2018年5月31日木曜日

3_169 核の姿 4:熱伝導率の測定

 内核と同じ条件に鉄をおいて、電気伝導率を測定をする実験の報告がされました。その結果から、内核の形成速度を見積もり、年齢を求めることができます。そこから得られた結果は、なかなか興味深いものでした。

 東京工業大学の太田健二さんと共同研究者が、Nature誌で報告した論文のタイトルは、
Experimental determination of the electrical resistivity of iron at Earth’s core conditions
(地球の核の条件での鉄の電気抵抗率の実験的決定)
というものでした。電気抵抗率(電子による電気の通しにくさ)の逆数をとると、電気導電率(電子による電気の伝わりやすさ)となります。この報告では、鉄を内核と同じ条件(温度と圧力)にして、電気伝導率を求める実験がなされたことになります。電気伝導率を決定した意味は、次のような理由がありました。
 金属内で、熱は自由電子によって伝わっていきまうす。熱の伝わり方は、熱伝導率です。熱伝導率は電気伝導率の値から求めることができます。熱伝導率で物質内の熱の伝わり方が決まってくると、内核の冷却速度を推定することができます。冷却速度が定まると、内核の形成時期が推定できます。
 理論としては、いくつかのステップは経るのですが、原理は簡単です。ところが、この条件で実験すること、なおかつその状態のまま測定することが難しいのです。これまで実験できていた条件はマントル内のものでしたので、その実験条件からさらに高温高圧条件側へと推定(外挿といいます)してきました。そこから得られた熱伝導率の値は、30W/m/Kというものでした。この30W/m/Kという値から推定される内核の誕生時期は、30億年前となりました。地質学的推定の「25億年前には内核も成長しはじめた」というものと似ていましたので、これでいいのではないかと考えられていました。
 その後、コンピュータによる計算実験がおこなわれ、内核の温度圧力状態では、鉄の熱伝導率が約90W/m/Kという、3倍も大きな推定値が示されました。この値では、従来の内核の冷却速度より3倍も速くなります。形成時期も、非常に新しい時代になります。
 実験の外挿とシミュレーションとの2つの方法による推定値には、大きな違いがありました。そこで太田さんたちは、内核の条件で実験をして、その状態で電気伝導率を測定することに成功しました。それが今回の報告でした。
 実験は、レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル装置内に、収束イオンビーム加工装置で配線をほどこした試料をおいて、SPring-8で計測されました。その紹介と結果は、次回としましょう。

・SPring-8・
SPring-8は、兵庫県播磨にある理化学研究所の
大型放射光施設にある
Super Photon ring-8 GeVに由来しています。
SPring-8は世界最高の放射光を発生できます。
電子を光速近くまで加速します。
電子は電荷をもっていますので、
電磁石で方向を曲げることができます。
電子が曲がるとき、細く強力な電磁波(放射光)が発生します。
この放射光を用いて、微小部分の観察に利用されています。
今回の報告はこの放射光を用いてなされました。

・今日から調査・
今日から調査にでます。
今回は、4泊5日の調査になりますが、
実質は3日半の調査となります。
今日は昼前にでて、調査地近くまで移動し、
翌日からすぐに調査できるように予定しています。
今回で道南調査の3度目になります。
いくつかの集中的に調査する地点を見つけていますので、
そこを調査する予定です。
もう一回の調査の予定をしていますが、
それは確認のためとしています。
車で、4、5時間ほどで調査につけますので、
半日の行程で調査地に出向けるのは
なかなか便利です。
ただ、研究テーマに合う地域を見つけるのが難しいのですが。

2018年5月24日木曜日

3_168 核の姿 3:内核の形成時期

 地球の核について新たにわかってきたことが、2つあります。ひとつは、内核の形成された時代が非常に若いということ、もうひとつは核の成分に石英が混じっているいるということが報告されました。まずは、内核の形成時代についてみていきましょう。

