2022年4月28日木曜日

4_161 火星研究への旅 6:リンクルリッジ

 火星には、リンクルリッジと呼ばれるシワのような地形が、多数見つかっています。シワの形成時期に関する研究報告がなされました。形成年代を調べていくと、何が見えてくるのでしょうか。


 次なる火星研究への旅は、火星の地形に関するものです。リンクルリッジ(wrinkle ridge)と呼ばれるいうものがあります。wrinkleは曲がりくねったという意味で、ridgeは嶺(みね)という意味です。長く続く曲がった尾根の地形で、シワのように見えます。
 リンクルリッジは、地球の衛星の月、水星や小惑星、木星と土星の衛星など、いろいろな天体にあります。火星でも見つかっていて、それを詳しく調べた研究が報告されました。
 宇宙航空研究開発機構のルジ(Trishit Ruj)さんと東大の河合研志さんが、Icarusに2021年に報告されたものです。
 A global investigation of wrinkle ridge formation events; Implications towards the thermal evolution of Mars
 (リンクルリッジ形成事件の全球調査;火星の熱的進化への関係)
というタイトルです。リンクルリッジの形成時期を、火星全域で調べた結果を報告しています。そこから、火星の熱的進化を考えた研究成果です。
 まず、NASAの火星探査機のマーズ・リコナサンス・オービター(MRO)が撮影した画像から、リンクルリッジを決定していきました。火山の周りの27箇所にリンクルリッジが分布していることわかりました。
 次に、リンクルリッジの形成年代を判読してきます。その方法は、クレータ年代学を応用したものです。クレータの形成数(形成密度)から年代を決める方法がクレータ年代学です。ただし、リンクルリッジのような線状や曲線状の地形には、クレータ年代学がなかなか適用ができず、年代を決めるのが困難でした。そのような地形でも適用できるクレータ年代学としてBCC(Buffered Crater Counting)が開発されていました。この研究では、BCCを適用して、リンクルリッジの形成年代を精度良く推定してきました。
 その結果、リンクルリッジの形成が、ある年代に集中していることがわかってきました。詳細は次回としましょう

・気分転換・
最近、疲れが溜まっているせいか
研究していても集中力にムラがでてきます。
2年間のコロナによる遠隔授業や自粛生活の後
感染対策をしながらも、
4月から対面授業や対面会議が復活してきました。
心身が対面に対応するのに
時間がかかっているのでしょうか。
特に精神的疲労がたまっている気がします。
気分転換が必要です。

・完全にオフ・
明日から、ゴールデンウィークに入ります。
コロナ感染は治まっていませんが、
北海道の田舎で気分転換として、
しばらく夫婦で完全にオフ状態に入ります。
のんびりと田舎暮らしをしてきます。
北海道の片田舎で、一週間、のんびりとします。

2022年4月21日木曜日

4_160 火星研究への旅 5:火星の磁場

 火星の核を想定した高温高圧実験で、液体不混和の可能性がでてきました。2つの液相が分離する時期に、磁場が発生したという仮説が提出されました。その仮説からいろいろな疑問も派生してきますが、これも進歩です。


 前回、「Fe-S-H系」と「液体不混和」について説明しました。火星の誕生直後は、内部が高温高圧条件だったので、「Fe-S-H系」からできた核は、完全に均質(1相)の液体でした。
 冷却によって、鉄とイオウが液相の状態で分離(2相)して「液体不混和」が起こることがわかりました。ある時から2つの液相ができて、重い鉄が下に沈み、軽いイオウが浮き上がってきます。この分離の時期には、核内の液相が活発に動き、対流することになるので、磁場が発生したと考えらえています。
 さらに温度が下がって現在の火星の核の条件(圧力が20~40万気圧、温度が2000~2500 K)になると、完全に2つの液相が分離した状態になってしまいます。きれいに成層(上にイオウの液相、下に鉄の液相)しているので、対流しない状態と推定されています。そのため、磁場の発生ができなくなったと考えました。
 さて、このシナリオは、どこまで正しいのでしょうか。高温高圧実験に基づいた仮説です。実験では、水素が大量に含まれた条件でおこなわれています。火星の表層に水が存在していたことは明らかになっています。しかし、水(水素)が、核にまで大量に運ばれたのは、どのようなメカニズムなのかは、不明です。
 また、大量に核内に存在していた水素は、どこにいったのでしょうか。鉄かイオウの相に混じっているのでしょうか。それともマントルや火星外に放出されたのでしょうか。その時期やメカニズムはどのようなものでしょうか。
 また、核の存在は検証されていますが、軽いイオウの層があるかどうかは不明です。さらに、鉄やイオウが液相として存在しているのあれば、それぞれの層内で対流サイズは小さいですが、起こっているはずです。その対流では、なぜ磁場が発生しないでしょうか。
 水のあった地球でも、核は似た条件にあったことが想定されます。地球ではイオウの液相の存在は確認されていません。詳しく調べられているので、多分ないはずです。では、火星と地球の層構造の違いは、何によるのでしょうか。
 他にも課題はいろいろとありそうです。根拠をもった新しいシナリオができたので、そこから生じた次なる課題なります。研究は進展しているのです。

