばれています。
 地震の観測が重要なのは、地震は地中を伝わってくるので、その波形を測定することで、内部の構造や構成物を知ることができます。多数の地震を観測できれば、より内部を詳しく知ることができます。
 月震は、いくつかの原因で起こることもわかってきました。深発月震(1100~800km)、浅発月震(300km)、熱月震(昼夜の温度差で岩石が破壊された時に起こる)などが主なものとされています。アポロ計画では人工月震も11回起こしています。
 月震の原因として、隕石の衝突ではないかと考えられているものが、100回ほど観測されています。しかし、残念ながら、実際の衝突によってできたクレータは見つかっていません。また、他の証拠がないので、隕石の衝突と検証されていません。
 さて、火星です。火星では、1976年にはバイキング2の地震計が観測して、いくつかの地震を観測しました。その後、いくつかの探査機が着陸、観測をしました。
 現在は、NASAの探査機インサイトが活動中です。2018年11月に到着して約2年(728日)を予定されていました。4年ほどたっているのですが、現在でも、活動中です。いろいろトラブルがあったのですが、ホコリのためソーラーパネルで発電ができなくなりました。一度はアームで砂を吹き付けることで、ホコリを払って対処したことで、少し回復しました。しかし、現在ではホコロが多すぎたので対処できなくなったようです。
 2022年5月には省エネモードになっています。予定では、2022年末までの運用を考えています。省エネモードでは、火震(marsquake)の観測だけをしています。
 また、インサイトでは、音を記録するともできました。地震計と音で、隕石の衝突であることを、検証することができます。その詳細は、次回としましょう。

・地震計・
探査機が、天体に送り込まれるたびに、
新しいデータから
これまでに知られていないことが
次々とわかってきます。
特に映像で示されるニュースは
市民にもその新しさが直感的に理解できます。
地震は、体感しない限り、直感的には理解できません。
見えること、直接体験できることだけが
本質を知るための情報ではありません。
見えないもの、感じないものでも
重要な情報がいろいろあります。
地震計もそのような情報を収集しています。

・秋の足音・
10月になりました。
9月には一旦涼しくなったのですが、
9月下旬から10月の最初も
暖かい日が続きました。
今週から急に涼しくなってくる予報です。
(10/2日曜に、このコラムを書いています)
紅葉も進んでいるのですが、
どうも足並みが揃ってないように見えます。
まあ、本当に紅葉ははじまるのは
10月下旬から、秋が深まってからですから。
雪虫はまだ見かけませんから、
初雪もまだまだ先になりそうです。

2022年9月29日木曜日

1_199 火星の隕石衝突 1:天体の観測

 自分のことを知りたければ、類似のものを参照することは、重要です。地球を知りたければ、金星や火星が、類似の参照に適しています。金星は、大気が厚く、表層も環境の過酷です。火星が類似参照のターゲットになります。


 地球を知るために、地球外の天体を調べることは重要です。なぜなら、他の類似物と比較することで、似ている点、異なる点がわかります。似ている点からそれらの天体のでき方がわかれば、地球へもその形成過程が適用できるかもしれません。異なる点がわかれば、地球固有の特徴、個性が明らかにしたことになりるので、その個性が、いつ、どのようにできたかについて調べれば、地球固有性の形成過程がわかってくるはずです。
 地球外の天体の観測は、地球から望遠鏡で見るのが、手軽で便利です。多くの天体を、いつでも、だれでも、何度でも観測できるからです。しかし遠くにあるので、詳細な情報はえるためには限界があります。
 近づけば、情報量も増えてきます。探査機を天体に向けて飛ばし、近づく時から離れる時まで、観測をしていければ、近くで観測できます。探査機のコースをうまくとると、複数の天体を同じ探査機で観測できます。しかし、通り過ぎるだけでは、観測時間は限られています。
 ある天体にだけを調べることにすれば、天体を周回する軌道に投入すれば、近くで観測を続けることができ、精度を上げることができます。それでも、やはり軌道上からの観測では限界があります。
 実際の試料(大気や海洋、大地などから)をとって、測定、分析できる観測装置をもった探査機を天体に下ろせば、詳細な情報をえられます。ただし、ゆっくりと天体を下ろすのは、燃料も大量に必要になり、技術的にもなかなか難しいものになります。でも、天体の大気であれば、落下中に急いで分析してデータを送ることができれば、ガス惑星のような大気の濃い天体でも、情報をとることできます。硬い地面には衝突して探査機は壊れるので、ハードランディングと呼ばれています。
 ゆっくりと天体表面に降ろすソフトランディングでれば、複雑な観測・分析装置も使えます。天体の表層で、一定期間、データを取ることができます。もし、探査機が自走できれば、天体の表層の多様な情報をえることができます。そのような情報がえられているのは、月と火星だけです。月は、人類が一緒にいっていますので別格です。月以外では火星が、その舞台となります。

・腰痛への対処・
先週から、また腰痛がでてきました。
今回は、何もした記憶がないのに
じわじわと痛みがでてきました。
痛みが数日かけて進行してきました。
このような状態も以前にもありましたので、
対処の方法もわかっています。
無理せずに、ひどくならないようにして
自然治癒を目指することにしています。

・人間ドック・
先日、人間ドックにいきました。
毎年いっているのですが、
今年は通常の検査に加えて
脳ドックも加えることしました。
高齢者は、脳梗塞と心筋梗塞が心配になります。
心臓の検査もしたかったのですが、
そこでは、心臓の検査はしていないようです。
高齢になると無理できないので、
1年に一回の検査ですが
体のメインテナンスにも注意が必要ですね。

2022年9月15日木曜日

3_202 海と大気の起源 5:系外惑星での検証

 原始地球の大気の形成に関する別の報告があります。その報告は、これまで紹介してきたシミュレーションと似た結果がでてきました。これは、地球でも起こっていた現象の有力な傍証になるでしょう。


 原始地球から、小天体の衝突によって地球表層の揮発成分が剥ぎ取られたというシミュレーションにより、現在の地球の成分と材料の隕石との違いが説明できるという報告を紹介しました。
 この報告の目標は、過去の地球での出来事に関する「検証の確かさ」で、言い換えると「検証の検証」することができるかということです。シミュレーションとして答えが出たとしても、「本当に起こったか」どうかは不明です。地球の出来事は過去に起こっているので、過去の出来事を本当かどうかは、「時間の不可逆性」により、検証はできません。シミュレーションが扱った出来事の「検証の検証」は不能です。
 しかし、全く別の方法で同じような結果が示されれば、「検証を検証」することはできませんが、「検証の確かさ」を増すことができます。この小天体の衝突によって、大気が剥ぎ取られるという現象が、別の天体の観測で確認されてきました。
 シュナイダーマン(Schneiderman, L.)らの研究で2021年10月にNature誌に報告した
Carbon monoxide gas produced by a giant impact in the inner region of a young system.
(若い恒星系の内惑星領域における巨大衝突による一酸化炭素ガスの形成)
という論文です。これは、恒星HD17255という系外惑星(太陽系外の惑星)の観測によるものです。
 惑星形成の状態にある惑星での観測です。地球や太陽系のシミュレーションとは、まったく異なった方法である、他の天体の観測によるなので、独立した方法による検証となります。
 論文タイトルでは、衝突により一酸化炭素ガスができるという意味なので、そこから大気が剥ぎ取られたということをどう説明していくのでしょうか。次回としましょう。

・近場の調査・
今週も野外調査にでかけました。
9月中旬になると、通常の校務の大変になってきて
下旬からは、後期の講義がはじまります。
今後、調査の日程があまりとれません。
2泊3日での短期での調査になります。
近場でじっくり見たいところを調査します。
今年の夏、最後の調査となります。

・夏の仕事が一段落・
論文の査読の修正、投稿も終わりました。
科研費の書類も先週末に提出しました。
2冊の本の原稿も先週、印刷屋さんに渡しました。
夏に予定していた大きな仕事を
すべて終えることができました。
次なる論文の準備も必要なのですが、
一段落となるので、調査で気分転換しました。
10月以降も調査ができればと思っていますが
講義が続きそうなので、どうなるでしょうか。

2022年9月8日木曜日

3_201 海と大気の起源 4:後期天体集積

 現在の地球と材料の違いを、初期のいくつかの事件を想定して、シミュレーションで検討されました。ひとつの事件では解決できなかったのですが、次の事件で課題を解決することができました。諦めない努力の結果です。


 材料の炭素質コンドライトと比べて、地球の成分が枯渇していたことがわかり、その原因をシミュレーションで探究されました。シミュレーションでは、マグマオーシャンでの出来事に注目されました。
 炭素質コンドライトに含まれていた水の成分が、気体として大気中に放出され、マグマオーシャンに含まれていた水が、岩石に固化するとき大気中に放出されていきます。マグマオーシャンが固化すると、表層も冷えてきて、大気中の水蒸気が凝縮して水となり、海を形成します。大気中の二酸化炭素は、水の溶け込み、岩石から溶け出したイオンと結びついて、炭酸カルシウム(方解石という鉱物)や炭酸マグネシウム(ドロマイト、苦灰石)などになり、炭素は使われていきます。
 マグマオーシャンでの過程を想定しても、地球の成分の枯渇の様子をすべてを説明できませんでした。地球の初期に起こった別の出来事を考えなければなりません。月など、形成初期の状態を残している天体から、マグマオーシャンが固化した後、再度、小天体が激しい衝突した時期があることがわかってきました。後期爆撃(あるいは天体集積)事件と呼ばれるものです。
 この後期天体爆撃事件を想定してシミュレーションが進められました。衝突によって、既存の窒素に富んだ大気を、大半(7割)を剥ぎ取ることで、現在の比率になることがわかってきました。大気を効果的に剥ぎ取るためには、天体サイズが重要な要因になり、サイズの小さい天体が多数衝突することで、現在の枯渇状態が再現できました。これで問題は解決できました。
 この研究の方法論は、次のようなものでした。現在の天体(この論文では地球)と材料(炭素質コンドライト)を比べたところ、天体の成分には違いが見つかりました。その違いは、天体の進化過程によると想定されます。天体の進化でもっとも変化の激しい時期は、形成期だと考えられます。最初の大事件(マグマオーシャン形成、核と揮発成分の分離)で起こる成分の再配分を考えました。しかし、それでも違いが説明できない時は、次の事件(後期天体爆撃事件)を想定して検討を進めていきました。その事件で起こる元素の再配分(剥ぎ取り)を考え、解決に至りました。それぞれの事件の検証ではシミュレーションを手法として用いていました。
 結果がでる(現在の状態が説明できる)まで、次々と条件を変えて研究(シミュレーション)を続けていきました。求めるものがえられるまで、諦めない気持ちが、研究では大切だと思いました。

・夏の終わり・
北海道は涼しくなってきました。
この時期になる、すべての前期の校務が終わり、
一段落して、ホッとしている時期です。
例年この時期に、
1週間程度の調査をすることが
多かったのですが、ここ2年間のコロナ感染で、
道内だけで調査をすることになりました。
道内だと、移動距離は長いですが、
3、4泊の調査になります。
この程度の期間だと、
繰り返し各地で調査ができます。
また、講義の合間を縫って調査も可能です。
自家用車でいくので
荷物も好きなだけ詰めるので気軽です。
でも、道外でも調査をしたいですね。

・サバティカル・
来年4月から半年間、
サバティカルをとることになっています。
半年間、以前にも滞在した四国で過ごします。
この期間には講義や校務を気にせず
心置きなく、研究と調査に専念できます。
今回は、家内も同伴なので、
老夫婦でのんびりと過ごしたいと思っています。
そのまであと半年、後期も校務に
励まなければならないですね。

2022年9月1日木曜日

3_200 海と大気の起源 3:マグマオーシャン

 現在の地球の表層の揮発成分は、材料と比べて、いくつかの成分で枯渇していました。地球初期のマグマオーシャンを考えると、想定されると揮発成分とは全く異なったものとなりそうです。どう解決すればいいでしょうか。


 櫻庭さんたちは、BSE(Bulk Silicate Earth)を用いて検討しています。BSEとは、一般に岩石学で用いられるもので、マントルの珪酸塩の平均値としても用いるので、始原的な岩石組成を想定するものです。しかしこの論文では、地球の核の成分を除いた大気、海洋、地殻、マントルを含んだものにしており、少々異なった意味で用いられています。このBSEを初期地球の組成として考察が進められています。
 BSEをもとに、隕石がもっていた揮発成分が、どのように枯渇していったかを検討し、その原因を考えています。地球が形成されているときを想定していきます。
 原始惑星が成長しているときは、小天体がいっぱい衝突しているので、衝突の時に放出されたエネルギーと、原始大気の温室効果とあいまって、地表は高温になっていきます。表層の岩石も融けマグマになるほどの高温が、維持されていきます。その結果、ある程度成長した原始惑星では、マグマの海「マグマオーシャン」が形成されます。
 金属の鉄は密度が大きいので、マグマオーシャンから分離し沈み、核と形成します。その時、液体の鉄に溶け込みやすい炭素、窒素、水素はある程度、核へと持ち込まれます。ただし、水は、マグマにも溶けこみやすいため、マグマオーシャンに残ります。小天体の衝突が収まってくると、マグマオーシャンは固化していきます。水は岩石にはあまり入らず、やがて海となります。
 また、窒素は、鉄には少し取り込まれますが、マグマオーシャンにはあまり取り込まれません。この状態で、地球表層には、窒素は固体内に取り込まれることなく、表層に残ります。ですから、最終的には大気に多く残ります。
 マグマオーシャンが固化した後、この時期の地球表層では、炭素質コンドライトと比べて、炭素、水素、窒素の順に枯渇していきます。現在の窒素、炭素、水素という順の枯渇とは、全く逆になっていたと推定されます。
 このような問題を解決するために、いろいろな条件を考えて、シミュレーションがなされ可能性が検討されました。その結果は、次回としましょう。

・出張続き・
先週末に1泊2日で校務で出張しました。
この時は大学の教職員が大勢が出張するので
大学バスで一緒でかけます。
宿泊も移動も気にせず、
校務だけを気にすればいいので
精神的には楽にいけます。
一日おいて、同じ場所へ別件の校務があります。
今度は一人で自家用車での出張です。
前泊しなければならないので、探すのは面倒なので、
同じホテルを予約しました。
2日目、午前中の校務が終われば、
そこから連続して研究出張で
さらに3泊4日でかけます。
このエッセイは出張前に予約配信しています。

・リフレッシュ・
先週は、4日間、前期最後の集中講義がありました。
翌日に成績評価、その他の校務書類を、
処理して提出しなければなりませんでした。
終わったときの充実感はありましたが、
心身ともに疲れました。
ですから、その後の連続の校務出張も研究出張も
大変ですが、精神的はリフレッシュできそうです。

2022年8月25日木曜日

3_199 海と大気の起源 2:成分の枯渇

 地球の大気は、地球の材料と考えられる炭素質コンドライトから由来していると考えられています。両者には少々異なる点が見つかっています。その相違点を、どう解消していけばいいのでしょうか。