 地球は、液体の外核と固体の内核があることは紹介しました。この内核と外核の形成はいつ頃かという話題について報告がありました。その前に、地球の冷却史を概観しましょう。
 地球ができたての頃は、小天体や隕石が頻繁に衝突、合体を繰り返していたので、地球は外から内部まで、高温の状態だったと推定されます。衝突がおさまってくると、冷却がはじまります。このエッセイで何度か紹介していますが、38億年前には海ができきていた証拠があります。つまり、地表は水が存在できるほどに、冷めていたということです。さらに同時期には、プレートテクトニクスが起こっていたこともわっていますので、地球の内部の冷却がすでにはじまっていたことになります。そして、25億年前には大きな大陸が形成され、コアの冷却に伴って内核も成長し始めたと考えられていました。しかし、内核の形成時期については、十分な証拠があるわけでありませんでした。
 液体の核が流動していれば、地球ダイナモ理論というものによって、地球では全体が磁石となり地磁気が形成されることになります。過去の地磁気(古地磁気と呼ばれています)は、地層や火山の磁気の測定から、その存在を知ることがきます。35億年前の岩石には、もう地磁気があったと考えられています。ですから、地球の初期にマントル(岩石部分)と核(鉄の部分)が分離していたと考えられます。
 プレートテクトニクスが働いて冷却がはじまると、ある温度(鉄が結晶化する温度)まで下がってくると、液体から固体が生じるようになるはずです。液体の外核の冷却によって、鉄が固化し沈殿していき、固体の内核ができてきます。内核は高温(5000℃から6000℃)なのですが、圧力が非常に高圧(360GPa以上)なので、鉄が結晶化します。
 核は中心から半径3500kmまではあるのですが、そのうち約1200kmは固体であることが、地震波からわかっています。これが内核となります。地球ではプレートテクトニクスが現在も働いていますので、今も冷却を続けていいます。内核は成長中なのです。
 固体の鉄が沈殿し始めてきたのが、内核の形成のスタート時期となります。実は内核の形成時期については、よくわかっていませんでした。Natureという科学雑誌に、2016年6月に
Experimental determination of the electrical resistivity of iron at Earth’s core conditions
というタイトルで掲載されたものです。詳細は、次回としましょう。

・エゾハルゼミ・
エゾハルゼミに鳴き始めました。
この声が聞えると、一気に初夏に突入です。
青空のエゾハルゼミはなかなかいいものです。
北海道も短い春が終わったのです。
昼間はかなり暑くなっていますが、
朝夕はまだ寒いくらいです。
さすがに、ストーブはもうたかないと思いますが。

・道南調査・
道南に調査に4回でることになりました。
一度目はゴールデンウィーク前半に
2度目5月中旬(先週末)に、
来月早々に3度目、4度目が7月上旬です。
一度目の調査でなかなか面白いところを発見したので、
そこを詳しく調査していくことにしました。
先週は、2回目では、最初の重要箇所を調査を終えて、
次回の3度目は、次なる重要露頭を集中的に調査する予定です。
4度目は、再調査のためにとっています。
詳細は、GeoEssayの方で紹介していきます。

2018年5月17日木曜日

3_167 核の姿 2:独立した証拠

 地球の核が金属の鉄でできている証拠には、どのようなものがあるのでしょうか。見たこともない地球内部の構成物を、どのようにして推定するでのしょうか。核の基礎知識編の続きとなります。

 核(コア)は地球の一番中心にあるもので、成分は金属の鉄からできていることがわかっています。とはいっても、だれも見たことがない地球深部のことです。どのようにして、鉄でできていることがわかるのでしょうか。その根拠を示していきましょう。
 地球内部を探る方法として、地震波を用いるものがあります。地震波には固体だけを伝わる波と、どんな物質でも伝わものがあります。地震波は、物質の性質により伝わる速度が違っています。その違いを詳しく調べて、内部を探る方法です。ひとつの地震で生じた地震波を、世界各地で観測し、詳細に解析していくとで、状態(固体か液体か)や、密度、温度などを、推定することができます。果物のスイカを叩いて中身の状態を確かめるようなものです。
 地震波の解析の結果、地球の中心部にはマントルよりもっと密度の大きく、温度の高い物質からできている核があることがわかりました。そのような物質は鉄に相当しています。同じ金属鉄でも、さらにその内部は、外側に液体の部分と、内側に固体の部分があることもわかりました。
 地球の外部からの証拠もあります。それは、隕石です。
 隕石は太陽系ができた頃の年代をもっています。隕石の中には、地球の材料となったと考えられるタイプ(コンドライト)のほかに、惑星の核を構成していたと考えられるタイプの鉄隕石もあります。鉄隕石は、金属の鉄からできています。これは他の石質隕石とはまったく違った構成物からできており、組織も違っています。さらに、核とマントルの境界にあったと考えられる石鉄隕石や、天体のマントルを構成していたと考えられるエイコンドライトと呼ばれる石質隕石もあります。
 惑星の核を構成してたものが、なぜ隕石として現在の惑星空間に存在しているのかは、なかなか難しい問題です。多分、太陽系の惑星形成の時期は、大量の材料物質があり、それらが非常に激しく衝突、合体していて、やがて微惑星ができ、さらに衝突、合体とともに、破壊もおこっていたようです。その激変は、非常に短い期間におこったと考えられます。各惑星軌道で残っているのは、軌道で最大の天体(惑星)だけとなり、周辺の材料物質はすべてその惑星に集まったことになります。
 しかしその当時の破片の一部が、今も小惑星帯に残っていて、隕石として時々地球に落ちてきているのです。
 このようないくつかの独立した証拠から、地球(他の惑星にも)の内部には金属の鉄からできた核があることが推定されています。そんな核について、新しい情報が出てきました。それは次回としましょう。