・感染対策・
対面授業がはじまっています。
やはり学生の顔を見ながらの授業がいいです。
一方、コロナ感染も身近に迫っているのも感じます。
大学の方針で感染対策をしているので、
身近に感染者が出ても濃厚接触にはなっていません。
怖がってばかりで、遠隔授業に戻るのも大変です。
空気感染が明らかになっているので、
いつ体内にウイルスが入ってくるかもしれません。
もう入っているのかもしれません。
だれがいつ発症してもおかしくない状態です。
体内に入っても発症しないで対処できる人もいるでしょう。

・ゴールデンウィーク・
北海道では、まだ少し残っていますが
根雪もだいぶ溶けました。
今年の春は少々遅めに来ています。
北海道では日々感染者が増加しています。
今後どなるかは不明です。
感染拡大で再度、まん延防止重点措置に
ならないことを願っています。
今年こそ、ゴールデンウィークには、
久しぶりに夫婦で温泉につかりながら
のんびりとしたいと考えているのですが。

2022年4月14日木曜日

4_159 火星研究への旅 4:火星の核

 火星に磁場がないことは、観測でわかっています。では、もともとなかったのでしょうか。どうすれば探ることができるでしょうか。地球の磁場の形成メカニズムが参考になります。


 次なる火星研究の旅は、火星の磁場と内部の核に向かいます。
 現在の火星には地球のような磁場がないことがわかっています。では、もととも火星には磁場がなかったのでしょうか。地球から考えていきましょう。
 地球に磁場が存在するのが、中心部の核を構成している金属の鉄の一部が液体として存在し、流動しているためだと考えられています。もし一般的に金属鉄の流動が、天体の磁場をもたらすのであれば、火星の核が液体の鉄として存在していれば、磁場があったことになります。
 現在の火星には核があると考えられています。探査機インサイトの観測では、火星の核の密度が推定され、鉄だけより密度が小さいことがわかってきました。密度が小さくなるためには、軽くする成分が混じっていることになります。その成分として、イオウ(以前から混じっていると考えられていた)の他に、水素も混じっているのではないかと、考えられるようになりました。
 液体鉄の核があるのに、火星では磁場が観測されていません。なぜでしょうか。その課題に対してひとつの仮説が提示されました。
 Nature Communicationsという科学雑誌に、東大の大学院生の横尾舜平さんたちが共同研究で
Stratification in planetary cores by liquid immiscibility in Fe-S-H
(Fe-S-H系での液体不混和による惑星核での成層)
を2022年2月に報告されました。
 「Fe-S-H系」と「液体不混和」が専門的でわかりにくい内容となっています。
 Fe-S-H系とは、核は主にはFe(Niもあります)からできていますが、Feの中に取り込まれる可能性がある成分としてS(イオウ)の他にH(水から由来した水素)があると考えられたためです。この推定は、昔の惑星(原始惑星と呼ばれるもの)の核を構成していた隕石(鉄隕石)からも支持されています。
 横尾さんたちは、Fe-S-Hの3つの成分を素材にして、高温高圧実験がおこないました。ダイヤモンドアンビルという装置を用いて、火星の核に相当する高温高圧条件を発生して合成実験がおこなわれました。
 40万気圧(火星コア中心部のる圧力)、3000 K以上に加熱すると、イオウと鉄が均質に混じっている状態になりました。温度が下がると、イオウと鉄が分離しました。分離は、液体の状態で起こっていきます。その状態を「液体不混和」と呼んでいます。
 この結果から、横尾さんたちは、火星ができてすぐの核では、高温なので均質の液体になっていたのが、時間経過で温度が下がっていき、イオウの液体が分離したと考えました。
 この実験から、火星の核と磁場に関して、どのようなことがわかってくるのでしょうか。それは次回としましょう。