 炭素質コンドライトは、現在の小惑星帯にも似たタイプのものがあると考えられています。小惑星の太陽光の反射スペクトルを分析し、隕石の分析とを比べると、判定できます。炭素質コンドライトからできている小惑星は「C型」と呼ばれています。
 隕石にはいろいろな種類がありますが、コンドライトと呼ばれるタイプがもっとも多くみられます(80~90%の頻度)。炭素質コンドライトは、文字通りコンドライトに属していて、隕石全体で占める頻度は4~2%となっています。
 炭素質コンドライトに含まれているガスになる成分(揮発成分と呼ばれます)は、ばらつきはありますが、20~1重量%ほどになります。大気の主成分の窒素と、昔の大気の成分である二酸化炭素、また海洋の主成分となる水が、炭素質コンドライトには含まれています。炭素質コンドライトの隕石の中の頻度としては、少ないように思えますが、揮発成分として放出されると、十分な量となります。
 炭素質コンドライトの成分と、現在の地球の大気と海洋のものが、一致していることになります。成分はいずでも存在しているのですが、詳しく見ると、少々比率が異なっていることがわかっています。前回、紹介しましたが、困ったこととはこの比率です。
 炭素質コンドライトに比べて、地球の大気と海洋は、窒素、炭素(二酸化炭素ではなく炭素で比べています)、水素の順に、より欠乏しています。ここでいう欠乏とは、隕石と比べて、地球の成分比が小さくなっていることを意味しています。このような状態を枯渇と呼んでいます。これが難点です。
 地球初期の状態を、シミュレーションすることで、この難点を説明しようとする研究が報告されました。
 2021年、東京工業大学の櫻庭さんたちの共同研究でScientific Reports誌に
Numerous chondritic impactors and oxidized magma ocean set Earth's volatile depletion
(多数のコンドライトの衝突と酸化されたマグマオーシャンが地球の揮発成分の枯渇を起こした)
という報告をしました。この詳細は次回としましょう。

・集中講義・
今週は、大学の前期に区分される集中講義の時期です。
担当している講義があります。
今年は暑くなさそうなので助かります。
パソコンで資料を示すとき、暗くするため、
カーテンだけでなく窓も閉めなければなりません。
ここ数年で、大学には各教室にエアコンが入ったので
暑さへの対処は、考えなくてもよくなりました。

・バタバタ・
今週から慌ただしくなります。
集中講義のあと週末には、
校務で1泊の出張があります。
翌月曜日は、大学に出ますが、
午前中は整備のために、全学停電となっています。
通常の作業がなかなかできないので困ります。
火曜日からは、出張指導ため、1泊します。
その後、3泊の研究出張を連続していきます。
9月の最初の土曜日には戻ってきます。
次の週には、市内でまた出張指導があります。
8月下旬から9月初旬までバタバタしています。

2022年8月18日木曜日

3_198 海と大気の起源 1:炭素質コンドライト

 地球の大気と海洋は、地球固有のものです。海が表層にあるのは地球だけで、大気も、酸素が多い、固有のものになっています。このような表層環境は、どのようにしてできたのでしょうか。新たな報告が出されました。


 地球の表面には、海があります。これは、太陽系において地球には、海が存在できる特別な条件があるためです。
 液体のH2O、水が存在できる条件領域を、ハビタブルゾーンと呼びます。ハビタブルゾーンの外側、太陽より遠い側では、温度が低くなるため、水は氷になります。大気中の水蒸気も凍ってしまい、大気からなくなっていきます。もしH2Oの量が多ければ、表面はすべて氷で覆われ、白くなります。天体の反射条件をアルベドといいますが、白い氷の表面はアルベドが大きくなり、太陽光を反射して、表層を温めるエネルギーとして使われません。そうなると、もっとも寒い状態にまで行き着き、氷惑星となります。
 火星より外側では、このような条件になります。火星はハビタブルゾーンにあったのですが、天体のサイズも質量も小さかったので、時間経過ととも大気が薄くなり、温室効果が弱まっていきました。大気がありますが、海洋がない状態になっています。
 ハビタブルゾーンより太陽に近くなると、太陽からの放射エネルギーが多くなり、気温が高くなり、暑くなっていきます。水は水蒸気になります。水蒸気は温暖化効果ガスでもあるので、水蒸気が増えると温暖化が一気に進み「暴走温暖化」と呼ばれる状態になります。暴走温暖化は、天体表面の水がなくなるまで続きます。金星はこの状態になってしまいました。
 ハビタブルゾーンで、地球に現在も水が存在しているのは、説明できました。では、そもそも地球に、水が存在するのはなぜでしょうか。水がどこから由来したのでしょうか。
 その説明として、地球の材料に、水や大気の成分が含まれていたことを、このエッセイでも紹介してきました。隕石の一種に、水や炭素などを多く含むタイプとして、炭素質コンドライトがあります。それが材料としてあれば、大気や海洋の成分となります。
 しかし、炭素質コンドライトから、大気や海洋ができたとすると、少々困ることがありました。その説明は次回としましょう。

・静かな大学・
我が家は、夫婦二人なので
お盆でもいつもと変わらない生活をしていました。
毎日、大学に出ていました。
盆と正月が、一番静かな時期になります。
追試とその採点評価、4年生の卒業研究の添削など
大学でもいつもと変わらない状態でした。
お盆は、大学も出入りできなくなります。
しかし、守衛口で記名すれば、入構できます。
ただし、設備工事は進行中ですが。

・帰省ラッシュ・
台風の前後に、各地の大雨が降りました。
私の地域では、激しい雨は降りましたが、
被害がでるほどではありませんでした。
コロナによる規制がない状態でしたので
お盆で帰省ラッシュが、各地で報告されました。
帰省の人たちには、大雨の影響がでたのでしょうか。
このエッセイは、15日に投稿していますので
様子が把握できていませんが、無事を願っています。

2022年8月4日木曜日

5_199 小惑星の有機物 7:隕石の核酸

 次の話題は、「隕石」からの有機物の発見となります。素材は、隕石なので、由来もリュウグウとは違っています。見つかった成分は違うものですが、関連がありそうです。


 次の話題は、はやぶさ2が持って帰ったリュウグウの試料とは異なった材料を用いています。中村さんたちの報告(2022年6月10日)より少し前に発表された論文でした。2022年4月のNature Communications誌で公表されたもので、
 Identifying the wide diversity of extraterrestrial purine and pyrimidine nucleobases in carbonaceous meteorites
 (炭素質隕石中の地球外のプリン、ピリミジンの核酸塩基の大きな多様性の発見)
というタイトルで、北大低温研究所の大場康弘さんと共同研究者によるものです。
 この研究では、炭素質隕石として、マーチソン隕石(Murchison)、タギッシュレイク隕石(Tagish Lake)、マレー隕石(Murray)の3つを用いて分析しています。
 これらの隕石すべてから、18種の核酸塩基が検出されました。このうち、隕石からはじめて見つかったものが、10種類も含まれています。核酸塩基以外の窒素化合物も含めて、20種類が検出されています。
 非常に微量の成分を検出し同定する技術となっています。速液体クロマトグラフィー/電子スプレーイオン化/超高分解能質量分析法というものです。隕石1g当たり72ngという微量の分析をしています。
 さて、核酸塩基とは、生物のDNAやRNAの材料となっているもので、ウラシル、シトシン、チミン、アデニン、グアニンのうち4種類が使われています。シトシンとグアニンがペアに、またDNAではアデニンとチミンが、RNAではアデニンとウラシルがペアになり、二重らせんの構造をつくります。いずれも遺伝や生物の基本的設計となる成分です。
 これら5種の核酸塩基も検出されたものの中に含まれていました。これまで、核酸塩基のうち3種までは発見されたことがあります。5種が同時に発見されたことはなく、はじめてのことでした。
 論文のタイトルにあった、プリンとピリジンはいずれも核酸の構成成分となっているとともに、誘導体として核酸をつくりだすのに、重要な役割も果たしています。プリンはアデニンとグアニンの、ピリジンはシトシン、ウラシル、チミンの重要な誘導体とともに構成物となっています。これらの化合物が見つかったということは、核酸の形成が、その場で起こっていたことを意味しています。
 その詳細は次回とします。

・定期試験週間・
8月になりました。
わが大学では、これまで順次、
教室にエアコンが設置されてきました。
今週は、試験週間になっていますが、
暑ければエアコンをつけることができます。
コロナ感染対策で教室内では
常時マスク着用と換気が義務付けれています。
マスクでも、暑い時期でも、
集中して試験に望めようになっています。

・蒸し暑い日々・
北海道は7月末から暑くなってきました。
今年は、湿度も高くて蒸し暑いので
過ごしにくい日々になっています。
ただ、朝夕には涼しくなってくるので
自宅はエアコンがないのですが
なんとか耐えられています。
ただ、寝る部屋は風が通りにくいので
窓を開けていても、寝苦しい夜もあるので
寝不足になる日もあります。

2022年7月28日木曜日

5_198 小惑星の有機物 6:形成場

 リュウグウの試料からは、有機物とそこに同位体異常がみつかりました。有機物は高温で分解しますので、同位体異常は保存されないはずです。リュウグウは、高温に曝されることになく、できたままの状態を保持したようです。


 これまで、隕石で同位体異常が発見されていたのは、高温に耐えられた鉱物からでした。リュウグウの粒子には、もっとも熱の影響を受けてない隕石(炭素質コンドライトのCIと呼ばれるタイプ)より、酸素とクロムで高い同位体組成をもっていました。これは、より熱の影響を受けていない環境であったことを意味します。
 隕石には、一部太陽系以前の成分(プレソーラー粒子と呼ばれています)が残っていましたが、高温に曝され均質化した素材からできていました。そのため、原始太陽系星雲は一度高温にさらされてから、隕石として凝縮してきました。その後、隕石ではさまざまな程度の温度に曝されていきます。ところが、リュウグウには一度も高温に曝されることがない成分がありました。それは、今回報告された、有機物の組成からわかります。
 その有機物に、水素、炭素および窒素、ネオンで同位体異常が見つかりました。ネオンの同位体異常は、宇宙線の照射に曝されてできる成分でした。太陽系外縁で宇宙線に曝されてでできた成分を含んでいました。つまり、太陽系外縁でリュウグウの有機物はできたことになります。その後も有機物は高温に曝されることなく、保存されてきたことになります。
 そこから、次のようなリュウグウ形成のシナリオが考えらえました。
 太陽系の材料物質は、初期の高温期には、内側では高温の変成作用、外側では水質変質(炭素質コンドライトが受けたもの)を受けました。太陽系の外縁部は、太陽風より宇宙線に強く曝される環境で、そこで有機物が形成されました。有機物は変質を受けることなく、形成されたままのものも残っていました。
 このような異質な成分を含む天体は、氷を主として珪酸塩と有機物を含む小さな天体(数10km)として「リュウグウ前駆天体」ができました。氷天体が破壊され、彗星核が形成され地球近傍を巡る軌道に入ったと考えれます。氷は昇華していき、リュウグウになったと考えられます。
 少々複雑なシナリオですが、太陽系の外縁では、高温に曝されていない初期のままの素材が残っているかもしれません。その一部が、リュウグウとなりました。有機物とその化学組成がその根拠になっています。隕石では見つかっていない成分を含んだタイプの小惑星が、太陽系の外縁に多数ある可能性も示しています。

・前期終了間近・
今週で講義がすべて終わりました。
祝日などの関係で、15回の講義が
同じ回数をこなせない曜日ができます。
最後の週では、水曜日の講義が2回行われます。
担当している講義が水曜日には3つあるので
それが金曜日に振り替えられます。
今週は少々大変ですが、
その後、定期試験の期間になります。
それでやっと前期が終わります。

・論文投稿・
前期の講義の終わる前に、
論文の締め切りが今週末にあります。
このマガジンが発行されるときには、
投稿しているはずです。
査読を受けるので、その後に修正も生じるのですが、
とりあえずは一段落です。
途中で止まっている大きなプロジェクトを
進めなければなりません。

2022年7月21日木曜日

5_197 小惑星の有機物 5:同位体異常

 太陽系の材料は、初期に元素レベルで均質化され「太陽系ブレンド」になりました。太陽系の材料にあった多様性が、消えずに残っていることがわかりました。隕石の中に見つかる「同位体異常」と呼ばれているものです。

 中村さんたちの論文は、
On the origin and evolution of the asteroid Ryugu: A comprehensive geochemical perspective
(小惑星リュウグウの起源と進化:包括的な地球化学的見通し)
というタイトルで56ページにおよぶ大著です。副題の「包括的地球化学的見通し」に、大局的な地球化学的視点で見ていこうという意気込みを感じます。
 前回、均質化が太陽系成分の同位体組成にまで及んでいると紹介したのですが、そこに重要な意味があります。同位体とは、同一元素の中で中性子の数が異なるもので、質量数の違いとなります。放射性の同位体がなければ、同じ元素内の同位体の比率は決まっています。まったく起源の違う物質では、異なった同位体組成をもつことになります。
 前回紹介したように、さまざまな起源の元素、さまざまな由来の化合物から太陽系はできたと考えられます。しかし、現在の地球や月、火星、隕石などすべての物質の同位体組成は、均質になっています。太陽系の材料に混じっていた化合物も、元素、同位体にまで均質化されたことを意味します。
 しかし、例外が見つかりました。同位体組成から、稀に均質化を免れた物質が見つかっています。そのような太陽系外の固体物質は、ばらばらの同位体組成をもっているはずなので、当然太陽系の均質化した値とは異なっているます。そのような太陽系外の同位体組成が見つかったので、「同位体異常」と呼ばれました。
 同位体異常は、隕石の中にあるいくつかの粒子から見つかっていました。そのような粒子は太陽系形成前のものなので、プレソーラー粒子(presolar grian)と呼ばれています。何種類かの同位体組成が、何種類かの粒子から見つかっています。隕石で見つかっていた同位体異常を示す物質が突き止められていて、いずれも高温でも残るような鉱物でした。
 今回、リュウグウの有機物で、そのような同位体異常が見つかったという報告です。有機物は高温に弱いので、高温状態にはならない場所に由来するものです。これは重要な発見です。その詳細は、次回にしましょう。

・面談練習・
大学はいよいよ前期最後の講義になってきました。
8月上旬からは定期試験となります。
並行して学科の4年生の教員採用試験のために
面談練習をしています。
8月初旬まではバタバタしています。
昨年は、オリンピックの開催のため
教員採用試験のスケジュールも変更されていました。
それが以前の状態に戻りました。
1次試験の発表から2次試験がすぐなので
準備期間が短くなりました。
集中的にできるのでいいのかもしれません。

・論文の締め切り・
7月下旬に論文の締め切りが迫っています。
現在、まだ完成していません。
空き時間は論文にかかりきりになっています。
毎年、論文の締め切りではバタバタします。
一方、著書の出版には、締め切りがないで
自分のペースで進められます。
精神的には非常に楽なので健全です。

2022年7月7日木曜日

5_195 小惑星の有機物 3:リュウグウの岩石タイプ

 イトカワは、もっとも一般的なタイプの小惑星で、隕石とも対応しました。では、リュウグウはどうなっているのでしょうか。今回から、リュウグウの特徴を紹介していきましょう。


 これまでのエッセイでは、イトカワの岩石の特徴を見てきました。イトカワは、小惑星の反射スペクトルでは最も多いS型タイプで、隕石の中で最も多い普通コンドライトとは異なった特徴もありました。試料で確かめられた結果、イトカワは普通コンドライトと一致しました。惑星表面での宇宙風化によってスペクトルが変化していくことも、明らかにされました。これまで謎であったスペクトル型と隕石の違いが、サンプルリターンで解消されました。
 さて、リュウグウは、望遠鏡での観測ではC型スペクトルをもち、炭素の多い天体と推定されていました。炭素の多い隕石は炭素質コンドライトで、リュウグウはそれに相当すると推定されていました。ただし、炭素質コンドライトは、落下比率が5%程度しかなく、稀なタイプとなります。それが今回の試料分析から炭素質コンドライトであることが確認されました。
 炭素質コンドライトは、水も炭素も多く含むのが特徴となっています。普通コンドライトは高温状態を経験していることが多いのですが、炭素質コンドライトは高温の状態を経験することなく、地球に落下したことになります。炭素質コンドライトをもたらした天体(母天体と呼びます)は、内部が高温になったり、溶融したりすることのない状態で、太陽系初期からある小さな天体であったことになります。
 また、リュウグウの試料は、炭素質コンドライトの中でも水分に富むCIコンドライトであることがわかりました。CIコンドライトは、最大では重量比で20%まで含み、炭素も3wt%も含んでいますが、高温包有物(CaとAlに富む包有物でCAIと略されています)を含みません。ところが、CIコンドライトと比べて、密度が小さいこと、反射率が低いことなど異なる点もあることもわかってきました。
 水による変質を受けているかもしれませんが、太陽系初期の固体物質の特徴を、そのまま残している隕石の可能性があります。
 では、リュウグウの試料から、どのような新しいことがわかったのでしょうか。それは次回としましょう。