・エッセイの再編・
今回、メールの頭に掲載したのですが、
今後、「地球地学紀行」の項目は
今後新たに書かないことにしました。
それは、私が出しているもうひとつの月刊エッセイ
「大地を眺める」と内容が重複しているからです。
そしてどこかへ出かけた時のエッセイを
どちらで書こうか迷うこともあるので、
出かけた時のエッセイは、「大地を眺める」にまとめることにしました。

・南北の差・
もうゴールデンウィークが終わって10日ほどたちます。
西日本では夏日など暑い日が訪れているようですが、
北海道は涼して、自宅では1時間ほどですが、
ストーブを焚いたと家内がいっていました。
今でも時々短時間ですが
ストーブを焚くこともあるようです。
小さい日本列島ですが、
北と南ではだいぶ気候が違っているようです。

2018年5月10日木曜日

3_166 核の姿 1:層の構造

 情報としてしては、少し古くなりますが、2016年と2017年に核に関する新しい報告を紹介していきます。これらの報告で、核の姿がどのように見えてくるようになったのでしょうか。

 地球の中心にある核の話しをする前に、まず地球の構造について、概略をみておきましょう。
 地球の構造として、外(宇宙空間)から内側にむかって、磁気圏、大気、海洋、地殻、マントル、そして核となっています。生物は、海洋か大地と大気の境界付近に分布しています。それらの構成物が、球殻状に層をなしています。それぞれの層を構成している成分は、全く異なったものからできています。
 磁気圏は、地球の磁場が及んでいる範囲のことで、物質ではないので、層として捉えない場合もあります。大気は、気体で空気と呼ばれる成分からできています。
 海洋は、主成分は水ですが、海では海水で、陸地では淡水になります。この水は、不思議な性質をもっていて、太陽に温められると気体として水蒸気となり大気中を上昇していき、やがて冷えて氷や水滴となり雲を形作ります。また、凍ると氷となり氷河や氷床、海氷として、海洋や大陸に固体として存在します。固体の氷は、これまた不思議なことに、密度が水より小さくなり、液体の水(海)に浮いてしまいます。
 地殻を構成するのは岩石ですが、その種類は非常に多様で、同じ岩石名で呼ばれていても、その見かけはかなり異なっています。マントルも岩石からできていますが、地殻のものとは全く違ったカンラン岩と呼ばれる岩石です。核は、金属鉄からできています。
 このような地球を構成してる成分は、それぞれが非常に複雑なものになっています。しかし、このような多様な成分が、実は単純な原理で分布しています。それは、重いものは下、軽いものは上、という原理です。当たり前ですが、地球の重心は地球の真ん中(内部)にあります。そこから外に向かって、密度の大きいもから小さいものへと、順に並んでいるわけです。
 地殻を含めてそれより外側では、実際に物質を手にして、調べることができます。また、マントル物質も稀ではあるのですが、地表に持ち上げられているので、物質を手にすることができます。ずべてではないのですが、マントルまではなんとかその実体を知ることができます。では、地球の一番中心にある核が鉄ができるというのは、なぜわかるのでしょうか。もちろん、物質を手にすることはできません。それは次回から探求していきましょう。