・汚れた残雪・
北海道も暖かい日が訪れるようになってきています。
時々寒い日もあり、薄っすらと積雪もあります。
温度変化の激しい日々となっています。
暖かい日には、雪解けが進んでいきます。
しかし、例年にない積雪量なので、
まだいたるところに雪が残っています。
残雪は汚いので、景色はよくありません。
汚れた残雪も春が来ている証拠ですよね。

・対面と感染・
先週から大学では、対面での授業が復活しました。
大教室での大人数での授業をおこないました。
久しぶりの感覚ですが、いいですね。
一方で、コロナ感染が
身近にも迫ってくるようになりました。
身内や担当学生にも感染者が続いています。
対面授業はいいのですが、感染拡大はいやですね。
両立できないのがつらいですね。

2022年4月7日木曜日

4_158 火星研究への旅 3:20億年前の流水

 火星には液体の水が存在していました。いつまで存在していたのでしょうか。流水が存在していた時期に関して、新しい報告がありました。火星の地形と鉱物の観察データをもとにしています。

 火星は、地球より太陽から遠いところにあるのですが、表層環境さえ整っていれば液体の水が存在できる条件(ハビタブル・ゾーンと呼ばれている)に位置していました。火星は液体の水が存在できる条件にあり、実際に、水の流れてできた河川の地形や、河川が流れんでいるところや海岸など海の地形なども見つかっています。このような地形から、少なくとも誕生した時、火星には表層に水が存在していたことになります。
 厚い大気のある地球や金星と比べて、火星は半径も小さく、重力も小さいので、大気も薄くなっています。そのためでしょうか、現在では、火星の表面には、液体の水が恒常的には存在しない天体となりました。
 では、いつまで液体の水が火星表層に存在していたのか、また周期的であっても流水があったのかなどが問題です。それは、生命誕生から進化に至るまで、十分な期間、水が存在していたかどうかに繋がる重要な条件となるからです。
 そんな謎に対して、リースク(Ellen Leask)とエルマン(Bethany Ehlmann)さんたちの研究が報告されました。
 2005年にNASAが打ち上げられたマーズ・リコネッサンス・オービター(Mars Reconnaissance Orbiter、MROと略されています)は、2006年から火星周回軌道から観測をはじめました。高解像度カメラや高精度分光計、レーダーなどを用いて、火星の地形や鉱物の分布などが調べられました。河川、流水の地形や火山、大気による地形など、詳細な画像やデータがえられました。そのデータを元に研究が進められました。
 画像から多数の火山も発見されてきました。また、レーダーから数値標高モデル(緯度経度ごとの標高データ)から、詳細な地形がわかります。分光計による地層や鉱物の分布がわかってきました。固体表面のある天体ではクレーターの数密度から年代が推定されています。詳細な地形がわかれば、表層地形の形成年代がより精密に推定できるようになります。
 リースクさんたちは、塩の堆積物に注目して、その堆積場の地形を調べました。低地で河川が流れ込んでいるような地形のところに、塩が薄く堆積(3m未満)していました。河川は、氷床や永久凍土から、時々溶けて流れ出したもののようです。そこに塩が堆積しています。
 塩の堆積物は、23億年前に形成された火山地形にも見つかりました。火山や衝突クレータの年代から、塩の堆積、つまり流水の発生は、約20億~25億年前まであったことが判明した。これまでは、火星では、30億年前には水がなくなっていたと考えられていましたが、もっと永い期間、流水が形成されていたことになります。
 どれくらいの期間があれば、生物が誕生し、進化するかはまだわかっていません。また、火星の生物の痕跡も、まだ確実なものは見つかっていません。しかし、長い期間のほうが可能性が増えるはずです。

・火星画像・
素晴らしい火星の画像が
https://mars.nasa.gov/mro/multimedia/images/
で公開されています。
デルタ地形や流水の地形、風紋、クレータなど、
地球とは似て非なる詳細な画像があります。
一度のんびりと眺めながら、
遊覧飛行気分を味わってみていはいかがでしょうか。

・新年度の活気・
今年の北海道は雪が多かったので
4月でも至る所に雪が残っています。
しかし、暖かい日が回ってきましたので
雪解けも一気に進んでいます。
大学の入学式も終わり、ガイダンスがはじまっています。
対面授業も復活してきたので
キャンパスに学生が溢れて、
新学期のはじまりを久しぶりに味わっています。