・野外調査終了・
前期の調査が先週分ですべて終わりました。
今回は雨が少し降りましたが、
幸いなことに海岸沿いでは
晴れ間が多くて助かりました。
予定地域はほぼ調査することができました。
内陸はフェーン現象で高温になっていたのですが、
海岸沿いは涼しく、調査も順調でした。
しかし、自宅にもどったら暑くでぐったりしました。

・夏・
いよいよ後期の授業も2、3回となりました。
暑くなってきたので、学生も教員も大変です。
定期試験が最も暑い時期にあります。
しかし、北海道にある我が大学の教室にも
エアコンが設置されました。
酷暑の中での試験がなくなりました。
幸いなことですね。
しかし、研究室にはエアコンはないので暑いです。

2022年6月30日木曜日

5_194 小惑星の有機物 2:イトカワの岩石

 小惑星のスペクトル分析と隕石との対比から生まれた、不一致という問題がありました。イトカワのサンプルリターンから解決されました。小惑星からの実物試料の重要性が示されました。


 日本では、小惑星のイトカワとリュウグウからサンプルリターンをしています。両者の天体は、恒星岩石の種類が異なっていました。それは、事前にわかっていました。小天体の表層部分の成分は、スペクトル分析によって知ることができるからです。
 スペクトル分析とは、直接処理できない物質を、光を詳しく調べること知る方法です。未知の物質が発する光の波長(あるいは周波数)と波長ごとの強度(エネルギー)を測定します。その測定値と、既知の成分(元素)ごとの波長と強度を比べることで、未知の物質の成分を推定する方法です。
 天文学では、光を発する恒星では放射光によるスペクトル分析をしますが、光を発しない天体では、恒星からの光を反射した光(反射スペクトル)の分析をしていくことになります。いずれでも、スペクトル分析が可能です。入手できる隕石のスペクトル分析と比較することで、天体の構成物を推定することができます。
 多数の小惑星の反射スペクトル分析がされており、そこから天体の区分ができています。S型に区分されるタイプが最も数が多く、小惑星帯の内側(太陽に近い側)に多く分布していることもわかってきました。
 一方、隕石でもっとも多いタイプは、普通コンドライトと呼ばれるものです。隕石が小惑星帯から飛んでくるとすると、S型が普通コンドライトに一致すれるはずです。
 ところが、S型の小惑星と普通コンドライトのスペクトは一致しませんでした。普通コンドライトよりは、石鉄隕石に似ていることがわかってきました。これは、大きな謎でした。スペクトルが一致していませんので、もしかすると未知の隕石からなる小天体や、別の原因があるのかもしれませんでした。
 スペクトルの不一致に対して、いくつかの仮説が提示されていました。
 小惑星帯から地球に落下する隕石は偏った軌道でそこには普通コンドライトが多いという説、地球から観測できないほどの小さいサイズの天体は普通コンドライトが多いという説などがありました。いずれも、S型と普通コンドライトは異なっているという考えの説でした。
 一方、小惑星の表面は宇宙風化(太陽風や宇宙塵の衝突など)を受けるという説がありました。もともとは普通コンドライトだったものが、宇宙風化でスペクトル型が変化したという説です。
 イトカワはS型と呼ばれるスペクトル区分で、実際に入手された試料から、普通コンドライト隕石であることがわかりました。また、はやぶさが接近して観測しているので、宇宙風化の様子も確認されました。以上のことから、これまで謎であった、S型小惑星が普通コンドライトで、スペクトル型が異なっているのは宇宙風化のためであることがわかってきました。
 イトカワの試料が入手でき、分析することで、これまでの謎が解決できました。実物試料があれば、さらに詳しい分析ができます。
 普通コンドライトは、鉄の量で区分されているのですが、鉄の量からEコンドライト、Lコンドライト、そして鉄も金属も少ないタイプがLLコンドライトに区分されています。イトカワは、LLコンドライトで、さらにLL4からLL6に分類される試料が多いこともわかってきました。
 このように実際の試料をもとに調べていくことで、多くの情報をえることができます。リュウグウについては、次回としましょう。

・野外調査へ・
今週後半から、野外調査にでます。
前期では最後の調査になります。
大雪から道北を周っていきます。
何度も訪れているところですが、
調べる内容が違うので、
記載内容も少々異なってきます。
最近は道内各地を調査しているので、
主だった道路はたいてい走っています。
ですから、通いなれたところになります。
でも、自然や景観は毎回異なっているので、
気持ちが癒やされ、リフレッシュされます。

・面接練習・
前期の野外調査が7月以降できなくなるのは、
7月から8月までは校務が細切れにつまってくるためです。
6月下旬に教員採用の1次試験がありました。
次は面接が中心の2次試験になります。
7月以降、4年生の面接練習をしていきます。
毎日にように個別面接の練習をしていきます。
数日単位で大学をあけることができなくなります。
8月上旬の2次試験が終わるまでは
野外調査ができなくなります。
毎年のことなので、致し方がありません。

2022年6月23日木曜日

5_193 小惑星の有機物 1:サンプルリターン

 2022年6月6日、リュウグウから有機物が見つかったというニュースをご覧になられた方もいるかと思います。今回からシリーズで、小惑星における有機物についての話題をいくつか紹介します。


 月以外の天体の試料は、日本のはやぶさによるイトカワと、はやぶさ2によるリュウグウの、2つからしかえられていません。これらからえられるデータや知見は、非常に重要となります。
 リュウグウとは、はやぶさ2が訪れた小惑星です。リュウグウは、地球近傍小惑星と呼ばれるグループに分類されています。地球近傍小惑星とは、地球に接近する軌道をもったものです。交差すれば、衝突する可能性もあります。
 その小惑星でも、いくつかに区分され、アポロ群またはアポロ型小惑星と呼ばれるグループがあり、イトカワもリュウグウも、これに属します。アポロ群とは、火星より内側の軌道で、地球軌道の中に入ったり、外にでたりする楕円の軌道をもっています。
 このような小惑星には、地球周辺の軌道に近づくので、太陽からの軌道を大きく変化させる必要がありません。そのため、燃料をあまり使わずに行き来できるというメリットがあります。試料を地球に回収を目指すには、好都合の天体となります。
 はやぶさ2は、リュウグウに2回着陸をしてサンプルを採取しました。そして、試料の入ったカプセルを切り離し、地球に届けました。はやぶさ2の本体は、現在も別の小惑星に向けて、新たな探査ミッションに入っています。
 はやぶさも、小惑星イトカワから試料を採取しています。直径が0.01mm以下、最大でも直径が0.2~0.3mmの、微小な試料が多数採取されました。しかし、1μgにも満たないほどのとても小さいもので、いずれも小さいので質量は測定されていません。約1500個がイトカワの由来と確認され、研究者に配布され、分析されてきました。
 一方、リュウグウの試料は、5.4gが回収されています。イトカワと比べると、非常い多くの試料が持ち帰られたことになます。由来のはっきりとした天体の試料は、月とイトカワについで3番目となります。
 ニュースは、このリュウグウの試料を用いて分析した結果となります。詳細は次回としましょう。

・予約送信・
このエッセイは、予約送信しています。
前回の調査のときは、
ひとつ目のメールマガジンを送信に続いて
ふたつ目の送信をすべきところを忘れていました。
日曜日、気づいて慌てて送信することになりました。
このところ2週間に一度、調査にでているので、
スケジュールが混み合っているため、混乱しています。
今回は忘れないように送信しました。

・4回の野外調査を・
5月から7月初旬まで、
4回の野外調査を予定しています。
7月になると、4年生の採用試験の対応で
時間がなかなか取れなくなるためです。
例年より多くなっています。
それは道外の長期調査が
できるかどうかわからなかったので
道内調査を何度もすることにしました。
秋になったらまた何度かでかけたいのですが、
講義と校務が重なってくるとので
予定を立てるのが難しくなります。
いつでも日程が合えば出かけられるのはいいですね。
以前は、当たり前のことでしたが。

2022年6月16日木曜日

4_168 火星研究への旅 13:トゥーティング・クレータ

 シャーゴッタイトと呼ばれる火星起源隕石は、トゥーティング・クレータから飛んできたのではないかと、推定されました。その推定には、どのような方法が、用いられたのでしょうか。


 シャーゴッタイトが由来したクレータ探しの報告の紹介しています。放射線の照射年代から、隕石が、宇宙空間にあった期間が110万年間であったことがわかってます。その頃に起こった衝突クレータを探せばいいことになります。ただし、シャーゴッタイトの岩石学的性質から、枯渇したマントルから形成された火山岩であることもわかっています。また、岩石ができた形成年代も、5億年前から1億8000万年前だとわかっています。そのような場所に起こった衝突によるクレータから由来しという束縛条件になります。
 まず、クレータができた時期を正確に調べる必要があります。クレータの形成年代は、クレータのその地域での衝突頻度とサイズの関係が、べき乗則に基づいていることから、年代を推定する方法があります。ただし、それでは誤差が大きな年代しかできず、新しいクレータを識別するのは困難なので、もっと詳細に調べていきます。
 幸い火星の表面の精密画像があるので、そこからより詳しく年代が推定できます。
 大きな衝突のときにできたクレータ(1次クレータと呼ばれています)から、周囲に破片が飛び散り、それらのうち大きなものが、再度小さなクレータ(2次クレータ)を形成します。火星には大気があるので、小さいクレータ(直径1km以下のもの)は、時間がたてば消えていきます。このような小さな2次クレータが残っているような、1次クレータは新しい時代の衝突になります。
 小さなクレータを識別し、その数やサイズを計測するのは、人手では困難になります。そこで、AIを導入して画像解析をしています。
 AIによる解析で、クレータが約9000万個も見つかりました。到底、人にはこなせない作業です。
 シャーゴッタイトは火山岩なので、これらのクレータのうち、火山平原であるものを探します。そのような場所から、19個が新しいクレータが、2次クレータに囲まれていることがわかりました。これら19個が、新しい時代のクレータとなります。そのうち、いくつかが110万年前ほどの新しいものだと推定されました。
 次はシャーゴッタイトの形成年代と火山岩のタイプを参考に、さらにクレータを絞っていきます。そのような場所にあるクレータは、「09-00015クレータ」と「トゥーティング・クレータ(Tooting crater)」の2つになってきました。いずれもタルシス高原にあり、そこはマントルプルームが上昇してできたところです。
 2つのクレータの形状をみていくと、違いがありました。後者は、氷や水があるところに斜めに衝突したと考えられています。そのような場で斜めに衝突すると、破片が宇宙空間に飛び出しやすいことがわかっているので、トゥーティング・クレータが有力な候補になると考えられています。
 今回は候補が2つまで絞られ、さらに有力候補も出すことができました。この2次クレータまでを利用してAIで画像解析する手法は、他のSNC隕石の由来にも適用可能で、また他の天体でも応用できそうです。将来性のある手法です。

・道東の調査・
今週末から来週にかけて、道東に調査でます。
やっと思い切って調査にでかけられます。
7月はじめにも調査にでる予定です。
ただし、7月から8月にかけては、いろいろ校務があり、
調査に出る日程が確保できなくなります。
次の野外調査は、9月になってからですかね。

・喉元すぎれば・
喉元すぎれば、という状況が
コロナ対応でもでてきたようです。
私も野外調査に通常通りでかるようになりました。
感染者数は変動がありますが
現在でも、まだ高止まり状態のままです。
感染しても症状がひどくなく、
後遺症も残らないのであれば、
インフルエンザと同じような対処でよいのかもしれません。
安全を期した対処が、取られているので
それに従うするのはいいことでしょう。

2022年6月9日木曜日

4_167 火星研究への旅 12:シャーゴッタイト

 火星起源隕石のひとつのタイプとしてシャーゴッタイトと呼ばれるものがあります。その隕石が、火星のどこからきたのかを、突き止めようとした研究が報告されました。


 火星から飛び出して、地球にまで来て隕石となるためには、いくつかの過程あります。火星が固まった大地があり、そこに大きな隕石の衝突が起こり、そのとき飛び出した破片の一部が、火星の引力圏から飛び出し、太陽の引力にひっぱられて、火星より内側の軌道に入りました。それらの破片のうち、地球と交差したものが、隕石として地球に落下することになります。
 前回、火星起源の隕石が何種類かあることを紹介しました。複数の種類があるのは、飛び出した時代や場所に違いがあったことになります。当然、地球に落ちてこないものもあるはずです。火星から飛び出すような衝突が、何度かあったことになります。
 隕石の情報を読み取ることで、飛び出した場に対して、束縛条件をつけることができます。今回の報告は、シャーゴッタイトに関するものでした。シャーゴッタイトは火山岩ですが、枯渇したマントルで形成されたマグマからできたものでした。枯渇したマントルとは、火星形成時のままのマントル(始原的、未分化とも呼ばれます)ではなく、溶けやすい成分が抜けたマントルから形成されたマグマとなったものです。地球では海洋地殻を形成するようなマグマに相当します。また、その形成年代も数億年前であること、また110万年前に衝突があったこともわかっています。
 火星では、プレートテクトニクスが働いていなかったので、マントルプルームという対流が起こっており、その対流の上昇が枯渇したマグマの活動場になりそうです。
 火星から飛び出したのであれば、隕石に相当する衝突クレータがあるはずです。隕石の情報をもとに、クレータ探しをしていくのですが、どのクレータからそれぞれの火星起源隕石が由来したかを特定するのは非常に難しいものでした。今回、それを特定したというのが、ラガイン(Lagain)さんらの論文になります。

・遅ればせながら・
調査にでていたので、てっきり、その前に
本メールマガジンを予約配信しているものだと思っていました。
ところが、週末に次のメールマガジンを書こうとしたら
発行していないことに気づきました。
今まで毎週かかさず発行してきたのですが、
ついに発行忘れをしてしまいました。
用意していたので、残念です。
遅ればせながら発行します。

・野外調査再開・
先週末から月曜日にかけて
道南へ野外調査にでかけました。
その様子は別の機会に紹介しましょう。
今回「地球地学紀行」として火星研究の旅を
シリーズで続けているのは、
なかなか調査にでかけられないためでした。
しかし、今季から野外調査には
出かけられるようになってきましたので
そろそろ紹介できるものもでてきそうです。

2022年6月2日木曜日

4_166 火星研究への旅 11:SNC隕石

 火星の岩石はいまだに持ち帰ることはできていません。しかし、火星起源隕石があるので、それを用いて岩石学的研究ができます。火星のどこに由来するのがわかっていなかったのですが、最近特定されてきました。