・未知の固体地球・
人類は、宇宙空間に恒常的な基地をつくって、
そこに誰かが滞在しています。
月にもいったことがあります。
ところが、地球内部を進むのは、なかなか困難です。
深海の一番深いところへは、
潜水艇が何度か潜ったことがあります。
ところが、地殻へは、数kmしか人はもぐっていません。
物質として掘り抜いたのも、
せいぜい10km程度しかありません。
固体の地球には、未知の世界が広がっているのです。

・計画変更・
ゴールンウィークは調査で道南にでかけました。
思いの外、重要な露頭をいくつか見つかったので、
再調査をする必要になりました。
そこで、今年度の研究計画を変更の申請をしました。
その結果、道南には少なくともあと3回は
調査にいくことにしました。
研究の進行上、できるだけ夏前には
調査を終えたいと思っています。
今期は、月曜日に講義や校務がないので、
土、日、月の3日間の野外調査が可能となりました。
5月、6月、7月にそれぞれ3日ずつ
調査に出かける予定にしました。

2018年5月3日木曜日

2_159 恐竜の卵 3:化石と現生

 恐竜の卵の孵し方、温め方を、化石から、たどっていく研究について紹介しています。化石は限られた数、情報なので、現生の生物種からの類似性を利用しています。そこに、多様性の中の共通性がありました。

 現生の恐竜に類似した生物の生態から、恐竜の生態を探る方法を考えています。恒温性をもった鳥類は卵を抱いて育てます。ある種の鳥類やワニ類には、草の盛り上げて、その発酵熱で卵を温める方法を取るものもいます。また、地中の砂に埋め、太陽熱で温める方法もあります。このような多様な卵の孵し方は、恐竜も利用していたのではないかと、田中さんたちは推察しました。
 恐竜の巣の化石から、生態を調べてきました。ハドロサウルスの仲間には巣の卵と共に化石になっているものがありました。これは恒温性をもった恐竜が、卵を抱いて温めていた可能性があります。また、ある種の恐竜の巣の化石では、砂岩の中から見つかる種類があります。これは、砂の中に卵を埋めて、太陽熱や地熱を利用して温めていた可能性があります。その他にも、土の発酵熱を使うタイプの巣の化石も見つかっています。
 巣の化石からみると、恐竜の生態としても、現生の生物と同じほどの多様な卵の孵し方をしていたことがわかってきました。
 田中さんらは、さらに考察を進めて、現生の生態から、卵を温めている温度は、砂に埋め太陽熱を利用する巣では平均で3.9度気温より高くなっていて、発酵熱を使う巣では平均7.3度でした。これは、その地の平均気温に対応している可能性があります。太陽熱から発酵熱、抱卵の順に高緯度になっていることになります。ただし、抱卵はどの地域でも可能でしょう。
 化石の巣は数が限られ、引き出せる情報も限られています。しかし、そのような化石でも、似た分布が見つかっています。北極圏では、抱卵していた巣が見つかっていますが、発酵熱の利用しているものも見つかっています。これは、白亜紀後期には温暖化が起こっている時代なので、可能だったようです。
 このような研究で、昔の生物の恐竜にも多様な生態があることが明らかになってくると、私は、生物の多様性とその範囲に思いが至ります。生物の形態や生態の多様性は大きなものです。多くの生物種がいれば、目一杯の多様性を追求ていきます。それはどの時代においても、生物は同じような多様性を追求していきます。結果として、どの時代でも、生物の多様性は、環境や生態が許す限り追求していくことになります。それは時代を越えた普遍性、共通性へとなっていきます。不思議なものですね。

・道南調査・
ゴールデンウィーク前半は、道南に調査にでかけました。
天気には恵まれました。
内陸の調査はうまくいかなかったのですが
海岸沿いの調査はそれなりの成果がありました。
ただ、風が強くて、波が高く
近づけないこともあったので少々残念でした。
今年は、道南で調査を続けていく予定に変更しました。

・好きなこと・
ゴールデンウィークの後半は天気が悪そうです。
北海道は桜の満開の時期なのですが、
どうなるでしょうか。
でも今年はゴールデンウィークも半分は仕事です。
まあ、好きなことですから、いいのですが。