 アポロ計画で月から岩石を持ち帰っています。実物資料があるので、詳しく調べることができて、他の天体の岩石は、イトカワとリュウグウから無人探査機が試料を持ち帰りました。小惑星だったので、重力が小さいため、タッチダウンの後、簡単に離脱することができました。また、無人探査機だったので、生命体が乗っていないため、そのためのシステムが不要で、長い時間を要しても問題はありませんでした。
 火星には多数の探査機が訪れていますが、火星の岩石はいまだに地球には持ち帰られてはいません。火星は大きな天体なので、重力も大きく離脱するために、多くの燃料が必要になります。また、遠くなので、地球に戻るためにも燃料が必要になります。そのため、岩石を入手するのが難しくなります。
 しかし、幸いなことに、火星から飛び出して地球に落ちた岩石が見つかっています。火星起源の隕石です。
 火星起源とされている隕石が何種類があります。SNC(Shergottite シャーゴッタイト、Nakhlite ナクライト、Chassignite シャシナイト)と呼ばれるものに区分されています。斜方輝石岩(Orthopyroxinite)も火星起源です。隕石のデータベースで検索すると、火星起源と考えられているものが334個もでてきます。また、斜方輝石岩のAllan Hills 84001からは、化石のようなもの見つかって話題になったことがあります。
 そもそも火星起源を決定づけたのには、いくつかの根拠がありました。通常の隕石は45億年前の年代を示すのですが、火星起源の隕石は、若い形成年代(shergottiteは6億5000万~1億6500万年前、nakhlaとchassigniteは13億年前)を示しました。マグマから結晶ができて火成岩ができるのですが、火成岩の組織として、重力のあるところ(大きい天体)で形成されたものになっていること、高圧下(大きい天体)でのマグマが形成されたことを示す鉱物組成をもつこと、酸化度の高い鉱物と含水鉱物をもつこと、火星の表面の岩石の化学組成にも似ていることなど、さまざまな証拠があるため、火星起源と考えられています。
 2021年11月のNature Communications誌に、ラガイン(Lagain)さんらの共同研究で
The Tharsis mantle source of depleted shergottites revealed by 90 million impact craters
(9000万個の衝突クレータから明らかにした枯渇したシャーゴッタイトのタルシスのマントルが起源)
というタイトルでした。シャーゴッタイトという火星起源の隕石が、タルシスのマントルから由来したことを特定したというものです。
 隕石の火星由来はいろいろな証拠があったのですが、飛び出したクレータの場所が特定されたということになります。その方法は次回としましょう。

・野外調査・
今週末に、調査にでます。
今回は道南方面です。
コースとしては何度も通っているところですが、
目的が違っているので、
見るところや見方が変わってきます。
今回は、通常の火山とカルデラを伴う火山
そして、古い付加体中の地層と地層を見ることです。
野外調査がやっと自由にでききるようになって助かっています。

・涼しい週末・
本州では暑い日なっていたようですが、
先週末は、北海道では風雨が激しく、
気温も低目になっていて肌寒く感じました。
さすがにストーブをつけることはありませんでしたが、
冬の室内着を出して着ていました。
布団も夏の肌掛けだけでは寒いので、
毛布をかけてちょうどいいくらいでした。
変わりやすい天気です。

2022年5月26日木曜日

4_165 火星研究への旅 10:コーティングの形成

 火星の岩石の表面に、2種類のコーティングが見つかりました。それらのコーティングは、どのようなもので、いつ、どこでできたのでしょうか。謎は、解決はできていませんが、将来、重要な情報をもたらすかもしれません。


 前回、パーサヴィアランスは、紫色と黒色のコーティングされている岩石を発見したことを紹介しました。紫色のコーティングには酸化鉄があり水素とマグネシウムを多く含み、黒いコーティングにはマンガンを多く含むことがわかっています。
 紫色のコーティングの水素の存在は、水が関係している可能性があります。また酸化鉄も、鉄の酸化(酸素の存在)だけでなく、水の存在も予想されます。
 そもそもパーサヴィアランスが降り立ったこのジェゼロ・クレーターは、直径約50kmほどの大きさがあり、かつては湖であったと考えられているところです。したがって、ある時期までは、水があってもいいところになります。
 一方、黒色のコーティングされた岩石に似たものが、地球でも見つかっています。それは、乾燥した地域の露岩の表面に、黒色から茶色まで色が変化していくようなコーティングのされた岩石が見つかっています。「砂漠ワニス」と呼ばれているものです。火星のコーティングの色や、成分のマンガンが、砂漠ワニスと似ています。
 地球の砂漠ワニスは、岩石の表面で、環境条件の安定したところに形成されます。コーティングが一旦形成されると、表面は安定し、風化にも耐えられるようになります。砂漠ワニスの主な成分は、粘土と鉄とマンガンの酸化物からできています。
 粘土は、大気や流水などで風化が起こっているところにできるものです。またマンガンは、地殻では少ない元素なので、なんらかの濃集のためのメカニズムが必要になります。地球にはマンガンを利用して生きている生物(放射線耐性菌)もいて、そこには砂漠ワニスができることもあります。
 火星の黒色のコーティングのでき方も、同じようなメカニズムでしょうか。もしかすると黒のコーティングは、火星生物の痕跡の可能性もあります。ですからそこから化石が見つかるかもしれません。まだ不明でが。
 以上の可能性や推測から、次なようなシナリオが考えられます。クレーター内に水のあった時代に、紫のコーティングが形成されます。その時期には生物が誕生していました。クレーターの水が減少していき、乾燥しはじめてくると、生き残った生物が、黒色のコーティングをつくっていきます。それをパーサヴィアランスが発見しました。まあ、これは架空のシナリオですが。
 不思議なことがあります。パーサヴィアランスは、クレーターの火成岩の上を走行しています。そこは、堆積物がまたっているような場所ではありません。したがって、火成岩地帯に、このような水に関係したコーティングされた岩石があることが不思議です。このコーティングされた岩石が、どこから来たのか、いつ水に接触したのか、不明です。
 保存された試料が、いつの日か地球に持ち帰られ、その謎が解かれるのを期待しましょう。

・予約発行・
先週末から、野外調査にでていることは
前回のメールマガジンで紹介しました。
野外調査後、このメールマガジンが発行される前日まで
校務出張が2日連続して入ってきました。
そのため、このエッセイは予約発行をしています。
この予約発行のシステムがあるので本当に助かります。
今ではインターネットに繋がる環境が
どこでも当たり前に手に入ります。
野外調査の最中でも発行は可能ですが、
やはり疲れているのと、宿でも作業があるので
メールマガジンのための作業は難しいです。
幸い出かける前に予約できるので、
野外調査に集中できます。
本当に、助かっています。

・島の調査・
当初、今年度の野外調査では
北海道の島をいくつか巡る予定をしていました。
5月の調査である島は泊まる計画しました。
もともと宿が少ないのと、行楽シーズンではないの時に
やっていないことがわかり諦めました。
コロナの影響でしょうか。
また6月にいく予定のもう一つの島は、
フェリーの時間を見ると、昼に島に入り、
朝に出るという運行になっています。
フェリー発着地まで自宅から半日かかるので
講義の合間にでかけるには、
島で半日しか調査できなくなるので諦めました。
そのため、今年度は前半は、車で自由に移動できる
道内の調査に切り替えました。
なかなか当初の予定通りにはいかないものです。

2022年5月19日木曜日

4_164 火星研究への旅 9:コーティングの発見

 前回は、火星の表層を探査しているパーサヴィアランスを紹介しました。ローバーが観測をはじめてから、1年ほどです。ローバーの観測から、成果がではじめてきました。そのひとつを紹介します。


 探査機ローバーのパーサヴィアランスの成果が、2021年12月のアメリカの地球物理学連合(AGU)の学会で発表されました。探査機が降り立った地域の岩石の特徴を報告したものでした。2021年2月に到着して1年にも満たないのですが、成果がではじめてきました。
 パーサヴィアランスにはマストカムZというカメラが搭載されています。特定の波長を遮断するフィルターをつけて、撮影できます。そこから、ある程度組成を推定することができます。また、スーパーカムは、2つのレーザー、4つの分光計を使用して、岩や土壌の化学成分を測定できます。
 ローバーは、ジェゼロ・クレーターに着陸し探査しているのですが、火星の表面は、基本的にサビの赤っぽい色をしています。そのような赤の中に、紫色をしている岩石があることを発見しました。紫色の部分が、中の岩石よりも柔らかく、化学的に異なる物質の層が存在していました。紫色の部分は、岩石をコーティング(被覆)していることがわかりました。
 このコーティングは、特別な岩石にだけみつかるものでなく、いろいろな形やいろいろなサイズの岩石にもあることがわかってきました。ローバーの探査したところで、至るところにみつかっています。少なくとも、このクレータでは、よくある現象となります。この紫色のコーティングは、どうしてできたのでしょうか。
 マストカムZの画像では、酸化鉄のようなものの可能性があり、スーパーカムの画像からは、水素とマグネシウムを多く含んでいそうなことがわかってきました。
 火星での岩石のコーティングは、1970年代のバイキング(火星に着陸したNASAの探査機)ですでに見つけていました。黒っぽい斑点が見つかっていたのですが、表面の汚れではないかとも考えられていました。
 今回、パーサヴィアランスは、黒っぽいコーティングされているものも見つかっています。ですから、バイキングが発見したものがコーティングであることが判明しました。黒っぽいコーティングはマンガンを多く含むことがわかっています。
 2種類のコーティングは、どういう意味があるのでしょうか。次回としましょう。

・初夏・
北海道は遅咲きの桜も終わり
若葉の季節になりました。
先々週末に最後の桜を見いくつもりでいたのですが、
天気が悪く風も強かったので諦めた。
先週末に晴れたのやっとでかけました。
予想通り桜は終わっていましたが、
若葉の季節となっていました。
北海道にも初夏がきました。

・野外調査・
明日から調査にでかけます。
今シーズンはじめての野外調査です。
コロナ感染はおさまってはおらず
レベル2で警戒の状態のままです。
一方でGotoキャンペーンもあります。
ブレーキとアクセルを踏んだ状態でもあります。
泊まるところは仕方がないのですが、
野外調査なので、
人があまりいないところを周る予定です。
久しぶりの野外調査なのでワクワクします。

2022年5月12日木曜日

4_163 火星研究への旅 8:パーサヴィアランス

 火星研究では、地表での探査機が重要な役割を担っています。探査機の打ち上げは、長い期間かけて準備されたものです。COVID-19の感染爆発であっても、予定通り打ち上げはおこなわれました。


 火星では、パーサヴィアランス(Perseverance)と名付けられたローバーが、活動しています。ローバーは、NASAが打ち上げたもので、ジェゼロ(Jezero)クレーターの中に着陸して探査するためです。2020年7月に打ち上げられ、2021年2月には着陸して、現在も探査を進めています。
 ローバーには、7つの観測装置と19台のカメラ、2つのマイク、そして小型のヘリコプターも搭載しています。
 ローバーの目標は、生物探査と将来の探査のための準備です。
 生物の探査に関しては、微生物が生息できるような環境が、現在もしくは過去に存在したかどうか、かつて存在してかも知れない生命の痕跡を探すことです。それらを搭載された各種の装置で調べていきます。
 ただし、観測装置だけでは調べきれないので、将来のために重要な痕跡もっていそうな岩石のコア(岩石を掘り抜いたもの)とレゴリスとよばれる土壌を試料として採取していきます。それらの試料は、火星表層に保存しておきます。保存した試料は、将来回収し、地球に持って帰ろうと考えられています。
 将来、人が火星探査するために、大気から酸素つくる実験もしています。固体酸化物形電解セルという装置を用いて、大気中の二酸化炭素を電気分解して、酸素をつくる試みです。2021年4月には、その実験が成功しています。その結果、この仕組みを大規模に展開することで、火星の大気から、人の呼吸用や推進剤のための酸素、また水素と化合させることで水もつくる見通しができたことになります。
 小型ヘリコプターは、インジェニュイティ(Ingenuity)と呼ばれ、カメラだけを搭載したものです。太陽電池で、薄い大気の中での飛行実験が成功しました。薄い火星大気中を、自由に飛び回ることができたことが重要です。将来、ドローンによる探査や運用の可能性を拓いたことになります。カメラでローバーのコース選定の情報を提供しました。
 ローバーは、その名の通り、「忍耐強く」探査や実験しながら、移動しています。そこで不思議な現象を発見しています。その詳細は次回としましょう。

・テレワーク・
パーサヴィアランスの打ち上げは、2020年7月で、
アメリカの含めてCOVID-19の感染爆発の最中でした。
各地でロックダウンが起こりました。
打ち上げもリモート、テレワークで進められていました。
メンバーのテレワークの写真も示されています。
家庭や家族も写っている
一見微笑ましい画像もありますが、
大変はストレスだったと思います。
成功してよかったです。

・休暇・
長いゴールデンウィークが終わりました。
期間中の2日の平日を休みをとることで
10日間の長い休みとなっている人もいるそうです。
我が家も夫婦で休暇をとりました。
北海道のある地域に7日間、滞在しました。
のんびりとした時間を過ごしました。
たっぷりと睡眠時間をとることができ
頭も体もリフレッシュしました。
ただ、もう日常に戻っていますが。

2022年5月5日木曜日

4_162 火星研究への旅 7:熱的進化

 火星のリンクルリッジの形成年代には、偏りがありました。この年代の偏りは、何を意味しているのでしょうか。リンクルリッジから、火星と地球の違いが垣間見えてきました。


 リンクルリッジとは、天体表面に形成されているシワのような地形です。火星では、リンクルリッジは、火山の周辺に多数形成されていました。そこから、火山活動が終わったあと、周囲の地殻が収縮したり、歪むことで形成されたと考えられています。
 集中している27箇所でリンクルリッジで、それぞれの形成年代を正確に決めていくと、38~25.2億年前の間に形成されていることがわかってきました。中でも特に、35.9~35.5億年前にもっと多くできていることがわかりました。
 もし各地のリンクルリッジがバラバラの年代を示すのであれば、それぞれの火山の活動時期の終焉を示していることになります。ところが、リンクルリッジ形成時期は、ある時代に集中していました。その年代の偏りには、どのような意味があるでしょうか。
 時代の偏りとは、火星全体で同時期にリンクルリッジができていることになります。これは、火星全域で火山活動が一気に停止したことを意味します。火星の内部の条件で、ある時期集中的にマグマが活動して、その後活動が停止するような状態に移行したと推定できます。
 このような火星内部の冷却の歴史は、天体の地質活動の変遷となるはずです。これが論文のタイトルにも使われていた「熱的進化」と呼ばれるものです。
 38億年前より古い時代にはリンクルリッジが見られませんでした。この時期にも火山活動があり、形成されていたはずです。火星の創生期には、大気や水が存在し、雨が降り、川ができ、海がありました。そのため侵食作用が強く働いていた時期でした。多数あったはずのリンクルリッジが、初期のものは消えてしまったと考えられます。
 38億年前ころには侵食作用がおさまり、36億年前から火星内部の熱の放出によって一気に火山活動が激しくなり、4000万年ほどでで活動がおさまり、火星全体が収縮する時期になります。そして、25億年前には火星内部にはマグマができるような条件がなくなり、火山活動が停止します。
 35億年前には火星では激しい火山活動が終わっています。ところが地球では、やっと岩石などの記録が残ってくる時期に移行します。これ以降、地質活動が記録に残されていきます。地球には大気や海洋が豊富で、常時、古い地形を侵食していくのですが、大陸の内部には古い岩石の断片が残されていました。そこから、地球の地質活動の歴史が読み取られてきました。

・のんびりと・
前回紹介しましたように、
現在、夫婦で田舎に1週間ほど滞在しています。
そのため、このエッセイは、予約配信しています。
コロナ感染を避けながらが、
ひっそりとのんびりと過ごしています。
北海道はやっと桜の季節になりました。
滞在している田舎の桜前線はどうでしょうか。
晴れて桜が咲いていれば、いいのですが。
人のいないところをうろうろしながら
春を満喫するつもりです。
家内は地元で漁港で取れた
おいしい魚を楽しみにしています。
地元でテイクアウトできる店を探して
いこうとも考えています。
こんなにのんびりできるのは3年ぶりでしょうか。
楽しもうと考えています。

4_162 火星研究への旅 7:熱的進化

 火星のリンクルリッジの形成年代には、偏りがありました。この年代の偏りは、何を意味しているのでしょうか。リンクルリッジから、火星と地球の違いが垣間見えてきました。


 リンクルリッジとは、天体表面に形成されているシワのような地形です。火星では、リンクルリッジは、火山の周辺に多数形成されていました。そこから、火山活動が終わったあと、周囲の地殻が収縮したり、歪むことで形成されたと考えられています。
 集中している27箇所でリンクルリッジで、それぞれの形成年代を正確に決めていくと、38~25.2億年前の間に形成されていることがわかってきました。中でも特に、35.9~35.5億年前にもっと多くできていることがわかりました。
 もし各地のリンクルリッジがバラバラの年代を示すのであれば、それぞれの火山の活動時期の終焉を示していることになります。ところが、リンクルリッジ形成時期は、ある時代に集中していました。その年代の偏りには、どのような意味があるでしょうか。
 時代の偏りとは、火星全体で同時期にリンクルリッジができていることになります。これは、火星全域で火山活動が一気に停止したことを意味します。火星の内部の条件で、ある時期集中的にマグマが活動して、その後活動が停止するような状態に移行したと推定できます。
 このような火星内部の冷却の歴史は、天体の地質活動の変遷となるはずです。これが論文のタイトルにも使われていた「熱的進化」と呼ばれるものです。
 38億年前より古い時代にはリンクルリッジが見られませんでした。この時期にも火山活動があり、形成されていたはずです。火星の創生期には、大気や水が存在し、雨が降り、川ができ、海がありました。そのため侵食作用が強く働いていた時期でした。多数あったはずのリンクルリッジが、初期のものは消えてしまったと考えられます。
 38億年前ころには侵食作用がおさまり、36億年前から火星内部の熱の放出によって一気に火山活動が激しくなり、4000万年ほどでで活動がおさまり、火星全体が収縮する時期になります。そして、25億年前には火星内部にはマグマができるような条件がなくなり、火山活動が停止します。
 35億年前には火星では激しい火山活動が終わっています。ところが地球では、やっと岩石などの記録が残ってくる時期に移行します。これ以降、地質活動が記録に残されていきます。地球には大気や海洋が豊富で、常時、古い地形を侵食していくのですが、大陸の内部には古い岩石の断片が残されていました。そこから、地球の地質活動の歴史が読み取られてきました。

・のんびりと・
前回紹介しましたように、
現在、夫婦で田舎に1週間ほど滞在しています。
そのため、このエッセイは、予約配信しています。
コロナ感染を避けながらが、
ひっそりとのんびりと過ごしています。
北海道はやっと桜の季節になりました。
滞在している田舎の桜前線はどうでしょうか。
晴れて桜が咲いていれば、いいのですが。
人のいないところをうろうろしながら
春を満喫するつもりです。
家内は地元で漁港で取れた
おいしい魚を楽しみにしています。
地元でテイクアウトできる店を探して
いこうとも考えています。
こんなにのんびりできるのは3年ぶりでしょうか。
楽しもうと考えています。

2022年4月28日木曜日

4_161 火星研究への旅 6:リンクルリッジ

 火星には、リンクルリッジと呼ばれるシワのような地形が、多数見つかっています。シワの形成時期に関する研究報告がなされました。形成年代を調べていくと、何が見えてくるのでしょうか。


 次なる火星研究への旅は、火星の地形に関するものです。リンクルリッジ(wrinkle ridge)と呼ばれるいうものがあります。wrinkleは曲がりくねったという意味で、ridgeは嶺(みね)という意味です。長く続く曲がった尾根の地形で、シワのように見えます。
 リンクルリッジは、地球の衛星の月、水星や小惑星、木星と土星の衛星など、いろいろな天体にあります。火星でも見つかっていて、それを詳しく調べた研究が報告されました。
 宇宙航空研究開発機構のルジ(Trishit Ruj)さんと東大の河合研志さんが、Icarusに2021年に報告されたものです。
 A global investigation of wrinkle ridge formation events; Implications towards the thermal evolution of Mars
 (リンクルリッジ形成事件の全球調査;火星の熱的進化への関係)
というタイトルです。リンクルリッジの形成時期を、火星全域で調べた結果を報告しています。そこから、火星の熱的進化を考えた研究成果です。
 まず、NASAの火星探査機のマーズ・リコナサンス・オービター(MRO)が撮影した画像から、リンクルリッジを決定していきました。火山の周りの27箇所にリンクルリッジが分布していることわかりました。
 次に、リンクルリッジの形成年代を判読してきます。その方法は、クレータ年代学を応用したものです。クレータの形成数(形成密度)から年代を決める方法がクレータ年代学です。ただし、リンクルリッジのような線状や曲線状の地形には、クレータ年代学がなかなか適用ができず、年代を決めるのが困難でした。そのような地形でも適用できるクレータ年代学としてBCC(Buffered Crater Counting)が開発されていました。この研究では、BCCを適用して、リンクルリッジの形成年代を精度良く推定してきました。
 その結果、リンクルリッジの形成が、ある年代に集中していることがわかってきました。詳細は次回としましょう

・気分転換・
最近、疲れが溜まっているせいか
研究していても集中力にムラがでてきます。
2年間のコロナによる遠隔授業や自粛生活の後
感染対策をしながらも、
4月から対面授業や対面会議が復活してきました。
心身が対面に対応するのに
時間がかかっているのでしょうか。
特に精神的疲労がたまっている気がします。
気分転換が必要です。

・完全にオフ・
明日から、ゴールデンウィークに入ります。
コロナ感染は治まっていませんが、
北海道の田舎で気分転換として、
しばらく夫婦で完全にオフ状態に入ります。
のんびりと田舎暮らしをしてきます。
北海道の片田舎で、一週間、のんびりとします。

2022年4月21日木曜日

4_160 火星研究への旅 5:火星の磁場

 火星の核を想定した高温高圧実験で、液体不混和の可能性がでてきました。2つの液相が分離する時期に、磁場が発生したという仮説が提出されました。その仮説からいろいろな疑問も派生してきますが、これも進歩です。


 前回、「Fe-S-H系」と「液体不混和」について説明しました。火星の誕生直後は、内部が高温高圧条件だったので、「Fe-S-H系」からできた核は、完全に均質(1相)の液体でした。
 冷却によって、鉄とイオウが液相の状態で分離(2相)して「液体不混和」が起こることがわかりました。ある時から2つの液相ができて、重い鉄が下に沈み、軽いイオウが浮き上がってきます。この分離の時期には、核内の液相が活発に動き、対流することになるので、磁場が発生したと考えらえています。
 さらに温度が下がって現在の火星の核の条件(圧力が20~40万気圧、温度が2000~2500 K)になると、完全に2つの液相が分離した状態になってしまいます。きれいに成層(上にイオウの液相、下に鉄の液相)しているので、対流しない状態と推定されています。そのため、磁場の発生ができなくなったと考えました。
 さて、このシナリオは、どこまで正しいのでしょうか。高温高圧実験に基づいた仮説です。実験では、水素が大量に含まれた条件でおこなわれています。火星の表層に水が存在していたことは明らかになっています。しかし、水(水素)が、核にまで大量に運ばれたのは、どのようなメカニズムなのかは、不明です。
 また、大量に核内に存在していた水素は、どこにいったのでしょうか。鉄かイオウの相に混じっているのでしょうか。それともマントルや火星外に放出されたのでしょうか。その時期やメカニズムはどのようなものでしょうか。
 また、核の存在は検証されていますが、軽いイオウの層があるかどうかは不明です。さらに、鉄やイオウが液相として存在しているのあれば、それぞれの層内で対流サイズは小さいですが、起こっているはずです。その対流では、なぜ磁場が発生しないでしょうか。
 水のあった地球でも、核は似た条件にあったことが想定されます。地球ではイオウの液相の存在は確認されていません。詳しく調べられているので、多分ないはずです。では、火星と地球の層構造の違いは、何によるのでしょうか。
 他にも課題はいろいろとありそうです。根拠をもった新しいシナリオができたので、そこから生じた次なる課題なります。研究は進展しているのです。

・感染対策・
対面授業がはじまっています。
やはり学生の顔を見ながらの授業がいいです。
一方、コロナ感染も身近に迫っているのも感じます。
大学の方針で感染対策をしているので、
身近に感染者が出ても濃厚接触にはなっていません。
怖がってばかりで、遠隔授業に戻るのも大変です。
空気感染が明らかになっているので、
いつ体内にウイルスが入ってくるかもしれません。
もう入っているのかもしれません。
だれがいつ発症してもおかしくない状態です。
体内に入っても発症しないで対処できる人もいるでしょう。

・ゴールデンウィーク・
北海道では、まだ少し残っていますが
根雪もだいぶ溶けました。
今年の春は少々遅めに来ています。
北海道では日々感染者が増加しています。
今後どなるかは不明です。
感染拡大で再度、まん延防止重点措置に
ならないことを願っています。
今年こそ、ゴールデンウィークには、
久しぶりに夫婦で温泉につかりながら
のんびりとしたいと考えているのですが。

2022年4月14日木曜日

4_159 火星研究への旅 4:火星の核

 火星に磁場がないことは、観測でわかっています。では、もともとなかったのでしょうか。どうすれば探ることができるでしょうか。地球の磁場の形成メカニズムが参考になります。


 次なる火星研究の旅は、火星の磁場と内部の核に向かいます。
 現在の火星には地球のような磁場がないことがわかっています。では、もととも火星には磁場がなかったのでしょうか。地球から考えていきましょう。
 地球に磁場が存在するのが、中心部の核を構成している金属の鉄の一部が液体として存在し、流動しているためだと考えられています。もし一般的に金属鉄の流動が、天体の磁場をもたらすのであれば、火星の核が液体の鉄として存在していれば、磁場があったことになります。
 現在の火星には核があると考えられています。探査機インサイトの観測では、火星の核の密度が推定され、鉄だけより密度が小さいことがわかってきました。密度が小さくなるためには、軽くする成分が混じっていることになります。その成分として、イオウ(以前から混じっていると考えられていた)の他に、水素も混じっているのではないかと、考えられるようになりました。
 液体鉄の核があるのに、火星では磁場が観測されていません。なぜでしょうか。その課題に対してひとつの仮説が提示されました。
 Nature Communicationsという科学雑誌に、東大の大学院生の横尾舜平さんたちが共同研究で
Stratification in planetary cores by liquid immiscibility in Fe-S-H
(Fe-S-H系での液体不混和による惑星核での成層)
を2022年2月に報告されました。
 「Fe-S-H系」と「液体不混和」が専門的でわかりにくい内容となっています。
 Fe-S-H系とは、核は主にはFe(Niもあります)からできていますが、Feの中に取り込まれる可能性がある成分としてS(イオウ)の他にH(水から由来した水素)があると考えられたためです。この推定は、昔の惑星(原始惑星と呼ばれるもの)の核を構成していた隕石(鉄隕石)からも支持されています。
 横尾さんたちは、Fe-S-Hの3つの成分を素材にして、高温高圧実験がおこないました。ダイヤモンドアンビルという装置を用いて、火星の核に相当する高温高圧条件を発生して合成実験がおこなわれました。
 40万気圧(火星コア中心部のる圧力)、3000 K以上に加熱すると、イオウと鉄が均質に混じっている状態になりました。温度が下がると、イオウと鉄が分離しました。分離は、液体の状態で起こっていきます。その状態を「液体不混和」と呼んでいます。
 この結果から、横尾さんたちは、火星ができてすぐの核では、高温なので均質の液体になっていたのが、時間経過で温度が下がっていき、イオウの液体が分離したと考えました。
 この実験から、火星の核と磁場に関して、どのようなことがわかってくるのでしょうか。それは次回としましょう。

・汚れた残雪・
北海道も暖かい日が訪れるようになってきています。
時々寒い日もあり、薄っすらと積雪もあります。
温度変化の激しい日々となっています。
暖かい日には、雪解けが進んでいきます。
しかし、例年にない積雪量なので、
まだいたるところに雪が残っています。
残雪は汚いので、景色はよくありません。
汚れた残雪も春が来ている証拠ですよね。

・対面と感染・
先週から大学では、対面での授業が復活しました。
大教室での大人数での授業をおこないました。
久しぶりの感覚ですが、いいですね。
一方で、コロナ感染が
身近にも迫ってくるようになりました。
身内や担当学生にも感染者が続いています。
対面授業はいいのですが、感染拡大はいやですね。
両立できないのがつらいですね。

2022年4月7日木曜日

4_158 火星研究への旅 3:20億年前の流水

 火星には液体の水が存在していました。いつまで存在していたのでしょうか。流水が存在していた時期に関して、新しい報告がありました。火星の地形と鉱物の観察データをもとにしています。

 火星は、地球より太陽から遠いところにあるのですが、表層環境さえ整っていれば液体の水が存在できる条件(ハビタブル・ゾーンと呼ばれている)に位置していました。火星は液体の水が存在できる条件にあり、実際に、水の流れてできた河川の地形や、河川が流れんでいるところや海岸など海の地形なども見つかっています。このような地形から、少なくとも誕生した時、火星には表層に水が存在していたことになります。
 厚い大気のある地球や金星と比べて、火星は半径も小さく、重力も小さいので、大気も薄くなっています。そのためでしょうか、現在では、火星の表面には、液体の水が恒常的には存在しない天体となりました。
 では、いつまで液体の水が火星表層に存在していたのか、また周期的であっても流水があったのかなどが問題です。それは、生命誕生から進化に至るまで、十分な期間、水が存在していたかどうかに繋がる重要な条件となるからです。
 そんな謎に対して、リースク(Ellen Leask)とエルマン(Bethany Ehlmann)さんたちの研究が報告されました。
 2005年にNASAが打ち上げられたマーズ・リコネッサンス・オービター(Mars Reconnaissance Orbiter、MROと略されています)は、2006年から火星周回軌道から観測をはじめました。高解像度カメラや高精度分光計、レーダーなどを用いて、火星の地形や鉱物の分布などが調べられました。河川、流水の地形や火山、大気による地形など、詳細な画像やデータがえられました。そのデータを元に研究が進められました。
 画像から多数の火山も発見されてきました。また、レーダーから数値標高モデル(緯度経度ごとの標高データ)から、詳細な地形がわかります。分光計による地層や鉱物の分布がわかってきました。固体表面のある天体ではクレーターの数密度から年代が推定されています。詳細な地形がわかれば、表層地形の形成年代がより精密に推定できるようになります。
 リースクさんたちは、塩の堆積物に注目して、その堆積場の地形を調べました。低地で河川が流れ込んでいるような地形のところに、塩が薄く堆積(3m未満)していました。河川は、氷床や永久凍土から、時々溶けて流れ出したもののようです。そこに塩が堆積しています。
 塩の堆積物は、23億年前に形成された火山地形にも見つかりました。火山や衝突クレータの年代から、塩の堆積、つまり流水の発生は、約20億~25億年前まであったことが判明した。これまでは、火星では、30億年前には水がなくなっていたと考えられていましたが、もっと永い期間、流水が形成されていたことになります。
 どれくらいの期間があれば、生物が誕生し、進化するかはまだわかっていません。また、火星の生物の痕跡も、まだ確実なものは見つかっていません。しかし、長い期間のほうが可能性が増えるはずです。

・火星画像・
素晴らしい火星の画像が
https://mars.nasa.gov/mro/multimedia/images/
で公開されています。
デルタ地形や流水の地形、風紋、クレータなど、
地球とは似て非なる詳細な画像があります。
一度のんびりと眺めながら、
遊覧飛行気分を味わってみていはいかがでしょうか。

・新年度の活気・
今年の北海道は雪が多かったので
4月でも至る所に雪が残っています。
しかし、暖かい日が回ってきましたので
雪解けも一気に進んでいます。
大学の入学式も終わり、ガイダンスがはじまっています。
対面授業も復活してきたので
キャンパスに学生が溢れて、
新学期のはじまりを久しぶりに味わっています。

2022年3月31日木曜日

4_157 火星研究への旅 2:地底湖の有無は?

 火星の南極の氷の下から、レーダーの強い反射がありました。その反射は、地底湖ではないかという報告がありました。地底湖の有無については、賛否両論が出ています。

 火星の地底湖の研究に関して、もうひとつ報告がありました。アメリカ合衆国のサウスウエスト研究所(SwR)の研究者らの共同研究です。低温にして氷と塩水の混合物の測定するという実験をしました。
 一般に、塩分濃度が大きいと、低温でも凍らないため、火星の南極域でも、凍らずに水があると考えれていました。氷床の下にある氷の状態を-100℃まで調べたところ、塩分濃度が低い海水でも、-70℃までは凍らないという可能性が示されました。この温度は、従来の想定よりかなり低温でした。また、塩水が堆積物の隙間で存在している可能性も示唆されました。それら塩水が、レーダーの明るい反射ではないかという仮説が報告されました。
 明るいレーダー反射の正体が何か、まだ完全に明らかになっていませんが、もうひとつの反論がありました。
 もう1つはテキサス大学の惑星科学者グリマ(Cyril Grima)さんを筆頭とする研究グループによる2022年の成果です。レーダー反射の関するコンピュータによるシミュレーションです。
 彼らは、火星表層全体が、1.4kmの氷床に覆われていると仮定しました。地質がわかっている火星全域に氷床をかぶせた状態にしました。氷床がある状態でレーダー観測をしたら、どのような反射が戻ってくるかを、シミュレーションてみました。
 すると、南極の地底湖にされたような強い反射が、氷床下のあちこちから見つかってきました。その地域の地質をみていくと、火山岩の分布している平原と一致しました。これは、火山岩の広がった地域の上に氷床があると、そこでは、明るいレーダー反射できる可能性が示されたことになります。
 同じような火山岩が南極地域の氷床の下にあれば、同様の反射が返ってくる可能性が示されました。これが事実なら、火山岩の分布が見えており、地底湖は存在しないことになります。さらにこの研究は、氷床がある天体の地下の地質を、レーダー反射から読み取れる可能性があることも同時に示されたことになります。これも重要な成果となります。
 さて、火星の地底湖の存在は、まだ決着は見ていない問題となっています。謎のまま残されています。地球なら氷床をボーリングで掘っていけば謎は解決できるのですが、火星ですから、まだまだ先のことでしょうね。

・いろいろな探査・
火星は太陽系でも、月に次いで、
多く探査機が送り込まれている天体です。
探査は、地表を移動したり、上空からも、
いろいろな方法でなされます。
地表探査は、精密な探査に適しています。
上空からの探査は同じ精度で
惑星全体を把握するのに適しています。
目的が違っているため、いろいろな探査が必要です。

・移動の季節に・
まん延防止等重点措置も解除されました。
3月はコロナ感染の第6波はややおさまりつつあります。
感染力の強いBA.2株も心配されますが、
3回目のワクチン接種はあまり進んでないようです。
2021年度の終わりに当たり、
卒業、転勤などの移動の季節になってきました。
大人数での宴席などは自粛されているでしょうが、
少人数では催されているのではないでしょうか。
人の気持ちも春に向かって浮かれてきます。
再度の感染爆発がないことを願っています。

2022年3月24日木曜日

4_156 火星研究への旅 1:明るいレーダー反射

 今回から、火星に関する研究をいくつか続けて紹介していきます。地球地学紀行は、昨年末のエッセイを最後にして、しばらく滞っています。火星の旅を地学紀行として紹介していきます。

 このエッセイを書くために、地質、地球、惑星、宇宙など興味をもっている話題のニュースや論文を見つけると、データとして記録しておきます。次のエッセイのテーマを決めて、その論文や資料を読みながら、書いていきます。次のテーマを考えている時、火星に関係する研究の話題がいくつかあることに気づきました。まとめてシリーズとして紹介していくことにしました。
 最初の話題は、火星での水の存在です。火星にH2Oの氷があることはわかっています。問題は、安定的に液体の水が存在するかどうかです。表層には一時的に水が存在できるのですが、恒常的に存在するかどうかが重要です。なぜ、重要になるかというと、恒常的に水が存在すれば、生命が発生していれば、現在も生物がそこに暮らしている可能性があるからです。そのような環境があれば、地球外生命がはじめて見つかることになります。
 欧州宇宙機関(ESA)のマーズ・エクスプレスという火星探査機の地下探査レーダー(MARSIS)で観測データが根拠になりました。そのデータには、南極になる氷床の下、地下1.5kmあたりに、強い反射が見つかりました。そのレーダー反射は、地底湖があるためだと2018年に報告されました。さらに2020年には、反射をより詳しく調べて、この湖のまわりには小さな湖がいくつかあるとされました。
 ただし、反論もありました。地下探査レーダーでよく反射するものとして、粘土、水和物、塩水などが考えられます。反射の原因を調べるために実験がされました。候補となる粘土鉱物(スメクタイト)を低温にしていくと、レーダーは水と同じ反射信号を受け取ることを実験で示しました。そのため、南極の氷床の下の反射は、粘土鉱物ではないかという反論がされました。
 それに対して、さらなる反論、つまり水の可能性が示されてました。地球のいろいろな時代(2億年前から現在まで)の粘土質の堆積物(6箇所)をとってきて、実験室でいろいろな温度(-73℃から+24℃まで)にして、いろいろな電波(周波数1MHz~1GHz)で観測されました。その結果、火星の強い反射信号の観測データは、粘土鉱物のいずれとも似ていないということがわかりました。そのため、レーダーの反射波は、水によるものだという反論への反論でした。しかし、水であるという証拠を示したわけではありませんでした。
 他にもこの明るいレーダー反射について、議論が起こっています。その議論は、次回としましょう。

・学位記授与式・
先週、学位記授与式がおこなわれました。
例年になく雪が多いので、
外での集合写真が大学の象徴的な場所での
撮影ができませんでした。
室内での撮影でした。
しかし、記念写真は記念です。
問題は、その時の思い出が大切です。
さらには、4年間の学びや経験の証が
学位記でもあるわけです。
その学びと経験を大切にしていくべきでしょう。

・重点措置解除・
全国的にまん延等防止重点措置が、
21日ままで解除されていきます。
ワクチン接種も遅ればせながら進められてきました。
多くの人は、危機感が薄れそうです。
感染数の減少はゆるいようです。
これまで丸2年間、断続的ですが
自粛を強いられてきました。
社会は3月末の卒業、退職から
4月はじめの入学、入社などがあり
それを祝う宴会なども、解除によって
多くなるのではないでしょうか。
COVID-19の感染力は強力なままなので、
感染爆発がぶり返すのではないかと心配です。

2022年3月17日木曜日

2_205 全球凍結と生物進化 6:生き延びた光合成生物

 今回の論文では、光合成生物が生き延びたという証拠が提示されました。そこで話は終わりません。その原因やメカニズムが次なる課題となります。さいごに、課題を整理しておきましょう。


 従来の全球凍結の考えを示してから、静谷さんたちの論文により新しい成果も紹介しました。光合成生物が氷河期を生きのびた証拠が示されました。その成果から、課題も明らかになってきました。
 まずは、従来から課題であったものです。海が全面凍結していたとき、進化していた生物、特に光合成生物はどうして生き延びたのかという問題でした。さらに、全球凍結の直後には、暴走温暖化による異常な高温期がありました。寒冷期を生き延びた生物にとっては、高温という過酷な条件が急激に出現し、そこでも大絶滅がおこったはずです。この極寒と高温という2つの強烈な環境変化に、生物はどう生き延びてきたのが、そのシナリオを考えなければなりません。
 氷河堆積物のダイアミクタイトの中から光合成生物のバイオマーカーが見つかってきました。光合成生物は、過酷は寒冷期であっても生き延びていた証拠がでてきました。ダイアミクタイトが形成されるということは、氷河が溶けてそこに含まれていた堆積物が海底にたまる場があったことなります。海に氷河が流れ込んで溶け、堆積物が海底まで落ちて堆積するような海があったことになります。つまり、少なくともある地域では海が完全に氷が溶けた状態になっていたことになります。
 ダイアミクタイトができる場が、恒常的にあったのでしょうか、それとも限定された地域だけでしょうか、全球凍結の終末期だけを見ているのでしょうか。
 もし恒常的に存在するのであれば、全球凍結といいっていますが、本当に全海が完全に凍っていないことになります。それとも、全球凍結でも、その地層が溜まったような地域では、凍結を免れていてレフュージアになっていたのでしょうか。氷の中でも休眠で生きており、ほんの短い雪解けの季節だけ水の中で生命活動をしていたのでしょうか。あるいは、温泉水が常に流れ込む海などでほそぼそと生き延びてきたのでしょうか。
 もし、終末期だけに出現したのだとした、光合成生物はどうして生き延びたのでしょうか。やはりどのようなレフュージアであったのかは、まだ課題として残ります。
 寒さは火山などによる暖かな地域があれば、レフュージアとしてやり過ごせます。一方、暑さを回避するには、涼しいところに逃げる必要があります。そのような場は北極や南極周辺の海、高山の河川や池などの局地が比較的低温であったと想像されますが、地球全体が高温になれば、そのようなところでもかなり高温になりそうで、レフュージアには向かないでしょう。課題です。
 今回のバイオマーカーから見ると、温暖化のほうが問題だったようです。生物の全有機体炭素の変化から、高温期に多くの絶滅が起こっていることが示されています。この温暖化は急激であったことが問題だったようです。寒さに対応した生物が、急激な温暖化、あるいは炭素の多い大気からの強烈な酸性雨、海の酸性化なども起こったはずでしょう。生物には過酷で多くの絶滅が起こっていたようです。
 今後、この温暖期の問題を考えていく必要があるようです。幸い、温暖期の堆積物は炭酸塩岩層として大量に残されていますので、証拠が見つかりそうです。

・学位記授与式・
いよいよ大学は学位記授与式(卒業式)になります。
ホールで合同のセレモニーをして、
教室で学科ごとに学位記を手渡しをします。
今年は、この段階で全セレモニーは終了です。
通常は、この後、大きなホテルのホールで在学生が主催する
卒業式を祝う会が催され、
その後学科での祝賀会をおこなっていました。
午後のセレモニーから夜までお祝いが続いていました。
それも昔のことになっていくのでしょうか。

・引き際の準備・
最近、友人たちの退職の報が続いています。
以前は定年が、60歳でした。
最近では、65歳まで延長されたり、
一旦退職して再度給与や労働条件を変更して、
再就職することもあります。
いろいろな退職状態がでてきました。
私の退職は、まだ少し先ですが、
少しずつ引き際の準備をしています。

2022年3月10日木曜日

2_204 全球凍結と生物進化 5:盛衰のシナリオ

 地層ごとに有機物が分析されました。有機物の炭化水素の値と組合せから、生物種の区別がなされました。地層ごとで、生物の盛衰がわかってきました。全球凍結からその後の時代にかけて、生物変遷史が編まれました。

 全球凍結の時代とその直後の時代に堆積した岩石の有機物が分析されました。生物がいたことだけでなく、どのような生物のタイプであったかも、限定することができました。
 その方法は、前回紹介した有機物の炭化水素の炭素量から考えられていきました。炭化水素は、昔の生物の痕跡を示すバイオマーカーとして利用されています。
 時間経過ととともに、有機物は分解されていきます。特に長い時間がたつと(古い時代のもの)になると、分解は進みます。その時、生物ごとにもっている有機物の違いから、特徴的な数の炭化水素として分解されていきます。炭化水素の値から、生物タイプを探っていくことができます。このような化合物を、生物の痕跡「バイオマーカー」として利用します。
 論文では、岩石中の炭素が、17のヘプタデカン(heptadecane、C17H36)、19のノナデカン(nonadecane、C19H40)とプリスタン(pristane、C19H40)、20のフィタン(phytane、C20H42)、29から31のホパン(hopane)、27から29のステラン(steranes)に注目しています。
 炭化水素の組み合わせから、生物のタイプが特定されていきます。ヘプタデカン+ノナデカンは藻類がもっている組み合わせとなります。プリスタン+フィタンは光合成生物、C29からC31ホパンは真正細菌、C27からC29ステラン真核生物の痕跡を示していると考えられています。
 それらの分析結果の解析から、地層ごとでの生物の特徴とその変化を捉えています。下位の地層のダイアミクタイトから、少ないながらも光合成生物の痕跡が見つかりました。一方、真正細菌も真核生物は見つかりませんでした。次の層の炭酸塩岩の最も下位(全球凍結の終了直後)になると、生物の総量が減っていきます。その後、上位では生物の総量が増えてきます。増え方は、まず真正細菌が急激に増え、その後真核生物が増えていきます。
 地層の位置(層準といいます)ごとで、炭化水素の組み合わせの増減から、生物種の変化が読み取ることができたわけです。そこから、全球凍結からその後の時代までの、生物の盛衰のシナリオがつくられてきました。
 光合成生物は全球凍結中も生き延びていたことになります。全球凍結直後には、生物量は減少していきます。全球凍結の直後は、暴走的な高温期が訪れたとされています。急激な環境変化で大絶滅が起こったと考えました。その後、気温が下がってくると、真正細菌が一気に繁栄し、穏やかな気温になってくると真核生物が増えてきます。
 このようなシナリオが考えられていますが、いくつか気になることがあります。それは次回としましょう。

・集中講義・
今週は集中講義が実施されています。
新4年生のための授業です。
北海道では、まん延防止等重点措置が
3月21日まで延長されました。
この集中講義は、資格取得のため必要なため、
対面での授業として許可をもらって実施しています。
一日中、集中しなければならないので、
学生だけでなく、教員もヘトヘトになります。
そのため週末にこのエッセイを予約配信にしています。

・排雪作業・
北海道は異常な累積積雪量となっています。
例年地域と行政による排雪作業が
おこなわれているのですが、
すごく時間がかかっています。
我が地区は、例年なら2月に下旬には
終わっているはずなのですが
3月はじめの週末にやっとおわりました。
しかし週明けまで排雪作業は残された地区もあります。
予定としてアナウンスされたのは2月下旬の週でしたが、
3月初旬まで延びています。
排雪が終わった自宅前は、
これまで積み上げられた雪が
きれいに削られています。
道路側に2m以上の直立の雪の崖ができました。
暖かい日に崩れ落ちそうで少々心配です。
でも、広い道路がでてきた通行しやすくなりました。

2022年3月3日木曜日

2_203 全球凍結と生物進化 4:徹底した汚染の排除

 全球凍結は、生物に大きな影響を与えたはずです。多分、大絶滅が起こったはずです。その影響はどこまで及び、影響をどう捕まえればいいのでしょうか。化石がない時代での、生物の絶滅と生存を確認していくことになります。


 静谷さんたちは、全球凍結の6億5千万年前から5億4千万年前の期間に堆積した地層を調べて、その時期の生物全体の様子を探りました。
 地層は、中国の長江地塊(Yangtze Platform)に区分されているところにあります。宜昌(Yichang)市の北東にある三峡ダム付近のJiulongwanという地域に露頭があります。
 下位の地層(古い時代)はNantuo層と呼ばれ、ダイアミクタイト(diamictite)という岩石になります。このダイアミクタイトは、成因が確定していない時に使われます。泥岩の中に、いろいろサイズの岩片を不規則に含んだ堆積岩ですが、成因が判明していなときの名称です。ここでは氷河堆積物だと考えられています。
 上位には各種の炭酸塩岩からできたDoushantuo地層があります。炭酸塩岩としては、石灰岩と苦灰岩(ドロマイト)があり、それぞれ泥の薄層を含むことがあります。
 下位のダイアミクタイトは、全球凍結の時期、もしくは末期で氷河が溶け出した時代にできた地層です。炭酸塩岩は、全球凍結のあとの温暖化した時期の地層です。大気中にあった大量の二酸化炭素があり、それが温暖化を起こし氷河期を終わらせました。氷が溶けて海洋できたとき、海水に二酸化炭素が溶けて、沈殿してできた地層です。
 これらの2種類の地層から試料を採取しています。岩石の表層には現生生物や排気ガスなどに由来する有機物が混入しているという研究があるので、汚染がないように岩石の内部から試料を採取するようにしています。
 さらに、全有機体炭素(TOC:Total Organic Carbon)と有機物から由来する(300℃までで放出される)炭化水素(S1と呼ばれている)を比べていきます。S1/TOCが1.5以下なら、もともとの生物が有機物で、以上だと生物起源ではないと判断されます。非常に慎重に試料の汚染の検証がされています。
 下位のダイアミクタイトから15個、上位の炭酸塩岩から17個と泥岩から6個の試料を採取しています。汚染のない、堆積した時代の有機物だけだと確認された試料だけを用いて、分析しています。
 ダイアミクタイトは全球凍結の最中、もしくは海が開き始めた時の氷河堆積物です。もし生物の痕跡が見つかったら、全球凍結を生き延びた生物がいたことがわかります。
 どんな種類の生物が生き延びたのでしょうか。詳細は次回にします。

・汚染チェック・
有機物の汚染のチェックは、古い時代のものになるほど
非常に慎重にならなければなりません。
なぜなら、明瞭な化石の形態などがみれないからです。
また、形成後のいろいろな時代の
汚染の可能性も排除しなければなりません。
ここで示した汚染のチェックの方法は、
先カンブリア紀の石油探査で用いられるものだそうです。
慎重に汚染をチェックされた試料で
今回の研究は実施されています。

・雪解けの季節へ・
3月に入りました。
北海道は温かい日と雪の日が繰り返しています。
温かい日には雪が溶けていきます。
北国もいよいよ春に向かっていきます。
春は待ち遠しいのですが、
雪解けのぬかるみの時期は大変です。
水たまりや車の水はねなど
いろいろ厄介な状態になります。

2022年2月24日木曜日

2_202 全球凍結と生物進化 3:レフュージア

 全球凍結が3度起こったことがわかってきました。いずれも、陸上生物がいない時代のできごとです。全球凍結は、生物にとって非常の過酷な環境で、大絶滅がおこったはずです。生物はそれでも生き残りました。


 24億年前に全球凍結が起こったことが、最初に指摘されました。当初、あまりにも荒唐無稽とだとされ、誰も信じていませんでした。7-6億年前ころの地層が調べられていくについて、全球凍結が起こっていたことがわかってきました。前回示したような根拠で証明されてきました。
 いろいろな時代の地質学的証拠が検討しなおされて、全球凍結になるような氷河期が、24億年前に1度、7-6億年前には2度、起こっていたことが明らかになってきました。
 全球凍結は生物にとって、大きな影響があったはずです。7-6億年前、生物は陸上には進出しておらず、海洋生物だけでした。そこで問題が起こってきます。全球凍結になると、海洋が表面から1000mまで凍ったと推定されています。1000mより深いところでは、凍っていない海水もあったでしょうが、太陽光は数100m程度までしか届きません。氷の下の海水まで太陽光が届きません。そうなると、海洋性の光合成生物は絶滅してしまいます。光合成生物が絶滅すると酸素が供給されなくなります。酸素のない環境では、好気性の生物(酸素を利用する生物)は生きていけず、嫌気性生物だけになってしまいます。
 生物の進化の順番として、嫌気性生物が最初に誕生し、光合成をする生物が進化(25億年前以降)して酸素が生産され、酸素のある環境ができてくると、好気性生物が繁栄してきます。陸上生物がいない環境で全球凍結が起こると、光合成生物も好気性生物が全滅してしまいます。生物進化でみると、嫌気性生物だけの世界に戻ってしまいます。
 ところが、3度の全球凍結の後にも、光合成生物は、全滅することなく生き延びています。その後も大気中に酸素が供給され、地球表層は酸化的条件になっていることがわかっています。光合成が可能な海洋域が、表層には残されていのに光合成生物が生き残っていることになります。
 光合成生物も含めて、生物多様性が保持されるために、生物が生き延びられる条件や環境(レフュージア refugia 待避地という意味)が、存在したと考えられています。そのような場があれば、生物進化を継続できます。
 レフュージアは、まだ発見されていませんが、海洋島がその候補と考えられています。地球には多数の活火山があります。海にもあります。海洋島は海面に顔を出している火山です。海洋島で火山活動があれば、温泉水が湧いたり、溶岩の流出したりして、周辺で凍っていない海もあった考えられます。このようなレフュージアが100個程度あれば、生物多様性を維持できるというシミュレーションもあります。活火山のかずはもっと多くなっています。
 これまで、地質学的証拠がありませんでした。今回、地質学的証拠が報告されました。静谷あてな(博士課程後期時代に報告)と海保邦夫、Jinnan Tongさんの共同で、Global and Planetary Changeという雑誌で発表されました。タイトルは、
Marine biomass changes during and after the Neoproterozoic Marinoan global glaciation
(原生代のマリノアン全球氷期の間と後の海洋生物量の変化)
というものです。
 その内容は次回としましょう。

・ワクチン接種・
3月中旬に集中講義があるので、
その準備のために、毎日、何名かずつ遠隔で指導しています。
対面ではないので安心ですが、指導がなかなか大変です。
まん延防止等重点措置が3月6日まで2週間延長されました。
仕方がない処置かと思います。
私は自宅と大学の往復だけになっています。
自由に出歩けるのはいつになるでしょうか。

・排雪・
今年は雪が多く本当の困りました。
今週から我が地区で排雪がおこなわれます。
例年おこなわれているもので、
市と地域が協力して、道の雪を取り除き、
雪捨て場に持っていってもらいます。
地区ごとに1週間かけて業者が来て排雪をします。
予定通りであれば、我が家の前は来週の頭になりそうです。
その間、車の出入りはできません。
人は雪山を乗り越えればなんとかなるのですが、
車はその間出入り禁止になります。
しかし、作業は豪快なので見ごたえがあります。
特に今年はすごいことになるのでしょうね。

2022年2月17日木曜日

2_201 全球凍結と生物進化 2:地質学的証拠

 氷河期が起こっていたという、地質学的証拠が見つかってきました。しかもその証拠の中には、全球凍結を示すものも含まれていました。全球凍結を示す証拠とはどのようなものでしょうか。


 全球凍結の状態になってしまうと、理論的には海のある状況には戻れないことがわかっていました。地質学的にも、海が継続的に存在していることがわかっていました。ですから、全球凍結はなかったという考えが定説となっていました。
 地質学的証拠を先入観なくみていくと、氷河があったことがわかってきました。現在では当たり前になっている第四紀の何度かの氷河期ですが、最初には多くの人が信じていませんでした。氷河期には、山脈に氷河があったのですが、中緯度でも平地にも氷床が形成されていたことがわかってきました。
 もっと古い、生物の化石が見つからない時代にも、氷河期が見つかってきました。
 ある時代の氷河の分布を見ると、非常に広い範囲に広がっていました。大陸移動を考え当時の大陸配置を復元していくと、現在では決してみられない地域にも、氷が覆っていた証拠が見つかりました。例えば、低緯度(赤道付近)で氷河が削った堆積物が見つかったり、氷床が運んだ礫が低緯度の海底堆積物から見つかったりしました。これらは、赤道付近の大陸まで氷床や氷河があったという証拠になります。
 赤道まで氷床ができる状態の地球を考えると、理論で示された全球凍結が起こったと考えられます。地質学的証拠からはそうなってきました。太陽からの入射光を熱源として、地球のアルベドの変化を理論で考えていました。そこでは、大気の組成の大きな変化などは想定していませんでした。理論は、想定外の条件は計算には反映されません。
 過去に全球凍結が起こっていたとしたら、全球凍結からどのようして海のある状態に戻れるか、という点が問題となります。その謎を解く手がかりも、堆積物にありました。
 氷河の痕跡を残していた海成層の上には、分厚い炭酸塩岩層が堆積していました。ここから推測をしていきましょう。
 炭酸塩が堆積するということは、大量の炭酸が海水に溶けていたということです。炭酸塩の厚い層ができるということは、沈殿が継続することを意味し、炭酸が海水に供給され続けていたはずです。炭酸は、大気中の二酸化炭素が海に溶けることで供給できます。大気中に大量の二酸化炭素が存在していたことになります。そのような大量の大気中の二酸化炭素は、火山ガスが長い時間を供給されていれば、蓄積可能です。もしこのような推測が正しければ、大気中に大量の二酸化炭素があったことになり、強烈な温暖化効果が起こったはずです。これが、全球凍結から海のある状態へ戻るメカニズムになるはずです。
 火山ガスが大気中に蓄積するのは、現状の火山噴火の量でも、十分可能だと見積もられています。現在の地球では大気中に二酸化炭素は植物や海洋に吸収されていき一定量に保たれています。もし、二酸化炭素が陸上植物や海が吸収されることがなければ、大気中に蓄積していきます。
 全球凍結が起こっていた時代は、陸上生物がまだ出現してません。また、全球凍結で海洋もすべて凍っていたので、海水と大気は接していませんでした。
 以上のことから、なんらかのきっけかで、寒冷化に向かっていけば、全球凍結の状態になることで、地球の気候は安定します。しかし、火山活動は地球内部からの熱放出なので、継続しています。火山ガスから供給された二酸化炭素は、どこにも吸収されることなく、大気中に堆積していきます。
 やがて大気中の二酸化炭素は、強烈な温暖化を起こしはじめます。氷を溶かし、現在の海のある状態に戻していきます。このようなシナリオを描くことができます。全球凍結が起こっても、自動的に戻ってこられるメカニズムが、地球には組み込まれていることになります。
 では、全球凍結は、どの時代に起こったのでしょうか。それは何度あったのでしょうか。次回としましょう。

・帰省のキャンセル・
全国でまん延防止等重点措置の延期が決定されました。
2月末から3月にかけて、
横浜と京都に帰省する予定でしたが、
急遽キャンセルしました。
高齢の親にも、しばく会っていませんが、
会いにいくと、今度はコロナ感染が心配です。
息子たちにも、しばらく会っていません。
お互いに、感染拡大地域なので
接触はしないほうがいいでしょう。
残念ですが、今回も諦めました。
これで丸二年、家族のいることろに帰省できていません。

・集中講義・
大学は、後期が終わり、通常の授業がないので、
厳しい措置は取られていません。
ただし、資格取得に必要な授業は
対面で進められています。
3月には、私が担当する
教職に関係する授業もあります。
これは対面で集中講義としておこなわれます。
それまでの個別指導は遠隔ですが。

2022年2月10日木曜日

2_200 全球凍結と生物進化 1:スノーボールアースとは

 過去に全球凍結(スノーボールアース)が起こったと考えられています。全球凍結と生物の進化に関する研究が報告されました。その報告から、両者の関係を紹介していきましょう。


 スノーボールアースという言葉をご存知でしょうか。スノーボールは雪玉です。アースは地球なので、「雪玉のような地球」となります。これは、地球表層の水がすべて凍ってしまい、雪や氷になってしまった状態であるという仮説になります。
 陸地に雪として降ったものもあるでしょうが、雪も時間が経てば圧縮され氷になります。地球の水の大半は海にあるので、海も全面が凍ったことになります。私たちがよく知っている第四紀に何度か襲った氷河期も、海全面が凍ることはありませんでした。ですから、スノーボールアースとは、氷河期とは比べものにならないほどの寒冷な状態を意味します。
 そんな状態は地球では起きないと考えられてきました。なぜなら、地球は惑星の公転軌道がハビタブルゾーンにあることと、全球凍結が安定状態であることからです。ハビタブルゾーンとは、惑星の表面に水が存在できる惑星軌道をもっているということです。全球凍結とは、惑星表層の水がすべてになることです。
 両者は矛盾しているように見えます。少し説明が必要でしょう。
 惑星の表層の気温などの条件は、地表の状態や雲の存在が重要になります。地表の状態として反射能(アルベド)という考え方が、もっとも重要になります。現在の地球では、太陽光は地面や海を温めています。もし惑星の表層が氷で覆われたとすると、アルベドが高くなり、太陽光は反射され大地を温めるエネルギーになりません。現在は3割程度を反射しますが、一旦全球凍結の状態になると、8割が反射されると考えられます。つまり、地球表層を温めるために利用されないことになります。
 雲は、水蒸気として上昇した水が、大気中で凍ったものです。雲が多くなると太陽光は7割が反射されますが、地表からの熱は保持します。寒冷化が進むと、雲も雪となりやがてはできなくなり、全球凍結へ一気に進みます。全球凍結になってしまうと、アルベドが大きいままなので、冷たい状態が維持されることになります。
 全球凍結は、地球としては安定した状態でもあります。ですから一旦全球凍結の状態になってしますと、海のある状態に戻れないことになります。この理論を受け入れることにします。次に、地球の地質学的証拠をみていきましょう。地球には38億年前以降、各地でいろいろな時代で、海でたまった堆積岩が、存在しています。当然、現在も海があります。
 理論と地質学的証拠を合わせると、全球凍結の状態にはなったことがないと考えられます。
 これがかつての定説でした。しかし、今では定説は壊れ、全球凍結があったと考えられています。

・論文・
今回紹介する論文は、Global and Planetary Changeという雑誌に
静谷あてな、海保邦夫、Jinnan Tongさんの共同で
Marine biomass changes during and after
the Neoproterozoic Marinoan global glaciation
(原生代のマリノアン全球氷期間と後の海洋生物量の変化)
として報告されました。

・一般入試・
国公立の大学入試はこれからですが、
我が大学の一般入試が終わりました。
3月にも私立大学では入試がありますが。
私立大学では、いろいろな入学チャンスを用意しています。
これまで入学してきた学生の多い地域での受験や
大学共通テストを利用した試験、
各種の推薦入試などなど。
大学に入りたい人は、
いろいろな方式で入学できることになります。

2022年2月3日木曜日

5_192 系外惑星の多様性 7:多様な惑星

 私たちの太陽系にも多様な惑星があります。系外惑星でも多様性があるということは、私たちの惑星の多様性形成が、他の星系でも起こっていることになります。多様性の説明は普遍性をもっていることになります。


 私たちの太陽系の表面が岩石からできている惑星には、水星、金星、地球、そして火星があります。水星は太陽にもっとも近く、そして小さい惑星です。水星の質量と半径から、密度を計算すると大きくなり、惑星の内部には重いものが多く含まれていることがわかります。太陽系の他の惑星との比較から考えると、核は鉄(7.9g/cm3)でできおり、マントルの岩石(3.5g/cm3)より密度が大きくなっています。水星が重いのは、マントルに比べて大きな核があると考えられます。
 現在の惑星形成モデルによるシミュレーションでは、チリ(鉄や岩石)が集まって微惑星ができ、それらが衝突、合体して原始惑星へと成長してきます。しかし、鉄だけが多く集まる惑星を形成することは、なかなか難しいようです。ジャイアント・インパクトで地殻が剥ぎ取られた仮説、太陽によって岩石質の地殻が蒸発する仮説などがありますが、まだ確定していません。もしシミュレーションで再現できないとすれば、太陽系だけの特別、例外的な事例の可能性もありました。
 前回紹介したように、通常の惑星より、鉄に富んだ惑星が太陽系外にはあることがわかってきました。それら鉄の多い惑星の形成メカニズムは、どのようなものになるでしょうか。そのメカニズムは、水星にも適用できるはずで、逆に水星の形成メカニズムがわかっていれば、系外惑星にも適用できるはずです。
 ところが、今回の研究で、鉄の多い系外惑星も、何割か存在していることがわかってきました。鉄を多く含む惑星の存在が確かだとすると、惑星形成において、必然的にできるメカニズムがあったことになりそうです。
 また、太陽系の外側にある巨大ガス惑星(木星、土星)や氷惑星(天王星、海王星)などの形成過程も、まだ充分に解明されていません。
 さらに太陽系から想像されていなかった、多様なそして異形の系外惑星が見つかってきました。岩石惑星でも地球の何倍もの質量をもったスーパーアースや、木星ほどのサイズなのに恒星に近い軌道を周るホットジュピターなども見つかっています。
 これまで私たちの太陽系が典型的な恒星系と考えてきたのですが、多様性の一部に過ぎないことがわかってきました。私たちの太陽系の形成が説明できるだけでなく、他の多様な系外惑星の形成も説明できるような、もっと汎用性のあるもの、普遍的恒星系形成モデルを目指さなければなりません。

・大学入試・
大学では、一般入試がスタートします。
地区により各大学の一般入試の時期が異なりますが
大学間でも日程がぶつからないようしています。
これは、受験生の選択肢を増やすことになりますが、
大学としては、第一志望に落ちて
第二志望として受かっていれば、
入学のチャンスができるからです。
大学では、いろいろな入試制度があるので、
希望の大学、学部、学科が決まっていれば、
学力に問題がなければ、受験機会が増えたので
入学しやすくなってきたことになります。
これは私立大学のことで、一流の国公立大学は、
いまでも一発勝負のところが多いですかね。

・ブースター接種・
コロナのオミクロン株の感染爆発が続いています。
ワクチンの3回目のブースター接種もはじまりました。
3回目が、どの程度新しい株に効果があるかわかりません。
2度のワクチンの効果も下がっていることは確かなようです。
ですから、3度目の接種ができるだけ早く
多くの人が行き渡ることを願っています。

2022年1月27日木曜日

5_191 系外惑星の多様性 6:鉄の含有量

 系外の恒星の化学組成と惑星の質量と半径の観測値から、いくつかの仮説から、個々の惑星の鉄の含有量が推定されました。系外惑星の鉄の含有量に、相関関係とギャップが見えてきました。


 系外の恒星の組成と惑星の質量と半径の観測データがそろいました。そこから惑星の化学組成を推定していくことになります。
 惑星の質量と半径がわかっているので、平均密度が計算できます。太陽系の惑星を参考にして、平均密度から内部がどのような物質が分布しているかを、構造モデルを作成していきます。
 同じ分子雲コアから形成された恒星と惑星は、似た化学組成、もしくは化学組成になんらかの相関があると考えられます。私たちの太陽系では、太陽と惑星の化学組成で、ケイ素、鉄、マグネシウムなどが相関があることがわかっています。これらの元素は、岩石惑星の主成分となっています。
 これら2つの情報、惑星の構造モデルと恒星と惑星の鉄の化学組成の相関関係から、惑星の主成分となる鉄の含有量を見積もっていきます。
 次に、その結果を考察されています。恒星の鉄の含有量が近いもの同士で、系外惑星の特徴を比べていくと、恒星の鉄含有量と、系外惑星の鉄含有率には相関(傾き4程度)があることがわかりました。ただし、推定された鉄の含有量には、多様性があることがわかってきました。つまり、同じ鉄の含有量の恒星でも、惑星の鉄の含有量には幅があり、多様であることがわかりました。
 また、鉄の含有量の多い恒星には、少ない恒星との相関を越えてかなり鉄の含有量が多い惑星も存在していることがわかってきました。鉄の含有量は、連続することなく、鉄の多いものへとジャンプするようなギャップがありました。
 以上ことから、恒星の組成が似ていても、惑星の鉄の含有量には多様性があること、そして特別に鉄が多い惑星もあることがわかってきました。鉄の含有量で系外惑星をみると、非常に多様性があることがわかってきところになります。
 しかし、このような多様性は私たちの太陽系にありました。これについては、次回としましょう。

・豪雪・
わが町や札幌は豪雪が続いて積雪が多く、
除雪、排雪が間に合っていません。
道の脇には除雪された雪がうず高くなり、
道幅も半分以下になってきました。
車がすれ違えないところもあり、
深い雪の轍で埋もれるような道もありました。
幹線道路がかろうじて排雪はなされてきましたが、
公共のバスも2週間ほど運休の路線もあります。
これまで雪が少なかったので
突然の豪雪で対処しきれないようです。

・自粛・
家内は、豪雪なので買い物も最低限にしています。
また、できるだけ食料も備蓄するようにしています。
そこにオミクロン株です。
札幌だけでなく、わが町、わが大学でも
感染が広まっています。
コロナでの自粛も重なります。
またまた不自由な生活が続きそうです。

2022年1月20日木曜日

5_190 系外惑星の多様性 5:恒星と惑星の化学的相関

 恒星とその系外惑星の観測された情報から、惑星の特徴を考えていく方法が提案されました。いくつかのモデルをおいていますが。直接の観測データから考えている点が重要です。


 これまでのシリーズでは、白色矮星の化学組成から、その周囲にあった惑星の化学組成のうち、体積が多く化学組成を反映しやすいマントルを、間接的に探った結果を紹介しました。その結果より、太陽系の地球のマントルのような組成の岩石は珍しいものでした。
 このシリーズでは、もうひとつ直接調べた論文があり、それも一緒に紹介していくことにしていました。2021年10月15日のScience誌に多数の著者(20名)によって
A compositional link between rocky exoplanets and their host stars
(岩石系外惑星と恒星との間の化学的相関)
という報告がされていました。次に、これを紹介していきましょう。
 ハワイのすばる望遠鏡やチリ、カナリア諸島などの世界各地の望遠鏡を用いて観測されたデータを分析した結果です。太陽系外の恒星と惑星の化学組成に関係があるという報告でした。
 とはいっても、直接、系外惑星の化学組成を調べることは未だにできていません。では、どうして調べていくのでしょうか。
 恒星系は、分子雲コアという場で恒星も惑星も一緒に形成されていきます。回転する分子雲コアの中心に恒星が、その周囲の円盤状のところ(原始惑星系円盤と呼ばれています)に惑星ができていきます。惑星に使われなかった材料は恒星に落ちていき、ガスは吹きはらわれていくと考えられます。
 恒星も惑星も、もともとは同じ材料で形成されたはずです。形成環境や形成過程によって、それぞれ違いは生じたでしょうが、恒星と惑星の間には化学的に何らかの関係があったはずです。そのような化学的関係を前提にして考えていきます。
 今回研究には、系外惑星で岩石の表層をもっていると考えられ、観測が進んでいる21個の惑星が用いられました。観測でわかっているのは、恒星のスペクトル分析から推定された化学組成と、系外惑星で質量と半径です。これらの観測データのセットをもとに、いくつかの仮説(モデル)を立てて、系外惑星の化学的特徴を調べたという報告です。
 詳細は、次回以降としましょう。

・暴風雪・
大学入学共通テストが先週末にありました。
初日は、北海道では暴風雪でJRは運休だらけでした。
二日目も少し運休便がありましたが、
かなり復旧していました。
初日は、会場によっては、
繰り下げ開始や別室受験などの
対処がなされたところもありました。
一部支障がでましたが、北海道は
大雪に慣れていて、対処法もできているため、
なんとなったかと思います。
コロナ禍や津波警報、東大の事件の影響を
直接受けた受験生にとっては、
大きなストレスになったと思います。

・積雪量・
今年の北海道は地域によって違いがあるでしょうが
降雪量や総積雪量が例年になく多くなっています。
わが町の雪情報では、
過去5年平均の積雪量と比べて倍になっているとのことです。
道路も除雪による雪山が高くなり、
道幅も半分になっています。
そのため、車の通行だけでなく、歩行者も危険です。
雪の事故が多くなりそうです。
注意して外出しなければなりません。

2022年1月13日木曜日

5_189 系外惑星の多様性 4:形成と履歴の多様性

 系外惑星を構成していたマントルの岩石は、地球とは異なったものであることがわかってきました。そして、多数派であることも明らかになってきました。そこから見えてきたことは、地質学がより普遍性を求めていく必要性でした。


 前回、白色矮星の化学的特徴の違いから、系外惑星のマントルの岩石としては、石英+斜方輝石の組わせか、ペリクレース+カンラン石の組み合わせになると想定されました。著者らは、このような岩石を、石英輝石岩(quartz pyroxenites)とペリクレイスダナイト(periclase dunites)という名称を提唱しています。
 いずれも、すでに知られている鉱物です。そして、稀ではありますが、地球にも存在している岩石です。しかし、マントルなどを構成する主要な岩石ではありません。地球では、カンラン石+斜方輝石の組み合わせでした。似た鉱物からできていますが、系外惑星の方が、マグネシウムが多く、ケイ素が少いことを反映した鉱物組み合わせとなっています。
 このような組成の異なった惑星が形成されるのは、その恒星系の誕生時の履歴を反映している可能性があります。白色矮星に飲み込まれる惑星は、恒星の近くにあったものです。恒星近傍に、材料物質が集まる時、そこで起こる化学的分化に、太陽系とは、違っていたことを匂わせています。
 調べた23個の白色矮星の中で、地球に似たものが1つで、それ以外がすべて石英輝石岩かペリクレイスダナイトとなるようなマントルを持ったものになっていました。つまり、私の太陽系の惑星形成とは異なった形成プロセスが多数派、普遍的であり、地球が例外のようです。
 地球と異なったマントルの岩石があるということは、形成された惑星でも、地球とは異なった特徴や履歴を持つ可能性があります。
 著者の一人のPutirkaは、地球のマントルよりは多くの水を取り込めた可能性があり、その惑星の海洋の起源に影響を与えた可能性があると考えています。また、地球のマントルより低温で溶けやすくなるため、マグマが大量に形成され、厚い地殻をもっていた可能性もあると考えています。そうなると、プレートテクトニクスも異なった様相を呈することになりそうです。
 地質学、あるいは岩石学、火成論などは、地球をモデルにして、その仕組みを調べ、一般化してきました。その一般論を、他の惑星へと適用してきました。しかし、今回の系外惑星の多様性がわかってきたことで、どうもこれまでの地球でのモデルは、多様性の一つに過ぎないことになりそうです。

・大きな普遍性へ・
このエッセイの最後でも述べましたが、
今回の論文が示した可能性が、
もし多くの惑星系における典型だとすると、
地質学の立ち位置を考えなおさければなりません。
今回の石英輝石岩かペリクレイスダナイトは
地球も存在する岩石です。
根拠をもって、地球とは異なったマントルが推定されたのなら
その惑星は、どのような形成過程があるのか、
またできた惑星でどのような地殻形成やテクトニクスが働くのか、
などを考えていく必要がありそうです。
これは地質学において、より大きな普遍性を探っていく
チャンスかも知れませんね。

・排雪・
北海道は年末から年始にかけて、
繰り返された寒波の到来で
個々数年の冬よりは、積雪は多くなっています。
歩道と車道の間にうず高く積み上がった雪は
道路を横切る時、見通しが悪く危険です。
また、車道の幅も狭くなっており、
車の通行も細心の注意が必要です。
こんな時は、自治体による早目の排雪作業が必要です。
しかし、年ごとに雪の量は異なりますので、
経費のかかる作業で、
自治体としても悩ましい問題でしょうね。

2022年1月6日木曜日

5_188 系外惑星の多様性 3:特異なマントル

 白色矮星の化学的特徴から、もとの恒星の周りに存在していた、惑星の特徴を読み取ろう、という試みを紹介しています。その結果、どのような惑星であったのでしょうか。


 これまで、白色矮星は、大陸地殻(花崗岩)を構成する元素を取り込んでいるのはないかという考えがありました。しかし、今回の研究で、花崗岩の痕跡を示す成分はみつかりませんでした。考えれば、地球全体で大陸地殻が占める割合は、核とマントルと比べると微々たるものです。ですから、地殻の痕跡が見つからないのはあたりめに思えます。岩石型惑星は、質量の比率からみると、マントルと核の成分が主となっているはずです。
 核は鉄を主成分としているので、その核とマントルの比率さえ推定できれば、核の影響は補正可能です。したがって白色矮星の化学組成の特徴から惑星のマントルの特徴を読み取ることが可能になります。
 その結果、白色矮星では、マグネシウムが多く、ケイ素が少くなっていることがわかりました。これは取り込んだ惑星の特徴を反映していると考えられます。
 地球のマントルはカンラン岩からできています。カンラン岩は、カンラン石(olivine)と輝石(斜方輝石 orthopyroxene)が造岩鉱物となります。カンラン石はマグネシウムとケイ素から、輝石はマグネシウムとケイ素、カルシウムからできています。両鉱物ではマグネシウムは鉄と置き換わることにがあります。両者の鉱物の化学組成は、珪酸と鉄+マグネシウムの比率が異なっています。
 このような鉱物の特徴から、マグネシウムとカルシウム、ケイ素の比率を考えていくと、地球のマントル(カンラン岩)の特徴をもっているものは、23個のうち1つしか見つかりませんでした。多くは太陽系の惑星とは異なったマントルの特徴をもっていることがわかってきました。
 その特徴は、石英(quartz)と斜方輝石の組み合わせの岩石か、酸化マグネシウム(ペリクレース periclase)とカンラン石の組み合わせの岩石からなると考えられました。
 このような岩石をもった惑星は、太陽系には見つかっていません。非常に特異な惑星となります。では、そのようなカンラン岩からできたマントルともった惑星とは、どのようなものだったのでしょうか。次回としましょう。

・系外惑星への興味・
明けまして、おめでとうございます。
前回は、2021年最後のエッセイになるので、
コロナ禍の2年間を振り返るものにしました。
今回は、それまでシリーズで進めてきた
系外惑星の多様性の続きをお送りました。
天文学者も系外惑星への興味が高まっているようです。

・寒波・
北海道は、年末年始は、冬型の気圧配置が続き
寒波が繰り返し遅い、
大雪と交通の乱れが続きました。
次男も12月29日に帰省して1月3日に戻りました。
いずれも便に遅延がありましたが
ぎりぎり飛ぶことができてよかったです。
元旦は、千歳で多くの便で発着できず欠航となりました。
翌日以降の空席も埋まり全便満席となっていました。
寒波の厳しい年末年始となっています。